橋爪大三郎『世界は宗教で動いている』(光文社新書)--世界の宗教一覧とか、世界の紛争地地図とか、この種の本は昔からよく出ている。地図やカラー写真つきの豪華本もよく見たように記憶している。本書が少し違うのは、社会学者が、ビジネスパーソンの基礎教養として語った記録ということだろうか。地図や写真はない。著者はこのところ『ふしぎなキリスト教』『なぜ戒名を自分でつけてもいいのか』『世界がわかる宗教社会学入門』などを出しているそうだ。著者の本は昔、何冊か読んだが、この20年ほど読んでいなかった。私とは関係ない本だからだ。成田空港の書店でまとめ買いしたときに、「まえがき」に<さまざまな宗教の「相互関係」を考えなければならない。・・・この点を掘り下げてみる>と書いてあったので、購入した。もっとも、「掘り下げている」とはとても思えない。「第一講義 ヨーロッパ文明とキリスト教」では、一神教としてのキリスト教の形成と思想を略説している。それはわかるが、キリスト教の現場はいわゆる中近東だ。後にローマが舞台となり、はるか後にヨーロッパでプロテスタントが登場する話も出て来るが、第一講義は「ヨーロッパ文明とキリスト教」というタイトルにふさわしい内容になっていない。なぜか一つだけ掲載されている図「ユダヤ教成立当時の周辺状況」も、エジプト、パレスチナ、メソポタミアの歴史だ。キリスト教がいかにしてヨーロッパを形成したのかにもっと焦点を当ててくれるとよいのだが。第三講義の「イスラム文明の世界」は、よくあるイスラム紹介の焼き直しだ。個人的に面白かったのは、中国の儒教の解説で、EUと中国を対比している部分だ。これも著者の独創とは言えないが。全体として、小さな新書で世界の大宗教をごく大雑把に概説するという意味では、なるほどという著書ではある。