Friday, August 29, 2025

ヘイト・スピーチ研究文献(228)

小山留佳「ヘイトスピーチ規制をめぐる日本法の問題点と国際人権法の必要性」『神奈川大学大学院法学研究論集』34号(2025年)

第一章    ヘイトスピーチ規制と国際人権法の視点の重要性

第二章    レイシズムとヘイトスピーチ

第三章    日本におけるヘイトスピーチの規制

第四章    国際人権法におけるヘイトスピーチ法の規制

第五章    結論と課題

小山は神奈川大学大学院生だが、本論文は東京女子大学大学院に提出した修士論文に加筆修正を施したものだと言う。文献・資料も含めて63頁に及ぶ論文である。

目次から直ちにわかる通り、ヘイトスピーチの議論に際して、日本国憲法だけを論じるのではなく、国際人権法の視点を重視しているのと同時に、議論の前提としてレイシズムの問題をきちんと取り上げている。全面的に賛同できる論文だ。

小山の問題意識は、ヘイトスピーチの議論をする際に対抗言説の有無や伝統的表現の自由の枠組みで対応することは適切と言えるのか。現行法は、ヘイトスピーチの根底にあるレイシズムの内容を想定してきたか。現行法は、国際人権法を受容してきたかという点にある。

小山は、第二章のレイシズム論では、まず「レイシズムと人種差別主義の相違点」を取り上げている。「日本の差別の問題を考える際に、『人種差別』という言葉を使うと、不可視化されてしまう差別が存在すると考える」からである。レイシズムを人種民族に限定せず、「変えられない属性を基にして、ある集団(またはその集団に属する人)を差別すること」と定義し、交差性や複合差別にも視線を送る。

小山は、欧州と日本とで、レイシズムには共通点(植民地主義の下での構造的差別)があるが、日本では「民族」概念による差別とその不可視化があることと、「反レイシズム規範の欠如によるレイシズムが存在すること自体が不可視化されている」ことに相違があると見る。レイシズムとヘイトスピーチの関係についてはアメリカで用いられてきた「ヘイトのピラミッド」を参照して理解する。

第三章では、刑事裁判と民事裁判(京都朝鮮学校襲撃事件)を検討し、ヘイトスピーチ解消法、及び川崎市条例を検討する。

小山は第四章で、国際自由権規約及び人種差別撤廃条約を検討する。「人権条約を確認すると、ヘイトスピーチが虐殺に繋がる危機感を背景にして、レイシズムのピラミッドの第四段階であり『差別助長要素』でもあるヘイトスピーチを抑止するために、差別扇動行為(ヘイトスピーチ)を禁止する法律の制定を国家に義務付けていることが分かる。人権条約が過去の人権蹂躙の反省を出発点としていることを想起すると、人権条約の実施は、マジョリティに自身の『人種的忘却性』を意識させ、『忘却』されている特権や、それを発端とする制度的レイシズムなどを可視化させる『差別抑止要素』の役割を持つと期待できる。」という。

小山の結論。

「以上を踏まえて、日本のヘイトスピーチ規制を考える際に必要なことをまとめると次のようになる。まず、現行法での対応を考える際には、ヘイトスピーチにより侵害されている権利・利益と現行法が想定している保護法益や権利・利益との相違点を確認する必要がある。次に、ヘイトスピーチが侵害する権利や利益を明らかにするためには、ヘイトスピーチの根底にある日本特有のレイシズムを認識することが必要である。そして、現在の日本にはヘイトスピーチそれ自体を処罰の対象とする法律が存在せず、不特定集団に対するヘイトスピーチの規制は現行法上不可能であり、特定集団に対する暴力行為を重罰化した法律が存在しないため、『差別抑止要素』として、国際人権法を具体化したヘイトスピーチ禁止法や、包括的差別禁止法が必要である。その立法や実施の際には、マジョリティが『人種的忘却性』を認識することが重要である。」

小山の議論はレイシズム、差別、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムを射程に入れて、国際人権法による対応を追求して、日本の議論状況に反省を迫るものであり、国際社会の常識に合致している。現代人権論が重視する基本的価値に従って反差別の立法と法解釈を展開する課題が浮き彫りになる。

国際人権法におけるヘイトスピーチの議論は2010年代以後、ラバト行動計画、CERD一般的勧告35、国連ヘイトスピーチ戦略など、さらに大きな発展を見ている。他方で、2020年代、EU諸国をはじめ排外主義が再び台頭し、国際人権法の危機も現実化しようとしている。今後その研究も重要となるだろう。

Wednesday, August 27, 2025

戦後80年を問う群馬市民行動委員会(略称:アクション80)

東京造形大名誉教授 前田 朗さんと

「負の歴史、加害の歴史」と排外主義を考えよう

 

・ 日本ではヘイトスピーチだけをとり上げて「表現の自由」の問題として議論されるが、もともとヘイトクライムである。それが差別であり差別の煽動、脅迫、迫害であることは明らか。だからヘイトクライム。問題の本質は、まず憲法13条。個人の尊重、人格権。他人のアイデンティティを否定することが許されるのか。もう一つは14条。法の下の平等である。

・ 平和主義はあの戦争や植民地支配を反省したがゆえにとの前提にたつ。憲法がつくられ13条と14条がある。国際社会の常識ではヘイトスピーチは暴力であり迫害であり人道に対する罪につながるできごと、だから規制しなさいということ。その次に「表現の自由」となる。12条に憲法上の権利や自由には責任が伴う。責任ある「表現の自由」について議論しなければならない。

(集会「もの言えぬ社会をつくるな ー戦争をする国にしないためにー」 から)

 

群馬の森の追悼碑に対する攻撃は、戦時中、大日本帝国が行った「強制連行」を否定する言説が発端でした。ヘイト団体だけでなく政府や群馬県も加担し、裁判所も続きました。歴史学の検証によるものではなく、政治が歴史を否定・改ざんしたものといえます。また国内では、戦時中の被害については広く報道されますが、近隣諸国への加害の事実はあまり報道されません。この課題を追及する前田朗さんに、問題の本質に切り込んでいただきます。

 

□日 時 9月26日(金)18001930

□場 所 群馬県教育会館 3階中会議室

          ・前橋市大手町3-1-10   TEL 027-322-5071  

・教育会館の駐車場は利用できません。近隣のをご利用下さい。

 

□内 容 前田 朗さんの講演と意見交換

□参加費  500円

 

  催  戦後80年を問う群馬市民行動委員会(略称:アクション80)

事務局   前橋市大手町3--10群馬県教育会館内  mail:gunma.action80@gmail.com

Tuesday, August 26, 2025

深沢潮を読む(1)愛のかたちと家族のかたち

深沢潮『ハンサラン 愛する人びと』(新潮社、2013年)

『週刊新潮』の「名物コラム」とされる高山正之「変見自在」が終了した。もともと差別的で傲慢なコラムで、何度か読んだことはあるが、ほとんど読んでいない。今回は「創氏改名2.0」というコラムで、朝鮮植民地時代の差別政策を想起させ、外国人排斥を強化させる悪質なコラムだった。被害を受けた深沢潮が記者会見し、多くの著者が深沢を支援し、週刊新潮に苦情を寄せたため、新潮社が「お詫び」し、コラム終了となった。

深沢潮の作品は少ししか読んだことがないので、今回の「事件」を契機に、まとめて読むことにした。

2012年の新潮社の第11R-18文学賞大賞を受賞した「金江のおばさん」が深沢のデビュー作だ。本書冒頭に収められている。金江のおばさんは、在日朝鮮人女性で東京・池上在住、首都圏の在日朝鮮人の結婚を斡旋することで有名なおばさんで、多くの在日男女の出会いを斡旋してきた。日本社会に1%に満たない人口の在日朝鮮人なので、男女の出会いから結婚に至るきっかけをつくるには、金江のおばさんのような人物が必要だ。

本書には6つの短編が収められている。「四柱八字」「トル・チャンチ」「日本人(イルボンサラム)」「代表選手」「ブルー・ライト・ヨコハマ」。それぞれの主人公は異なるが、いずれも金江のおばさんが(名前だけの場合もあるが)登場する。金江のおばさんつながりの連作短編集だ。

日本人読者にとっては、在日朝鮮人の出会い、恋愛、結婚、離婚や、家族の物語に関心を持って読むことになる。一方では、在日に固有の物語だが、他方では、どこの世界にも共通の普遍的な愛と家族の物語でもある。その固有性と普遍性の連関が独特の語り口で提示される。

固有性を浮き立たせるのは言うまでもなく植民地支配とその帰結、戦後も続く朝鮮人差別という背景がある。深沢は本作では植民地支配そのものを取り上げていないし、戦後日本の差別政策を主題としていないが、常に背景にあることは言うまでもない。読者がどのように読むかは、読者自身の歴史認識に委ねられている。「帰化」をめぐる在日朝鮮人の悩み、煩悶をどう受け止めるかも、読者の側の知識や認識に委ねられている。

朝日新聞826日に、戦争と性暴力をめぐる特集が組まれ、沖縄に連行された朝鮮人女性を題材として『翡翠色の海へうたう』を書いた深沢潮も一文を寄せている。満蒙開拓団の黒川村事件を描いた映画『黒川の女たち』が話題になったので、戦時性暴力問題を取り上げた特集だ。日本人男性が日本人女性をソ連軍に差し出した黒川村事件と、日本軍がアジアの女性を蹂躙した「慰安婦」問題をはじめ、現代における戦時性暴力問題は世界的に問われ続けている。

深沢潮「アリランをうたう」

https://note.com/soundofwaves/n/n65cf1e5c14c1

「慰安婦」の日常描く 深沢さん八重瀬でトーク

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1415065

<差別なき社会へ>沖縄の朝鮮人慰安婦の小説執筆

https://www.tokyo-np.co.jp/article/184883

戦時下の性暴力、深沢潮さん「私たちの問題」 女性に向かう支配欲

https://www.asahi.com/articles/AST8N7TG5T8NUPQJ00GM.html?msockid=39656b98262d63d91b7179fe27c76213

大江健三郎を読み直す(1)

https://maeda-akira.blogspot.com/2014/01/blog-post.html

大江健三郎を読み直す(83)「最後の小説」への道、「最後の小説」からの道

https://maeda-akira.blogspot.com/2017/12/blog-post_53.html

目取真俊の世界(1)むきだしの国家暴力に抗して

https://maeda-akira.blogspot.com/2018/01/

目取真俊の世界(12)歴史・記憶・物語

https://maeda-akira.blogspot.com/2018/12/blog-post.html

 

 

Friday, August 22, 2025

9/16 三多摩反弾圧集会 講演「冤罪・弾圧と闘う取調拒否権」

講師:前田朗さん(東京造形大学名誉教授・朝鮮大学校講師・救援連絡センター運営委員)

 

9月16日(火)午後6時半開場

講演7時から他基調や連帯あいさつなど

会場:柴中会公会堂

★JR中央線/南武線/青梅線/五日市線立川駅南口から徒歩5分

★資料代500円

 

トランプ政権の強硬な関税政策や移民排斥、戦争に関しての「ディール」などで世界は混乱の中にあります。一国主義が台頭する中で日本でも移民排斥を公然と主張する差別的な政党が現れています。こんな中で国家の抑圧体制や刑事・民事弾圧の強化の動きには細心の注意を払い、警戒していく必要があります。

日本では今冤罪の多発が1つの社会問題になっていますが、これと闘う術として黙秘権の意義をしっかりとらえ直す必要があります。今回前田朗さんを講師にこの問題で講演会を行うことになりました。どなたでも参加できます。ぜひ一緒にこの問題を考えて見ましょう。

 

主催:三多摩労組争議団連絡会議・三多摩労働者法律センター

連絡先:三多摩労法センター東京都国分寺市南町2-6-7丸山会館2F

TEL 042-325-1371

Saturday, August 16, 2025

朝鮮学校とともに・練馬の会 結成15周年記念講演会

朝鮮学校とともに・練馬の会

結成15周年記念講演会

9月24日()18時30分~

【会場】

ココネリ 3階 研修室1  (区民・産業プラザ)

参加費 1000円 障害者・学生 500円

講演「民族教育権と将来の世代の人権」

講師 前田朗(朝鮮大学校法律学科講師

 

私たちは20103月から15年間、毎月1回の街頭アピールを中心に、

朝鮮学校への無償化適用を求める活動を続けてきました。

15 年という長い年月は決して誇れることではなく、

15 年かけても、朝鮮学校への「無償化」を実現できなったということです。

前田朗先生をお迎えして、民族教育への新しい視座をお聞きしたいと思います。

 

朝鮮学校とともに・練馬の会

共催:練馬教育問題交流会

連絡先 090-5445-7123 ()

subetemushoka-nerima@yahoo.co.jp

冤罪防止のための取調拒否権入門セミナー第4回学習会

冤罪防止のための取調拒否権入門セミナー第4回学習会

弁護人の援助を受ける権利

 

1015日(水)午後6時開場、開会午後6時半~8時半 

東京ボランティアセンター会議室  JR飯田橋駅隣のビルRAMLA10F

参加費(資料代含む):500

 

講演:弁護人の援助を受ける権利

葛野尋之さん

 

2024年、袴田事件再審無罪、大川原化工機事件、福井女子中学生殺人事件、大阪地検検事違法取調事件など多くの刑事事件で、不当な取調問題に注目が集まった。

不当な取調べと自白強要は、被疑者の防御権を侵害し、冤罪につながり、人格権を侵害する。

身柄拘束された被疑者は拘置所又は留置場に在房するべきであって、警察署の取調室に行く理由がない。

取調室に強引に連行することは黙秘権の軽視である。

被疑者が黙秘権行使を告げたら、取調べを中断するべきである。

黙秘権と取調拒否権の行使に当たっては弁護人の援助を受ける権利の保障が不可欠である。

講演者プロフィル: 青山学院大学法学部教授。主著『弁護人の援助を受ける権利の現代的展開』『少年司法における参加と修復』『少年司法の再構築』(以上日本評論社)『刑事手続と刑事拘禁』『未決拘禁法と人権』『刑事司法改革と刑事弁護』(以上現代人文社)等。

 

主催:平和力フォーラム

電話070-2307-1071

E-mail: akira.maeda@jcom.zaq.ne.jp

Wednesday, August 13, 2025

琉球民族遺骨返還を求める連続講座・第2回

琉球民族遺骨返還を求める連続講座・第2回

10月2日(木)18時開場、1830分開会~2030

東京ボランティア市民活動センター会議室(JR飯田橋駅隣)

参加費:500

京都大学への返還要求に続いて、東京大学への返還要求の取組が始まりました。「学問」の名による植民地主義と人種差別を問い直す運動です。

また、無自覚のうちに琉球差別を続け、差別と指摘されても無責任を貫く「憲法フェスティバル実行委員会」の問題性を報告します。

「憲法9条擁護、平和主義」と言いながら、レイシズムに鈍感で民族差別を続ける日本社会を検証します。

「東京大学への遺骨返還請求問題」

・さいとう・まの(東京大学遺骨返還プロジェクト)

松島泰勝(龍谷大学教授)

・與儀睦美(琉球人遺骨返還を求める会/関東)

「憲法フェスティバル琉球差別問題の経過」

前田朗(朝鮮大学校講師)

共催:

平和力フォーラム

琉球人遺骨返還を求める会/関東

連絡先:070-2307-1071

E-mail: akira.maeda@jcom.zaq.ne.jp