進藤栄一『アジア力の世紀――どう生き抜くのか』(岩波新書)――――国際アジア共同体学会会長、東アジア共同体評議会副議長による東アジア共同体再論である。ガラパゴス化した日本外交の失敗を厳しく批判し、TPPや中国脅威論を抜け出て、東アジア共同体への道を探るための1冊。随所に学ぶべきことがあるが、わかりやすいところでは、ギリシアやスペインの金融危機に際して、無責任なメディアや評論家がEUの失敗を唱え、ギリシアやスペインのEU離脱と大騒ぎしていた。著者はこれが全く見当違いであることを指摘する。EUの限界が明らかになったことは事実だが、EUの失敗ではなく、逆にEUがあったからこそ持ちこたえることが出来たし、現にギリシアやスペインのEU離脱など起きていないし、EU域内経済は復調している。デマを並べた評論家たちはもう忘れて次のデマに取り掛かっている。この種のことが多すぎる。外交官の無能ぶりはいまさら指摘するまでもない。それは、一つには日本の政治経済外交の将来構想がないこと、二つにはアメリカ追随、である。著者の分析は信頼できる。ただ、日本の生きる道として東アジア共同体を構想しているが、実際には日本こそが東アジア共同体の最大の阻害要因となっている現実をどうするのか。その具体的な展望はない。特に日本軍慰安婦や靖国をめぐる歴史認識がますます重要となってきている。日本の転落を救い出そうとする著者の願いは、残念ながら困難に出くわしてばかりだ。