こまつ座『ムザシ』(井上ひさし作、さいたま芸術劇場)を観た。あっという間に終わった3時間の公演に感動し、ただただスタンディング・オベーション。演出の蜷川幸雄に泣かされてしまった。ちょっと悔しい。音楽担当の宮川彬良も素晴らしい。武蔵(藤原竜也)、小次郎(溝畑淳平)、乙女(鈴木杏)、沢庵(六平直政)、柳生(吉田鋼太郎)、まい(白石加代子)、平心(大石継太)らの演技もお見事。初演の話題の時に、「武蔵を藤原竜也?」と思ったのは、愚かだった。藤原竜也の武蔵、大した役者だ。溝畑淳平は今回初参加ということだが、若手らしくまっすぐに、しかものびのびと役にぶつかっているのが、なんとも爽快だった。そもそも井上ひさしの『ムサシ』という話を聞いた時に違和感があった。文学者評伝シリーズ、昭和庶民伝3部作、広島もの、そして東京裁判3部作と続いた井上ひさしのテーマとは異なると勝手に勘違いした。このため、今回初めて『ムサシ』を観た。しかし、21世紀の「テロとの戦争」の時代にふさわしい「殺すな」というメッセージが溢れんばかりの武蔵と小次郎の物語は、想像できなかった。原作を読んだ時に、一応理解したが、舞台で見て初めて本当に理解できた。長年の井上ひさしファンなのに、我ながらお粗末。いつもながら井上ひさしに脱帽。