ジョン・トーピー『歴史的賠償と「記憶」の解剖』(法政大学出版局)――ホロコースト、日系人強制収容、奴隷制、アペルトヘイトをめぐる歴史的責任、歴史的賠償の世界的動向を取り上げた比較歴史社会学的分析の書である。著者はニューヨーク市立大学大学院教授。日本軍「慰安婦」問題にも随所で言及がある。日本では戦争責任、戦後責任、戦後補償、植民地責任と呼ばれてきたテーマを、記憶をめぐる抗争、人権回復を求める運動、そして歴史的賠償の問題としてとらえ返し、それを「賠償政治」と呼んでいる。中心的に取り上げているのは、日系アメリカ人、日系カナダ人の強制収容、アメリカの黒人奴隷の賠償要求運動、アパルトヘイト後のナミビアと南アフリカにおける賠償政治である。記念的賠償要求、象徴的賠償要求、反制度的賠償要求といったカテゴリーが、わかるようでわかりにくいところもあるが、日本軍「慰安婦」問題など、日本の歴史を見る場合にも使えるかどうか、一度検討してみてもいいかもしれない。移行期正義については国連人権機関でも議論が続いてきたが、本書でもそれを取り入れている。他方、アメリカにおける移行期正義には独自の研究史があるようだ。このあたり、私が無知なため、十分に理解できていない。もう少し勉強が必要だ。