針谷勉『原発一揆――警戒区域で闘い続けるベコ屋の記録』(サイゾー)
福島第一原発事故により廃業した農家、廃業の危機に陥った農家はどれだけあるだろう。土地も施設も放棄し、家畜を殺処分せざるを得なかった牧場はどれだけあるだろうか。原発事故は、人間だけでなく、家畜も、自然の動物たちも危機に追いやった。そうした中、「決死救命、団結!」を決意し、闘い続けている吉沢正巳の<希望の牧場・ふくしま>が輝いている。だが、その輝きとはいったい何なのか。どれほどの絶望の上にあるのか。AFP通信社に所属する映像ジャーナリストの著者は、吉沢と希望の牧場を取材しているうちに、なんと吉沢とともに闘いはじめ、ついに希望の牧場立ち上げにかかわり、なんと事務局長になってしまった。新人ジャーナリストなら、取材対象の魅力にひきこまれて、一緒に闘ってしまう、つまりある意味では「ジャーナリスト失格」になってしまうことはよくあるかもしれない。しかし、著者は新人ではない。にもかかわらず、取材対処に意気投合し、惚れ込み、ともに闘っている。しかも、ジャーナリストであり続けている。底知れぬ絶望の中、先の見えない暗闇のさらに闇の中、息苦しさにもだえるようにして、彼らはあくまでも「命」に向き合う。どこまでも「命」を問い続ける。徹底して「命」を掲げる。無責任な国と東電を相手に闘い続ける。見えない放射能を相手に闘い続ける。それが一揆であり、決死救命であり、団結だ。この信じがたい骨太の意地を、写真と文章で記録したのが本書だ。吉沢の話は何度か聞く機会があった。決して話し上手ではないが、肺腑をえぐられる話だ。その吉沢を著者・針谷が描く。頭が下がる。