松井茂記『表現の自由と名誉毀損』(有斐閣)――ヘイト・スピーチ研究のために関連著作の一つとして本書を読んだ。本書はアメリカにおける名誉毀損の判例研究と、日本における名誉毀損の研究の2つで成り立っているので、ヘイト・スピーチに直接関係する記述はないが、ヘイト・スピーチが名誉毀損に当たる場合もあるので、そのあたりを学ぶためには必読である。本書でも刑事名誉毀損法が扱われている。巻末の事項索引にヘイト・スピーチがあり、139頁と指示されている。139頁にも前後の頁にもヘイト・スピーチの語はないが、スコーキー事件のことが取り上げられているので、間違いではない。民事名誉毀損のアメリカ判例に関する研究は詳細で、とても勉強になった。もっとも、全13章のうち前半1~6章は1983年に執筆された論文をもとに加筆したものなので、最新情報という点では不足もある。後半の日本における名誉毀損の研究もさすがである。著者は、刑事名誉毀損の処罰法規は憲法違反という見解である。アメリカ憲法に大いに学んでいるので、こういう結論になるのだろう。ヘイト・スピーチ処罰についての見解は示されていないが、消極的に理解しているのではないかと推測できる。著者は大阪大学名誉教授で、現在はブリティッシュ・コロンビア大学教授である。著書に『司法審査と民主主義』『情報公開法入門』『インターネットの憲法学』『マス・メディアの表現の自由』『日本国憲法』『マス・メディア法入門』『アメリカ憲法入門』など多数。