野間易通『「在日特権」の虚構』(河出書房新社)――副題「ネット空間が生み出したヘイト・スピーチ」。在特会による異常な差別と排外主義に対抗して「しばき隊」をつくり、活動してきた著者によるヘイト・スピーチ批判である。まったく根拠のないデマをばかばかしいと言って相手にしないでいると、いつの間にかネット空間にはデマがあふれ出し、デマに踊らされる人間が増える一方である。著者は「在日特権」を直接取り上げて具体的に批判する必要性を痛感し、これに取り組んだ。本書で対象としたのは、特別永住資格、年金問題、通名と生活保護受給率、住民税減免問題である。前3者については在日朝鮮人の歴史を学んだり、在日朝鮮人の人権擁護に取り組んできた者には常識的な内容ばかりであるが、一般には知られていないがために、「在日特権」という嘘がまかり通っている。著者は、一つひとつ丁寧に取り上げて再確認している。また、住民税減免問題については、在特会が盛んに宣伝する三重県伊賀市の事例について現地に赴いて調査し、それが特権ではなく、歴史的に行われたアファーマティヴ・アクションというべきものであったことを指摘する。この点は知らなかった。本書で初めて知る人が多いだろう。「在日特権」論自体がヘイト・スピーチであるとして厳しい批判を展開している。この点はヘイト・スピーチの定義いかんであるが、いずれにせよ重要な問題提起である。著者には『金曜官邸前抗議』もあるように、この間の市民運動の中で非常に重要な役割を果たしている。実践面での役割に加えて、理論面でも貢献している。