竹信三恵子『家事労働ハラスメント』(岩波新書)――炊事、洗濯、掃除、育児、介護など、人間生活に不可欠の暮らしの営みが「労働」としては正当に評価されず、無償労働とされる。外部化した場合も女性労働とされ、低賃金であり、昇進・昇格もなく、使い捨て労働とされる。長らく議論されてきたこの問題を「家事労働ハラスメント」と呼んで、さまざまな観点から光を当てて検証した本である。著者本人の体験もあれば、取材して聞いた体験談も多い。統計資料も豊富であり、実証的かつ総合的な検討がなされている。働いても働いても生活難の「元祖ワーキングプア」、「専業主婦回帰」と「貧困主婦」、「男性はなぜ家事をしないのか」、家事労働ビジネスのブラック化など多面的に考察することで、「単なる家事労働」が、一つの国家・社会における政治、経済の全体を貫く基本思想を体現していることが明らかになる。「私たちの社会には、家事労働を見えなくし、なかったものとして排除する装置が、いたるところに張りめぐらされている。これまで、その装置がどのように設置されているか、その装置によって家事労働が見えなくさせられていることが、いかに私たちの社会を貧しくさせ、危うくさせ、生きづらくさせているか」。著者は朝日新聞記者、編集委員を経たジャーナリストで、現在は和光大学教授。著書に『日本株式会社の女たち』『女の人生選び』『「家事の値段」とは何か』『ルポ雇用劣化不況』『ルポ賃金差別』など。