Wednesday, February 28, 2018

在日本朝鮮人総連合会中央本部への銃撃テロに対する声明


在日本朝鮮人総連合会中央本部への銃撃テロに対する声明



去る2月23日未明、在日本朝鮮人総連合会中央本部(以下、朝鮮総連)を2名の「右翼活動家」が銃撃した。数発の銃弾が撃ち込まれ、その中には門扉を貫通したものもあったという。門扉の近くには警備室が置かれ、警備員が宿直をしていた。死傷者が出なかったのは不幸中の幸いであった。

朝鮮総連に対する今回の銃撃事件は文字どおりのテロであり、許しがたい犯罪である。このテロは、在日朝鮮人(朝鮮半島出身者及びその子孫)を不安と恐怖に陥れた。私たちはこのテロを強く非難する。

 朝鮮総連は、日本の朝鮮植民地支配の結果、生活苦など日本に渡航せざるを得なかった人々、また戦時下で強制的に日本に動員された人々が、様々な事情で解放後も日本で生活することを余儀なくされる中で組織した団体である。この団体に結集する人々は、従来から日本社会において差別、偏見にさらされ、「朝鮮人は日本から出て行け」「朝鮮人を殺せ」等のヘイトスピーチ等を受けてきた。しかし、今回の事件は、これまでのヘイトスピーチのレベルをはるかに超えるものである。

実行犯の動機などの詳細は現時点では明らかになっていない。ただ、逮捕された被疑者の一人が、一再ならず右翼テロを実行した経歴を持ち、大阪等で在日朝鮮人に対するヘイトスピーチ等を繰り返してきた事実は報道等で指摘されている。事件の背景に在日朝鮮人への差別・排外主義があったことは殆ど疑いがない。ヘイトクライムを軽視、放置する社会の風潮が、彼らをして銃撃テロにまで踏み込ませてしまったとも言える。

同時に見過ごせないのは、今回の事件が朝鮮半島危機の下で発生したことである。朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)が核開発を進めていることは決して容認できない。しかし、朝鮮が核・ミサイル開発に固執する背景に、朝鮮半島が休戦状態のまま終結していないこと、朝鮮戦争時、さらには休戦後も米国が朝鮮に対し幾度も核攻撃を計画した事実があることも見ておかなければならない。朝鮮への制裁を強化し、軍事的圧力を強めるだけでは問題解決には至らないのである。

ところが、安倍政権は朝鮮の軍事的脅威を煽るのみで、「対話のための対話は無意味」と言って外交的、平和的解決への道筋を拒否している。それが国民の中の朝鮮への「何をするか分からない」との不安、反発、敵愾心の醸成にも影響を及ぼしている。今回のテロは、このような安倍政権の対朝鮮政策と無縁ではない。

加えて警戒すべきは、ネット上でヘイト団体等が、今回のテロを「義挙」と持ち上げ、他方では「朝鮮総連による自作自演」とのデマ、「総連だから仕方がない」と容認する言説まで流布させている事実である。テロを容認する言説がはびこることは実に深刻で危険な事態と言わざるを得ない。

このような動きを軽視・容認するならば、在日朝鮮人へのいっそうの差別・排外と迫害――ヘイトクライム助長へと帰結することは必定である。さらには朝鮮の核・ミサイル問題の「軍事的解決」――対朝鮮武力行使を容認する「世論」を高めかねない。それは日本と朝鮮のみならず、東アジア全体の平和を破壊し、この地域の人びとに甚大なる被害をもたらす。関東大震災時朝鮮人虐殺の歴史を私たちは忘れるべきではない。事態がこのように進行していくことを何としても止める必要がある。

 そのためには、今回の銃撃事件を単なる「建造物損壊」などと矮小化することなく、テロリズムであり、民族憎悪に基づくヘイトクライムとして非難する世論を高めていかなければならない。政府、報道機関はその先頭に立ち、テロは許さないという態度を毅然と示すべきである。ネット等で流布される過激なヘイトスピーチや、無責任で排外的、好戦的な言説に批判を加えること抜きに、人権と民主主義を守り、平和を維持することはできない。ヘイトスピーチ解消推進法の制定にとどまることなく、包括的な人種差別禁止法、ヘイトスピーチ規制法の制定へとさらに歩を進めていくときである。

そして、政府は、今こそ日朝国交正常化と植民地支配の清算に踏み切るべきである。今回の事件の淵源が植民地主義の未清算にあることは明白である。その中でこそ拉致問題の最終的解決も図られる。

テロを決して容認せず、在日朝鮮人が安心し、安全に暮らすことのできる社会をつくっていくことにより、日本と東アジアの平和と共生を実現することが私たちに課せられた課題である。



                  2018年3月**日



<呼びかけ人>30名

浅野健一(同志社大学大学院教授)                   

足立昌勝(関東学院大学名誉教授)

庵逧由香(立命館大学教員) 

石坂浩一(立教大学教員)

一盛 真(大東文化大学教授) 

上村英明(恵泉女学園大学教員)

鵜飼 哲(一橋大学教授)

内田博文(九州大学名誉教授)

岡野八代(同志社大学教授)

河かおる(滋賀県立大学教員)

木村 朗(鹿児島大学教授)

小林知子(福岡教育大学)

佐々木光明(神戸学院大学教授)

佐野通夫(こども教育宝仙大学)

清水雅彦(日本体育大学教授)

高橋哲哉(哲学者)

高橋直己(平和と自治のひろば)

田中利幸(元広島市立大学広島平和研究所教授)

田中 宏(一橋大学名誉教授)

田村光彰(北陸大学元教員)     

戸田ひさよし(大阪府門真市議)

中野敏男(東京外国語大学名誉教授)

野平晋作(ピースボート共同代表)

前田 朗(東京造形大学教授)

桝田俊介(無防備地域宣言運動全国ネットワーク共同代表)

松島泰勝(龍谷大学教員、琉球民族遺骨返還研究会)

宮本弘典(関東学院大学教授)

矢野秀喜(朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動事務局長)

吉澤文寿(新潟国際情報大学教授)

与那覇恵子(名桜大学)






***************************************



*第1次集約を3月5日とします。



*声明に賛同いただける方は、下記情報を前田宛て(E-mail:maeda@zokei.ac.jp)にメールで送ってください。団体の賛同の場合は団体名をお知らせください。

・お名前(ふりがな)

・所属(又は肩書き)




*声明には呼びかけ人及び賛同人のお名前と所属等を掲載します。団体は団体名を掲載します。メールアドレスは掲載しません。



*拡散(転送、転載)歓迎。周囲の方に広めてください。

Wednesday, February 21, 2018

「慰安婦」強制連行の証明


今田真人『極秘公文書と慰安婦強制連行』(三一書房)
第1章 戦時動員職種に未成年朝鮮人女性の「接客業」
第2章 吉田清治氏が属した労務報国会を追う
第3章 奥野誠亮氏の死去
第4章 「業者」は初めから軍の偽装請負・手先
第5章 国会図書館が「極秘通牒」を内閣官房に提出
第6章 労務調整令の前身、青少年雇入制限令
第7章 発見した1938年当時の外務省関連文書
第8章 公文書が示す「慰安婦」強制連行のルートと人数
第9章 女子動員計画に「民族力強化」の言葉
10章 婦女売買を禁じた戦前の国際法
【抜き書き】「慰安婦」強制連行関連の公文書(1938年中の外務省関連の公文書12点全文他、全41の資料を書き起こし)
朝日新聞が「吉田証言の検証」と称して歴史修正主義の立場を表明したことに対して、著者は、次の2冊の著書で、吉田証言の意義を明らかにし、一次資料に基づいて「慰安婦」強制連行の実相を追及してきた。
今田真人『吉田証言は生きている』(共栄書房)
前田朗編『「慰安婦」問題の現在―「朴裕河現象」と知識人』(三一書房)
著者はその後も極秘公文書の調査を続け、今回1冊の著書として送り出した。外交史料館等の重要資料がこれまできちんと検証されてこなかったので、著者は一つひとつ読み込み、比較・検証して、資料の真義を確認している。
一例をあげると、歴史修正主義の典型例の一つである「業者主犯説」に対して、「業者」なる者の実態がそもそも軍関係等の人物であったこと、「業者」と称しているが軍の下部機関と言った方が早いこと、当時の植民地や戦地の交通手段(渡航証明書等)や食事の実際から言って、軍の組織的寛容がなければ、慰安婦を募集することも移動させることも、食事を提供することも不可能であったことなどを次々と明らかにしている。
本書で利用している資料のほとんどの抜き書きが巻末に「資料」として収録されているので、読者は資料に遡って、著者の論述の成否を自分で検討することができる。
「慰安婦」問題に詳しくない一般の世論では、「慰安婦」強制連行の否定という頓珍漢な見解が幅を利かせているが、日本政府・安倍政権が否定しているのは、軍による強制連行や強制連行への軍の関与である。「慰安婦」強制連行の証拠は多数あるが、軍による強制連行や強制連行への軍の関与、特に軍がそのような命令を下した証拠の存在である。ここでは、証拠そのものが争われているのではなく、証拠の「解釈」が争われている。どれだけ証拠があっても、恣意的な「解釈」によって軍の関与を否定するのが安倍流である。
これに対して、著者は、軍でなければ「慰安婦」の募集や連行が不可能であったこと、実際に軍が強制連行に関与したことを論証する。
政府及びマスコミは本書を無視するだろう。本書が注目を集めて議論の対象になることは歴史修正主義者にとっては困りものだからだ。
著者はあとがきで次のように指摘する。
「朝日新聞の検証記事は、何度読んでも、学者などの見解(二次資料)を根拠にしたものばかりで、いっこうに、一次資料が明示されない。…(中略)…朝日新聞の検証記事に登場した何人もの学者・研究者からは当然、吉田証言を否定する一次資料を駆使した論文が、すぐに発表されると思ったが、いつまで待ってもそんなものは出てこない。日本の『知識人』は、本当にどうしてしまったのだろうか。」
これを読んで「恥」を知る「知識人」――朝日記者も歴史研究者もいないだろう。元々、歴史修正主義者たちなのだから、恥を恥とも思わないだろう。著者が名指しているのは、秦郁彦だけではない。外村大も名指されている。
ちなみに、外村歴史学のいかがわしさについては下記参照。



Monday, February 19, 2018

インタヴュー講座<憲法再入門>第2回 in横浜 平和力フォーラム2018


インタヴュー講座<憲法再入門>第2回in横浜
平和力フォーラム2018

第2回 「憲法は誰のものか――安倍改憲論の基本認識を問う」
日時:4月14日(土)開場13時30分、開会14時~17時閉会  
会場:横浜市開港記念会館(2階9号室)
横浜市中区本町1-6  みなとみらい線「日本大通り駅」(1番出口)徒歩1分  JR京浜東北線「関内駅」(南口)徒歩10分、市営地下鉄「関内駅」(1番出口)徒歩10分 
資料代:500円

小沢隆一(東京慈恵医科大学教授)「憲法は誰のものか――安倍改憲論の基本認識を問う」
プロフィル
小沢隆一(おざわ・りゅういち):東京慈恵医科大学教授(憲法学)。主著に『歴史のなかの日本国憲法』(地歴社)『はじめて学ぶ日本国憲法』(大月書店)『クローズアップ憲法』(法律文化社)『市民に選挙をとりもどせ!』(大月書店)『フランス近代予算議決制度の「転回点」』(政治資金)など多数。20157月には安保法制を審議した衆議院平和安全法制特別委員会で公述人を務める。

インタヴュアー:前田朗

主催:「インタビュー講座IN横浜」実行委員会            
連絡先:080-4536-3505または090-8818-1431

イスラームの側から世界史を書き直す


中田考『帝国の復興と啓蒙の未来』(太田出版)
イスラームの側から世界史を書き直す試みである。サイードのオリエンタリズム以来、戦後民主主義の実態がアメリカの圧倒的影響であり、さらに西欧中心主義であることが常識となり、西欧中心主義を克服する努力がなされてきたが、本書を読み通すと、それが全く不十分であったことに気づかされる。
単にイスラームに関する知識を追加すればよいと言うものではない。政治、経済、社会、文化に抜きがたく沁みついた心性と如何に対質するかが問われている。なまなかなことでは西欧中心主義を克服など出来はしない。そこには植民地主義も含まれる。長期にわたる思想的課題である。
第一章 西洋とイスラーム
ムスリム難民の可視化
ウエルベックと『服従』
『服従』から見るヨーロッパとイスラーム
『服従』が描くイスラーム政権の未来
ヨーロッパとは何か
ヘレニズムとヘブライズム
イスラーム・コンプレックス
十字軍パラダイムを超えて
キリスト教の神の国とイスラームのウンマ
10 キリスト教世界とダール・イスラーム
第二章 イスラーム文明論
イスラーム文明
イスラームと歴史
規範的イスラーム
宗教とシャリーア
イスラーム前史
イスラーム文明の誕生
イスラーム文明の祖型マディーナ
正統カリフ時代
ウマイヤ朝とアッバース朝におけるイスラーム文明の成立
10 イスラーム文明による世界の一体化
11 パクス・モンゴリカの時代からモンゴルのトルコ・イスラーム化へ
第三章 イスラームと啓蒙の文明史
啓蒙のプロジェクト
リヴァイアサン崇拝
イスラーム世界の植民地化
植民地支配に対する反応の類型論
イスラーム復興主義ワッハーブ派
18世紀におけるネオ・スーフィズムの宗教改革
サファヴィー朝とオスマン帝国の崩壊
イスラームと、インド、ロシア、中国
オスマン帝国崩壊後のカリフ不在の下でのイスラーム運動の展開
10 スンナ派とシーア派の対立の21世紀
終章 文明の再編

Thursday, February 15, 2018

目取真俊の世界(4)青少年小説への展開


目取真俊『魂込め(まぶいぐみ)』(朝日新聞社、1999年)
沖縄という場所に根ざした文学の系譜に新しい文体を切り拓いている目取真俊の初期作品集だ。
表題作「魂込め(まぶいぐみ)」は、フミの夫の幸太郎が魂(まぶい)を落とし、口の中にアーマン(オカヤドカリ)が住み着いてしまうという奇抜なスタートである。ウタの魂込めの努力のさなか、集落の関係者、カメラマンたちの騒動になり、爆笑物の大活劇で幕を閉じる。ウタやフミや幸太郎の歴史が語られるや、沖縄戦の悲劇が浮上し、海亀と生と死の巧みな語りが作品に落ち着きを与える。
「ブラジルおじいの酒」では、ブラジル移民となり、沖縄に戻ったおじいと地元の少年の交流を通して、沖縄とブラジルという異なる神話的世界を結び、沖縄の現在を描く。
「赤い椰子の葉」では、主人公のぼくと、同級生のSの出会いと別れの間に、米軍駐留と少年の性の目覚めを鮮やかに記録する。
「軍鶏」では、父親からもらった軍鶏を育てる少年の立場から、沖縄の民衆における軍鶏の象徴性を浮かび上がらせる。地元の暴力団による支配と、一般庶民の抵抗が、結末では少年による復讐劇となる。
「面影と連れて(うむかじとうちりてい)」では、ガジマルの木に座った主人公の女性(その魂)の語りが、沖縄の信仰と暮らしを提示するが、海洋博の工事でやってきた労働者の登場により、ヤマトと沖縄の歴史がスパークする。労働者は、皇太子訪沖に抵抗する活動家の仮の姿だったからだ。
「内海」では、夫によるDVから逃れて自殺した母親の記憶を語る主人公の少年期と青年期、家族、墓、そして歴史が悲しい。
ここには沖縄の青少年の夢と希望と落胆と涙が打ち寄せる波のように繰り返し取り上げられている。視点はさまざまであり、語りのスタイルにも試行錯誤が続く。沖縄の信仰、沖縄戦、移民、米軍駐留といった歴史と庶民の日常がからみあい、そのなかで水中から必死で頭を出して息を吸う登場人物たちの悲劇と喜劇が織りなされる。目取真の物語は主人公たちに幸福を約束しない。行く先は悲しい死への曲がりくねった道だ。それでも目取真の視線は主人公たちに優しく、温かく注がれている。少年小説、成長小説の側面を持ちながら、厳しい歴史と記憶に迫る工夫が並々ならぬ文体を可能にしている。

Wednesday, February 14, 2018

映画『ラッカは静かに虐殺されている』


必見のドキュメンタリーは山ほどある。感動の物語や凄絶な映像は数えきれないほどある。言葉を失う衝撃のドキュメンタリーも枚挙にいとまがない。
 ドキュメンタリー映画『ラッカは静かに虐殺されている(City of Ghosts)』は、そのいずれにも該当するが、いずれからも逸脱する。
最悪のシリア内戦の渦中、イスラム国(IS)の首都とされたラッカからイスラム国の宣伝画像が発信され、インターネット世界を駆け巡った。公開処刑、暗殺、拷問を堂々と宣伝し、イスラム国の正統性と豊かさを誇る宣伝映像である。
これに対して敢然と抵抗したのが匿名の市民ジャーナリストたちだった。スマホで撮影した殺戮と抑圧の現実をラッカから世界へ発信したのだ。市民ジャーナリスト集団「ラッカは静かに虐殺されている(RBSS)」は、世界のジャーナリストが入ることのできないラッカから悲惨な現実の証拠映像を次々と世界に送り出し、イスラム国と闘った。
正体が露見すれば逮捕され、投獄される。拷問と処刑が待っている。危険に身をさらし、ラッカに居られなくなった者は隣国トルコに、さらにはドイツに亡命する。ラッカで撮影するメンバーたちと、ドイツで編集し世界に発信するメンバーたち。しかし、亡命メンバーの家族が投獄され、殺害される。正体が発覚すれば暗殺指令が出される。暗殺者はどこからやって来るかわからない。遠く離れたドイツも安心できる場所ではない。
アジズは元学生だ。ハムードは父親を身代わり殺害され兄弟も行方不明になった。数学教師だったモハマド。ハッサンはロースクール生だった。
映像は彼らの闘いと苦悩、決意と恐怖、勇気と震えをくまなく描き出す。メキシコ麻薬密売地帯の潜入ドキュメンタリーで話題となったマシュー・ハイネマン監督とスタッフはRBSSと行動を共にし、RBSSの「日常」を撮影した。
内戦と殺戮が静かに進行する。世界はラッカを見放してしまったのか。抵抗も静かに敢行される。スマホによる秘密撮影だ。匿名の市民が命がけでひそかに撮影した映像が世界に送られる。匿名のRBSSメンバーを追いかけた映像も奇妙な静けさに満ちている。
市民ジャーナリズムが世界を変える挑戦を、並走し追体験し世界に突きつけるドキュメンタリー・スタッフの闘いも見事だ。
 映画は2017年初めに完成した。その後のイスラム国崩壊は描かれていない。中東ジャーナリストの川上泰徳によると、RBSSの発表では2017年のラッカでの民間人死者は3259人だが、そのうちイスラム国による殺害被害者は548人にすぎない。63%に及ぶ2064人は米軍・有志連合軍の空爆による死者であった。ナイフによる斬首を悪魔の所業と非難しながら、空爆で膨大な市民を殺戮するアメリカの正義。それゆえ、RBSSはイスラム国と闘うだけでなく、米軍・有志連合軍による破壊と殺戮にも警鐘を鳴らしている。2017年10月、ラッカが制圧されると、クルド人民兵による襲撃がラッカを襲った。クルド人による新たな占領が始まった。RBSSの闘いは終わらない。
 『ラッカは静かに虐殺されている』は4月14日よりアップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開。
 アップリンク渋谷


Monday, February 12, 2018

暮らしのデザイナーの伝記物語



沢良子『ふつうをつくる――暮らしのデザイナー 桑澤洋子の物語』(美術出版社)
小さいがキラリと光る好著だ。戦後の高度成長期に庶民の服装や制服をデザインした桑沢洋子(1910~1977)の伝記物語である。
洋子は1930年代、女子美術大学を卒業後、新建築工芸学院で建築・美術・デザインの分野の人々に出会い、雑誌記者として活躍した。交流したのは、橋本徹郎、田村茂、名取洋之助、土門拳、亀倉雄策、高松甚二郎、高橋錦吉といった錚々たる名。「主婦感覚」を活かした台所の設計に始まり、「生活の新様式」に挑む。
1947年には洋裁教育に乗り出し、多摩川洋裁学院に始まり、バウハウスの教育に学びながら1954年、桑沢デザイン研究所を創設。橋本徹郎、佐藤忠良、朝倉摂、金子至、高松太郎らとデザイン教育を本格化させた。1964年の東京オリンピックにはデザインで「参加」した。勝見勝、亀倉雄策、そして洋子。1966年、東京造形大学を設立し、学長に就任。その人生とデザイン思想、デザイン教育をコンパクトにまとめている。文章は読みやすいし、素人にもわかりやすい。
本書の何よりも重要な貢献は、1954年にバウハウスの創立者グロピウスが来日し、桑沢デザイン研究所を訪問した時の記録(アルバム)を発掘したことだ。グロピウスがアルバムに残した文章、勝見勝と剣持勇の書き込み。その存在は関係者に語り継がれてきたが、紛失したと考えられていた。四半世紀も前に私は「紛失した」という話を聞かされた。そのアルバムを著者が発見し、本書(145頁)に写真を掲載している。
バウハウスの教育方法と理念を継承し、ニューバウハウスとウルム造形大学にも学んできた桑沢デザイン研究所と東京造形大学にとって最重要の歴史的記録である。その発見は関係者にとって重要なエピソードというにとどまらず、日本のデザイン史及びデザイン教育史にとっても重要だろう。

Monday, February 05, 2018

目取真俊の世界(3)消えゆく言語で小説を書くということ


目取真俊「沖縄語を使った小説表現」『神奈川大学評論』(2017年)
1966年に発表された大城立裕の「亀甲墓」における<実験方言>は、沖縄の政治状況を背景として「沖縄人とは何か」という文化状況を書いたもので、<沖縄の神話的世界>を提示した。沖縄語を使うとヤマトゥの読者は理解できないが、「標準語」で会話するのも不自然だ。そのために<実験方言>が作り出された。標準語と沖縄語の間で、小説のためにつくりだされた表現である。目取真は「それは読者の枠を広げる一方で、沖縄語を自由に話せる沖縄人には違和感を与えることにつながっただろう」と言う。
 1971年に芥川賞を受賞した東峰夫の「オキナワの少年」は、一歩進めて、感じで意味を伝え、ルビで音を伝える方法で当時のコザの庶民が実際に使っていた話し言葉を表現しようとした。ところが、大城立裕はこれを評価しなかった。目取真は「漢字とルビの組み合わせで新しいイメージをつくりだそうと言う言葉遊び」を評価する。
2009年の目取真俊『眼の奥の森』は、漢字だけでなくひらがなにもルビをふり、「沖縄語を知らない人はもとより、知っている人にも読むのが難しいかもしれない。それでも、沖縄語を使ってどこまで表現可能か追求しようと考えた」のである。
最後に目取真は「やがて沖縄語を使って小説を書く者がいなくなるかもしれない。そうなる前に沖縄語でここまでは表現された、という領域を少しでも広げておきたい、という思いがある」と言う。「消えゆく言語で小説を書くということはどういうことなのか」と問い続けながら。
目取真の最新の文章の一つだろう。

Thursday, February 01, 2018

<憲法再入門>第1回 水島朝穂「立憲主義をとり戻すために」


インタヴュー講座<憲法再入門>第1回 
平和力フォーラム2018

第1回  立憲主義をとり戻すために
日時:4月7日(土)開場13時30分、開会14時~17時閉会
会場:韓国YMCA国際ホール(9階)
東京都千代田区猿楽町2-5-5
JR水道橋駅徒歩6分、御茶ノ水駅徒歩9分、地下鉄神保町駅徒歩7
資料代:500円

水島朝穂「立憲主義をとり戻すために」
プロフィル:
水島朝穂(みずしま・あさほ):早稲田大学法学学術院教授。専攻・憲法・法政策論・平和論。主著に『現代軍事法制研究――脱軍事化への道』(日本評論社)、『平和の憲法政策論』(同)、『ライブ講義 徹底分析!集団的自衛権』(岩波書店)、『武力なき平和――日本国憲法の構想力』(同)、『18歳からはじめる憲法(2)』(法律文化社)、『はじめての憲法教室――立憲主義の基本から考える』(集英社新書)など多数。NHKラジオ第一放送「新聞を読んで」レギュラー14年(19972011年番組終了)とその著書化『時代を読む-新聞を読んで』(柘植書房新社)。

インタヴュアー:前田朗

主催:平和力フォーラム
192-0992 東京都八王子市宇津貫町1556
東京造形大学・前田研究室
042-637-8872
E-mail:maeda@zokei.ac.jp