カナダの法状況については、既に日本の憲法学者による紹介があるが、カナダ政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/CAN/19-20. 8 June 2011)によると、刑法430条(4.1)は、偏見、予断、憎悪に基づいて、主に教会、モスク、シナゴーグ、寺院、墓地などの宗教施設のために用いられる財産を破壊する特別の犯罪を規定している。ヘイト・スピーチについては1970年以来、刑法で対処している。刑法318条は、皮膚の色、人種、宗教、民族的出身又は性的志向によって「識別される集団」に対するジェノサイドの主張や促進を禁止している。刑法319条1項は、公共の場で平穏を侵害するような発言で、「識別される集団」に対する憎悪を扇動することを禁止している。刑法319条2項は、私的な会話以外の発言で、「識別される集団」に対する憎悪を恣意的に促進することを禁止している。国連人権理事会は普遍的定期審査(UPR)で、カナダに人種主義暴力に対処する立法を促したが、カナダは受け容れていない。カナダは人種主義暴力を通常の刑法で犯罪としている。暴行、傷害などの暴力行為は犯罪とされており、暴力行為の煽動も、暴力行為が実際になされたか否かを問わずに、犯罪とされている(独立教唆)。刑法718条2項(a)(i)は、刑罰加重事由として、犯罪が、人種、国民的又は民族的出身、言語、皮膚の色、宗教、性別、年齢、心身の障害、性的志向その他類似の要因に基づいた偏見、予断、憎悪に動機を持つ場合を掲げている。