Sunday, November 25, 2018

フクシマ原発事故の真相に迫る闘いの書


海渡雄一『東電刑事裁判で明らかになったこと』(彩流社)


<3・11直後から「想定外の事故」と喧伝されたが、事実は正反対であり、大ウソだった。

津波計算から事故当時まで、会社の経営の最高責任者であったり原発の安全対策を担当していた元役員3名(勝俣恒久、武黒一郎、武藤栄)が被告人となっている刑事裁判が現在おこなわれている。

この状況を、市民にむけ、争点のポイントや現時点までに明らかになっていることをわかりやすくまとめた本書を読み、経緯をウォッチしていこう!>


東京地検は日産のゴーンを逮捕したが、そんな暇があれば、勝俣、武黒、武藤を逮捕すべきだ。ゴーンの行為が犯罪だとしても、逮捕容疑は「形式犯」にすぎない。被害があったとしても財産被害に過ぎない。東電の犯罪は、多くの人々の命を奪い、自殺に追い込み、暮らしを破壊した。どちらが深刻重大な犯罪なのか。

東京地検は、勝俣らを逮捕せず、起訴もせずに、巨悪を見逃した。巨悪のお仲間だからだろう。これに対して、海渡弁護士らが刑事告訴し、不起訴決定に対して検察審査会に持ち込み、ついに起訴強制となり、刑事裁判が続いている。本書は、現在進行中の刑事法廷で明らかになった新証拠を紹介・分析し、「予見・回避可能だった原発事故はなぜ起きたか」を解明している。

原発事故を回避することは容易であった。東電内部でもそのための議論が行われていた。これを覆したのは、ひたすらおカネのためだった。その結果、膨大な土地に人間が住めなくなり、人々の暮らしが奪われた。政府事故調や国会事故調の後、閉ざされようとした真相解明の努力が続けられている。その成果が本書である。

Saturday, November 24, 2018

市民のための実践国際人権法講座 先住民族の権利と日本の責任2


市民のための実践国際人権法講座第13回



先住民族の権利と日本の責任2

琉球民族の権利



日時:2019年1月13日(日)14:00~16:30(会場3:30)

会場:西部コミュニティセンター(武蔵野市境5-6-20)

JR武蔵境駅から徒歩15分(約1キロ)

小田急バス5分(西部コミュニティセンター下車)

参加費:500円

講師:前田朗(東京造形大学教授)



国連先住民族権利宣言に照らして琉球/沖縄の人々の人権状況を考えます。日本政府は先住民族権利宣言に賛成しましたが、琉球人を先住民族と認めていません。

人種差別撤廃条約に基づく人種差別撤廃委員会は、琉球人の先住性を認めるよう勧告しています。琉球への米軍基地押し付けに見る「構造的差別」問題を人権論から再検討しましょう。



前田朗:1955年札幌生れ。日本民主法律家協会理事、国際人権活動日本委員会運営委員、救援連絡センター運営委員。著書に『戦争犯罪論』(青木書店)、『軍隊のない国家』(日本評論社)、『非国民がやってきた!』(耕文社)、『人道に対する罪』(青木書店)、『9条を生きる』(青木書店)、『増補新版ヘイト・クライム』(三一書房)、『国民を殺す国家』(耕文社)、『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(耕文社)、『ヘイト・スピーチ法研究序説』(三一書房)、『ヘイト・クライムと植民地主義』(三一書房)。



主催:沖縄と東アジアの平和をつくる会

Twitter : @OkinawaEastasia

Mail : okinawa.eastasia@gmail.com


新段階に突入した東京裁判研究


D・コーエン&戸谷由麻『東京裁判「神話」の解体』(ちくま新書)



<東京裁判は「勝者の裁き」であり、インド代表パル判事とオランダ代表レーリンク判事の反対意見は、その欺瞞を暴き出すものだとの論が日本の国内論議で長くみられた。だが、パルやレーリンク意見には重大な誤謬と恣意性があり、東京裁判の功績と問題点の歴史的・法理学的理解を大きく歪めている。東京裁判研究者の戸谷と国際法の大家コーエンが、従来見過ごされてきたウェブ裁判長による判決書草稿を読み解き、東京裁判の過程を再検証する。判決から七〇周年を迎えた今、知られざる真相を解明する。>


日本では、「東京裁判史観批判」が膨大に出版され、パルを名判事と持ち上げ、ウェブ裁判長を誹謗中傷してきた。その多くは東京裁判の基礎的理解すら怪しい上、当の判決を読んだかどうか疑われる水準である。日本の戦争犯罪を隠蔽し、消去することだけを目的として、「東京裁判研究」とは言えない、身勝手な議論が幅をきかせてきた。

本書は、東京裁判、BS級裁判、ニュルンベルク裁判に通暁した二人の著者が、さらには旧ユーゴスラヴィア国際法廷、ルワンダ国際法廷、国際刑事裁判所に至る国際刑法の発展も踏まえて、歴史的かつ現在的な課題として、東京裁判研究に新しい一歩を踏み出してみせる。その背景には、英語で出版された大著The Tokyo War Crimes Tribunal: Law, History, and Jurisorudenceがあるという。同書を入手していない。著者のコーエンはカリフォルニア大学バークレーの教授で国際法の大家、戸谷はハワイ大学教授の歴史家で、『東京裁判』『不確かな正義――BD級戦犯裁判の軌跡』の著者。


本書は、東京裁判に関する「神話」のうち、パル、レーリンク、ウェブという3人の判事に対する評価を俎上に載せる。

「日本無罪論」で有名なパルは、日本では素晴らしい国際法の大家として遇されている。しかし、ひとたびパル判決を読めば、およそ刑事法廷の判決と呼ぶに値しない粗野な政治論議が展開されているに過ぎないことは明白であった。本書は、パルが「東京裁判」とは異なる「別の将来の法廷」のための判決としてイデオロギーに満ちた判決を書いた理由を探る。

一方、レーリンク判事も被告人のうち文官について無罪と判断したため日本ではきわめて評価が高い。本書は、レーリンク判決の中身に立ち入り、やはり国際法と刑事法の法理という点では合格点に達していないことを丁寧に論証している。

他方、ウェブ裁判長については、被告人らを有罪とした「多数意見」の主として批判され、特に共同謀議論への批判が集中してきた。しかし、実はウェブは「多数意見」とは異なる法理を有していた。法理としては異なるアプローチをしていたが、結論は多数意見と共通するため、ウェブは自分の判決草案を引き下げた。タイプライターで600頁を越える判決書草稿である。本書はウェブの判決書草稿を取り上げ、内容を詳しく紹介する。そこでは、まさに刑事法廷の判決書として完備した体裁と内容の法律文書を見ることができる。パルやレーリンクと異なり、多数意見とも異なり、ウェブだけが本格的な法理論を適用した見事な刑事判決を起草していたのだ。


若干のコメント。

第1に、本書は東京裁判に関する実証的かつ理論的研究である。英語の大著の一部をもとに、新書として構成したもので、主題を絞り込んでいる。分析もシャープである。

第2に、これまで紹介されてこなかったウェブ判決書草稿をもとに、判決形成過程の具体相を解明しているこれにより、東京裁判の総合的研究に一段階を画したものだ。

第3に、法律家と歴史家の共同研究の成果として、法理論と歴史の双方にわたって精密かつ説得的な議論が展開されている。

第4に、1990年代のユーゴスラヴィア国際法廷、ルワンダ国際法廷、国際刑事裁判所似始める現在の国際刑法の飛躍的発展状況を踏まえて、現在の研究水準から東京裁判を検証するという国際的動向にも大きな前進となる。


著者の一人・戸谷には一度お目にかかったことがある。17年12月2日、一橋の如水会館で開催されたラッセル法廷50周年シンポジウムに、戸谷も私も報告者として参加したからだ。その記録は、『歴史評論』823号(2018年11月号)に掲載されている。


Thursday, November 22, 2018

目取真俊の世界(11)語り得ない暴力の記憶と身体


目取真俊『眼の奥の森』(影書房、2009年/新装版、2017年)


米軍占領下における性暴力事件を素材に、レイプ被害者、その周囲の少年たち、家族、村人たち、及びレイプ犯の米兵らの視点から、事件とその影響を多面的重層的に描いた作品である。『虹の鳥』と双璧をなす「傑作」である。

カギ括弧つきで「傑作」としたのは、沖縄の近現代史を文学作品で描き出すのに、ここまで書かなければならないこと、に留意したいからだ。『虹の鳥』や『眼の奥の森』を書かなければならなかった文学者の思いを、読者がどこまで読み取れるか。本土の読者に果たしてどこまで届いているか。こうした問いを繰り返さなければならないからだ。


聞こえるよ(ちかりんどー)、セイジ。


レイプ被害を受け、村人からも隔離され、産んだ赤ん坊も取り上げられ、錯乱したまま人生を過ごした女性の、半世紀も後の言葉が、戦争と暴力、憎悪と屈辱、時代の闇を、微かに、ほんの微かに、しかし確かに切り裂き、その先に「光」を送り届ける。

米軍の暴力に押しつぶされそうな村で、たった一人、復讐に立ち上がった盛治の闘いは、凄惨と無残の果てに打ち捨てられるが、それでも人々の魂を揺さぶり続ける。

盛治の悲痛の叫びは、小夜子には届いていた。


聞こえるよ(ちかりんどー)、セイジ。


これほど悲しいつぶやきを、限界を突き破った文学者だけが書き記すことができる。だが、それは文学者にとって幸せなことだろうか、不幸なことだろうか。


Saturday, November 17, 2018

朝鮮訪問のジョイント報告会


朝鮮訪問のジョイント報告会のご案内



植民地支配の清算は戦後日本の最も重要な課題であったはずです。しかし未だに朝鮮との国交正常化は実現されず、朝鮮は未知の国のままです。朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)を訪問し現地で見聞きし感じたことを二人の報告者から伺い、参加者といかに朝鮮と向き合うのかについて話し合いたいと願っています。

当日は、朝鮮への粉ミルク支援を続けてきた米津さんから、最新の朝鮮の状況を平壌と元山の育児院(孤児院)や障がい児回復院などの現場訪問をして撮影された40分の映像(『ハンクネット(朝鮮人道支援ネットワーク)第10次訪朝記(2018)』)を観た後に詳しくお話を伺います。



日時:11月24日(土)、18時ー21時30分

場所:品川区立総合区民会館きゅりあん第1講習会室(JR大井町駅徒歩3分)

参加費: 300



報告者

米津篤八:朝日新聞社勤務を経て、朝鮮語翻訳家。ソウル大学大学院国史学科(韓国現代史)修了後、一橋大学大学院社会学研究科(朝鮮近現代史)博士課程在学中。訳書に『夫・金大中とともに』『ファン・ジニ』(朝日新聞出版)、『チャングム』(早川書房)など。人道支援団体「ハンクネット・ジャパン」メンバーとして訪朝経験7回。



崔勝久(チェ・スング):日韓・韓日反核平和連帯事務局長、NPO法人NNAA理事。ICU卒業後、在日大韓基督教会「在日韓国人問題研究(RAIK))初代主事、社会福祉法人青丘社主事を経て国際連帯運動を提唱、反原発・反差別運動に従事。『日本における多文化共生とは何か』(新曜社)『戦後史再考』(平凡社)の共同筆者。9月に初訪朝。



主催:NPO法人NNAANo Nukes Asia Actions)

連絡先:che.kwsk@gmail.com, 090-4067-9352

軍備拡大と改憲・戦争への道を許すな! 「明治150年」徹底批判! 11.30


軍備拡大と改憲・戦争への道を許すな!

「明治150年」徹底批判!

侵略と植民地支配の歴史を直視し、アジアに平和をつくる国際シンポジウム



1130日(金)

衆議院第1議員会館のロビーで午前・午後の開始30分前から入場カードの配布をしま


▼午前:10時(開場940分)

会場:衆議院第1議員会館・B1・大会議室

  ●韓国・中国の侵略被害者の証言を聞く集い



▼午後:14時(開場1330分)

会場:衆議院第1議員会館・B1・大会議室

総合司会:坂本洋子(ジャーナリスト)

◎基調講演①: 内海愛子(恵泉女学園大学名誉教授)

   サンフランシスコ講和体制を考える

    戦争裁判・賠償そして日米安保条約

◎基調講演②: 田中宏(一橋大学名誉教授)

   継続する植民地主義と朝鮮学校差別

●韓国・中国からの発言

●総括発言:林郁(作家)



アジアと日本の連帯実行委員会

☆連絡先  E-mail e43k12y@yahoo.co.jp  

携帯 : 090-3163-3449  



主催:アジアと日本の連帯実行委員会

代表呼びかけ人

鎌田慧(ルポライター)

鎌倉孝夫(埼玉大学名誉教授)

田中宏(一橋大学名誉教授)

内海愛子(恵泉女学園大学名誉教授)

高嶋伸欣(琉球大学名誉教授)

鳥越俊太郎(ジャーナリスト)

山田朗(明治大学教授)

高野孟(インサイダー編集長、ザ・ジャーナル主幹)

前田朗(東京造形大学教授)

藤田髙景(村山首相談話の会・理事長)


Friday, November 16, 2018

軍備拡大と改憲・戦争への道を許すな! 「明治150年」徹底批判!


軍備拡大と改憲・戦争への道を許すな!

「明治150年」徹底批判!

侵略と植民地支配の歴史を直視し、アジアに平和をつくる国際シンポジウム



1129日(木)14時(開場1330分)

会場:衆議院第1議員会館・B1・大会議室

1330分から衆議院第1議員会館のロビーで、入場カードの配布を開始します。



総合司会:市来伴子 (杉並区議会議員)

主催者挨拶:藤田髙景 (村山首相談話の会) 

連帯のご挨拶 野党各党、福山真劫・平和フォーラム共同代表

基調講演:  

「明治150年」史観批判―近現代日本の戦争・植民地支配と国民統制―

山田朗(明治大学教授)



※ 韓国・中国の戦争被害者の発言があります



アジアと日本の連帯実行委員会

消防法の関係で会場は300人定員です。定員になりしだい締め切りますので、恐縮で

すが、大至急、下記のメールアドレスまで、出席申し込みをお願いいたします。

☆連絡先  E-mail e43k12y@yahoo.co.jp  

携帯 : 090-3163-3449  



主催:アジアと日本の連帯実行委員会

代表呼びかけ人

鎌田慧(ルポライター)

鎌倉孝夫(埼玉大学名誉教授)

田中宏(一橋大学名誉教授)

内海愛子(恵泉女学園大学名誉教授)

高嶋伸欣(琉球大学名誉教授)

鳥越俊太郎(ジャーナリスト)

山田朗(明治大学教授)

高野孟(インサイダー 編集長、ザ・ジャーナル主幹)

前田朗(東京造形大学教授)

藤田髙景(村山首相談話の会・理事長)

Tuesday, November 06, 2018

元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明


元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明



韓国大法院(最高裁判所)は、本年 10 30 日、元徴用工 4人が新日鉄住金株式会社(以 下「新日鉄住金」という。)を相手に損害賠償を求めた裁判で、元徴用工の請求を容認した差し戻し審に対する新日鉄住金の上告を棄却した。これにより、元徴用工の一人あたり1億ウォン(約1千万円)を支払うよう命じた判決が確定した。

本判決は、元徴用工の損害賠償請求権は、日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支 配及び侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被 害者の日本企業に対する慰謝料請求権であるとした。その上で、このような請求権は、1965 年に締結された「日本国と大韓民国との間の財産及び請求権に関する問題の解決と経済協力に関する協定」(以下「日韓請求権協定」という。)の対象外であるとして、韓国政府の 外交保護権と元徴用工個人の損害賠償請求権のいずれも消滅していないと判示した。

 本判決に対し,安倍首相は、本年 10 30 日の衆議院本会議において、元徴用工の個人 賠償請求権は日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決している」とした上で、本判決は「国際法に照らしてあり得ない判断」であり、「毅然として対応していく」と答弁した。

しかし、安倍首相の答弁は、下記のとおり、日韓請求権協定と国際法への正確な理解を欠いたものであるし、「毅然として対応」するだけでは元徴用工問題の真の解決を実現することはできない。

私たちは、次のとおり、元徴用工問題の本質と日韓請求権協定の正確な理解を明らかに し、元徴用工問題の真の解決に向けた道筋を提案するものである。



1 元徴用工問題の本質は人権問題である

  本訴訟の原告である元徴用工は、賃金が支払われずに、感電死する危険があるなかで溶鉱炉にコークスを投入するなどの過酷で危険な労働を強いられていた。提供される食事もわずかで粗末なものであり、外出も許されず、逃亡を企てたとして体罰を加えられるなど極めて劣悪な環境に置かれていた。これは強制労働(ILO第 29 号条約)や奴 制(1926 年奴隷条約参照)に当たるものであり、重大な人権侵害であった。

 本件は、重大な人権侵害を受けた被害者が救済を求めて提訴した事案であり、社会的にも解決が求められている問題である。したがって、この問題の真の解決のためには、被害者が納得し、社会的にも容認される解決内容であることが必要である。被害者や社会が受け入れることができない国家間合意は、いかなるものであれ真の解決とはなり得ない。



2 日韓請求権協定により個人請求権は消滅していない

   元徴用工に過酷で危険な労働を強い、劣悪な環境に置いたのは新日鉄住金(旧日本製鐵)であるから、新日鉄住金には賠償責任が発生する。

また、本件は、1910 年の日韓併合後朝鮮半島を日本の植民地とし、その下で戦時体制 下における労働力確保のため、1942 年に日本政府が制定した「朝鮮人内地移入斡旋要綱」による官斡旋方式による斡旋や、1944 年に日本政府が植民地朝鮮に全面的に発動した「国民徴用令」による徴用が実施される中で起きたものであるから、日本国の損害責任も問題となり得る。

   本件では新日鉄住金のみを相手としていることから、元徴用工個人の新日鉄住金に対 する賠償請求権が、日韓請求権協定 2 1 項の「完全かつ最終的に解決された」という条項により消滅したのかが重要な争点となった。

   この問題について、韓国大法院は、元徴用工の慰謝料請求権は日韓請求権協定の対象に含まれていないとして、その権利に関しては、韓国政府の外交保護権も被害者個人の賠償請求権もいずれも消滅していないと判示した。

   他方、日本の最高裁判所は、日本と中国との間の賠償関係等について、外交保護権は放棄されたが、被害者個人の賠償請求権については、「請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて訴求する権能を失わせるにとどまる」と判示している(最高裁判所 2007 4 27 日判決)。この理は日韓請求権協定の「完全かつ最終的に解決」という文言についてもあてはまるとするのが最高裁判所及び日本政府の解釈である。(註1

この解釈によれば、実体的な個人の賠償請求権は消滅していないのであるから、新日鉄住金が任意かつ自発的に賠償金を支払うことは法的に可能であり、その際に、日韓請求権協定は法的障害にならない。

   安倍首相は、個人賠償請求権について日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決した」と述べたが、それが被害者個人の賠償請求権も完全に消滅したという意味であれ

ば、日本の最高裁判所の判決への理解を欠いた説明であり誤っている。他方、日本の最高裁判所が示した内容と同じであるならば、被害者個人の賠償請求権は実体的には消滅しておらず、その扱いは解決されていないのであるから、全ての請求権が消滅したかのように「完全かつ最終的に解決」とのみ説明するのは、ミスリーディング(誤導的)である。

   そもそも日本政府は,従来から日韓請求権協定により放棄されたのは外交保護権であ り,個人の賠償請求権は消滅していないとの見解を表明しているが,安倍首相の上記答弁は,日本政府自らの見解とも整合するのか疑問であると言わざるを得ない。(註2



3 被害者個人の救済を重視する国際人権法の進展に沿った判決である

   本件のような重大な人権侵害に起因する被害者個人の損害賠償請求権について、国家 間の合意により被害者の同意なく一方的に消滅させることはできないという考え方を示 した例は国際的に他にもある(例えば、イタリアのチビテッラ村におけるナチス・ドイツの住民虐殺事件に関するイタリア最高裁判所(破棄院)など)。このように、重大な人権侵害に起因する個人の損害賠償請求権を国家が一方的に消滅させることはできないという考え方は、国際的には特異なものではなく、個人の人権侵害に対する効果的な救済を図ろうとしている国際人権法の進展に沿うものといえるのであり(世界人権宣言 8 条参照)、「国際法に照らしてあり得ない判断」であるということもできない。



4 日韓両国が相互に非難しあうのではなく、本判決を機に根本的な解決を行うべきである 

 本件の問題の本質が人権侵害である以上、なによりも被害者個人の人権が救済されなければならない。それはすなわち、本件においては、新日鉄住金が本件判決を受け入れるとともに、自発的に人権侵害の事実と責任を認め、その証として謝罪と賠償を含めて被害者及び社会が受け入れることができるような行動をとることである。

   例えば中国人強制連行事件である花岡事件、西松事件、三菱マテリアル事件など、訴訟を契機に、日本企業が事実と責任を認めて謝罪し、その証として企業が資金を拠出して基金を設立し、被害者全体の救済を図ることで問題を解決した例がある。そこでは、被害者個人への金員の支払いのみならず、受難の碑ないしは慰霊碑を建立し、毎年中国人被害者等を招いて慰霊祭等を催すなどの取り組みを行ってきた。

  新日鉄住金もまた、元徴用工の被害者全体の解決に向けて踏み出すべきである。それは、企業としても国際的信頼を勝ち得て、長期的に企業価値を高めることにもつながる。韓国において訴訟の被告とされている日本企業においても、本判決を機に、真の解決に向けた取り組みを始めるべきであり、経済界全体としてもその取り組みを支援することが期待される。 日本政府は、新日鉄住金をはじめとする企業の任意かつ自発的な解決に向けての取り組みに対して、日韓請求権協定を持ち出してそれを抑制するのではなく、むしろ自らの責任をも自覚したうえで、真の解決に向けた取り組みを支援すべきである。

 私たちは、新日鉄住金及び日韓両政府に対して、改めて本件問題の本質が人権問題であることを確認し、根本的な解決に向けて取り組むよう求めるとともに、解決のために最大限の努力を尽くす私たち自身の決意を表明する。



(註1 )山本晴太「日韓両国政府の日韓請求権協定解釈の変遷」(2014 年)参照。 http://justice.skr.jp/seikyuuken-top.html

(註 2 1991 12 13 日参議院予算委員会,1992 2 26 日衆議院外務委員会,1992 3 9 日衆議院予 算委員会における柳井俊二条約局長答弁,1992 4 7 日参議院内閣委員会における加藤紘一外務大臣答弁等



2018年11月5日  



(呼びかけ人・弁護士)※五十音順(一部にずれがありますがご容赦ください)敬称略

 青 木 有 加     足 立 修 一     岩 月 浩 二   殷   勇 基     内 河 惠 一     大 森 典 子   川 上 詩 朗        昌 浩     在 間 秀 和  張   界 満     山 本 晴 太



(賛同人・弁護士)    
  赤 石 あゆ子     秋 田 智佳子     泉 澤         伊 藤        井 上 明 彦     井 上        井 上 正 信     猪 野        岩 佐 英 夫      内 田 雅 敏     大 江 京 子     大久保 賢 一  金井塚 康 弘     北 澤 貞 男        東 周        星 姫        喜 明     桑 原 育 朗         政 和     小 林 保 夫     小 牧 英 夫     佐 藤 博 文     澤 藤 統一郎     志 田 なや子      清 水 善 朗     下 山        鈴 木 雅 子      高 貝        高 崎        高 橋         高見澤 昭 治     田 中 貴 文     辻 田         野 上 恭 道     端 野                    平 田 かおり     福 山 洋 子     船 尾        星 野           典 男     宮 坂   浩  毛 利 正 道     安 原 邦 博     山 田 延 廣  山 田        米 山 秀 之        尚 昭    渡 辺 和 恵        雅 之        奉 植   原 田 學 植     新 倉           昌 錫       惠 燕     中 谷 雄 二     米 倉      米 倉 洋 子        博 盛     齋 藤   耕   裵   明 玉     長谷川 一 裕     山 内 益 恵   白 川 秀 之     空 野 佳 弘     幸 長 裕 美  奥 村 秀 二        範 夫     武 村 二三夫   宇賀神          角 田 由紀子     矢 﨑 暁 子   藤 井           銘 愛     神 保 大 地   具   良 鈺     丹 羽 雅 雄     向 山   知   谷   次 郎     五十嵐 二 葉     幣 原   廣   仲 松 大 樹     穂 積        田 巻 紘 子   魚 住 昭 三     佐 藤 むつみ     今 橋   直     愛 須 勝 也     新 山 直 行        竜 介    韓   検 治     久 野 由 詠     田 中 健太郎   石 川 元 也     年 森 俊 宏     水 野 幹 男   北 村         森 山 文 昭



(賛同人・学者研究者) 
    上 脇 博 之    浦 田 賢 治    岡 崎 勝 彦        惠 丰    丸 山 重 威       英 樹     右 崎 正 博          

     11 5 日午後 11 時現在,弁護士 109 名,学者 7 名,合計 116 名)

Monday, November 05, 2018

革命ごっこ、サブカル、天皇主義


安彦良和『革命とサブカル――「あの時代」と「いま」をつなぐ議論の旅』(言視舎)


アニメの「機動戦士ガンダム」や、「クルドの星」「虹色のトロツキー」「ヤマトタケル」などの漫画家の安彦良和が、弘前大学全共闘に関係した人々(連合赤軍、安田講堂占拠、演劇集団)等にインタヴューした記録に、安彦自身による時代評論を加えた1冊である。

全共闘世代を世代論として語ることには疑問があるが、時代を揺さぶった大事件続出の世代だけに、当事者たちの記録、回想、手記はなるべく読んできた。本書もその延長で、いちおう読んでおこうという程度の関心で読み始めた。

冒頭で驚いたのは「思えば、我々の世代も寡黙だった。」という一文である。全共闘世代ほど饒舌な世代はない。時代のことも自分たちのことも、当時も後も、ひたすら語ってきたし、時代の中での位置づけも、評価も、他の世代による位置づけを押しのけて、ひたすら自分たちで評価してきたのが全共闘世代だ。にもかかわらず、安彦は「寡黙だ」という。何か特別な意味合いがあるのかと思いながら読み進めると、安彦は、植垣康博、永田洋子をはじめ、全共闘世代の主だった著作をほとんど読んでいないという。自分の無知を棚に上げて、「寡黙」と決めつけて話を始める。まさに、これが全共闘世代だ、と言いたくなる(笑)。

全共闘世代の自己正当化にはいろいろなパターンがあるが、主なものは2つにまとめることができる。

1は、あんなにひどかったが問題意識は優れていたとか、結果は無残だったが青年らしい問いかけだったとか、学問の権威に対する異議申し立てには意味があった、といったたぐいの、論証されていない主観的正当化である。学問の権威に対する異議申し立てという正当化が浅はかなのは、自分たちが権威の側に回ったときの姿勢で見事に露呈しているからである。「彼らの権威」に異議申し立てしただけで、「自分たちが権威になりたかっただけ」と言われても仕方がないのが、大勢だろう。

2は、1968年の世界的激動の中に再定位する方策である。パリやプラハを持ち出して、世界的な革命運動があったのだ、われわれもその一員であったのだ、という、一見すると「客観的な」、しかし、全共闘世代が後付けで言い出したきわめて主観的な正当化である。

重要なのは、これほど自己正当化に汲々とした世代はない、という点だ。何十年たっても,とにかく自己正当化にしか興味がない。

いよいよ古稀を迎えて、安彦も当時を振り返り、友人達に会い、当時の対立者にもインタヴューし、時代を語る。なかなかおもしろい本だが、革命ごっことサブカルと天皇擁護につきあうのも、時間の無駄とも思う。最後には、必死になって杉田水脈の差別発言を擁護している。やはり、全共闘世代と言うべきか。

Saturday, November 03, 2018

平和への権利を語り合うワークショップ


201612月に、国連総会で採択された、平和への権利宣言。平和への権利とは、どのようなものなのか。“人権というモノサシで社会を測るワークショップ”、“自分の平和―彼らの平和の繋がりをマッピングするワークショップ”で、平和への権利を具体的に考え、語りあいましょう。(高校や大学の授業にも導入できるようパッケージ化したワークショップです)



【日時】 119日(金)18時半~

【場所】 新宿男女共同参画センター・ウィズ新宿

【参加費】500

https://www.city.shinjuku.lg.jp/kusei/file12_01_00001.html

新宿区荒木町16番地

都営新宿線曙橋4番出口・徒歩1分/丸ノ内線四谷三丁目4番出口・徒歩10



【ワーク1】「平和な状態を測る」(45分)

人権というモノサシで社会を測る



【2】ワーク「繋がりマップ」(45×2回)

私―あの人/私たちの平和―彼らの平和

繋がりをマッピングすることで、どこまで”彼らの平和”を”私たちの平和”として考えられるか



ファシリテーター:暉峻僚三(てるおか りょうぞう)川崎市平和館専門調査員音楽制作、テレビ番組ディレクターを経て、英国・オーストリアの大学院(修士課程)修了。その後、国際民間協力会ミャンマー巡回医療現地統括、国際市民ネットワーク コソボ多民族融和促進事業統括。2011年に帰国後、川崎市平和館専門調査員。平和教育プログラムの作成やファシリテーション、平和のためのやりとりの場作りを行う。



主催:平和への権利国際キャンペーン日本実行委員会

          電話 070-2307-1071FAX 03‐3225‐1025

          right.to.peace2015@gmail.com

共催;平和学会 平和教育プロジェクト委員会








Friday, November 02, 2018

人種差別撤廃委員会に関する私の報告


8月に開催された人種差別撤廃委員会に関する私の報告。



「人種差別撤廃委員会の日本審査(一)(二)」『部落解放』763号・765号(2018年)

「日本軍「慰安婦」問題人種差別撤廃委員会報告」『救援』594号(2018年)

「四半世紀、国連人権機関に通い続けて思うこと」『子どもと教科書全国ネット21ニュース』122号(2018年)

「国連人種差別撤廃委員会は日本に何を勧告したか」『国際人権ひろば』142号(2018年)

「朝鮮学校差別撤廃の勧告――人種差別撤廃委員会・日本審査」『マスコミ市民』10月号(2018年)

「国連人種差別撤廃委員会、日本に四度目の勧告」『人権と生活』47号(2018年予定)

「人種差別撤廃委員会の四度目の勧告――ヘイト・スピーチ問題を中心に」『法と民主主義』533号(2018年予定)