「救援」489号(2010年1月)
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激化するヘイト・クライム
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京都朝鮮学校事件
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二〇〇九年一二月四日、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」と称する暴力的差別集団が京都朝鮮第一初級学校に押しかけ、「朝鮮学校が公園を不法占拠している」という言いがかりをつけ、聞くに堪えない暴言を撒き散らし、教員や子どもたちを恫喝・脅迫する許しがたい差別行為を行った。「差別されている朝鮮人は日本から出て行け」「スパイの子ども」「朝鮮学校はテロリスト養成機関」などと執拗に差別と脅迫を繰り返し、威力業務妨害罪や器物損壊罪に当たると思われる行為もしている。運動場を持たない朝鮮学校が、公園を管理する市当局の許可のもとに半世紀にわたって公園を利用してきた。周辺住民からの苦情もなかった。ところが、右翼は「不法占拠」と大騒ぎした。
この日、同校では、京都第一、第二、第三 および滋賀の初級学校の子どもたちが集まって交流会を行なっていた。大音量で侮辱的な暴言を浴びせられ、 不安をつのらせ、泣き出す子どもまでいて、 交流会場はパニック状態になってしまった。教育の場に押しかけて大騒ぎする、子どもの権利条約の精神を踏みにじる行為である。一二月二一日、学校側は右翼集団に対する告訴状を京都府警に提出した。
二〇〇九年は、日本のヘイト・クライム(憎悪犯罪)が激化したターニング・ポイントとして記憶されるだろう。この犯罪集団は次のような活動を繰り返してきた。
①カルデロン事件。日本政府が、在留期限のすぎた外国人を子どもから引き離し家族を破壊して退去強制する際、退去強制を支持するデモ行進を行い、子どもが通う学校にまで押しかけて騒ぎ、これに抗議した市民と暴力沙汰を惹き起こした。②朝鮮大学校事件。在日朝鮮人が長年にわたる努力で建設・維持してきた朝鮮大学校正門前に押しかけて差別的言辞を吐いて侮辱した。学園祭にも押しかけて妨害行為を行なった。③三鷹事件。三鷹市(東京)における日本軍性奴隷制(「慰安婦」)問題の報告集会に対して横槍をいれ、会場前に押しかけて出入りを妨害し、集会を妨害した。④秋葉原事件。秋葉原(東京)において外国人排除をアピールするデモ行進を行い、反対意見のプラカードをもった市民に襲いかかり暴行を加えた。⑤名古屋市立博物館事件。博物館における日韓歴史展示に抗議して、巨大な日の丸などを持って館内に押し入って騒いで展示を妨害した。⑥ウトロ事件。戦後半世紀を越えて在住する朝鮮人と土地所有者の間の解決を覆し、朝鮮人を追い出そうと激しい非難を浴びせた。自衛隊基地に向かって拡声器で「朝鮮人を銃撃してください」と叫ぶ有様だったという。
既成右翼団体との違いは、第一に、インターネットを駆使して宣伝を行い、参加者を募り、活動報告も行っていること、第二に、「行動する保守」というスローガンを掲げ、法律を無視し人権侵害を惹き起こす「直接行動」に出ていることである。考えないで行動する差別集団である。
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ヘイト・クライムを許さない
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緊急抗議集会が各地で取り組まれた。同月一九日には東京、二二日には地元・京都、二三日は大阪で相次いで抗議集会が開催され、「差別を許すな」と多くの市民が駆けつけた。
二三日の在日朝鮮人・人権セミナー主催「民族差別を許すな! 京都朝鮮学校襲撃事件を問う」大阪集会は次のように呼びかけた。
「このような人種主義的、差別的行為を決して許してはなりません。ところが、警備の要請を受けて出動した警察官も、人種差別団体をきちんと規制しようとせず、好き放題にさせました。同様のことは、これまでも暴力・脅迫活動の各所で見られました。三鷹でも秋葉原でもウトロでも、この差別団体は警察の事実上の容認を得て、ますます過激な行動に出るようになっています。この問題は、単に一部の異常な排外主義集団だけの問題ではなく、それを許している日本政府および日本社会全体の問題ではないでしょうか。私たちはこのような差別と犯罪を許すことなく、全国各地で心ある人々が声を上げる時だと考えます。沈黙すべきではありません。」
集会では、まず京都事件の映像が上映された。ネット上には右翼集団の宣伝映像が掲載されており、酷い差別発言を確認できる。脅迫、恫喝、蔑視発言の連発だ。
続いて、京都朝鮮学校校長から現地報告がなされた。公園使用は市の許可を得ていて「不法占拠」ではないこと、子どもたちが脅えて泣き出したことなど具体的な様子が報告された。右翼は「また来るぞ」と言っているので、今後も要警戒である。
次に筆者がヘイト・クライムについて報告した。犯罪的右翼集団の活動状況を概括した上で、これがヘイト・クライムに当たること、人種差別禁止法を制定し、このような差別と犯罪を規制する必要性を確認した(ヘイト・クライムについて、本欄「ヘイト・クライム(憎悪犯罪)」本紙四四八号~四五二号。前田朗「人種差別の刑事規制について」『法と民主主義』四三五号、二〇〇九年参照)。
会場発言の後、武村二三夫(弁護士、人権セミナー実行委員長)が、まとめの発言として、差別と迫害を許さないために日本人としてなすべきことを呼びかけて集会を終了した。
右翼の卑劣な差別行為に対して、当初は沈黙していた世論にも変化の兆しが見える。京都事件では各地の市民がすばやく抗議集会を開催した。ネット上でも批判の声が増えてきたという。無責任なネット右翼の独壇場というわけでは必ずしもない。さらに既成右翼の中にも、やりすぎだ、子どもへの攻撃は考えられないという声が出ているという。
メディアの状況も徐々に変わり始めた。犯罪的右翼集団を一面の記事で持ち上げた朝日新聞の例もあるが、一二月一八日の東京新聞は、不況の閉塞状況で外国人への嫌がらせが増えているとして、京都事件を取り上げ、「不法占拠」などという右翼の主張が事実に反することを報道した。
一二月二二日の共同通信も、「在特会の行動は朝鮮学校を標的とした悪質な嫌がらせとしか思えない。保護者の一人は『これまで日本に生きてきて、これほどの侮辱を受けたことはない』と憤りをメールにつづっている。そもそも在日韓国・朝鮮人の特別永住者が日本人より優遇されている『特権』などない。むしろ、就職や結婚などをめぐる隠然とした差別が日本には存在し続けている」と指摘している。
警察の警備も以前は全くおざなりだったが、最近は真剣になってきたようだ。右翼の勝手放題を許しておくと警察批判が高まると判断したのだろう。卑劣なヘイト・クライムを許さない世論をさらに高めていく必要がある。