Saturday, February 06, 2021

<被害者中心アプローチ>をめぐって(5)

これまで述べてきたように、<被害者中心アプローチ>は、国連人権理事会(旧・国連人権委員会)、国連人権高等弁務官事務所、及び女性差別撤廃委員会、人種差別撤廃委員会、拷問禁止委員会等の条約機関で議論されてきた。

この議論を継承した機関としてもう一つ重要なのが、国連人権理事会の「真実、正義、補償、再発防止保障の促進に関する特別報告者」である。2012年にパブロ・デ・グリーフ特別報告者が就任して以来、毎年、人権理事会に報告書を提出している。

正式名称が長いため、私は「真実・正義・補償に関する特別報告者」「真実和解特別報告者」等と略称してきたが、人によって略称は統一されていないようだ。また、同じテーマを「移行期の司法/正義」の枠組みでとらえる議論が目立つので、私も「移行期司法」と呼んできた。

この特別報告者の報告については、折々に紹介してきた。真実や被害者補償や和解に関する議論の最前線だからである。たぶん私が初めて紹介したのは、20139月の国連人権理事会の時のことだと思う。というのも、日本軍性奴隷制問題に関するセミナーにデ・グリーフ特別報告者がパネラーとして参加してくれたからである。以下にその時の私の紹介文を貼り付ける。

 

*前田朗「真実・正義・補償に関する特別報告書(一)」『統一評論』577号(2013年)より

 

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九月一一日、ジュネーヴの国連欧州本部で、NGOのアムネスティ・インターナショナル(AI)主催のサイドイベント「日本軍性奴隷制の生存者に正義を」が開催された。九月九日から、国連欧州本部で国連人権理事会第二四会期が開催されていたので、そのサイドイベントという意味である。イベントを準備したのはAIと韓国挺身隊問題対策協議会である。冒頭に挺対協が持参した被害者証言ビデオを上映し、続いて挺対協のユン・ミヒャンが基調報告をした。そして、韓国の被害生存者キム・ボクドンさんの証言の後に、台北婦女救援基金のファン・シューリン発言があった。そしてパブロ・デ・グリーフ国連人権理事会の特別報告者が発言した。さらにキャサリン・バラクラフ(AI東アジアキャンペーン担当)、及びジュンヨン・ジェニー・ヘオとクボタ・ハルホ(ともにカナダから来た若手活動家)が国際活動の紹介をした。最後に筆者が、日本政府が補償を怠り、正義が実現されていないことについて発言した。

パブロ・デ・グリーフ特別報告者は、二〇一二年から国連人権理事会の「真実、正義、補償、再発防止保障の促進に関する特別報告者」である。二〇〇一年からニューヨークで「移行期司法のための国際センター」研究局長であった。その前はニューヨーク州立大学哲学准教授で、倫理学と政治理論も教えていた。民主主義、民主主義理論、道徳・政治・法の関係に関する研究をし、著作を公表し、移行期司法のための国際センターで関連著書を出している。シンポジウムでの発言では、日本軍「慰安婦」問題について、クマラスワミ報告書やマクドゥーガル報告書などをもとに国際法上の結論が出ていることを指摘し、それに対して日本政府が正義を提供したかどうかが問題とし、謝罪、補償、教育(歴史教科書問題)などについて発言した。

筆者が言うべきことの多くを、グリーフ特別報告者が言ってくれたので、筆者は少し予定を変えて、九〇年前の九月に起きた関東大震災コリアン・ジェノサイドの話や、二〇〇〇年女性国際戦犯法廷のこと、麻生太郎副首相のナチス発言にも触れた。そして最後に、最近始めた八月一四日を国際メモリアルデーにしようという運動(本誌前号参照)の紹介をした。国際メモリアルデー運動の八月集会宣言文を会場で配布した。

九月一二日、国連人権理事会二四会期においてパブロ・デ・グリーフ「真実・正義・補償・再発防止保障の促進に関する特別報告者」の報告書プレゼンテーションがあり、そののちに議論が行われた。

アムネスティ・インターナショナル(フランチスカ・クリステン)は、日本軍「慰安婦」問題について、日本政府が道義的責任を認めつつ法的責任をとらず、真実・正義・補償が実現されていないとし、欧米諸国の議会における決議に触れたうえで、国際基準に従った解決が必要であるとし、日本はG8のメンバーなのでG8諸国も関心を持つべきであるとし、さらに一一日に国連欧州本部で開催したシンポジウムの内容を紹介した。

NGOのヒューマン・ライツ・ナウ(元百合子)は、日本軍性奴隷制には十分な証拠があり、法的責任、補償、情報公開、実行者処罰が必要だが、どれも実現していないとし、それどころか安倍や橋下が暴言を続けているうえ、安倍内閣は条約委員会からの勧告に従う必要はないと閣議決定までしたことを紹介し、人権理事国であるにもかかわらず性暴力の事実を否定したり、虐殺を正当化したりするようなことのないように、グリーフ特別報告者が日本を訪問して調査するように要請した。

 一六日、NGOの国際人権活動日本委員会(前田朗)は、要旨次のように発言した。「真実・正義・補償の促進に関する特別報告者」の報告書を歓迎する。日本における性奴隷制問題の最近の状況について紹介する。日本政府は一九九二年以来、道義的責任のもとにいくつかの措置を講じたが、法的責任を認めず、被害者が求める真実・正義・補償に応じていない。国連機関からの勧告を拒否し続けている。安倍内閣は、条約委員会の勧告には拘束力がないから従う必要はないと表明した。安倍首相は強制の証拠はないと主張している。侵略戦争の謝罪も取り消すと言い出している。私たちは新しい国際メモリアルデー運動を始めた。金学順さんがカムアウトした八月一四日を記念して、先月、東京その他世界各地で最初のメモリアルデー行事をもち、八月一四日を国連メモリアルデーにしようと宣言した。

スガ疫病神首相語録14 スガ劇場満員御礼

マツジュンと遠山の金さんの事件にかたがついたと思ったところに、

2月3日、巨額買収容疑で有罪判決の出た河合案里議員が、控訴を断念するとともに、議員辞職した。

2月4日、新型コロナ対策の目玉だったはずのCOCOAが、昨年9月以来、アンドロイド版で接触通知の機能をしていなかったことが判明した。4カ月以上もの間、放置されていた。

同日、菅首相の息子・菅正剛(東北新社)による高級官僚への違法接待問題が国会で追及された。

同日、森喜朗(東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長)が、前日の女性差別発言につき記者会見を開いて、謝罪・撤回した。

いや~~、まいったね。マスコミ連中の元気なこと。官房長官時代から目をかけてやって、十分てなづけたと思っていたのに、いざニュースとなると、どんなに鈍感で無能な政治部連中でも、にわかに元気づいて詰問調になってくる。腐ってもメザシの尻尾といったところか。

それにしても、新型コロナ緊急事態宣言延長という重大決断のさなかに、アンリは控訴断念、議員辞職と来たもんだ。予想していたとはいえ、カッツーの立場もあるからすぐに辞職はしないだろう、と思っていたのにね。こちらは、党から1億5000万円つぎ込んだとか、選挙応援に駆け付けたとかで、マスコミがうるさいし、野党は鬼の首を取ったような大騒ぎだ。鬼滅の「全集中」はこっちが先に拝借したのに、いまやエダマメに押されてばかりだ。党費の使途は党幹事長に聞いてもらいたいね。官房長官の仕事じゃないんだから。旦那から頼まれれば選挙応援に駆け付けるのは党員として当たり前だろ。元法務大臣だよ。法務大臣のくせになんて言う奴はどうかしてるよ。法務大臣だから、いくら買収しても安心安全と思ったんじゃないか。それがジミンの本音だよ。シンゾーが放り出すから、こんなことになったんだ。それに全部昔のことじゃないか。マスコミはとにかくニュース欲しさでなんでも絡めてくるから困りものだ。

COCOAにもまいったね。玄関番のコーイチローが「失礼な言い方かもしれないが、お粗末」だってさ。馬鹿じゃないか。失礼も何もないだろう。お粗末に決まっている。あんなお粗末な質問しかできないなんてどうしようもないね。オウンゴールの大ピンチなのに、わざわざ助けてくれるなんて尋常じゃないよ。こっちから「失礼じゃなくて、お粗末なことだった」と言ってやったら、玄関番のおバカさんは目を白黒させていた。小物は顔にすぐ出るんだよ。うっかり「COCOAとパンケーキは似合うんです」と笑いそうになって困ったくらいだ。

息子の正剛も困ったものだ。仕事ができなくてどうにもならないから議員秘書なら務まるかと思ったけど、やっぱりものにならなかった。トーホク・ピーチクパーチク新社に押し込んでみたら、しばらくまじめにやっていたようだが、「週刊誌には気をつけろ」と言っておいたのに。仕事や金が欲しければ、いつでも官房機密費を回してやる。官房機密費80億円使い放題の私に隠れて、官僚ごときに頭を下げて接待しているようでは、この私の息子としていかがなものか。やっぱり別人格だ。きつく叱っておかなくては。

シンキロー(森喜朗)の失言はいつものこととはいえ、記者会見もまずかった。開き直りと受け止められるような筋書きを描いたのは誰だ。揉めるのを見て楽しんでいるんじゃないか。組織委事務局を首にする必要があるな。世間には私のことを「疫病神」だなどと中傷する輩がいるようだが、私にとってシンキローこそ疫病神だよ。私はオリンピックなんてもともと関心がないんだ。シンゾーとユリコが勝手に盛り上がってシンキローを持ち上げただけだ。就任の際には「人類が新型コロナに打ち勝った証」なんて言っておいたけど、本当は関心ないね。アッソーさんは「オレはオリンピックに出場した首相だ」なんて自慢してるし、これは私の仕事じゃない。シンキローが辞任してくれればシンゾーを後釜に据えても良いが。ともあれ、女どもに「いくら騒いでも世の中そんなに変わらないぞ」と思い知らせてやることはできたかな。

なんにせよ、毎日こんな調子では、さすがの私も落ち着けない。そろそろエダマメのスキャンダルか、タマユーとの喧嘩で足の引っ張り合いをしてもらわないと。マスコミ連中に擬餌を撒いて飛びついてもらおう。このところ報道ステンショは私の言いなりだし、新聞は勝手に動き出すから、映画『新聞記者』を観てお勉強した情報操作術を試して、うるさい政治部連中を走らせてやろう。

Thursday, February 04, 2021

<被害者中心アプローチ>をめぐって(4)

前回は性暴力被害者についての<被害者中心アプローチ>の考え方を紹介した。今回は拷問被害者についての<被害者中心アプローチ>である。基本部分は同じであるが、異なる面もあるようだ。

 

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前田朗「恣意的な自由剥奪の被害者補償のために」『救援』619号(2020年)

 

補償の権利

 

 新型コロナ禍のため本年三月開催の国連人権理事会第四三会期は事実上中途閉会となったが、その後もオンラインを活用しつつ会期は続いている。九月開催の第四五会期に「恣意的自由剥奪に関する作業部会報告書」(A/HRC/45/16)が提出されたので簡潔に紹介する。

 二〇一九年、作業部会は四二カ国の一七一人の拘禁について八五件の意見を採択した。三一カ国に六一の緊急アピールを送った。今回の報告書では女性の自由剥奪、恣意的自由剥奪防止のための法的援助を受ける権利、拘禁の代替措置について検討しているが、末尾に「恣意的な自由剥奪についての補償に関する評議第一〇号」が添付されている。一九九一年と九四年に当時の国連人権委員会が作業部会に、恣意的な自由剥奪を防止するために一般的性格を有する事項についての評議を定式化する任務を指示した。人権委員会が人権理事会に改組されて引き継がれている。指示に基づいて作業部会がまとめてきた評議の第一〇号である。二〇一六年以来の審議の結果、二〇一九年一一月二二日に採択された。

 重大人権侵害被害者の補償を受ける権利は一九九〇年代に国連人権委員会で審議され、ファン・ボーベン・ガイドライン及びバシウニ・ガイドラインがまとめられ、二〇〇五年には議論が一段落した。その後、国連人権高等弁務官事務所を中心に「被害者中心アプローチ」が強調されてきた(前田朗「慰安婦問題の現状と課題――被害者中心アプローチとは何か」『法の科学』五一号、二〇二〇年)。

 評議第一〇号はその議論を継承しており、第一部「序文」、第二部「被害者が補償を受ける権利」、第三部「補償の諸形態」から成るが、人権条約やガイドラインのみならず、欧州人権裁判所や米州人権裁判所の決定を参照している点に特徴がある。

 被害者とは個人又は集団として恣意的な自由剥奪に当たる作為又は不作為によって害悪を被った人であり、害悪には心身の傷害、感情的苦痛、経済的損失、基本権の実質的侵害が含まれる。家族や当該者に依存している人も含まれる。

 恣意的拘禁の禁止は国際法における強行規範であり、世界人権宣言第九条、国際自由権規約第九条及び第一四条、アフリカ人権憲章第六条、米州人権条約第七条、欧州人権条約第五条によって絶対禁止されている。

 

補償の諸形態

 

 第一に賠償。国際人権法の下では原状回復である。個人の自由回復がもっとも直接的な形態である。釈放に加えて、自由剥奪理由の検証がなされるべきである。できる限り速やかな最終決定、及び記録の廃棄が必要である(ノリン等対チリ事件決定、ルアノ・トレス対エルサルバドル事件決定)。移住者を国外移送しようとする場合であっても、ノン・ルフールマン原則に違反するなど、ただちに移送できないならば釈放が求められる。

 第二にリハビリテーション。医療、心理学その他のケア、法的社会的サービスである。医学や心理学のケアは無料かつ迅速、適切、効果的に提供されるべきである(ヤルセ等対コロンビア事件決定)。明確で十分な情報が提供されるべきであり、常に被害者の同意に基づくべきである。

 第三に満足措置。被害者が受けた損害を修復するため、被害者の記念、オマージュ、称賛、公的謝罪、真実の公開、修復援助、遺体の確認・返還・埋葬、責任者処罰が含まれる。被害者が無実であり恣意的な自由剥奪であったことについての裁判所判決の国内新聞やウエブサイトや放送での公開も重要である。措置の計画に被害者自身が関与しなければならない(ノリン等対チリ事件決定、ガルシア等対ペルー事件決定、チャパロ・アルヴァレス対エクアドル事件決定等)。さらに、恣意的拘禁の被害者のための研究の許可、責任の公的認知(ヤルセ等対コロンビア事件決定)、記念碑設置(ルアノ・トレス対エルサルバドル事件決定)、制裁のための包括的捜査の実施も必要である。

 第四に補償。侵害の重大性や事件状況に応じて行われなければならない。被害者及び家族の収入の喪失の補償。国家が収容した動産の返還。保健衛生の欠損についての補償。拘禁された場所でのリハビリテーション。恣意的拘禁により被った罰金や法的費用の償還。被害者の弁護費用の支払い。補償は非物的損害や精神的損害(名声の喪失、烙印、家族関係の崩壊)も対象とするべきである(チャパロ・アルヴァレス対エクアドル事件決定、カブレラ・ガルシア対メキシコ事件決定、N対ルーマニア事件決定、バラノフスキー対ポーランド事件決定等)。

 第五に再発防止保障。国家には将来において同じ侵害が生じないようにする義務がある。国際義務に違反する法規定の改廃。恣意的自由剥奪防止のための法改正。すべての社会部門における国際人権法教育。法執行官への研修・訓練。社会紛争の防止・監視・解決のためのメカニズム促進。国際人権法の義務履行のための裁判官の義務の明確化。被拘禁者の登録措置。拘禁場所の衛生その他の条件改善。

 日本では断片的な議論に終始しているので、評議一〇号を参考に議論を活性化する必要がある。

Wednesday, February 03, 2021

「桜を見る会」を追及する法律家の会・検察審査会申立

「桜を見る会」を追及する法律家の会・検察審査会申立

 

2月2日、「桜を見る会」を追及する法律家の会の代表7名が、検察審査会申し立てを行った。東京地検が不起訴としたための検察審査会請求である。

申立書を下記に貼り付ける。

 

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審 査 申 立 書

 

2021年  月  日

 

検察審査会 御中

 

申立人 

資格 告発人(略


罪名

公職選挙法違反

政治資金規正法違反

 

不起訴処分年月日

2020(令和2)年12月24日

 被疑者安倍晋三 令和2年検第18325号

⑵ 被疑者配川博之 令和2年検第18326号

⑶ 被疑者阿立豊彦 令和2年検第18327号

⑷ 被疑者西山猛  令和2年検第32650号

 

不起訴処分をした検察官

東京地方検察庁 検察官検事 田 淵 大 輔

 

被疑者

⑴ 住所 山口県下関市

  氏名 安倍晋三

  職業 衆議院議員・晋和会代表者

生年月日 1954(昭和29)年11月12日

 住所 山口県下関市

 氏名 配川博之

 職業 安倍晋三後援会代表者・同前会計責任者

 

⑶ 住所 山口県下関市

 氏名 阿立豊彦

 職業 安倍晋三後援会会計責任者

 

⑷ 住所 東京都千代田区永田町2丁目2番1号 衆議院第一議員会館1212号室

晋和会事務所

 氏名 西山猛

 職業 晋和会会計責任者

 

申立の趣旨

 

申立人らは、申立人らが告発した後記第1ないし第5の被疑事実について、検察官が被疑者らについてなした不起訴処分は全部不服であるから、全ての被疑事実につき起訴を相当とする議決を求める。

 

告発の趣旨と検察官の処分

 

申立人らは、下記の趣旨で、2020(令和2)年5月21日及び同年12月21日、被疑者らを告発した。

 1 政治資金規正法違反(収支報告書不記載)・・・第1(後援会)・第2(晋和会)

被疑者安倍晋三、被疑者配川博之、被疑者阿立豊彦及び被疑者西山猛の後記第1の1ないし5及び第2の1ないし5の所為は、刑法60条、政治資金規正法第25条1項2号、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する

2 政治資金規正法違反(収支報告書不記載につき晋和会代表者の会計責任者に対する選任監督義務違反・・・第3(安倍晋三)

被疑者安倍晋三の後記第3の所為は、政治資金規正法第25条2項、同条1項、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。

3 政治資金規正法違反(収支報告書不記載につき晋和会代表者の重過失責任)

・・・第4(安倍晋三)

被疑者安倍晋三の後記第4の所為は、政治資金規正法第27条2項、同法25条1項、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。

4 公職選挙補違反(寄附禁止違反)・・・第5(安倍晋三後援会)

被疑者安倍晋三及び被疑者配川博之の後記第5の1ないし5の所為は、刑法60条、公職選挙法249条の5第1項及び同法199条の5第1項に該当する。

 

 しかるに、東京地方検察庁検察官検事田淵大輔は、被疑者らを以下のとおり処分した。

⑴ 被疑者安倍晋三 不起訴

⑵ 被疑者配川博之 告発事実第1の2~5につき略式命令、その余につき不起訴

⑶ 被疑者阿立豊彦 不起訴

⑷ 被疑者西山猛 不起訴

不起訴処分理由告知書によれば、不起訴処分の理由はいずれも嫌疑不十分である。

 

 

告発事実・被疑事実

 

以下は、申立人らの2020(令和2)年12月の告発にかかる告発事実を基本としているが、このたび、2018(平成30)年から2020(令和2)年に提出された3年分の安倍晋三後援会の収支報告書が訂正されたことから、この3か年に関しては、金額等は、訂正後の収支報告書に基づいて記載する(訂正後の趣旨報告書で確認された箇所には下線を付する)。

 

第1 政治資金規正法違反【収支報告書不記載】(安倍晋三後援会)

被疑者安倍晋三(以下、「被疑者安倍」という)は、2014(平成26)年12月14日施行の第47回衆議院議員選挙及び2017(平成29)年10月22日施行の第48回衆議院議員選挙に際して、いずれも山口県第4区から立候補し当選した衆議院議員であり、被疑者配川博之(以下、「被疑者配川」という)は、安倍晋三後援会(以下、「後援会」という)の代表者を務めると共に少なくとも2016(平成28)年5月27日までは後援会の会計責任者を務めていたものであり、被疑者阿立豊彦(以下、「被疑者阿立」という)は、遅くとも2017(平成29)年5月29日頃から現在まで後援会の会計責任者を務めている者であるが、政治資金規正法第12条1項により、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、

 

1 2016(平成28)年提出(2015年分)

被疑者安倍及び被疑者配川は、共謀の上、2016(平成28)年5月下旬頃、山口県下関市東大和町1丁目8番16号所在の安倍晋三後援会事務所において、真実は、2015(平成27)年4月17日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」(以下、「前夜祭」又は「本件宴会」などという)の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約540名を乗じた推計約279万円及び被疑者安倍の資金管理団体晋和会から157万円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、上記前夜祭の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも推計約427万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2015(平成27)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2016(平成28)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

2 2017(平成29)年提出(2016年分)

被疑者安倍、被疑者配川及び被疑者阿立は、共謀の上、2017(平成29)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2016(平成28)年4月8日、ANAインターコンチネンタルホテル東京において開催された宴会である「桜を見る会 安倍晋三後援会懇親会」(以下、「本件宴会」などという)の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約458名を乗じた推計約229万円及び晋和会から約177万円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ANAインターコンチネンタルホテル東京に対し、少なくとも推計約407万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2016(平成28)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2017(平成29)年5月29日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

3 2018(平成30)年提出(2017年分)

被疑者安倍、被疑者配川及び被疑者阿立は、共謀の上、2018(平成30)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2017(平成29)年4月14日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約482名を乗じた241万円及び晋和会から190万1056円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも431万1056円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2017(平成29)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2018(平成30)年5月24日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

4 2019(令和1)年提出(2018年分)

被疑者安倍、被疑者配川及び被疑者阿立は、共謀の上、2019(令和1)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数607名を乗じた303万5000円及び晋和会から150万6365円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも454万1365円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2018(平成30)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2019(令和1)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

5 2020(令和2)年提出(2019年分)

被疑者安倍、被疑者配川及び被疑者阿立は、共謀の上、2020(令和2)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2019(平成31)年4月12日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数767名を乗じた383万5000円及び晋和会から260万4908円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも643万9908円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2019(令和1)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2020(令和2)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

第2 政治資金規正法違反【収支報告書不記載】(晋和会)

被疑者安倍は、晋和会の代表者であり、被疑者西山猛(以下、「被疑者西山」という)は晋和会の会計責任者を務めている者であるが、政治資金規正法第12条1項により、東京都選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、

 

1 2016(平成28)年提出(2015年分)

被疑者安倍及び被疑者西山は、共謀の上、2016(平成28)年5月下旬頃、東京都千代田区永田町2丁目2番1号 衆議院第一議員会館1212号室所在の晋和会事務所において、真実は、2015(平成27)年4月17日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約157万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2015(平成27)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2016(平成28)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

2 2017(平成29)年提出(2016年分)

被疑者安倍及び被疑者西山は、共謀の上、2017(平成29)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2016(平成28)年4月8日、ANAインターコンチネンタルホテル東京において開催された宴会である「桜を見る会 安倍晋三後援会懇親会」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約177万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2016(平成28)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2017(平成29)年5月26日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

3 2018(平成30)年提出(2017年分)

被疑者安倍及び被疑者西山は、共謀の上、2018(平成30)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2017(平成29)年4月14日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金190万1056円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2017(平成29)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2018(平成30)年5月16日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

4 2019(令和1)年提出(2018年分)

被疑者安倍及び被疑者西山は、共謀の上、2019(令和1)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金150万6365円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2018(平成30)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2019(令和1)年5月24日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

5 2020(令和2)年提出(2019年分)

被疑者安倍及び被疑者西山は、共謀の上、2020(令和2)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2019(平成31)年4月12日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金260万4908円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2019(令和1)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2020(令和2)年5月18日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

第3 政治資金規正法違反【収支報告書不記載につき晋和会代表者の会計責任者に対する選任監督義務違反(安倍晋三)

被疑者安倍は、晋和会の代表者であるが、政治資金規正法第12条1項により山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、上記第2の3ないし5の所為について仮に故意がなかったとしても、晋和会の会計責任者である被疑者西山の選任及び監督につき相当の注意を怠り、

 

第4 政治資金規正法違反【収支報告書不記載につき晋和会代表者の重過失責任】(安倍晋三)

被疑者安倍は、晋和会の代表者であるが、政治資金規正法第12条1項により山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、仮に故意がなかったとしても、重大な過失により、上記第2の1ないし5の所為を犯し、

 

第5 公職選挙補違反【寄附禁止違反】(安倍晋三後援会)

被疑者安倍及び被疑者配川は、共謀の上、法定の除外事由がないのに、

 

1 2018(平成30)年の前夜祭

2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」において、宴会費用が454万1365円であったところ、参加者608名から1人5000円ずつ徴した参加費合計303万5000円と宴会費用との差額150万6365円を後援会から補填し、合計431万1056円をホテルに支払い、もって被疑者安倍の選挙区内にある後援会員らに対し、454万1365円相当の酒食を無償で提供して寄附をし、

 

2 2019(平成31)年の前夜祭

2019(平成31)年4月12日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」において、宴会費用が643万9908円であったところ、参加者767名から1人5000円ずつ徴した参加費合計383万5000円と宴会費用との差額260万4908円を後援会から補填し、合計643万9908円をホテルに支払い、もって被疑者安倍の選挙区内にある後援会員らに対し、643万9908円相当の酒食を無償で提供して寄附をし、

たものである。

 

 

不起訴処分を不当とする理由

 

はじめに―告発の正当性と意義

 1 本申立の経緯

   2020(令和2)年5月21日、521名の法律家が、上記被疑事実のうち第1の4及び第5の2、すなわち2018(平成30)年4月に行われた「桜を見る会前夜祭」につき、安倍晋三後援会が収支報告書に収支を記載しなかった事実(政治資金規正法違反)及び後援会員に対し違法な寄附をした事実(公職選挙法違反)につき告発をし、告発した法律家は最終的に977名に達した(第一次告発)。また2020(令和2)年12月21日、上記被疑事実の全てについて、10名ほどの法律家が告発をした(第二次告発)。

   本申立は、第一次及び第二次告発の双方の告発人になった法律家が申し立てるものである。第二次告発は、報道によって、検察が被疑者配川のみを、しかも政治資金規正法違反のみで略式請求して捜査の幕引きを図ろうとしていることが明確になったことから、それだけでは済まされないことを示す目的で急遽行ったものであるため、告発人の人数は少ないが、第二次告発及び本申立の背後には、第一次告発を行った法律家の強い賛同と支援があることを、ここに記しておきたい。

 

 2 告発の正当性

   東京地検特捜部は、捜査の結果、2020(令和2)年12月24日、被疑者配川に対し、上記被疑事実のうち第1の2・3・4・5の罪についてのみ略式起訴し、同人は罰金100万円の刑で処断された。私たちは、それ以外の被疑者及び被疑事実が不起訴処分とされたことについては不服であるが、特捜部の捜査について、

①前夜祭について参加者が支払った1人5000円の会費は後援会の「収入」であり、ホテルへの支払も後援会の「支出」であり、これらを後援会の収支報告書に記載しなかったことは犯罪であると認めたこと、

②前夜祭の費用について、毎年後援会が補填していた事実を突き止め、補填分のホテルへの支払も後援会の「支出」と認め、その原資も後援会の「収入」とし、これらを後援会の収支報告書に記載しなかったことを犯罪であると認めたこと、

については高く評価している。

被疑者安倍は、以上の①②について、2019(令和1)年11月から2020(令和2)年3月まで、国会において、「安倍事務所の職員が会場入り口で会費を受け取り、その場でホテル側に現金を渡したから、ホテルとの契約主体は個々の参加者であり、後援会に収入支出は一切ない」、「補填はしていない」といった趣旨の答弁を再三重ね、特捜部の調査によりこれが虚偽答弁であったことが明らかになったが(衆議院調査局の調査で118回の虚偽答弁があったことが明らかにされている)、特捜部は、被疑者安倍の公設第一秘書である被疑者配川を訴追し、前首相の秘書といえども、嘘を重ねて逃げ切ることを許さなかったのである。

これは、告発人らが、「ホテルと契約した契約主体は後援会であり、前夜祭にかかる収支は後援会の収支である」、「1人5000円の参加費ではパーティは賄えないはずであり、補填があった可能性が高い」と主張していたことの正当性を特捜部も認めたことに他ならない。

 

 3 さらなる真相解明と厳正な処罰を求めて

1000名近い法律家の告発がなければ、特捜部が捜査をすることはなく、真実が国民の前に明らかになることはなかった。この意味で、私たちは、告発の意義に確信を持つものである。

しかしながら、東京地検特捜部の捜査と処分はきわめて不十分であり、秘書1人だけを政治資金規正法違反で略式起訴し、前首相であった被疑者安倍の刑事責任や、被疑者安倍が代表を務める政治資金団体晋和会の違法行為は不問にして、捜査の幕を引いた。このような形で、特捜部と被疑者安倍は「手打ち」をしたのである。そのために、健全な民主政治のため国民に明らかにされるべき重要な真実の多くが、いまだに隠されたままになっている。

従って、私たちは、さらなる真相解明と厳正な処罰を求め、市民の方々によって構成される検察審査会の健全な審査に期待して、本申立をするものである。

 

第1 公職選挙法違反の寄附を不起訴処分としたことの不当性

 1 本件の本質は違法な寄附である

   本件の本質は、安倍前首相が公的行事である「桜を見る会」に自らの後援会員800名以上を招待してもてなすという、いわば「税金による寄附行為」と一体となる形で、後援会がその「前夜祭」を開催し、参加者の支払った5000円の参加費を上回る酒食の提供をして後援会員をもてなすことにより、公職選挙法で禁止されている後援会による寄附行為を行ったことにある。

収支報告書にその収支を記載しなかったのは、安倍事務所の関係者に違法な寄附をしたことの自覚があり、それを隠蔽する目的があったからこそであって、それ以外の理由は考えられない。

それにもかかわらず、収支報告書の不記載だけを処罰し、公職選挙法違反の寄附についていずれの被疑者についても不起訴処分としたことは、極めて不当であり、到底看過することができない。

 

 2 寄附を隠蔽するための収支不記載

後援会は、被疑者安倍が首相になって初めての2013(平成25)年の前夜祭における補填分「829,394円」については、被疑者安倍の政治資金団体である晋和会がホテルに支払った金額を晋和会の「支出」として、領収証を添付し、2014(平成26)年5月に提出した晋和会の収支報告書に記載していた。

しかし同年、小渕優子議員の後援会による寄附事件が発覚し、同議員が閣僚を辞任する事態となったところ、その翌年の2015(平成27)年5月提出の収支報告書以降、安倍事務所は、補填分の支出をどこにも記載しない扱いにしたのである。こうした経緯からも、寄附を隠蔽する意図は明白であるといえる。

被疑者安倍が、国会で「補填はない」との答弁を必死で繰り返していたのも、寄附の違法性、犯罪性を熟知していたからに他ならない。

 

 3 高額の寄附

公職選挙法の寄附禁止は、公職の候補者による脱法的な買収行為を許さないという立法趣旨がある。「金で票を買う」ことを許さない趣旨である。そのため、公職選挙法はたとえ1万円の香典であっても処罰の対象としているのであり、違法な寄附についての政治的責任は極めて重いのである。

しかるに、このたび後援会が訂正した収支報告書によれば、安倍後援会の補填額は、2019(平成31)年4月の前夜祭では260万4908円、2018(平成30)年4月の前夜祭では150万6365円、2年分の合計額は411万1273円と、極めて多額である。公訴時効が3年であるため上記では2年分を挙げたが、添付別紙のとおり、5年間では916万円ほどになる。最初の2013(平成25)年まで遡れば1000万円を優に超える寄附を行っていたのである。

これほど高額な寄附について、後援会自身が補填の事実を認め、1円単位で補填金額を明確にしているにもかかわらず、「嫌疑不十分」とはどういうことであろうか。

東京地検特捜部は、政治家にとって致命的な「寄附」を不問にすることによって、安倍前首相との間で手打ちをしたと言わざるを得ず、寄附についての被疑者安倍及び被疑者配川に対する不起訴処分は著しく不当である。

 

 4 「最低でも1万1000円」―明細書で解明を

   本申立の「告発事実・被疑事実」第5では、このたびの捜査によって解明されたとされる補填額を「寄附」の金額として記載したが、第一次及び第二次告発状に詳細に記載したとおり、ホテルニューオータニ東京におけるパーティ費用が「最低でも1人1万1000円」であることは、ホテル関係者の証言や国会議員の調査によって明らかになっており、訂正された収支報告書におけるホテルへの支出額では、1人1万1000円には到底達しない。

例えば2019(平成31)年における費用総額を参加者数で割ると1人あたり8400円ほどになるが、その水準の酒食しか出されなかったのか、それとも通常であれば1万1000円以上の酒食が供されたのかは、「寄附」の規模を判断する上で、重要である。

   これは、ホテルが作成した明細書を調べれば判断できる。ところが被疑者安倍は、2020(令和2)年12月25日の議員運営委員会の答弁においても、ホテルから明細書を取り寄せて公開することを拒んでいる。検察審査会では、ホテル作成の明細書を調査して、審理をしていただきたい。

 

第2 晋和会の収支報告書不記載を不起訴処分としたことの不当性

 1 晋和会は後援会への「支出」とその原資の「収入」を収支報告書に記載する義務がある

   晋和会は、被疑者安倍の政治資金管理団体であり、東京の議員会館内の被疑者安倍の議員事務所に所在し、代表者は被疑者安倍、会計責任者は被疑者西山である。

   晋和会は、「前夜祭」の代金のうち、参加者から徴収した参加費を超える補填分をホテル側に支払い続けてきた可能性が極めて高い。

少なくとも2013(平成25)年の前夜祭における補填分「829,394円」は、晋和会が同年の前夜祭会場となったANAインターコンチネンタルホテルに支払って同ホテルから領収書の交付を受け、晋和会の収支報告書に上記と同じ金額を同ホテルの運営会社㈱パノラマ・ホテルズ・ワンを支払先とする「支出」として記載していたことが明らかになっている。従って、その後の補填も晋和会がホテルに支払う形で行われた可能性が高いのである。

また、「関係者」の話として、ホテル側が「毎年」発行した領収証の宛先は晋和会であり、晋和会は受領後、領収証を廃棄した疑いがあるとの報道もある。「関係者」とは特捜部以外に考えられない。

さらに被疑者安倍も、2020(令和2)年12月24日の記者会見において、ホテルとの交渉や支払を行っていたのは「東京の事務所」であったと再三述べている。「東京の事務所」とは晋和会であり、晋和会が支払をしていたことは明らかである。

そうであれば、晋和会は、ホテルに支払った補填分を、ホテルに対する支払債務を負う後援会に「支出」したのであり、そのことを収支報告書に記載する義務がある。また晋和会は、その補填分の原資を「収入」として記載する義務がある。被疑者安倍は、上記記者会見において、「私のいわば預金からおろしたもの」が、晋和会の支払資金であると述べている。仮にそのとおりなのであれば、被疑者安倍個人からの「収入」として記載すべきであった。

しかるに、晋和会の会計責任者である被疑者西山及び代表者被疑者安倍は、その義務に違反したのである。

 

 2 後援会収支報告書訂正の驚くべき辻褄合わせ

   このたび、後援会は、3年分の収支報告書を訂正し、前夜祭参加者から徴収した参加費及び補填分を、それぞれホテルへの「支出」として加筆した。また、参加費については新たに「収入」として加筆した。それでは、補填分に相当する「収入」はどのように記載したか。

   驚くべきことに、補填額相当分は、全て「前年からの繰越金」を増額させる形で「収入」として処理しているのである。

   収支報告書の訂正は、保管期限が経過していない過去3年分についてのみ、なされた。訂正された「収入」の増加額を詳しく見ると、以下のとおりである。

 

  2017(平成29)年分

   1 収入総額増加額

    ⑴前年からの繰越金増加額   6,012,329円

         ①補填額相当額   1,901,056円(A)

         ②翌年への繰越額  4,111,273円(B)

    ⑵本年の収入額増加額(参加費)2,410,000円(C)

   2 支出総額増加額       4,311,056円(A+C)

  2018(平成30)年分

   1 収入総額増加額

    ⑴前年からの繰越金増加額   4,111,273円

         ①補填額相当額   1,506,365円(A)

         ②翌年への繰越額  2,604,908円(B)

    ⑵本年の収入額増加額(参加費)3,035,000円(C)

   2 支出総額増加額       4,541,365円(A+C)

  2019(平成31・令和1)年分

   1 収入総額増加額

    ⑴前年からの繰越金増加額   2,604,908円

         ①補填額相当額   2,604,908円(A)

         ②翌年への繰越額        増加0円(B)

    ⑵本年の収入額増加額(参加費)3,835,000円(C)

   2 支出総額増加額       6,439,908円(A+C)

 

   要するに、毎年のホテルへの支払額から参加費の合計額を差し引いた補填額を全て、ありもしなかった「前年からの繰越金」で処理し、「3年分遡って帳尻を合わせればよい」とばかりに、補填額3年分を2017(平成29)年分に積み、3年をかけてそれを順次、使い切るという「訂正」で処理しているのである。

   何という辻褄合わせ、帳尻合わせであろうか。そもそも存在しなかった「繰越金」を計上し、「3年分の辻褄が合えばよい」とばかりに形だけを整えて、補填分(つまり寄附に使った金)の原資を隠蔽しているという他ない。被疑者安倍が、補填分は「東京の事務所」から「私のいわば預金」から支払ったと述べていることとの整合性も全くない。

   政治資金規正法の趣旨は、政治団体の収入・支出を透明化することにより、政治家が「金で票を買う」、「金で政治を動かす」ことをなくし、健全な民主政治を確保するところにある。

   しかるに、後援会は、このような単なる辻褄合わせの収支報告書の訂正でお茶を濁し、補填分の原資がどこから賄われたのかを、国民の目からひた隠しにした。これは収支報告書の虚偽記載罪に該当する。

   そして、検察が、後援会の収支報告書の訂正がこのような辻褄合わせで処理されたことに異議も述べず、後援会の代表者である被疑者配川の略式請求だけで捜査の幕を引いたのは、被疑者安倍が代表をつとめる晋和会の収支報告書の不記載の刑事責任を追及しないという、被疑者安倍側との「手打ち」に他ならない。

   このような不起訴処分を許してはならない。

 

第3 被疑者安倍に対する厳正な処罰を

1 少なくとも2019(令和1)年分の後援会の収支報告書不記載には「故意」がある

 被疑者安倍は、被疑者配川が罰金100万円の処罰を受けた後になっても、記者会見においても国会においても、「自分は知らなかった」、「秘書が自分に隠していた」として、秘書に責任を押し付け、自らに故意はなかったと主張している。

  しかしながら、そもそも「安倍事務所」の実質的代表者である被告発人安倍が、自らの後援会や、政治資金管理団体の金の流れや収支報告書の内容について、「知らない」ことはあり得ない。

少なくとも、「桜を見る会」や「前夜祭」が国会で厳しく追及された2019(令和1)年11月以降、被告発人安倍が、真実はどうなのかと真剣に確認しないはずがない。被告発人安倍は、その上で、意図的に虚偽答弁を重ねて追及から逃げ切ろうとしてきたのであり、極めて悪質である。

  確実に言えることは、2019(令和1)年分の収支報告書を作成提出した時期は、2020(令和2)年5月、つまり上記の国会での厳しい追及の後だったということである。新たに2019(令和1)年分の収支報告書を作成するにあたり、被疑者安倍は、収支の不記載が犯罪となることを明確に認識しており、2019(平成31)年4月の前夜祭に関するホテルの請求額、参加者から徴収した会費額、安倍側が不足額をホテルに支払って補填をした事実、補填額等を確認することは容易にできたのであり、国会であれだけの追及を受けた後、政治家としてそれを確認しないはずがない。被疑者安倍は、それにもかかわらず、あえて収支を記載せず犯罪を隠蔽することについて、被疑者配川や被疑者阿立と共謀したのであって、このことは、被疑者安倍に明確な犯罪の「故意」があったことに他ならない。

  そこには、「国会であれだけ嘘を言い切った以上、今さら真実の収支を記載することなどできるわけがない」、「首相である自分が捜査を受けたり立件されることなどあり得ないだろう」といった傲慢さが伺え、悪質極まりない。

  従って、少なくとも2020(令和2)年5月27日に提出した後援会及び晋和会の2019(令和1)年分の収支報告書不記載については、被疑者安倍に故意があったことは明白である。

 

 2 晋和会の代表者としての刑事責任

  また、被疑者安倍は、記者会見において、ホテルとの交渉や支払を担当したのは「東京の事務所」であったと述べている、「東京の事務所」とは晋和会であり、被疑者安倍は、晋和会の代表者である。

  前述のとおり、被疑者安倍は、後援会が支払うべき補填分を、晋和会が、「私のいわば預金」からホテルに支払ったことを認めている。後援会の収支報告書は後援会がホテルに「支出」したと訂正されたのであるから、晋和会は後援会に「支出」したのであり、これを晋和会の収支報告書に記載しなかったこと、その原資を「収入」として記載しなかったことは犯罪である。この点についても、被疑者安倍は晋和会の会計責任者被疑者西山と共謀して、収支報告書不記載という犯罪を犯したという他ない。

  さらに、万一被疑者安倍に上記について「故意」がなかったとしても、被疑者安倍には、晋和会の代表者として、会計責任者である被疑者西山の選任及び監督について相当の注意を怠った罪(政治資金規正法第25条2項)や、重大な過失による収支報告書不記載の罪(政治資金規正法第27条2項)が成立する。

  前首相であるから寛大に扱うのではなく、行政の最高責任者であったからこそ、民主制の基礎をなす政治資金を不透明にした罪は、厳しく問われるべきである。

 

3 寄附罪について被疑者安倍を処罰すべきである

  前述のとおり、本件の本質は違法な寄附である。

被疑者安倍、安倍晋三後援会及び晋和会が「前夜祭」の宴会費用の補填をひた隠しにした目的は、自らの選挙区内の有権者に対する違法な寄附を隠蔽するためであったことは疑いない。

  そして、被疑者安倍が、2014(平成26)年分の収支報告書から毎年続けてきた補填について「秘書が勝手にやった」、「自分は知らなかった」などということはあり得ず、通用するものではない。

公職選挙法違反は、政治家にとって恥ずべき致命的な犯罪であり、秘書だけに罪を押し付けるのではなく、寄附によって利益を享受する政治家本人が厳正に処罰されるべきである。

 

4 公民権停止

  政治資金規正法や公職選挙法は、収支報告書不記載や寄附の罪により罰金刑に処せられた場合であっても、その刑が確定した時から5年間、「選挙権及び被選挙権を有しない」と定めている(政治資金規正法28条1項、公職選挙法252条1項)。

  現職の国会議員、まして内閣総理大臣にとっては極めて厳しい制裁であるが、法はこれらの犯罪を、こうした厳しい制裁に値するものと位置付けているのである。

  被疑者安倍は、現職の内閣総理大臣であった時期に、7年連続で公民権停止に値する犯罪を犯し、それを隠蔽し続け、国会でも虚偽答弁を重ねたのであって極めて悪質であり、まさに公民権停止とされるべきである。

 

 

第4 最後に

  「桜を見る会前夜祭」については、国会で厳しく追及され、大きく報道もされ、市民の関心は高い。

2020(令和2)年12月26日~27日に行われた読売新聞の世論調査では、「安倍前首相の後援会が主催した『桜を見る会』の前夜祭を巡る事件で、安倍氏は、事実に反する国会答弁があったことを謝罪し、事件は『私が知らない中で行われていた』と説明しました。安倍氏の説明に、納得できますか、納得できませんか」との質問に対し、「納得できない」とする回答が76%に上った。

   これほど注目されている事件であるにもかかわらず、検察は本件について強制捜査を行わず、ホテルの領収証や明細書すら市民に明らかにしないまま、秘書1人処罰して捜査の幕を引いた。

   これでは、公職選挙法や政治資金規正法の立法目的が全く果たされない。首相の犯罪だからこそ、公開の公判廷において政治資金をめぐる真実が明らかにされ、厳正な処罰がなされるべきである。

   市民で構成される検察審査会が、健全な市民感覚を大いに発揮して、被疑者ら、とりわけ国会で虚偽答弁を重ねた挙句、秘書1人に責任を押し付けた被疑者安倍について、起訴相当の議決をされることを心から期待するものである。

 

   なお、申立人らは、被疑者配川についての確定刑事記録を閲覧・謄写の上、本申立にかかる審査のため有用な資料を追加して提出する予定である。

 

 

添付別紙:

「桜を見る会前夜祭・収支不記載の報告書・会費徴収額と補填額」(1枚)

以上


Monday, February 01, 2021

<被害者中心アプローチ>をめぐって(3)

それでは<被害者中心アプローチ>の考え方はどのようなものか。

 

20191130日、関西学院大学で開催された民主主義科学者協会法律部会の2019年度学術総会ミニ・シンポジウム「戦後補償問題は『解決済み』か? 日韓問題を中心に」において、私は「従軍慰安婦問題は最終解決したのか」と題して報告した。解決されるべき「慰安婦」問題とは、被害者中心アプローチとは何か、戦時性暴力を裁く(国際刑事裁判所の判決分析)、の3点を中心に論じた。

 

そのうち特に②被害者中心アプローチとは何か、を柱にして、学会誌に次の論文を公表した。

前田朗「「慰安婦」問題の現状と課題――<被害者中心アプローチ>とは何か」『法の科学』51号(2020年)

『法の科学』51

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8363.html

 

私の論文は次のような柱建てである。

1 はじめに

2 <被害者中心アプローチ>とは何か

2-1 形成過程

2-2 具体的内容

3 「慰安婦」問題解決のために

4 おわりに

 

このうち「2-1 形成過程」では、1965年の人種差別撤廃条約第6条、1966年の国際自由権規約(市民的政治的権利に関する国際規約)第23項、1984年の拷問等禁止条約第13条を引用し、

人種差別撤廃委員だったイオン・ディアコヌ及びパトリク・ソンベリの著書に言及し、

重大人権侵害の被害者の補償を受ける権利についてテオ・ファン・ボーベン及びシェリフ・バシウニのガイドラインを指摘し、

1998年の国際刑事裁判所規程によって設立された国際刑事裁判所の被害者救済ガイドラインに言及し、

2001年の人種主義・人種差別に反対するダーバン会議の成果文書であるダーバン宣言に言及した。

ダーバン宣言の翻訳は下記

https://www.hurights.or.jp/wcar/J/govdecpoa.htm

 

「2-2 具体的内容」を以下に貼り付ける。

 

***********************************

 

2-2 具体的内容

 

 <被害者中心アプローチ>といっても、単一の明確な定義がなされたわけではなく、論者によって多様な理解で用いられていると言えよう。以下では、国連人権高等弁務官事務所が2019年に作成した最新文書であるワークショップ報告書『性暴力被害者の保護――学んだ教訓』を紹介しよう(8)。201832728日に国連人権高等弁務官事務所・女性の人権ジェンダー局が主催したワークショップの成果文書である。

文書は次の7部構成である。被害者中心アプローチ、被害者の特定、脅迫、障害、身体的悪の危険への対応、精神的社会支援、スティグマとの闘い、保護計画の財政確保、結論。

被害者中心アプローチでは、8つの要素が掲げられている。

1に、被害者は単一の均質な集団や人々のカテゴリーではない。どの被害者も独自の個人と見なければならない。被害者はそれぞれの異なるアイデンティティに基づいて自分を定義する。

2に、本人の個人的必要を評価し、権利や利益を促進するために、被害者に耳を傾ける必要がある。性暴力被害者と協働する専門家は、被害者にとって何がベストか予断を持つことを避け、被害者個人の選択を尊重する。

3に、ジェンダーに敏感なアプローチを含む。女性、男性、少女と少年、LGBTIの人々が経験する害悪の危険を適切に評価し対処して保護するための介入を必要とする。性暴力に関する法と政策、被害者のための保護制度は包括的、非差別的、統合的である。被害者の性別、年齢その他の特性に応じて保護の形態を確保する。

4に、被害者に個人の選択ができることを知らせることが保護の鍵である。被害者の関心が、責任追及過程で提示された優先順位と衝突することがある。証言することに安全を感じられなければ裁判は遅延する。被害者の必要、権利、選択を尊重することは長期的に見れば被害者にとってだけでなく、司法制度や社会全体にとって有益となる。責任追及過程の中心に被害者を位置づける重要性が国連システムの中で強化されなければならない。加害者を逮捕、訴追、有罪とする多くの国の責任追及過程は、被害者の観点に照らして有益とは限らないことがある。被害者中心アプローチに適うように修正されるべきである。

5に、被害者が容易にアクセスできて理解できる措置の必要がある。情報と保護メカニズムは明快で利用しやすいものである必要がある。医療、心理学、法的な援助が統合的に用意されている必要がある。

6に、アドホックな状態で実施されてはならない。適切な支援を体系的に用意する完全な戦略と法・政策枠組みが必要である。被害者・証人保護は国家レベルの法律で定義・保障されるべきである。被害者の最善の利益を保護するには、被害者が属する共同体でパートナーとなる人々と協働することである。

7に、保護するための全体的アプローチを促進するべきである。被害者の必要に対応するサービスを実施するため財政を確保する必要がある。身体的、心理的、法的援助や、被害者の社会経済的必要に応じて、多様な行為者が協働する。被害者の医療的必要に効果的に対応することは優先的である。

8に、実現できない期待を高めることを回避する。裁判所等のシステムは通常は被害者中心アプローチになっていない。法律家、検察官及びソーシャルワーカー被害者といかに協働するかの意識を高めることが必要である。