Monday, August 30, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献(185)

萩原優里奈「ヘイトスピーチ規制に関するアメリカとドイツの比較法的考察」『言語・地域文化研究』第26号(2020)

目次

はじめに

第1章         アメリカのヘイトスピーチ規制

1 ヘイトスピーチ規制の合憲性をめぐる議論

2 ヘイトスピーチ規制に関する判例の動向

第2章         ドイツのヘイトスピーチ規制

1 集団侮辱罪

2 民衆扇動罪・ホロコースト否定罪

3 SNS

第3章         両国の比較

1 表現の自由の観点

2 歴史的視座

おわりに

アメリカとドイツを比較する論文で、書かれていることはそれなりに合理的で、ヘイトスピーチ規制積極説という意味では私と同じ立場なので、その点では高く評価したい。もっとも、比較法学の研究としてはいま一歩と言わざるを得ない。

1に、アメリカおよびドイツについては先行研究があり、萩原もそれらに依拠している。研究内容に新規性がなく、かなりの部分は先行研究からの孫引きである。

2に、なぜアメリカとドイツなのか、その選択の理由が説得的に提示されていない。長い間、日本憲法学は表現の自由と言えばアメリカ法ばかりを研究してきた。日本刑法学は圧倒的にドイツ刑法学の影響下にあった。この2つの偶然的理由から、ヘイト・スピーチの刑事規制となると、アメリカ法研究かドイツ法研究かに分かれる。その状況に左右されている。

両国の比較のところで、表現の自由と歴史的視座に着眼したのは的確であり、アメリカとドイツの相違だけでなく共通性にも視線を送っているのも的確である。

もっとも、歴史的アプローチの重要性を唱えながら、「日本においてこの歴史的アプローチを運用することは決して容易ではないのではないだろうか」という。自分の研究の意義を否定しかねない記述で終わってしまっている。行き着く先は最後の一文である。

「こうしたヘイトスピーチ規制制定に不可欠な基盤構築が、我が国の喫緊の課題である。」

これはない。

基盤構築論は2013年の桜庭総の研究の結論である。ならば、萩原はこれを出発点にすべきではないだろうか。基盤構築というのなら、具体的に何をどうするのか。誰が担当するのか。いつまでに基盤構築できるように目指すのか。最低限明示するべきことがあるはずだ。その検討がまったくなされていない。

もともと、表現の自由の保障とヘイト・スピーチの刑事規制を対立させて、それをアメリカ法とドイツ法に読み込むのは、日本憲法学が設定した特異な土俵である。国際的にはこのような土俵設定は一般的とは言えない。萩原はこの土俵で議論することに疑問を感じるべきではないだろうか。

というのも、萩原自身が「表現の自由と規制は決して二者択一的なものなどではない」としているからだ。この認識は正しい。これに気づいた点で、萩原のセンスは買うことができる。日本の憲法学者の多くが、表現の自由の保障とヘイト・スピーチ刑事規制を対立させ、あたかも二者択一のように論じてきたのに対して、萩原はそうではないと気付いている。ならば、ここから議論を進めるべきだろう。

私の『ヘイト・スピーチ法研究序説』はしがき冒頭に次のように書いた。

「表現の自由を守るためにヘイト・スピーチを刑事規制する。それが日本国憲法の基本精神に従った正当な解釈である。国際人権法もヘイト・スピーチ規制を要請している。ヘイト・スピーチ処罰は国際社会の常識である」

私の『ヘイト・スピーチ法研究原論』はしがき冒頭の一文も全く同じである。

私はこの10年間、「表現の自由とヘイト・スピーチ刑事規制は矛盾しない。対立しない。逆である。表現の自由を守るためにヘイト・スピーチを刑事規制する。ヘイト・スピーチを刑事規制しないと民主主義を守れない。表現の自由を保障できない」と主張してきた。

この考えは私のオリジナルではない。これを私は19988月の人種差別撤廃委員会で学んだ。2013年の国連のラバト行動計画でも2019年の国連人権特別報告者共同声明でも、同じことが言われている。日本の憲法学者からは無視されているが、国際人権法の世界では当たり前となっている言葉だ。

萩原の前の論文は私の『序説』を引用しているのに、最重要点に言及がないのは残念だ。出発点をきちんと探して、そこに立つ必要があるのではないか。

Saturday, August 28, 2021

桜を見る会前夜祭・第3次告発

 

告  発  状

 

2021年8月27日

 

東京地方検察庁 御中

 

 

被告発人

 住所 山口県

 氏名 安倍晋三

 職業 衆議院議員

生年月日 1954(昭和29)年11月12日

 

被告発人

 住所 山口県

 氏名 配川博之

 職業 団体職員

 

被告発人

 住所 山口県

 氏名 阿立豊彦

 職業 安倍晋三後援会会計責任者

 

 


 

第1 告発の趣旨

   被告発人安倍晋三、被告発人配川博之及び被告発人阿立豊彦の後記第2-1・2・3の所為は、刑法60条、政治資金規正法第25条1項3号(収支報告書虚偽記入罪)に該当する。

よって、上記の被告発人らにつき、厳重な処罰を求め、告発する。

 

第2 告発の事実

   被告発人安倍晋三(以下、「被告発人安倍」という)は、2017(平成29)年10月22日施行の第48回衆議院議員選挙に際して山口県第4区から立候補し当選した衆議院議員、被告発人配川博之(以下、「被告発人配川」という)は、安倍晋三後援会(以下、「後援会」という)の代表者、被告発人阿立豊彦(以下、「被告発人阿立」という)は、後援会の会計責任者であった者であるが、被告発人安倍、被告発人配川及び被告発人阿立は、共謀の上、2020(令和2)年12月23日、

1 平成30年5月24日山口県選挙管理委員会に提出していた後援会の平成29年分の収支報告書について、真実は、前年からの繰越額が13,253,034円ではなかったにもかかわらず、前年からの繰越額7,240,705円との記載を、6,012,329円増額して13,253,034円と虚偽の訂正をし、

2 令和1年5月27日山口県選挙管理委員会に提出していた後援会の平成30年分の収支報告書について、真実は、前年からの繰越額が11,884,752円ではなかったにもかかわらず、前年からの繰越額7,773,479円との記載を、4,111,273円増額して11,884,752円と虚偽の訂正をし、

3 令和2年5月27日山口県選挙管理委員会に提出していた後援会の令和1年分の収支報告書について、真実は、前年からの繰越額が12,634,184円ではなかったにもかかわらず、前年からの繰越額10,029,276円との記載を、2,604,908円増額して12,634,184円と虚偽の訂正をし

たものである。

 

第3 告発に至る経緯

1 第一次告発

2020(令和2)年5月21日、法律家621人が、2018(平成30)年4月20日開催された「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」に関して、被告発人安倍、被告発人阿立及び被告発人配川を政治資金規正法第25条1項2号(収支報告書不記載)の罪で、また被告発人安倍及び被告発人配川を公職選挙法249条の5第1項(寄附)の罪で東京地検に告発し、大きく報道された。その後も、同じ内容の告発は続き、告発人は最終的に997人に達した(第1次告発)。

2 東京地検特捜部の捜査に関する報道

同年11月23日の読売新聞を皮切りに、東京地検特捜部の上記告発に係る被疑事実についての捜査内容が広く報道され始めた。

報道によれば、被告発人安倍が国会答弁で一貫して否定していた後援会による前夜祭の飲食代の補填の事実を、後援会が認めたとのことであった。

また、

   2013(平成25)年の前夜祭初回から毎年、補填分は被告発人安倍の資金管理団体である晋和会(以下、「晋和会」という)がホテルに対し現金で支払っていたこと、

②ホテルから毎年、晋和会宛ての領収証が発行されていたこと、

③被告発人安倍側はこれら領収証を廃棄していたこと

などが報道された。

3 第二次告発

こうした報道を受け、第1次告発をした法律家のうち10名余は急遽、2020(令和2)年12月21日、第2次告発に踏み切った。

  その内容は、

①前夜祭に関する後援会の収支報告書不記載につき、第一次告発にかかる平成30年分の収支報告書に限らず、平成27年分、平成28年分、平成29年分及び令和1年分の全ての行為の告発

②前夜祭の宴会料の寄附につき、第一次告発にかかる平成30年4月開催の前夜祭に限らず、公訴時効にかからない平成31年4月開催の前夜祭に関する全ての行為の告発

③晋和会の会計責任者である被告発人西山猛及び同会の代表者である被告発人安倍につき、平成27年分、平成28年分、平成29年分、平成30年分及び令和1年分の全ての行為の告発

④晋和会の上記③の収支報告書不記載罪につき、晋和会の代表者である被告発人安倍の会計責任者西山に対する選任監督責任の告発

⑤晋和会の上記③の収支報告書不記載につき、晋和会の代表者である被告発人安倍の重過失責任の告発

であった。

4 後援会の収支報告書3年分の訂正

2020(令和2)年12月23日、後援会の会計責任者阿立は、平成29年分の後援会の収支報告書について「前年からの繰越金額」を3年分の補填額相当額を上積みする形で「訂正」し、平成30年分、令和1年分についても、「前年からの繰越額」を順次、その年の補填額分を取り崩す形にして「訂正」をした。

5 配川だけを後援会の収支報告書不記載罪で起訴、その余は不起訴

上記訂正の翌日、第2次告発のわずか3日後の2020(令和2)年12月24日、東京地検特捜部は、被告発人配川だけを、平成28年分、平成29年分、平成30年分、令和1年分(4年分)の後援会の収支報告書不記載罪で略式起訴し(平成27年分は収支報告書の保管期間が経過しているとして不起訴)、同人は罰金100万円の略式命令を受けたが、それ以外の被告発人と告発事実は、いずれも嫌疑不十分として不起訴とされた。

 

6 被告発人安倍の記者会見での陳述及び国会での答弁

     ―原資は「私の預金からおろしたもの」

ところが、配川が略式命令を受けた2020(令和2)年12月24日、被告発人安倍は記者会見において、補填の原資は「私のいわば預金からおろしたもの」であり、ホテルとの交渉やホテルへの支払をしてきたのは「東京の事務所」すなわち晋和会であると述べた。

また、被告発人安倍は、翌12月25日、衆参の議員運営委員会においても、上記記者会見と同様、「私のいわば預金からおろしたもの」との答弁を繰り返した。

さらに、被告発人安倍は、同日の衆議院議員運営委員会において、後援会の収支報告書の訂正の事実を明確に認識した上で、「弁護士が当局の指摘を踏まえて訂正を行っている」、「捜査当局の指導を受けて、このような額に訂正しろということも含めて訂正をしている」と答弁した。

7 検察審査会に対する申立

第2次告発をした法律家は、2021(令和3)年2月2日、検察審査会に対し、不起訴とされた全ての被疑事実につき、起訴相当の議決を求める申立をした。

8 検察審査会の議決(東京第5検察審査会

  平成27年分の収支報告書不記載罪につき被告発人配川について起訴相当を求めた申立は、実行行為が2016(平成28)年5月であり、5年の公訴時効が切迫していることから、東京第5検察審査会に係属し、急ぎ審査がなされた。この件は、収支報告書原本の保管期限が経過しているとして不起訴とされたものであったが、2021(令和3)年3月3日、第5検察審査会は、インターネットで公開されている収支報告書により犯罪事実は認められるとして、不起訴不当の議決をした。しかし検察は、再捜査の上、同年4月27日、改めて不起訴処分をした

9 検察審査会の議決(東京第1検察審査会)

2021(令和3)年7月15日、東京第一検察審査会(以下、単に「検察審査会」という)は、被疑者安倍について、公職選挙法違反(後援団体関係寄附)及び政治資金規正法違反(晋和会代表者に対する選任監督責任)の不起訴不当、被疑者配川について公職選挙法違反(後援団体関係寄附)の不起訴不当、被疑者西山について政治資金規正法違反(晋和会の収支報告書不記載)の不起訴不当との議決(以下、東京第一検察審査会の議決を単に「議決」という)を行い、議決要旨が同月30日公表された。

10 検察審査会が晋和会に関する犯罪の不起訴を不当としたことは画期的

 桜を見る会前夜祭の問題は、安倍後援会が有権者に対する公職選挙法違反の違法な寄附を行ったことがその本質であり、収支報告書不記載はこれを隠蔽する目的でなされた犯罪であるから、検察審査会が公職選挙法違反の寄附の不起訴を不当としたことは、誠に正鵠を得た判断である。

それととともに、検察審査会が晋和会に着目し、その収支告書不記載及び晋和会の代表者である被告発人安倍の会計責任者に対する選任監督義務違反の不起訴を不当としたことは、画期的である。

前述のとおり、被告発人安倍は、記者会見や国会で、補填の原資は「私のいわば預金からおろしたもの」であり、ホテルとの交渉やホテルへの支払をしてきたのは「東京の事務所」すなわち晋和会であると明確に述べている。収支報告書の訂正内容が真実であるならば、補填の原資についてわざわざ「私の預金」などとは言わず、端的に「後援会の資金」あるいは「後援会の繰越金」であったと述べるはずである。

この意味で、検察当局が、検察審査会の議決を受け、晋和会の収支報告書不記載罪の捜査をするにあたり、「補填の原資」が何だったのか、補填額に相当する金員が具体的にどのような流れで動いたのかは、決定的に重要な事実である。被告発人安倍が述べたとおり「私の預金からおろしたもの」が原資なのだとすれば、後援会の収支報告書における「前年からの繰越額」の増額訂正は、収支報告書の虚偽記載に他ならない。

11 検察審査会の議決を受けての再捜査のためには、後援会の収支報告書の訂正の虚偽性の捜査が不可欠

以上より、検察審査会の議決を受けて検察当局が晋和会の収入・支出に関して再捜査をするにあたっては、後援会の収支報告書訂正の虚偽性が問題となるのは必須であり、後援会の収支報告書の訂正が真実であることを前提とした捜査では、真相究明はおよそ不可能である。

よって、検察当局の厳正な捜査を求め、私たちは第3次告発に至ったものである。

 

第4 告発事実の犯罪性

―後援会収支報告書訂正の虚偽性、驚くべき辻褄合わせ

 1 「収入」・「支出」欄の加筆訂正

   2020(令和2)年12月23日、後援会会計責任者である被告発人阿立は、平成29年分、平成30年分及び令和1年分の後援会の収支報告書の「収入」及び「支出」欄を次のとおり加筆訂正した。

 

①「収入」(加筆)―「機関誌紙の発行その他の事業による収入」として

 平成29年分:「平成29年安倍晋三後援会桜を見る会前夜祭2,410,000」

 平成30年分:「平成30年安倍晋三後援会桜を見る会前夜祭3,035,000」

令和1年分:「平成31年安倍晋三後援会桜を見る会前夜祭 3,835,000」

 

これらは、前夜祭会場で参加者から徴収した1人5000円の参加費の合計額である。国会で被告発人安倍は、参加者が直接ホテルに支払ったので後援会に収入はないと繰り返し答弁していたが、捜査の結果、これらが後援会の収入であったことを認めたのである。

 

  ②「支出」(加筆)―「政治活動費の内訳」として

   平成29年分:

    ・「宴会料等 2,410,000 H29/4/14 ㈱ニュー・オータニ…参加費

    ・「宴会料等 1,901,056 H29/4/17 ㈱ニュー・オータニ…補填額

    ※ 以上合計 4,311,056円

 

 

   平成30年分:

    ・「宴会料等 3,035,000 H30/4/20 ㈱ニュー・オータニ…参加費

    ・「宴会料等 1,506,365 H30/4/26 ㈱ニュー・オータニ…補填額

    ※ 以上合計 4,541,365円

令和1年分:

    ・「宴会料等 3,835,000 H31/4/12 ㈱ニュー・オータニ…参加費

    ・「宴会料等 2,604,908 H31/4/19 ㈱ニュー・オータニ…補填額

※ 以上合計 6,439,908円

  

これらは、前夜祭の「宴会料」として後援会からホテルに支払った金額であり、各年とも日付を異にして金額が書き分けられている。

上段は、会場で参加者から徴収した金額と同一であり、支払日も「前夜祭」の開催日と同一である。

   そして、下段の、毎年開催日の数日後に支払った金額こそが、被告発人安倍が認めた宴会の「補填額」つまり「寄附」の額である。

   それでは、この支出された「補填額」に相当する収入はどのように記載されたのか。

 

 2 虚偽記入の事実=犯罪事実

―「前年からの繰越額」を3年分増額して補填分の「収入」とした

   驚くべきことに、補填額相当分は、全て収支報告書の冒頭にある「収支の総括表」の中の「前年からの繰越金」を、平成29年分報告書においては補填額の3年分、平成30年分報告書においては補填額の2年分、令和1年分の報告書においては補填額の1年分、それぞれ増額させる形で「収入」として処理し、令和1年において増加させた補填額を使い切って0円にしているのである。帳尻は、1円も狂わずぴったり合っている。

   収支報告書の訂正は、保管期限が経過していない過去3年分についてのみなされた。訂正された「収入」の増加額を、新しい方から遡って詳しく見ると、以下のとおりである(分かりやすくするため、収支報告書のうち、当該訂正箇所のみ3年分、末尾に添付した)。


2019(平成31・令和1)年分

   1 2019年分補填額(支出訂正額)2,604,908

   2 収入総額のうち、「前年からの繰越額」

   訂正前の金額     10,029,276円(A)

   加算額(補填額)        2,604,908円(B)

   訂正後の金額     12,634,184円(A+B)

 

2018(平成30)年分

   1 補填額(支出訂正額)

   2019年分補填額  2,604,908円 

   2018年分補填額  1,506,365円

   補填額合計      4,111,273円

   2 収入総額のうち、「前年からの繰越額」

⑴ 訂正前の金額      7,773,479円(A)

⑵ 加算額(補填額合計)      4,111,273円(B)

⑶ 訂正後の金額     11,884,752円(A+B)

  

2017(平成29)年分

   1 補填額(支出訂正額)

① 2019年分補填額  2,604,908円

② 2018年分補填額  1,506,365円

③ 2017年分補填額  1,901,056円

④ 補填額合計      6,012,329円

2 収入総額のうち、「前年からの繰越額」

⑴ 訂正前の金額      7,240,705円(A)

⑵ 加算額(補填額合計)   6,012,329円(B)

⑶ 訂正後の金額     13,253,034円(A+B)

 

   要するに、毎年のホテルへの支払額から参加費の合計額を差し引いた補填額を、全てありもしなかった「前年からの繰越金」で処理し、「3年分遡って帳尻を合わせればよい」とばかりに、補填額3年分を平成29年分に積み、3年をかけてそれを順次、使い切るという「訂正」で処理しているのである。これすなわち、虚偽記入という犯罪事実である。

 

   何という辻褄合わせ、帳尻合わせであろうか。そもそも存在しなかった「繰越金」を計上し、「3年分の辻褄が合えばよい」と形だけを整えて、補填分(つまり寄附に使った金)の原資を隠蔽しているという他ない。

   仮にこうした訂正が虚偽でないというためには、歴年の後援会の収支報告書には記載されていなかった繰越金相当額の資金が、現実には後援会に存在したことが証明されなければならない。しかも、翌年、翌々年の「前夜祭」でいくらホテルに補填するかを見越したかのように1円の狂いもない3年分の補填額の合計額が平成29年に「前年からの繰越金」として、現金として存在していたことが証明されなければならない。そのような証明はおよそ不可能であろう。

これが、「虚偽の記入」(政治資金規正法25条1項3号)の実態である。

 

 3 被告発人安倍の虚偽記入についての故意

前述のとおり、2020(令和2)年12月24日の記者会見及び同月25日の国会答弁において、被告発人安倍は、補填分の原資は「私のいわば預金」であり、「東京の事務所」から支払ったと述べ、決して、「原資は後援会の資金」とは述べていない。

そして、被告発人安倍は、同月25日、国会で、後援会の収支報告書の訂正につき、「弁護士が当局の指摘を踏まえて訂正を行っている」、「捜査当局の指導を受けて、このような額に訂正しろということも含めて訂正をしている」と答弁している。

以上の被告発人安倍の供述は、真実は補填の原資が後援会の繰越金ではないことを知りながら、後援会の収支報告書における前年度からの繰越金を増額訂正するという虚偽記入を認識していたこと、すなわち被告発人安倍に故意があったことを明白に裏付けるものである。 

しかも被告発人安倍は、虚偽記入について、「捜査当局の指導」であったなどと検察に責任を転嫁しており、情状も悪質である。

以上により、被告発人安倍には、収支報告書の虚偽記入罪について故意があり、後援会の代表者配川及び会計責任者阿立を指導する立場で、これらの者と共謀して、虚偽記入を実行したものである。

 

第5 配川の起訴状と収支報告書訂正内容の齟齬

   細かい点であるが、後援会の収支報告書不記載の罪で起訴された被告発人配川に対する起訴状に記載された各年の支出額(補填額)と、収支報告書で加筆訂正された支出額(補填額)は、以下のとおり、金額に齟齬がある。

   平成29年分 起訴状   1,860,860円

          収支報告書 1,901,056円

   平成30年分 起訴状   1,449,700円

          収支報告書 1,506,365円

   令和1年分  起訴状   2,507,732円

          収支報告書 2,604,908円

   この齟齬が何を意味するのかは不明であるが、虚偽記入が「捜査当局の指導」だったとの被告発人安倍の答弁の虚偽性を裏付ける可能性もあるので指摘しておく。

 

第6 検察審査会の議決について

   東京第一検察審査会の議決は、桜を見る会前夜祭に関する告発内容、事実関係を丁寧に審査し、真っ当な市民の見解を、以下のとおり、説得力をもって書き込んでいる。検察は、そこに籠められた市民の思いを真摯に受け止めてほしい。

   以下、議決の中からいくつかの記述を指摘する。

 

  ⑴ メール等の客観的資料も入手して被疑者安倍の犯意を確定すべき

議決は、検察が不起訴とした寄附に関する被疑者安倍の犯意について、「不足額の発生や支払等について、秘書らと被疑者安倍の供述だけでなく、メール等の客観的資料も入手した上で、被疑者安倍の犯意の有無を確定すべきである。」、「十分な捜査を尽くした上でこれを肯定する十分な証拠がないとは言いがたく、不起訴処分の判断には納得がいかない。」として、被疑者安倍及び被疑者配川の不起訴処分を不当としている。

本件告発事実に関しても、全く同様のことが言える。

  ⑵ 晋和会による支払について捜査が尽くされていない

また、議決は、晋和会の収支報告書不記載についても、「前夜祭の開催には、被疑者西山が主体的、実質的に関与していたと認められるから、…慎重な捜査が行われなければならない。」、「晋和会の資金による支払があったかどうかについて、十分な捜査が尽くされているとは言いがたいため、不起訴処分の判断には納得がいかず、被疑者西山の不起訴処分は不当である。」としている。

本告発はまさに、晋和会を巡る資金の流れについて捜査を尽くすために、後援会の訂正された収支報告書の虚偽性についても疑いをもって捜査することを期待するものである。

  ⑶ 招待されるべき資格のない後援会員が招待された「桜を見る会」

検察審査会の議決は、最後の付言においても、極めて重要な指摘をしている。

まず、「前夜祭」だけでなく「桜を見る会」そのものについても言及し、「税金を使用した公的な行事であるにもかかわらず、本来招待されるべき資格のない後援会の人達が多数参加している」とし、「今後は、候補者の選定に当たっては、…選定基準に則って厳格かつ透明性の高いものにしてもらいたい。」と述べている。

告発にかかる「前夜祭」が、そもそも「桜を見る会」に違法に招待された後援会員の宴会だったという核心を突いている。

  ⑷ 透明性のある政治資金の管理を

また、前夜祭の費用の補填につき、「そういった経費を政治家の資産から補てんするのであれば、その原資についても明確にしておく必要があると思われ、…証拠書類を保存し、透明性のある資金管理を行ってもらいたい。」と述べている。まさに、政治資金規正法の立法趣旨に直結する問題である。

被告発人安倍は、補填分の原資につき、「私のいわば預金」と繰り返し述べているが、「預金」の原資は、第二次以降の安倍内閣が使った総計95億4000万円の「官房機密費」のうち領収証の不要な「政策推進費」86億9000万円だったのではないかとの指摘が、学者や市民団体によってなされている。捜査を尽くすことによって、こうした問題も徹底的に解明されるべきである。

  ⑸ 総理大臣であった者は説明責任を果たせ

    議決は最後に、次のように被告発人安倍を痛烈に批判している。

    「政治家はもとより総理大臣であった者が、秘書がやったことだと言って関知しないという姿勢は国民感情として納得できない。国民の代表者である自覚を持ち、清廉潔白な政治活動を行い、疑義が生じた際には、きちんと説明責任を果たすべきであると考える」。

    これは、被告発人安倍が、国会で事実と異なる答弁を118回も行ったという衆議院調査局の調査結果まで公表される中にあって、大多数の国民の声を代弁する批判である。

    捜査当局は、こうした国民の声に応え、改めて被告発人安倍に対する厳正な捜査を行ってほしい。

    ちなみに、唯一有罪とされた被告発人配川は、公設秘書を辞職したものの、いまだに私設秘書として「安倍事務所」への勤務を続けている。この事実は、「自分が知らない間に秘書がやった」との被告発人安倍の供述の虚偽性を、雄弁に裏付けるものであろう。

 

第7 最後に

自民党総裁選及び総選挙を間近に控える今、被告発人安倍は、自身の行為が検察審査会によって不起訴不当との議決を受け、いまだに「被疑者」であることを全く意に介さないかのように、政界に強い影響力を行使しようとしている。

しかし国民の中では、これまでにないほどの政治不信が高まっている。こうした中、東京地検特捜部が政治権力に忖度せず、公正かつ厳正な再捜査を行うことを、国民は期待し、注目している。

とりわけ、本告発(第三次告発)は、第一次告発及び第二次告発とは異なり、補填の「原資」に迫る内容となっていることからも、極めて重要な意味を持つ。そして、上述したように、被告発人安倍が、本告発の事実(上記「第2」)である後援会の収支報告書の訂正について、「弁護士が当局の指摘を踏まえて訂正を行っている」、「捜査当局の指導を受けて、このような額に訂正しろということも含めて訂正をしている」と答弁していることを踏まえれば、検察の政治権力への忖度にとどまらず、検察が政治権力と癒着して補填の「原資」隠ぺいを図ったのではないかとの疑念も存在するのである。このような疑念を晴らすためにも、東京地検特捜部には強制捜査を含む徹底した捜査を行うことが求められているのである。

昨年、検察庁法改正法案が、圧倒的多数の国民の反対により廃案になったのも、国民の検察に対する期待の表れである。そのことも改めて想起し、東京地検特捜部は、国民の期待と信頼に応えてほしい。

以上

Thursday, August 26, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献(184)

萩原優里奈「我が国におけるヘイトスピーチへの法的対応」『言語・地域文化研究』第25(2019)

目次

はじめに

第1章         民事的救済

1 現行法による救済手段

2 裁判例(京都朝鮮学校事件)

3 考察

第2章         刑事的救済

1 現行法による救済手段

2 裁判例(京都朝鮮学校事件)

3 考察

第3章         ヘイトスピーチ解消法

1 ヘイトスピーチ解消法の存在意義

2 川崎市ヘイトデモ差止仮処分決定

3 考察

おわりに

東京外国語大学大学院の紀要に、萩原は数本のヘイト・スピーチ研究を発表している。

本論文は、民事的救済、刑事的救済、ヘイト・スピーチ解消法について、それぞれ検討して、今後のヘイト・スピーチ対策について論じている。民事及び刑事的救済については、いずれも京都朝鮮学校事件の判決を素材として、その意義と限界を検討している。さらに、解消法についても、その意義と限界を論じ、その際に川崎市デモ差止仮処分決定を素材としている。このテーマの扱いとしてはもっともオーソドックスな構成の研究論文と言えよう。分析も手堅い。

引用文献としては、奈須祐治、前田朗、斎藤民徒、金尚均、毛利透、師岡康子、小谷順子、遠藤比呂通等々、重要文献をそれなりに踏まえているが、先行研究の調査が十分とは言えない。もっとも、このテーマは文献が多すぎるので、大学院生の論文としては、よく調査している方かもしれない。

著者は次のようにまとめる。

「ヘイトスピーチはその被害者を身体的及び精神的に傷つけるのみならず、社会における構成員としての地位あるいは人間であること自体を否定することで、人としての尊厳や平等に生きる権利を奪うものである。また、その威圧的メッセージでマイノリティを圧倒し、彼らの表現の自由を奪い沈黙に追い込むことで、民主主義そのものを歪めてしまう。さらには、社会に差別や暴力を蔓延させ、究極的には戦争やジェノサイドにすら繋がりかねない。こうした深刻な害悪のおそれがある一方で、従来より表現の自由の保障意義として挙げられてきた『自己実現の価値』や『自己統治の価値』をヘイトスピーチに見出すことは難しい。例外的な表現の自由規制として、ヘイトスピーチに制裁を科すことは十二分に正当化し得るのではないだろうか。」

的確な認識である。精神的被害だけでなく、身体的被害を認識している点は優れている。沈黙効果や民主主義に言及している点も的確だ。金尚均や師岡康子に学んだのであろう。その上で、萩原は、罰則規定策定の参考として、金尚均に倣ってドイツの集団侮辱罪をあげる。反差別のための取り組みの重要性、そのための法規制の在り方について、今後研究を進めることが予定されている。

研究論文としてはもう少しオリジナリティがあるとなお良いのだが、このテーマは現在、夥しい研究が公表されているので、その中で新規性を強く打ち出すのはなかなか大変なテーマでもある。いずれにせよ、続編が期待される。

Wednesday, August 25, 2021

「共同テーブル」発起人のメッセージ

8.28「共同テーブル」シンポジウム「いのちの安全保障を考える―共同テーブルからの提案」は、リアル開催を予定して準備したが、オンライン開催に変更した。

https://maeda-akira.blogspot.com/2021/08/828.html

参加申込先は、E-mail: e43k12y@yahoo.co.jp

 

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共同テーブルへの意見

杉浦ひとみ

現在、日本の政治は危機的な状況にある。国内ではコロナ禍に国民の命が顧みられないことが明白になった。世界に向けては他国民を殺傷する武力行使に積極的に関わる意思表明をしている。それでも市民は、日本は先進国であり、平和を尊重する国だから、そんな無茶はしないだろう、私たちは豊かな国の国民として国際社会でも伍していけるだろう高をくくっている。この根拠のない正常性バイアスをまずは打ち捨て、現実を直視し共有したい。その上で、何を大切にするのかを確認したい。それは一人一人の平等な命と安全の保障であり、それ以外の何ものでもないことを愚直に確認したい。バブル崩壊後の世代は、夢や希望も持てず、格差が当然の社会に育ち、平等感も自己肯定感も持てないまま、民意による自己復元力(民主主義)も信じられないが、まず自分が幸せに生きるイメージを持とう。例えば砂漠に水を引き緑を育て、食べることができ、子どもたちが学び、治安を得る。そんな幸せを提示した中村哲さんの行動を胸に描きたい。そして私たちは、完璧な政党を探して、見つけられずに政治に絶望するのでなく、自分たちで目指す勢力を創り上げるために努力をしなければいけないと思う。

 

「共同テーブル」への意見         

海渡雄一

次の選挙で野党の統一を図ることも重要ですが、そもそも今の国会では、直近の重要土地規制法が成立してしまったように、見落としてはいけない様々な人権課題が、数だけの「民主主義」で通ってしまう状況になっています。秘密保護法も共謀罪法も、安保法制も全てそうでした。そして、これらの法律は社会の根底に大きな影響を与え、人権を掘り崩していくものです。これを支持しない市民は大勢いるはずです。しかしながら、多くの市民の声は、今の既成の野党政党によって代弁されているとはいえません。

既成の野党だけでは拾い切れていない多くの市民の声とつながりを持ってきた者が集まり、市民の声を繋ぎ合わせて大きな力にするために、「共同テーブル」というプラットホーム(「共通の土台(基盤)となる環境」)を立ち上げました。この場を活用し、多くの市民の声を政治に生かして行きましょう。

 

発想転換の一大契機として 

纐纈厚(明治大学国際武器移転史研究所客員研究員)

コロナパンデミックは、戦後日本国家や政治の限界を露呈する契機となりました。そこでは何よりも安全保障概念の再検証を促しています。軍事的安全保障ではなく、国民の生命と健康を第一とする人間的安全保障、自然との共生や安定した労働を確保する生活安全保障を優先する発想への転換が迫られています。取り分け、日米軍事同盟は、抑止を口実としながら軍事力で国際社会の枠組みを形成しようとする時代遅れの政治スステム。ウイルス感染や地球温暖化など、軍事力では救えないものが数多存在することへの気付きが必要です。

国際社会にあっては、政治体制やイデオロギーの差異を超えて、国家や国境の束縛から解放された国際社会の築きが求められています。宣言文の「国家の水位を低くする」とは、その意味が込められていると思います。一国主義的要素の強かった護憲運動も、そうした国際社会の枠組み創りに資するものである限り、これまで不充分であった国際性が担保されるはず。憲法に盛られた信頼醸成の方途を探ることこそ、護憲の最大目的ではないでしようか。

いま国際社会では形こそ違え、様々なファシズムの潮流が運動や体制として勢いを得ています。強き者や豊かなる者が世界を動かす現実は、貧困・抑圧・差別を一層強めていくことになります。こうした現実を変えていくためには、人間差別を解消する平等主義、貧困格差を是正する社会主義、国家主義や全体主義を否定する民主主義、これらを接合する骨太の自由主義への思いを共有することです。このことを、取り分け未来を担う青年たちの思いに繋げていきたい。

 そうした思いを抱く人々が同じテーブルに集い、その実現のために知恵を絞り合い、政治の場で如何に活かしていくのか。共同テーブルとは、そのための実践的な活動方針を紡ぎ出す運動体と定義すべきに思います。以下、私が考えている掲げるべきスローガンの一例を挙げておきます。

一、非同盟政策が貫かれた国際社会の構築

一、軍事的安全保障から人間的安全保障への転換

一、国際連帯を促す護憲運動の展開

一、差別的労働現場から安定的労働現場の創出

 

 

「共同テーブル」活動に関して           

鎌倉孝夫

この活動は、基本的人権と平和確立が基本課題であること。この課題確立をめざす運動を活性化するために不可欠と思われる事項を記しておきます。

1.    平和を損なう、戦争の危機をもたらす動きが台頭し、強まっている。なぜいま戦争の危機が生じるのかを、認識しなければならない。直接には中国と米国(政府)との対立―とくに台湾問題を契機とする戦争の危機が生じている。この戦争の危機の原因を明確にすること。米政府の意図―日本の侵略の戦力増強の要求を明確化すること。

2.    日常的生活と労働(仕事)の中での、平和的人間関係、基本的人権確立を。エッセンシャルワークの確認、その場での労働者の協力共同の確立を。

3.    国際的平和確立を図る各国労働者・勤労者の共同・連帯形成。インターナショナルな労働者・勤労者の運動とあらためての活性化。

 

共同テーブルへのメッセージ

植野妙実子(中央大学名誉教授)

今の政治に圧倒的に欠けているもの、それは「憲法に基づく政治」だと思います。

憲法は国家の基本法です。日本国憲法は、平和主義、個人の尊重、生存権を含む基本的人権の保障、権力分立など国の守るべき基本を定めています。しかし、実際の今の政治は、この決定はどこからきたのか、憲法にあるのか、憲法に基づく法律にあるのか、疑問に思うようなことが続いています。時には国民を裏切る、あるいは国民を棄てる、と思わせるような政治さえ行われています。

今一度、憲法の精神、原則に立ち返り、不透明なごまかしの政治をやめさせ、真に国民に寄り添う、国民のための政治を求めます。

 

共同テーブルへのメッセージ

(「私は共同テーブルをこうしたい」という視点から)

看護師・ライター 宮子あずさ

共同テーブルが脱却を目指す「非正規社会」は、働く者の権利はおろか、基本的人権さえも否定される社会。そこでは、社会によってもたらされる不幸も自己責任とされ、わずかな公的支援すら恩恵とみなされ、求めることさえはばかられる空気が作られています。ここから脱却する手がかりは、日本国憲法であり、それがわかるからこそ、「非正規社会」の分断や差別から恩恵を受ける為政者は、素早い改憲を求めているのではないでしょうか。

今私たちは、新型コロナウイルスによる感染爆発に直面し、医療の逼迫から、助かる命も助けられなくなる、危機の瀬戸際にいます。これも、効果効率を重視した医療の切り捨てがベースにあり、根本は、人々の生きる権利の軽視にほかなりません。私たちは、生きることさえ、条件付きでしか認められない、非正規のいのちを生かされていると感じます。

この現状を変えるため、日本国憲法の理念に基づく、裾野の広いリベラル勢力の結集が必要です。すでに野党共闘をめぐる動きは、いくつか起こり、実績も上げています。私がここに参加する上では、すでにある野党共闘へのリスペクトを忘れず、互いの違いも求め合った上での連携を求めたいと考えています。

そしてまずは「非正規社会」を推し進める改憲勢力の多数派維持を阻止。その上で、願わくば、政権交代可能なリベラル勢力の結集を求めたいと思います。

 

 

田中優子よりの意見

 佐高信さんが起草して下さった「宣言」は素晴らしく、足すところも引くところもありません。私も改憲阻止と憲法の理念の実現を中心に据えたいと思います。

 共同テーブルは、改憲阻止をしながら憲法の理念を実現する政治家が活躍できるよう支援をする組織だと思います。選挙運動だけでなく当選した後の支援も必要で、そうでなければ立候補者がなかなか出て来ないでしょう。

憲法の理念の実現の第一は、アメリカと中国への等距離外交によって戦争を回避する方向性を明確にし、沖縄の米軍基地の撤退と離島の自衛隊基地の縮小をはかっていくことです。

憲法の理念の実現の第二はいのちの安全保障です。その当面の課題は非正規問題ですが、同一労働同一賃金がすでに始まっていて不合理な待遇格差は禁止され、待遇差は説明が義務づけられています。それでも休業手当が支払われず不当解雇され、女性の非正規率も多いのです。もう法律の問題ではなく社会全体が取り組むべき問題で、非正規雇用者が声を上げ説明を求めて現実に待遇が改善されていく行動を促す政治家や運動体が必要です。

共同テーブルは以上のことを軸にして、このテーブルを囲む党と立候補者を積極的に説得的に結びつける仕組みであり、運動体だと考えます。

 

 

「共同テーブル」のためのメッセージ

前田 朗(東京造形大学名誉教授)

 新型コロナと地球環境変動。民族、宗教、地域の武力紛争。人種・民族差別、性差別。難民、移住者、先住民族、外国人に対する差別と抑圧。新科学技術による新しい重大人権侵害――世界は矛盾に満ちている。難題が溢れている。

ここから希望を紡ぎ出すために飽くなき闘いを続けている人々がいる。

 日本も同じだ、と思いたい。

身分差別と外国人差別を冒頭に掲げた憲法。その憲法の平和主義を無視して軍国主義への道を歩む政権。外国人差別だけでは飽き足らず、国民切り捨て政策に邁進する政権。民主主義を葬り去る政権。翼賛するメディア――日本も矛盾に満ちている。難題が山積みだ。

それでも、いのちを諦めない人々がいる。平和を手繰り寄せようと模索する人々がいる。棄民政策にNO!と拳を突き上げる人々がいる。尊厳をかけて連帯する人々がいる。耳を澄まし、目を凝らし、自分の頭で考えようとする人々がいる。

日々の暮らしといのちという、ささやかな願いを足蹴にする政治を終わらせ、小さきものの視線から世界を見晴るかす政治をつくり出したい。

Tuesday, August 24, 2021

スガ疫病神首相語録52 ブルーライト・ヨコハマ

8月24日、福岡地裁が工藤会総裁に死刑を言い渡した。

同日、東京電力の放射能汚染水放流計画の準備が進められた。

同日、新型コロナの緊急事態宣言地域の拡大が迫られた。

同日、混迷するアフガニスタンから邦人退避のため、自衛隊の輸送機がアフガニスタンに向けて飛び立った。

同日、東京パラリンピック2020が開幕し、ガースーとユリコが出席した。

 

 

――いや~今日は大変な日だった。さすがに疲れたね。さあ、パンケーキの時間だ。

 

♫♫ ヨコハマ~たそがれ~ホテルの~小部屋~~

 

――おっと、電話だ。誰だろう。ハッチャンか。ハッチャン、市長選、残念だったね。うん、記者会見では「大変残念な結果。謙虚に受け止めたい」と言うしかなかったよ。ヒコサブロー先生にお世話になって政界入りした私だから、息子のハッチャンを国家公安委員長に抜擢したんだよ。ハッチャンが国家公安委員長を辞任して市長選に出るとは思いもよらなかった。ハッチャンが「IR反対」と言ったときには一瞬耳を疑ったけど、他ならぬハッチャンだから選挙応援させてもらったよ。周囲は「政府がIR政策を進めているのに、首相がIR反対のハッチャンを推薦するのはマズイ」などと言われたけど、構うことはない。身内最優先はガースー政権の基本方針だ。自助、共助、そして公助だからね。ヒコサブロー先生と私とハッチャンの仲だ。自助、共助に加えて、首相の立場を利用して公助もつけたんだけど、逆風が吹いてしまった。シンゾーがモリ・カケ・サクラでドジを踏んだために身内優先原則が揺らいだけど、身内ファーストは自民党の公理だからね。いいんだ、いいんだ、IRは他でなんとかなるだろう。大阪イシンのヨッシーが身内でもないくせに子どもの使いを買って出てくれたからね。それに、IR実現の時まで私が首相かどうかわかりゃしないし。

 

♫♫ 港の~ヨーコ~ヨコハマ~ヨコスガ~~

 

――この着メロは特注なんだよ。本当は、港の~ヨーコ~ヨコハマ~ヨコスカ~~なんだけど、最後を「ヨコスガ~~」にしてもらったんだ。何? 横車のスガかって? そりゃあ、横車だろうが縦車だろうが斜め車だろうが、なんでも押すよ。もしもし、カツマタさん、随分と久しぶりですね。お元気ですか。えっ、80歳を過ぎるとなかなかって、そんなことはないでしょう。いつまでも矍鑠としてご活躍いただかないと。で、今日はどうされましたか。えっ、福岡地裁判決に驚いた。どうしたんですか。暴力団の工藤会にお知り合いでもいましたか。判決理由? ああ、たしか「暴力団の工藤会のような上意下達の厳格な組織では、総裁の決定なしには物事は動かないから、事件は総裁の責任だ」って。組織犯罪対策の立派な判決ですよ。しかも、死刑ですからね、フフフ。えっ、「なんてことしてくれたんだ」ですか。どうしたんです。なになに、「東京電力のような上意下達の厳格な組織では、会長の決定なしには物事は動かないから、原発メルトダウンは会長の責任だ」って、そうなりますね、フフフ。「会長は何も知らなかったことにしているのに、なんて判決だ」って、そう言われても、裁判所に首相が口出すわけにはまいりません。まあ、パラリンピックも始まったことですし、そう気になさらず、応援に励んでください。無観客ですが、なんなら関係者席に入れるようにしますよ。放射能汚染水はしっかり海に流しますから、判決は水に流してください。

 

♫♫ 山手の~ドルフィンは~静かな~レストラン~~

 

――根岸のドルフィンと言えば、ドルフィンソーダだ。たまには晴れた日に根岸森林公園の高台から海を眺めたいものだ。さてさて、電話の主はニカイさんか。もしもし、ニカイさん、総裁選ではお世話になります。アベさん、アソーさん、ニカイさんのご支援をいただければ鬼に金棒、スガに棒読みです。えっ、読み飛ばすのは1頁にとどめろですか。はい、2頁読み飛ばすとさすがに提灯持ちの記者たちも困るでしょう。えっ、キッシーが「総裁選で、志ある人は手を挙げるべき」と言ったんですか。そうですか。志のないキッシーが「志のある人は手を挙げて」ですか。ギャグのつもりでしょうか。シモちゃんやサナエやセイコでは敵に不足ありですし、イシバカは早々に退散しましたから、キッシーくらい出てくれないと選挙になりません。はい、勝つ前に甲の尾を占めて、新型コロナ対策に精を出します。えっ、「勝って兜の緒を締める」ですか。はい、メディア対策は万全です。何しろ今頃になって「新型コロナは災害級だ」なんて言ってる始末です。死者が1万5000を超えたのに、ようやく「災害級だ」なんて後手もいいところ。後手後手と言われた私のはるか後塵を拝しているのですから、御用マスコミには呆れます。志のない手合いはこれだから、自己チュー、身内最優先という強い志の私にとっては応援団。イソコさえいなければ100%なんですが。

 

♫♫ 街の灯りが~とてもきれいね~ヨコハマ~ブルーライト~ヨコハマ~~

 

――おやおや、こんな時間に、またまた電話。えっと、この番号はシイ委員長じゃないか。珍しいな。そうか、政府が自衛隊機のアフガニスタン派遣を決めたので、抗議の電話だな。用心、用心、居留守を決め込むことにしよう。何しろ、シイ委員長ときたら、1時間でも2時間でも唾を飛ばして猛烈な抗議をしてくるからな。携帯電話の向こうで唾が飛んでる音が聞こえるくらいだ。こちらが何か言おうとしても一切聞いてくれない。問答無用で怒鳴るんだから。対話の精神がないというか、謙譲の美徳がないというか。今夜は線状降雨帯の豪雨警戒警報だね。霰注意報も出てるかな。あの勢いで喋り捲られたら安眠妨害じゃないか。君子危うきに近寄らず。せっかく懐かしい石田あゆみの着メロだったのに、気分台無しだ。無視して、ゆっくり寝よう。

 

♫♫ 街の灯りが~とてもきれいね~ヨコハマ~ブルーライト~ヨコハマ~~

 

――はいはい、留守電にして、お休みなさい。

Saturday, August 21, 2021

『いま、山川菊栄が新しい!――山川菊栄生誕130周年記念シンポジウム』(山川菊栄記念会、2021年)

山川をきちんと読んだことがない。随分前に岩波文庫で手にした1~2冊をざっと読んだ程度で、それ以外は読んでいないため、一般的に言われているイメージしかもっていなかった。本書はそのイメージの誤りをスパッと指摘してくれて、読者は不明を恥じることになる。

本書は下記のシンポジウムの記録集である。

「今、山川菊栄が新しい!」山川菊栄生誕130周年記念シンポジウム

https://wan.or.jp/article/show/9125

<最近、山川菊栄が注目されている。山川菊栄は、戦前戦後を通じて活躍した社会主義フェミニストであり、女性の労働権を軸に、女性が直面する諸差別が近代社会の構造に起因することを理論的に解明し、変革の指針を示し続けた先輩である。コロナ禍で浮かび上がった諸差別の撤廃に向けて、山川菊栄の思想と活動の軌跡を読み継ぎたい。>

女性史研究家・山川菊栄記念会の鈴木裕子による基調講演「日本フェミニズム史上における山川菊栄の意義」は、山川菊栄の生涯と発言の大筋を浮き彫りにしつつ、山川が単純な階級一元論の社会主義者ではなく、女性に対する差別と暴力を告発し、今日のリプロダクティブライツにつながる議論を展開し、フェミニストによる戦争加担の時代にも抵抗を貫いたことなど、多面的で、同時に一貫した山川の思想を提示する。「忘れられた思想家」山川に学ぶ現在的意義を明らかにしている。

次の3つの報告も、それぞれのテーマを専門的に、かつわかりやすく説いている。

・伊藤セツ(昭和女子大学名誉教授) 

  「国際的視野に立つ社会主義女性論の論客としての山川菊栄」

・豊田真穂(早稲田大学文学学術院教授) 

  「労働省婦人少年局と山川菊栄」

・浅倉むつ子(早稲田大学名誉教授・山川菊栄記念会)

  「性差別撤廃運動の新展開」

参加者による討論も充実している。

本書は110頁のブックレットだが、第2部「山川菊栄をもっと知りたいあなたへ」では、写真や年譜、年譜など各種資料が収められている上に、和光大学名誉教授・山川菊栄記念会代表の井上輝子による解説「山川菊栄の生涯と思想」が光る。コンパクトで、わかりやすく、とても良い入門解説だ。

(*井上輝子は本年他界したという。10年以上前に何かの講演会会場で出会ったことがあるが、直接お話を伺ったことはないのが悔やまれる。)

シンポジウムにおける発言を見ると、各地で「山川菊栄を読む会」、学習会が開かれてきたようだ。だが、それは女性たちの学習会だ。日本フェミニズム史に燦然と輝く山川を女性たちが読んで学ぶのは当然だ。

しかし、男性こそ山川にきちんと学ぶべきであることが本書を通じて良くわかる。本書は人文社会系の男性研究者必読の書である。本書を手掛かりに、山川の思想の一端なりとも自分で読む必要がある。私自身の課題である。

本書はまだAmazon等では購入できないようだ。出版元は山川菊栄記念会。

山川菊栄記念会

http://roudousyaundou.que.jp/kikue_002.htm

山川菊栄略年譜(1890-1980)

https://www.sites.google.com/site/fumonkon/yamakawa_bio

Wednesday, August 18, 2021

スガ疫病神首相語録51 美徳と矜持

8月17日、ガースーは新型コロナ緊急事態宣言の対象地域を拡大し、従来の宣言を延長した。

記者会見で、「危機を乗り越えるという強い決意のもとで医療体制の構築、感染防止、ワクチン接種という三つの柱からなる対策を確実に進めていく」と述べた。

ただちに、「今頃何を言っているのか。国民をバカにするな」とヤジが飛びそうな話だが、飛ばないところが記者クラブ制の美徳である。三つの柱ならぬ三つの主要紙は政権の名誉ある提灯持ちとしての矜持を持って沈黙する。

空気を読めない地方紙の「中国新聞」記者が、「緊急時は総理の分かりやすいメッセージが求められているが、今回の会見もそうだが、原稿の棒読みがこれまでも指摘されている。分かりやすく国民に伝えることが求められている中で、広島での原爆の日の式典でのあいさつの読み飛ばしもあったが、どのように政治のメッセージを伝えていくのか」と首相の姿勢を問いただした。

これは無理な注文であり、ガースーには酷である、と呟いたのは、あなた。

 

 

ガースー道場にて

 

るも地獄 しないも地獄 スガ政権夏の陣

 

んばれニッポン、がんばれニッポン、と観戦(感染)の極意

 

み間違えじゃない、よみ方は私が決める、ヒロマシ・ナガサキ

 

んだふり解散 ってのもあったよな 9月政局

 

さい者は被災者らしく、首相は殊勝に主将らしく

 

まじゃない、でもじゃない、デモクラシーもない

 

すがりつくのは、よしてほしいよ、ひでえ失政

Saturday, August 14, 2021

スガ疫病神首相語録50 My SUGA Babe

   日本がポツダム宣言受諾を表明した日を、今朝の朝日新聞はとても愉快な伝え方をしている。

 3面の「日曜に想う」として、編集委員の曽我豪「終戦とはごまかしの言葉だ」が掲載されている。終戦ではなく敗戦ではないのか、と。アベシンゾーの戦後70周年談話でも「日本は敗戦しました」と言ったという。

 ところが、1面には「きょう終戦76年」の見出しが躍る。曽我ナントカに知性のかけらもないことが一目でわかる。いつもこうだ、ごまかしの新聞のごまかしの編集委員。

ごまかしなら日本一のガースーは、さて、何と言うだろうか。

 また、なぜ8.15なのか、なぜ9.2でないのか。8.15以後も戦闘が続いたことを朝日は伝えないのだろうか。

 5日間続いた「抵抗の足跡」は良い企画だったのに。

 

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山下達郎のMy Sugar Babeのメロディで

 

目を閉じれば そこに

My SUGA Babe

今夜も夢の道で会えたね

はるか日々を飛び越え

君は国民を殺す

Oh My SUGA Babe

 

もっとそばにおいで

My SUGA Babe

ここでは二人きりさ いつでも

君が立ったこの場所

ずっとコロナが続くよ Oh 変わらずに

 

気がつけば 時は流れて

遺された僕は ひとりで闇に埋もれる

 

もう振り向きはしないから

僕を見送っておくれ

Oh  My SUGA Babe

 

全て燃え尽きるとも

君はみんな殺す

Oh My SUGA Babe

Oh My SUGA Babe

 

山下達郎、My Sugar Babe

https://www.youtube.com/watch?v=kknOFy01Wr0

https://www.youtube.com/watch?v=4wSA-Wf93Lw