Monday, December 04, 2023

「包括的差別禁止法をつくろう~海外の動向も踏まえて~」12.7

 国連・人権勧告の実現を!第11

「包括的差別禁止法をつくろう~海外の動向も踏まえて~」

 

日 時:2023127日(木)午後5時~730

(通行証配布・受付開始:午後430分より)

会 場:衆議院第一議員会館 1階 多目的室

内 容:

・講演:「包括的差別禁止法をつくろう!」

 講師:前田朗さん(朝鮮大学校法律学科講師)

・特別報告

 ①朝鮮学校差別の今

 ②入管難民法の問題とこれから

 ③関東大震災100年の年に

・発言 ご出席の国会議員から

資料代:500円(学生無料)

(今回は、賛同金を募集しませんので、資料代をお願いします)

主 催:「国連・人権勧告の実現を!」実行委員会

     https://jinkenkankokujitsugen.blogspot.com/

連絡先:090-9804-4196(長谷川)

    jinkenkankokujitsugen@gmail.com

 

前田朗さん

 1955年札幌生まれ。 主著に『ヘイト・スピーチ法研究原論』『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)『旅する平和学』(彩流社)。最新の編著は『ジャーナリストたち』(三一書房)。

 

 日本には未だに人種差別や性差別を禁止する法律がありません。

 政府から独立した国内人権機関もなければ、国連の人権条約機関への個人通報制度もありません。

 国連の各種人権条約機関は、日本政府に対して、差別禁止法・国内人権機関・個人通報制度を備えることを繰り返し勧告してきました。

 しかし、日本政府はそれらの勧告を無視し続け、差別による被害を放置し続けています。様々な差別が野放しにされた状態であり、差別を受けた人々は、多大な労力をかけて現行法制度の枠内で闘うか、あるいは泣き寝入りすることを強いられています。

 私たち「国連・人権勧告の実現を!-すべての人に尊厳と人権を-実行委員会」は、このような日本社会を変えるべく、様々な人権問題に取り組む個人や団体が連帯して活動しています。

 毎年、1210日の「世界人権デー」前後に、すべての人の人権を尊重する社会づくりを考えるための集会を開催しています。

 今年は、東京・永田町の議員会館にて、包括的差別禁止法について学び、考える時間を持ちたいと思います。

 また、日本の人権課題についての特別報告もあります。

 ぜひ奮ってご参加ください。

Friday, November 03, 2023

東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会第28回公開シンポジウム

「東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会」第7回年次総会

28回公開シンポジウム

「揺れ動く国際情勢と日本・沖縄の未来」

 

期日:2023年1111日(土)18302100(開場1800

会場:てぃるる3階会議室 (〒900-0036沖縄県那覇市西3-11-1

資料代:500円(非会員のみ)※事前申し込みは必要ありません。駐車場あり。

【お問い合わせ】木村朗:TEL090-2856-0955Mail:k6813082kadai.jp

 

Ⅰ 開会の挨拶(18301840) ※10分  

司会者:木村 朗(鹿児島大学、研究会共同代表)

※東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会の活動報告など

 

Ⅱ 【基調報告】 (18401910

西原和久(名古屋大学名誉教授)「平和社会学と東アジア共同体論――

  資本主義と国家主義をこえるトランスナショナルな共生と連携を求めて――」

 

Ⅲ 【第二報告】 (19101935

宮城(内海)恵美子(元琉球大学・研究会執行委員)

「鳥の目で琉球孤を見る」 

※質疑応答(19351945)後に、休憩約10

 

Ⅳ  【第三報告】 (19452010

前田朗(研究会共同副代表)

「グレート・ゲームを超えてーーアフガニスタンと日本」

 

Ⅴ  【第四報告】 (20102035

与那覇恵子(研究会共同代表)「114回ピースボート世界一周の船に乗って🚢

 

Ⅵ 質疑応答 (20352050

Saturday, September 30, 2023

「法の日」について

930日の朝日新聞夕刊の「素粒子」欄に次の一文がある。

<あすは法の日。昭和の初めに陪審法が施行された日にちなむ。成立・公布はその5年前。今年でちょうど100年。>

日本で初めて陪審制を導入した陪審法にちなんで101日を法の日に定めたという。これは間違いではないが、ニュアンスが事実とはかなり異なるところがある。

私は大学院生時代に、この件を調査したことがある。当時の資料がいま手元にない。当時、私が書いた文章も手元にないので、40年以上前の記憶だけに頼って書くと、次のようなプロセスである。

1923年 陪審法公布

1928年 陪審法施行(101日。一部は1927年に施行していた)

1943年 陪審法施行停止

1943年に施行を停止した陪審法の施行停止を解除しないまま、101日を法の日にしたというのは奇妙な話である。わざわざ法の日を101日にするのであれば、施行停止を解除していなければおかしい。

そこでさらに調べると、第2次大戦前、司法部内で「司法の日」が記念されていた。101日を選んだのは、1928101日に天皇が東京地裁を訪問し、1940年頃(正確な年数を記憶していない)の101日にも天皇が東京地裁を訪問した(裁判所構成法の関連だったと記憶しているが、定かでない)。昭和天皇が裁判所を訪問したのはこの2回だけであった。そこで「司法の日」とされた。

第2次大戦後、「司法の日」記念式典はいったんなくなった。

1960年、いわゆる「60年安保」の激動の年に、安保に反対する民衆の運動が盛り上がった。これに対して、最高裁判所や法務省が危機意識を持ち、国民に対して上から「法を守れ」と意思表示をするために、「法の日」を制定した。その際に「司法の日」と同じ日付とした。

これには日本弁護士連合会も協力した。このため、日弁連の機関誌『自由と正義』が法の日特集を組んでいる。何号だったか記憶していないが、196010月より少し後のことだ。

そこには、第1に、平賀健太(法務省民事局長)の論文が掲載されている。後に19699月、札幌地裁所長として「平賀書簡問題」を引き起こした平賀健太である。「司法反動」の引き金を引いた平賀である。

2に、大きな写真が1枚掲載されている。日弁連会長ら、及び各地の単位弁護士会の会長らが、昭和天皇に謁見したとかで、その直後の記念写真である。

101日を法の日にしたのは、陪審法のためと言うよりも、天皇制司法のためである。おまけに、「司法反動の記念日」である。その際、天皇に拝謁して大喜びしたのが全国の弁護士たちである。

以上は、40数年前に調べた私の記憶である。不正確なところもあるかもしれないので、どなたかきっちり調査してくれると良いのだが。

Thursday, September 28, 2023

コリアン・ジェノサイドとしての関東大震災朝鮮人虐殺

1999年と2000年の国連人権委員会(現・国連人権理事会)で「関東大震災朝鮮人

虐殺はジェノサイドである」と発言して20数年になる。

その後も時折、同じ主張を著書や論文に書いてきたが、今年は虐殺100年の節目に当たる。この夏、10回ほど機会をいただいて、コリアン・ジェノサイドについて講演してきた。

101日にヒロシマ講座で同じテーマの報告をさせてもらうので、私のコリアン・ジェノサイド論を一応まとめたい。

国際法の議論としてはまだまだ不十分で、理論的に詰め切れていないが、101日の講演のレジュメを下記に貼り付ける。

https://maeda-akira.blogspot.com/2023/09/blog-post.html

「コリアンジェノサイド」としての関東大震災朝鮮人虐殺

10 1 () 13:3016:30

会場:新宿区男女共同参画推進センター

 

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2023年10月1日

ヒロシマ講座

新宿区男女共同参画推進センター

 

コリアン・ジェノサイド

関東大震災朝鮮人虐殺

前田朗(朝鮮大学校講師)

 

 

写真①ほうせんかの家と追悼碑

荒川土手、四つ木橋

 

 

<報告の趣旨>

    関東大震災朝鮮人虐殺をジェノサイドの視点から考える。

    関東地方における一つの事件としてだけではなく、日本による朝鮮植民地支配全体の中に位置付ける。

    世界史における出来事として位置づけ、近現代におけるジェノサイドと比較する。

    朝鮮植民地支配と虐殺事件を国際法のレンズを通して見直す。

    生物学的物理的ジェノサイドだけでなく、文化ジェノサイド概念を参考に、近現代日朝関係史及び在日朝鮮人史を再検証するための視座を設定する。

    ジェノサイド状況を認定するだけでなく、ジェノサイド犯罪の成立について検討する。

 

写真②横網町公園、慰霊堂

朝鮮人犠牲者追悼碑

石原町遭難者碑

 

一 はじめに

 

1 人種差別撤廃委員会 1995年、日本が人種差別撤廃条約批准

            1997年、人種差別撤廃委員会を傍聴

            ヘイト・スピーチという言葉に出会う

            1998年秋「テポドン騒動」でヘイト・クライムと表現

2 国連人権委員会   19982000年、国連人権委員会に報告

            Armenian GenocideJews Genocide

            Kanto Genocide in 1923

                     Korean Genocide in Kanto at 1923

3 国連国際法委員会  199195年の植民地支配犯罪論

            1996年・人類の平和と安全に対する罪の法典草案

            1998年・国際刑事裁判所規程

4 ダーバン会議    2001年の獲得目標:植民地支配は人道に対する罪

            宣言:植民地支配下の奴隷制は人道に対する罪

5 最近の研究     加藤直樹『九月、東京の路上で――1923年関東大震災

ジェノサイドの残響』(ころから)

            康成銀『康ソンセンニムと学ぶ 朝鮮と日本の2000年』

(スペース伽耶)

『記録集・関東大震災95周年朝鮮人虐殺犠牲者追悼シ

ンポジウム――関東大震災時の朝鮮人虐殺と植民地支

配責任』(朝鮮大学校朝鮮問題研究センター)

佐藤冬樹『関東大震災と民衆犯罪』(筑摩書房)

――エスノサイド

6 植民地化過程の研究 井上勝生『明治日本の植民地支配』(岩波書店)

            ・東学農民戦争における川上操六参謀次長兼兵站総監

            ・飛鳥井少佐の問い合せと仁川兵站監部の回答

            ・島田為三郎軍曹の手紙(『徳島日日新聞』)

            ・町田盛四郎軍曹の手紙(『宇和島新聞』)

            ・南小四郎大隊長・講和記録

 

写真③中国人虐殺現場、大島町大島文化センター前

 

二 ジェノサイドとは何か

 

1 ラファエル・レムキン

・アルメニアの虐殺を犯罪化する刑法

1944年著作でジェノサイドを提案

・「国民集団の文化や、言語、国民感情、宗教、経済の存在を解体したり、その集団に属する個人の人身の安全、自由、健康、尊厳や生命を破壊することである。ジェノサイドは、統一体としての国民集団に向けられ、その行為が個人に向けられるのは、その個人の特性によるのではなく、その国民集団の一員であることによる。」

 

2 ジェノサイド条約

1948年国連総会、ジェノサイド条約

・第2条「この条約において、ジェノサイドとは、国民的、人種的、民族的又は宗教的な集団の全部又は一部に対し、その集団自体を破壊する意図をもって行う次のいずれかの行為をいう。

a      当該集団の構成員を殺害すること。

b      当該集団の構成員の身体又は精神に重大な害を与えること。

c      当該集団の全部又は一部に対し、身体的破壊をもたらすことを意図した生活条件を故意に課すること。

d      当該集団内部の出生を妨げることを意図する措置をとること。

e      当該集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。」

・要素(1)集団の全部又は一部

・要素(2)集団を破壊する意図

・要素(3)実行行為(a)~(e

 

3 国際刑事裁判所規程

1994年ルワンダ国際刑事法廷規程

1998年国際刑事裁判所規程

2002年ハーグ(オランダ)に国際刑事裁判所

 

4 国際裁判判決

・国際刑事法廷初のジェノサイド事件:1998年ルワンダ法廷アカイェス事件

・カンバンダ事件、ムセマ事件、カイシェマ事件、セルシャゴ事件

・現在は国際刑事裁判所でジェノサイド判決

 

写真④王希天虐殺現場、逆井橋

大島町7丁目・サンロード中の橋

大島緑道公園

 

三 ジェノサイドの現代史

 

・歴史学、国際政治学におけるジェノサイド

・ジョージ・アンドレプーロス編著『ジェノサイド』

 

1 ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺

 

2 アルメニア・ジェノサイド

 

3 クルド・ジェノサイド

 

4 カンボジア・ジェノサイド

 

5 東ティモール文化ジェノサイド

 

写真⑤正樹院/具学永

浄願寺

 

四 コリアン・ジェノサイドを考える

 

1 植民地ジェノサイド

・植民地支配犯罪の一環としての植民地ジェノサイド

1894年、甲午農民戦争

1896年、第1次義兵運動

1919年、3・1独立運動

・愼蒼宇「『朝鮮植民地戦争』の視点から見た武断政治と三・一独立運動」

『朝鮮史研究会論文集』第58集(2020年)

・井上勝生『明治日本の植民地支配』(岩波書店、2013年)

2 関東大震災ジェノサイド

・鄭永寿「関東大震災朝鮮人虐殺に対する植民地期在日朝鮮人運動と一〇〇

年目の課題」『人権と生活』56(2023年)

3 コリアン文化ジェノサイド

・「同化主義」「皇民化政策」

・「文化統治」朝鮮語使用の禁止、日本語使用の強制

・略奪文化財問題

・在日朝鮮人に対する差別的な在留管理・外国人登録体制

・奪われた民族性回復のための民族学校に対する差別と弾圧

4 ジェノサイド否定:歴史の事実を否定・歪曲するホロコースト否定

・ドイツの「アウシュヴィツの嘘犯罪」

・欧州など30カ国に刑法

・韓国で立法提案(成立せず)

・「慰安婦はなかった」

・「関東大震災朝鮮人虐殺はなかった」

・「朝鮮植民地支配はよいところもあった」といった歴史修正主義発言

・鄭栄桓「192393日の「体験」とは何であったか――ドーティー/

ジョンストン日記を読む」『人権と生活』56(2023年)

 

 

写真⑥安盛寺、長峰墓地

 

五 ジェノサイド犯罪の成立について

 

   ・日本はジェノサイド条約を批准していないが

   ・批准した場合を仮定して検討すると

 

1 ジェノサイド状況

 

2 個人の犯罪としてのジェノサイド(被告人A

   ・当時の裁判で殺人罪で訴追された実行犯

   ・殺人罪ではなく、ジェノサイドの罪の成否の検討(条約第2(a)

・要素(1)集団の全部又は一部

・要素(2)集団を破壊する意図

・要素(3)実行行為(a)~(e

   ・破壊する意図の証明

 

3 ジェノサイドの煽動(被告人B

   ・92日の戒厳令

   ・9月3日の内務省警保局長の打電

   ・警察官による煽動行為

   ・震災直後数日の新聞報道

   ・自警団の組織化

   ・実行犯による殺人行為

   ・ジェノサイド条約第3条(b)ジェノサイド実行の共謀

   ・ジェノサイド条約第3条(c)ジェノサイド実行の直接公然たる煽動

 

4 上官の責任

   ・国際刑法上の責任観念(山下事件判決)

   ・国際刑事裁判所規程第28条(指揮官その他の上官の責任)

   ・部下の犯罪を知っていた or知っているべきであった

   ・防止又は抑止のため必要かつ合理的な措置を取らなかった

 

5 国家の法的責任

 

写真⑦熊谷寺

   常泉寺/姜大興

 

六 おわりに

 

・多面的多角的な研究の必要性

・総合的研究の必要性

      国際法、国際刑法、歴史学、政治学……

・国際的なジェノサイド研究との連接

      特に国連ジェノサイド防止事務所

 

 

 

 

 

<参考文献>

前田朗「コリアン・ジェノサイドを考える――関東大震災朝鮮人虐殺100年を契機に」『人権と生活』56(2023年)

前田朗「日本植民地主義をいかに把握するか(11)関東大震災朝鮮人虐殺を国際法から再考する」『さようなら!福沢諭吉』第15(2023)

前田朗「日本植民地主義をいかに把握するか(6)文化ジェノサイドを考える」『さようなら!福沢諭吉』第10(2020)

前田朗「日本植民地主義をいかに把握するか(7)コリアン文化ジェノサイド再論」『さようなら!福沢諭吉』第11号(2021年)

前田朗『戦争犯罪論』(青木書店、2000年)

前田朗『ジェノサイド論』(青木書店、2002年)

前田朗『人道に対する罪』(青木書店、2009年)

前田朗『増補新版ヘイト・クライム』(三一書房、2013年)

前田朗『ヘイト・スピーチ法研究要綱』(三一書房、2021年)

Wednesday, September 20, 2023

ヘイト・クライム禁止法(208)ルクセンブルク

ルクセンブルクがCERDに提出した報告書(CERD/C/LUX/18-20. 26 June 2020

『原論』368

人種主義その他の差別動機で行った犯罪は、1997年刑法の第444条、第4501項、第453条、第454条、第4574項に規定されている。

刑法第4541項によれば、自然人の間になされた区別であって、出身、皮膚の色、性別、性的指向、ジェンダー、家族状況、年齢、健康、障害、慣習、政治的哲学的意見、労働組合活動家、又は特定の民族集団、国民、人種、宗教の集団の一員であること、又はそう思われたことに基づいたものである場合、差別に当たる。

2008年の受容統合法の下で反差別の努力は保障され、ルクセンブルク受容統合庁にすべての形態の差別と闘う権限を与えており、統合と反差別の国家行動計画を策定することとしている。

EUの前進プログラムの協力を得て、宗教、障害、年齢、性的指向、人種民族出身に基づく差別と闘うイニシアティブがとられている。

2006年の平等処遇法第28条は直接差別、間接差別、ハラスメントに対処するものである。

人種差別申し立ては、201529件、201621件、201728件、201843件である。差別申し立ての多くは人の出身や国籍に基づく侮辱である。憎悪煽動がソーシャルメディア上で起きている。

2006年法によって設置された平等処遇センターが差別被害を受けたと考える者の相談に応じている。

人種動機犯罪の刑罰加重について、刑法第455条が対応している。刑法第4571項は、自然人又は法人に対する憎悪や暴力の煽動にあたるいかなる形態のコミュニケーションも刑罰加重事由としている。刑法第444条によると、人の名誉を貶める特別の悪意ある主張をした者は、その行為が人種動機でなされた場合には、より重い刑罰を科すこととしている。

刑法第354項は法人の解散を定めるが、その条件は第38条による。第38条は2010年に改正された。法人を解散させるのは、自然人であれば3年以上の刑事施設収容にあたる犯罪を行った場合に相当する時であり、権限のある裁判所による解散決定がなされた場合である。刑法第443条、第444条、第4571項の人種差別の煽動規定が法人に該当すれば、解散がなされうる。

CERDがルクセンブルクに出した勧告(CERD/C/LUX/CO/18-20. 16 May 2022

刑法において人種主義動機が刑罰加重事由とされていないので、人種主義動機を刑罰加重事由とすること。条約第4(b)に従って人種差別を煽動する団体を違法且つ禁止と定める規定を導入すること。

インターネット上のヘイト・スピーチを警察に通報する「BEE SECURE Stopline」のように、ヘイト・スピーチと闘う措置を講じているが、移住者、難民、庇護請求者、アフリカ系人民に対するヘイト・スピーチが増加している。インターネットやソーシャルメディア上野ヘイト・スピーチを予防、非難し、これと闘う措置を取ること。プロバイダーやプラットフォームと協力して、ヘイト・スピーチの拡散を止める努力をすること。移住者や難民等に対する偏見や虚偽情報に対処する啓発キャンペーンを行うこと。ヘイト・スピーチに関する信頼できる包括的な統計をとること。訴追、判決、量刑、被害者救済についての統計を取ること。

Sunday, September 17, 2023

ヘイト・クライム禁止法(207)カザフスタン

カザフスタンがCERDに提出した報告書(CERD/C/KAZ/810. 6 November 2019

『序説』595頁、『原論』402

2014年刑法には人種民族的不寛容動機による犯罪規定が含まれる。

刑法第54条によると、民族、人種、宗教の憎悪、他人の合法的行為に対する報復の動機、他人に犯罪を教唆する目的の犯罪実行は、判決において刑罰加重事由として考慮される。

刑法145条は平等権侵害を犯罪としている。平等権侵害は、出身、社会的地位、財産状態、性別、人種、民族、言語、宗教、居住地等に基づく、直接または間接的な人権侵害である。

刑法1741項は、社会、民族、人種又は宗教憎悪の煽動にあたる行為を犯罪としている。これには社会、民族、人種、宗教憎悪を煽動する目的の行為が含まれる。同様の動機で市民を排除し、優越性又は劣等生を助長することが含まれる。

刑法168条はジェノサイドの犯罪を定める。

刑法4042項は、人種、民族、部族、社会、階級、宗教の不寛容や排除を唱道する団体の設立を犯罪としている。

刑法174条で立件されたのは、2014年は44件、15年は82件、16年は151件、合計277件である。有罪判決は1425件、1535件、1620件で合計80件である。

アクモラ州出身のEは、ソーシャル・ネットワーク上の200人のメンバーから成る「私はロシア人」という開かれた集団の責任者であるが、20157月、民族憎悪の煽動の要素を含む文書を配布した。法心理学及び言語学的評価により、当該文書は民族憎悪の煽動、及びカザフ民族集団と歴史の名誉と尊厳に対する侮辱である。Eは有罪答弁をして、誠実な反省を示した。20151118日、サリャーカ地方裁判所はEが刑法1741項の犯罪を実行したと認定した。

2017年、西カザフスタン州出身のMは、アスラン・アスランと言うユーザー名で、モバイルアプリを用いており、9万人のフォロワーがいた。「西カザフスタン州でガス価格が再び値上げした」というニュースに、ロシア連邦市民がコメントを付しているのを読んだ。Mは、民族憎悪を煽動するコメントを書き込んだ。裁判所はMが刑法174条の犯罪を実行したとして、3年間の自由制約を言い渡した。

CERDがカザフスタンに出した勧告(CERD/C/KAZ/CO/8-10. 4 July 2022

ヘイト・スピーチを定めた刑法第174条の規定が過度に広範であり、民族マイノリティの表現の自由に不必要で不均衡な介入を招きかねない。刑法第174条を改正して、特にマイノリティ出身の人権活動家が予見される刑罰のために委縮しないようにするべきである。

インターネット上の民族マイノリティに対する人種主義ヘイト・スピーチと暴力が増えている。インターネット上の人種主義ヘイト・スピーチを監視、これと闘い、捜査し、訴追するための措置を強化すること。公的議論におけるヘイト・スピーチに対処するガイドラインを開発すること。ヘイト・スピーチの着け異を取り、次回報告すること。

条約第4条に従って、ヘイト・スピーチを禁止するため法改正すること。ヘイト・スピーチをする団体、及びすべてのプロパガンダを違法とし、禁止すること。ヘイト団体とその活動への参加を禁止し、処罰すること。

Saturday, September 16, 2023

ヘイト・クライム禁止法(206)エストニア

エストニアがCERDに提出した報告書(CERD/C/EST/12-13. 15 October 2019

司法長官は憲法が保障する権利の侵害を監視するが、私法における人々の間の差別事案の手続きも担当し、平等原則の促進を図る。20152018年、司法長官が受理した差別事件は、国籍・民族が6件、人種が2件、言語が7件、宗教が8件、性的指向が8件、年齢が11件、ジェンダーが7件、障害が3件である。

2015年、7件のヘイト動機による身体傷害が記録され、1件は性的指向によるもので、それ以外は人種・民族であった。

2015年の被害者調査によると、近親者による被害者の3%がヘイト・クライムであった。「過去12カ月に近親者から民族的出身、人種、皮膚の色、宗教、障害又は性的指向による犯罪を受けたか」と言う質問に「はい」が2%、「はい、繰り返し」が1%であった。これには短期滞在者は含まれない。

2016年、15件のヘイト・クライムが記録され、3件が身体傷害、10件が公共秩序の重大侵害であった。ヘイト・クライムの63%は人種、宗教、出身を動機とする。25%が性的指向である。1件は傷害であった。2016年、刑法151条のヘイトの煽動は記録されなかった。刑法151条の軽犯罪は2件記録された。ヘイト・クライム被害者にはネパール人、ナイジェリア人、ウクライナ人、ブラジル人、ドイツ人、パキスタン人がいた。エストニア語やロシア語を話せないドイツ人やオランダ人も攻撃を受けた。

2016年の調査によると、回答者の2%が近親者によるヘイト・クライム被害を受けた。1%が1回の被害であり、1%は繰り返しの被害であった。ヘイト動機は障害が24%、人種や皮膚の色が18%、国籍が11%、宗教が6%、性的指向が6%であった。ただ、新規移住者は調査対象に含まれない。

2017年、4件のヘイト・クライムが記録され、3件は公共秩序の重大侵害、1件は脅迫であった。動機は人種や宗教である。

2017年、刑法151条の軽犯罪としての憎悪の煽動は13件であり、5件は刑事手続きが取られなかった。1人が120ユーロの罰金を言い渡された。フェイスブック上の事案が2件あった。

2017年の被害者調査(1011)によると、1%が国籍、人種、皮膚の色、宗教等による犯罪被害を受けた。

CERDは前回、差別煽動団体を禁止する刑法改正を勧告した。刑法の規定が声明、健康、財産に対する直接の脅威を必要とするので、限定的すぎることについて、エストニア政府は市民社会と開かれた討論を続けている。司法省が検討を続けているが、刑法改正への市民社会からの支持は多くない。

CERDは前回、サイバー犯罪条約追加議定書の批准を勧告した。追加議定書は、憎悪煽動の犯罪化を求めている。エストニア刑法は、公然たる憎悪の煽動が、人の生命、健康、財産に危険をもたらした場合に処罰することとしている。憎悪を煽動するヘイト・スピーチや団体を禁止し制限することは重要であるが、エストニアは表現の自由や結社の自由に高い価値を置いている。民主社会において表現の自由の制約は、他人の法的権利を保護するためにだけ許される。自由な言論の制約については開かれた討論を必要とする。エストニアは民事訴訟を通じた解決を選択している。

法人格を有する団体の解散は裁判を通じてのみ可能となる。大臣の要請を受けて裁判所が判断する。

CERDは前回、人種動機が刑罰加重事由とされていないことを是正するよう勧告した。エストニアでは憎悪動機は刑罰加重事由でないが、このことは法執行機関が憎悪動機を考慮しないことを意味するのではない。刑法は人種動機以外の複数の基本となる刑罰加重事由を定めている。法執行機関はこの基本となる刑罰加重事由の解釈を通じて適切に判断する。刑法581項の刑罰加重事由について、最高裁は、加重事由規定は例示的列挙をしているのであって、判例法によって解釈されなければならないとしている。裁判所は、個別事件の判断において犯行の動機を刑罰加重事由として解釈する。

CERDによるエストニアへの勧告(CERD/C/EST/CO/12-13. 26May 2022

エストニアはヘイト・スピーチを犯罪化しているが、その基底は条約第4条に合致していない。条約第4条に従って刑法を改正し、ヘイト・スピーチを犯罪の重大性に見合った処罰ができるようにすること。警察による犯罪捜査において人種憎悪を動機の一つとして考慮しているが、ヘイト・スピーチやヘイト・クライム事案の報告が過少であって、十分に捜査されていない。政党や政治家によるヘイト・スピーチが放任され、捜査も訴追もなされていない。ヘイト・スピーチとヘイト・クライムについて意識喚起を行い、法的救済を図り、実行者を訴追・処罰すること。人種主義動機を刑罰加重事由とすること。