武光誠『国境の日本史』(文春文庫)――歴史哲学・比較史的研究の著者による新書で、神話の時代から現在までを通して国境や辺境や領土意識がどのように変わってきたかを1冊にまとめている。序章で、日本政府が主張する「わが国固有の領土」という考え方を批判している。国際法になく、英語にも訳せない日本独自の奇怪な見解が世界に通用しないことは明らかだが、単に国際法から見ておかしいと言うだけでなく、国境とは何か、国境はどのように定められてきたかという基本に立って、「わが国固有の領土」というのはおかしいと、著者は指摘する。もっともだ。そのうえで、著者は縄文時代の日本とはどこまでか、古事記や日本書紀の日本とはどこかといった話から、現代の北方領土、竹島、尖閣諸島まで、国境や辺境にまつわるエピソードを次から次と繰り出す。南洋諸島や南極も無視せず、日本とのかかわりを明示する。博識だし、面白い本だ。ここから現在の領土問題を論じるのは無理だが、著者も、一定の方向性は示すものの、論争それ自体に立ち入るわけではない。ちょうどよいセーブぶりだ。