Saturday, July 05, 2025

<憲法フェスティバル実行委員会への書簡(第2信) ――琉球民族遺骨返還問題と植民地主義を問う>

<憲法フェスティバル実行委員会への書簡(第2信)

――琉球民族遺骨返還問題と植民地主義を問う>

 

憲法フェスティバル実行委員会様

 

 本年621日開催の第37回憲法フェスティバル(テーマ「戦後80年と憲法~これまでとこれから」)は成功裏に終了したとのこと、お疲れさまでした。「戦後80年」という節目に平和憲法の歴史と現在を顧みて、これからの課題を探る試みに敬意を表します。

 さて、私たちは614日に<憲法フェスティバル実行委員会への書簡――琉球民族遺骨返還問題と植民地主義を問う>を公開し、憲法フェスティバル実行委員会にお届けしました。

 https://maeda-akira.blogspot.com/2025/06/1.html

 この書簡には、琉球民族はもとより、アイヌ民族、在日朝鮮人、中国人研究者、さらに日本人からも賛同の意思表示をもらいました。

私たちの疑問は、第37回憲法フェスティバルにおいて、山極壽一氏(総合地球環境学研究所)が『人間の本性から平和への道を探る』という講演を行うことに端を発したものです。621日当日、山極氏の講演がなされましたが、私たちの疑問や要請への応答はいただけませんでした。

 <祖先の墓を暴かれ、骨を盗まれ、返還を求めても対話を拒否され、侮辱された人々の痛みの声を、憲法フェスティバル実行委員会は、どのようにお聞きでしょうか。>

 <憲法フェスティバル実行委員会は、本件訴訟及びその後の経過についてどのような見解をお持ちでしょうか。植民地主義を継承し、人種民族差別を実践してきた責任者が、日本国憲法の平和主義について語ることは、憲法フェスティバルの理念と目的に合致しているのでしょうか。>

 <621日の憲法フェスティバルの舞台で、憲法フェスティバル実行委員会は、「日本国憲法の平和主義や基本的人権」と「他民族の遺骨盗取・隠匿・返還拒否・対話拒否」の関係について、ご見解を明らかにされることを要望します。>

<また、山極氏が琉球民族遺骨返還の声を無視し、対話を拒否し、原告団長の松島に対する民族差別を行ったことにつき、まずは説明責任を果たすよう、憲法フェスティバル実行委員会として山極氏に勧奨することを要望します。>

この4点について、憲法フェスティバル当日も、またフェスティバル終了から2週間となる現在も、憲法フェスティバル実行委員会からの応答はございません。

 

 そこで、次の諸点について改めて疑問を提起し、憲法フェスティバル実行委員会に質問させていただきます。

 第1に、1929年、京都帝国大学の研究者が琉球の今帰仁村の百按司墓から遺骨を持ち去り、研究材料としました。これは墳墓発掘罪に該当する犯罪であり、琉球民族に対する植民地主義暴力ではないでしょうか。

 第2に、20174月以降、遺族や琉球先住民族が、盗まれた遺骨の実見や返還を繰り返し要望しましたが、京都大学(山極壽一総長)によって拒否されました。対話も面会も拒否されました。これは琉球民族に対する植民地主義暴力ではないでしょうか。

 第3に、2019年、山極氏(当時・京都大学総長)は、京大の職員組合との懇談において、本件訴訟原告の松島を「問題のある人と承知している」と述べました。これは原告である松島に対する侮辱であり、琉球民族に対する差別ではないでしょうか。

 第4に、憲法フェスティバル実行委員会は、山極氏に講演を依頼しました。植民地主義を継承し、人種民族差別を実践してきた責任者が講演することは、憲法フェスティバルの理念と目的に合致しているのでしょうか。

 第5に、私たちの書簡(本年614日付)にもかかわらず、憲法フェスティバル実行委員会は、何ら応答することなく、何事もなかったかのように、山極氏の講演を実施しました。琉球民族(松島)側からの植民地主義批判に応答する必要がないと判断された理由を教えてください。

 

 次に、第37回憲法フェスティバル(テーマ「戦後80年と憲法~これまでとこれから」)において、浅倉むつ子氏(早稲田大学名誉教授)の講演「女性の権利を国際基準に~憲法と条約を活用しよう!」が行われました。

 浅倉氏は1時間を超える長い講演で「日本の法制をふりかえる」として「明治時代にできた法律=『近代法』」として1889年の大日本帝国憲法と1890年の明治民法を取り上げて、「身分差がなくなった」と述べました。 

 大日本帝国憲法は天皇制と貴族制を確立しましたが、「身分差がなくなった」のでしょうか。

 浅倉氏は「『平等』は戦後、日本国憲法で保障された。」と断定しました。その理由として、19464月の衆議院議員選挙において「女性初の参政権」が認められ、1946年の日本国憲法14条の法の下の平等、13条の個人の尊重、24条の両性の平等規定が定められたと確認し、「家族法改革の不十分性」として例えば女性の再婚禁止期間などを示しました。

 日本国憲法は象徴天皇制を定めましたが、「『平等』は戦後、日本国憲法で保障された」のでしょうか。

 私たちの一番の疑問は次の点にあります。194512月の衆議院議員選挙法改正は、女性参政権を導入しましたが、同時に「沖縄県民」及び「旧植民地出身者」の選挙権を停止(剥奪)しました。1946年の衆議院議員選挙において、琉球の女性にも男性にも選挙権は与えられませんでした。1946年の日本国憲法は、琉球の女性も男性も排除して、制定されました。

 米軍統治時代はもとより、1972年の「沖縄返還」後も米軍基地が押し付けられ、現在もなお琉球の女性は米軍兵士による性暴力被害を受け続けています。琉球の女性がどれほど迫害を受けても、浅倉氏は「平等は保障された」と主張するのでしょうか。

 憲法フェスティバル実行委員会に、もう一つの質問をさせてください。 

 第6に、第37回憲法フェスティバルのテーマは「戦後80年と憲法~これまでとこれから」ですが、琉球の女性も男性も排除して「戦後80年」を回顧し、「これから」も琉球と琉球民族を排除・差別し続けるのでしょうか。

 

 憲法フェスティバル実行委員会が、私たちの問題提起に真摯に向き合い、誠実に応答されることを期待します721日(月)までに回答していただけるよう要請します。

 なお、私たちは来る724日(木)に<琉球民族遺骨返還を求める連続講座第1回「今なお続く京都大学の植民地主義」>を開催いたします。

 https://maeda-akira.blogspot.com/2025/06/1.html

 憲法フェスティバル実行委員会の皆様にご参加いただければ、貴重な対話の機会となります。ご発言の時間を確保いたしますので、ぜひご参加いただけますようお誘いいたします。

 

                                 以上

 

20257月6日

 

前田朗(ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク(のりこえねっと)共同代表、青年法律家協会弁護士学者合同部会・元東京支部長、朝鮮大学校講師、東京造形大学名誉教授)

松島泰勝(琉球民族遺骨返還請求訴訟元原告団長、琉球民族遺骨情報公開請求訴訟元原告、ニライ・カナイぬ会共同代表、龍谷大学教授)

 

*本書簡へのご意見やお問い合わせは下記へお願いします。

前田 E-mail: akira.maeda@jcom.zaq.ne.jp

松島  E-mail: matusima345@yahoo.co.jp