アゼルバイジャンが人種差別撤廃委員会CERD第107会期に提出した報告書(CERD/C/AZE/10-12.10
October 2019)
*
前回報告書について『原論』四〇六頁。
前々回報告書について『序説』五八七頁。
*
憲法第二五条三項は、人種、民族、宗教、言語、性別、出身、財産又は公的地位、深淵、政党党員・労働組合員・その他任意団体のメンバーであることにかかわらず、すべての者の権利と自由について平等を保障する。憲法第四七条三項は、人種、民族社会的敵意又は憎悪を煽動するアジテーションやプロパガンダのみならず、その他の属性に基づく敵意又は憎悪を煽動するアジテーションやプロパガンダを禁止する。憲法は、人種、皮膚の色、世系、国民的民族的出身に基づく区別、排除、制限又は優先を禁止する。
刑法第六条一項は、犯罪を行った者について人種・民族等による差別を禁止する。
刑法第六一条は、人種民族、宗教的憎悪やファナティシズムに基づいて行われた犯罪の刑罰を加重する。
刑法第一〇三条はジェノサイド犯罪、第一一一条はアパルトヘイト犯罪を定める。刑法第一二〇条は故意殺人の規定であるが、人種、民族、宗教的憎悪の動機で行われた場合刑罰を加重する(一四年以上二〇年以下の刑事施設収容、又は終身刑)。
刑法第一五四条は、平等権侵害の差別犯罪である。第一六七条は宗教儀式の実行の違法な妨害犯罪である。
刑法第二八三条三項は人種、民族、社会、宗教的憎悪の煽動の規定である。
行政刑法第七条は、法の下の平等原則を定め、平等権侵害の行政犯罪を規定する。
政党法、労働組合法、NGO法は、憲法秩序を暴力的に破壊する目的の団体や活動を禁止し、戦争宣伝及び、人種、民族、宗教紛争を醸成する目的の団体や活動を禁止する。
NGO法は、人種、民族、宗教紛争を醸成する目的のNGOや活動を禁止する。
情報保護法第一三条二項は、インターネット上で、暴力や宗教過激主義を唱道する情報の流布や、人種、民族、宗教的憎悪を煽動する目的の呼びかけを禁止する。
二〇一七年の大統領命令による国家計画「アゼルバイジャンの青年二〇一七―二〇二一」は、青年を、宗教過激主義や差別に反対するよう動員するプロジェクトを提供する。
ヘイト刑法の適用として、二〇一四年~一七年の統計によると、刑法第二八三条の有罪判決が一件ある。
裁判官や検察官のための研修プログラムとして「特定の集団に属する者の権利保護の特徴」「欧州人権条約における差別禁止」「欧州人権条約第一四条の差別禁止」「特別なアプローチを必要とする被収容者(マイノリティ、女性、障害者、外国人、高齢者)の収容の特徴」などがある。
教育省は、バクー多元主義国際センターと協力して、高等教育における多元主義教育プログラムを開発している。バクー・スラヴィク大学も協力している。
*
CERDがアゼルバイジャンに出した勧告(CERD/C/AZE/10-12. 22 September 2022)
刑法第二八三条改正によって人種憎悪の煽動の刑罰が厳格化され、二〇二〇年の情報保護法改正によってインターネット・プロバイダーや個人に、暴力や宗教過激主義を助長する情報や、人種憎悪を煽動する情報の流布を禁止したことを尊重する。刑法、NGO法、情報保護法には条約第四条に定められた人種主義ヘイト・スピーチとヘイト・クライムを明白に犯罪化する規定が含まれていない。人種主義ヘイト・スピーチとヘイト・クライムの報告水準が低く、詳細な情報が欠けている。インターネットやソーシャルメディアのヘイト・スピーチの拡散を監視する措置に関する情報がない。
刑法に条約第四条に沿って、人種主義ヘイト・スピーチとヘイト・クライムを明白に犯罪化すること。人種主義ヘイト・スピーチとヘイト・クライムの報告を促し、訴追、判決、刑罰に関する情報を次回報告すること。警察官、検察官、裁判官に、人種主義ヘイト・スピーチとヘイト・クライムを認知、記録、捜査、訴追するための適切な方法を研修すること。
刑法第二八三条は「国民の尊厳の剥奪」を処罰しており、恣意的な解釈によって表現の自由の権利に不均衡な介入をもたらす可能性がある。二〇一六~二一年の適用事例は一件だけと言うが、人権活動家、市民社会組織メンバー、ジャーナリストが監視、ハラスメント、脅迫、報告にさらされている。恣意的な解釈を防止するため刑法第二八三条を改正すること。