マリオネット博物館はフリブールの底にある。フリブールの町は、蛇行するサリーヌ川が抉り取った断崖の上と下に発達した。旧市街は川へ向かって下りる斜面につくられ、一番下にサリーヌ川が流れている。凄い坂の町だ。坂の底に、ベルン橋とミリュー橋がある。ミリュー橋のたもとにある小さな建物がマリオネット博物館だ。町の中心にそびえる聖ニコラ大聖堂や、赤い塔、猫の塔などを見て、ベルン橋を渡り、広場を通り抜けると赤い屋根の博物館だ。フリブール生まれのジュネーヴ市民だったジャン・ビントシェドラーは、音楽家の父親の元、劇場に出入りし、ジュネーヴ大学卒業後、教師やジャーナリストをしながら、各地の劇場を訪れる中、マリオネットに興味を持ち、収集を始めた。スイス、フランス、ドイツはもとより、やがてインドやザイールなど、アジアやアフリカ各地を訪問して調査した。1978年にマリオネット博物館を開いたが、現在のようになったのは1985年のようだ。経営はビントシェドラー財団。収蔵・展示されているのは、スイス各地(ジュネーヴ、フリブール、ベルン、チューリヒなど)、フランス、ドイツ、イタリア、そしてインド、ブータン、ヴェトナム、タイ、インドネシア(ジャワ、バリ)、カンボジア、ビルマ、ザイール、チェコスロヴァキアなど各地のマリオネット。指人形、糸操り人形、影絵、仮面、劇場の箱、その他の小道具などが所狭しと展示されている。もちろん、マリオネット博物館の作品も多数ある。というのも、ここは博物館だけでなく、マリオネット劇場と喫茶店でもある。小さなホールで劇を上演し、各地に出張上演もしている。カタログの表紙には「蝶々夫人」の人形が使われているが、1984年にビントシェドラー自身が作成して上演した『蝶々夫人』の時のものだ。