Sunday, July 12, 2020

ヘイト・クライム禁止法(171)イラク



イラク政府がCERDに提出した報告書(CERD/C/IRQ/22-25. 22November2017
2016年10月6日、議会で宗教的民族的マイノリティ集団の権利保護法案の審議が行われた。法案は多民族多信仰でイラクの遺産や芸術を保護し、平等の市民権、多文化理解の原則を促進し、平和構築を図る。
2016年の法律第32号は、バース党を人種主義的でテロ的な政党として禁止した。イラクにおける民主主義システムは政治的多元主義と平穏な権力移行に基礎を有する。憲法7条は、人種主義やテロリズムを扇動、準備、称賛、助長、正当化する団体を禁止する法律制定を定める。
刑法372条は、信仰共同体の信念を公然と攻撃し、宗教活動を妨害した者は、3年以下の刑事施設収容及び300ディナールの罰金とする。
CERDがイラクに出した勧告(CERD/C/IRQ/CO/22-25. 11January 2019
政治かなどの公的人物によってヘイト・スピーチがなされているとの報告がある。ヘイト・クライムやヘイト・スピーチの禁止が十分でない。政治家など公的人物によるヘイト・スピーチを非難し、効果的に捜査し、訴追、処罰するよう勧告する。条約第4条の要請に合致した法律を制定するよう勧告する。

Wednesday, July 08, 2020

ヘイト・クライム禁止法(170)ホンデュラス


ホンデュラス政府がCERDに提出した報告書(CERD/C/HND/6-8. 20 December 2017

憲法の諸規定に従って、差別と憎悪の扇動を明確に犯罪としている。憲法第60条は、性別、人種、階級その他の人間の尊厳に偏見となる動機に基づくいかなる形態の差別も、法律によって処罰されるとする。この規定は、先住民族やアフリカ系人民に対する差別を撤廃するための刑法、補充法、公共政策を形成する。

刑法第321条は、個人の権利または集団の権利の行使を恣意的かつ違法に妨害、制限、廃止又は防止した者、性別、ジェンダー、年齢、性的志向、ジェンダー・アイデンティティ、党は又は政治的見解、市民的地位、先住民族又はアフリカ系集団のメンバーであること、言語、国籍、宗教、家族的背景、財政状態又は社会的地位、障害又は異なる能力、健康状態、身体的外観又はその他の人間の尊厳に偏見となる動機を理由として公共サービスの提供を拒否した者は、3年以上5年以下の刑事施設収容及び3万レンピラ以上5万レンピラ以下の罰金とする。

刑法第27条27項は、犯罪実行が被害者の性別、ジェンダー、宗教、国民的出身、先住民族又はアフリカ系住民集団のメンバーであること、性的志向又はジェンダー・アイデンティティ、年齢、市民的地位又は障害、若しくはイデオロギー又は政治的見解に基づいた憎悪の動機による場合を刑罰加重事由とする。

前回のCERD勧告を受けて、権利の行使に関連する差別犯罪について刑法改正草案が準備されている。改正草案211条は、公共サービスの提供の差別的拒否を、1年以上3年以下の刑事施設収容、100日以上200日以下の日数罰金としている。同じ理由で公務就任資格を認めないことは1年以上3年以下の刑事施設収容である。

改正草案212条は、商業活動に対する公共サービスの提供の拒否を、1年以上3年以下の刑事施設収容とする。

改正草案213条は、差別の扇動を1年以上3年以下の刑事施設収容、100日以上500日以下の日数罰金としている。上記と同じ理由で、直接かつ公然と、又はマスメディアを通じて、ある集団、団体、企業、又はこれらの団体に属する特定個人に対して、差別や暴力を扇動した者。上記と同じ理由で、行為やグラフィックを含む表現によって、個人の尊厳を侵害した者。

改正草案295条は労働権に対する犯罪を定める。公共であれ民間であれ、上記と同じ理由で、雇用における差別を行ったものは6月以上1年以下の刑事施設収容である。

2015~17年に民族集団・文化遺産特別検事局が受け取った申立は、32件であり、捜査中である。先住民族の土地収用に関する事案は刑事手続きが進行中である。2016年12月から2017年4月の間にさらに6件の申立があり、1件は訴訟進行中、その他の5件は捜査中である。

CERDがホンデュラス政府に行った勧告(CERD/C/HND/CO/6-8. 14 January 2019

先住民族及びアフリカ系住民が構造的差別にさらされているので、不平等の溝を埋めること。「先住民族とアフリカ系住民のための人種主義と人種差別に対する公共政策」を実効的に履行する事。構造的差別の解消のため積極的是正措置を講じること。先住民族とアフリカ系住民に対するステレオタイプと偏見が存在するので、人種差別の否定的影響をなくすための教育キャンペーンを行い、ステレオタイプや偏見と闘うこと。人種主義ヘイト・スピーチと闘う一般的勧告第35号に注意を喚起する。

Tuesday, July 07, 2020

野蛮の言説はいかに形成されたか


中村隆之『野蛮の言説――差別と排除の精神史』(春陽堂)

https://www.shunyodo.co.jp/shopdetail/000000000692/

<人類の長い歴史の中には、他者を蔑視し排除する言葉が常に存在していた。コロンブスの新大陸発見、ダーウィンの進化論、ナチ・ドイツによるホロコースト、そして現代日本における差別意識まで、古今東西の著作を紐解き、文明と野蛮の対立を生む人間の精神史を追う。人間が人間を「野蛮な存在」とみなす言葉がなぜ生み出されてしまうのか、全15回の講義から考える。>



著者はカリブ海フランス語文学研究者。同地域の文学を概観した小冊子『フランス語圏カリブ海文学小史』(風響社、2011年)、マルティニック島とグアドループ島という「小さな場所」から世界を考える地域研究書『カリブ- 世界論』(人文書院、2013 年)がある。



本書は、近代西欧諸国が大航海時代以後の、世界の植民地化により、自らを<文明>とし、他者を<野蛮>と名指す分類法を「学問」によって形成し、実践していった過程を跡付ける。植民地主義の言語・法・宗教による支配が、啓蒙思想に流れ込み、科学の名において人種差別が正当化され、優生思想、社会ダーウィニズム、人類学の圧政が成立する。植民地主義からホロコーストへはほんの一歩だ。

ナチスドイツのホロコーストだけを非難しても問題は解決しない。近代西欧社会が生み出した差別と排除の科学と技術が世界を覆っているのだから。同じことは近現代日本史においても見事に再演される。

このことを、コンラッドの『闇の奥』を手掛かりに、『闇の奥』でさえ触れていないベルギー領コンゴにおける大虐殺をも検証することを通じて、「奴隷制をはじめとする西洋によつ蛮行は、西洋画その外部を『発見』し、植民地支配をつうじて世界を一体化させていく過程で、繰り返されてきた」と見る。<野蛮の言説>がなぜ、どのようにして生み出されるのかの追跡である。

私もこういう本が書きたかったが、それだけの力量はない。かつて、前田朗『ジェノサイド論』(青木書店、2002年)を出し、次いで徐勝・前田朗編『文明と野蛮を超えて』(かもがわ出版、2011年)、最近では木村朗・前田朗編『ヘイト・クライムと植民地主義』(三一書房、2018年)を出した。これらをベースに、<野蛮の言説>を問う作業を始めたかったが、本書のおかげで、自分でやる必要はなくなった。

著者・中村は、学生向けの講義というスタイルで、関連書籍を重点的にピックアップしながら、「差別と排除の精神史」を概説する。通史として十分とは言えないが、これまで類書はなかったと思う。意欲的な試みである。カリブ海フランス語文学研究者らしく、西欧中心主義を撃つ姿勢は揺るがない。

Sunday, July 05, 2020

ヘイト・クライム禁止法(169) アルバニア


アルバニア政府がCERDに提出した報告書(CERD/C/ALB/9-12. 15 November 2017

刑法には差別精神の助長を処罰する諸規定がある。

刑法50条(j)は人種差別による犯罪実行を刑罰加重事由とする。刑法84条(a)はコンピュータシステムを通じて民族、国民、人種又は宗教ゆえに殺人又は重大障害の脅迫を行うことは罰金又は3年以下の刑事施設収容とする。刑法119条(a)はコンピュータシステムを通じて人種主義又は排外主義の内容を持つ記事を公然と配布することは罰金又は2年以下の刑事施設収容とする。刑法119条(b)はコンピュータシステムを通じて民族、国民、人種又は宗教ゆえに人に対して行為に公然と侮辱することは罰金又は2年以下の刑事施設収容とする。刑法253条は市民の平等の侵害であり、出自、性別、健康状態、宗教、政治、労働組合活動を理由として、又は特定の民族、国民、人種又は宗教に属するがゆえに、国家又は公務員が差別とおこなえば、罰金又は5年以下の刑事施設収容とする。刑法265条は人種、民族、宗教又は性的志向ゆえに憎悪又は争闘を助長し、いかなる形式であれそうした文書を流布することは、2年以上10年以下の刑事施設収容とする。刑法266条は、2013年の法改正によるものだが、住民の一部に対する憎悪、侮辱又は中傷、暴力又は恣意的行為を呼びかけて公共の平穏を危険にさらすことは2年以上8年以下の刑事施設収容とする。

これらの法律の実施は国家警察法による。2013年11月25日、警察は「民族を理由に尊厳に悪影響を与えることの予防と根絶」と題する「警告」を発した。警察倫理綱領、警察業務基準・技術規則が制定されている。警察業務の遂行に際して人権侵害、差別、不当な暴力の生じないように定めている。

CERDはアルバニアに次のような勧告をした(CERD/C/ALB/CO/9-12. 2 January 2019

裁判において補償を求めることができるようにするために新たに「反差別パッケージ」が準備されているが、政治家によるヘイト・スピーチが続いているとの報告がある。ヘイト・スピーチ事案における挙証責任の転換に関心がある。一般的勧告第35号を想起し、公共の議論における、特に国家及び地方レベルの政治家によるヘイト・スピーチや差別発言を強く非難し、それらから距離を置くこと。政治家によるヘイト・スピーチ、特に選挙運動におけるヘイト・スピーチを効果的に捜査、訴追し、適切に処罰すること。

人種主義団体や団体への参加を犯罪とする法律がない。条約4条に関して、人種主義団体の捜査や訴追に関する情報がない。反差別法の枠組みを条約第4条に完全に合致させること。人種差別を助長・煽動する団体を違法と宣言し、禁止すること。人種差別に関する国内裁判所における決定に関する情報を報告すること。

Saturday, July 04, 2020

学習会:『世界がここを忘れても』を読む


学習会:『世界がここを忘れても』を読む


講師:清末愛砂さん(室蘭工業大学大学院准教授)



『世界がここを忘れても』(寿郎社)

https://jurousha.official.ec/items/27133481



7月31日(金)開場17:45、開会18:00~閉会20:40

会場:東京しごとセンターセミナー室(5階)

千代田区飯田橋3丁目103

JR総武線「飯田橋駅東口」より徒歩7

地下鉄大江戸線・有楽町線・南北線「飯田橋駅A2出口」より徒歩7

メトロ東西線「飯田橋駅A5出口」より徒歩3



*参加費(資料代含む):500円

*先着20名様に限らせていただきます。

参加を希望される方は、maeda@zokei.ac.jp宛にご連絡ください。

*新型コロナ禍が悪化した場合は中止になることがあります。



『世界がここを忘れても』(寿郎社)

〈本の内容〉 9.11後の英米軍などの侵攻、ターリバーン政権の崩壊と混乱、そしてISの台頭……

激動のなか、それでも国内で暮らし、 あるいは難民キャンプで生活せざるをえなくなったアフガニスタンの人々。 その暮らしぶりは日本ではほとんど知られていません。 とりわけ家父長制のもとで虐げられてきた女性たちの日常については まったくと言っていいほど知られていないのではないでしょうか。

本書は、アフガニスタン女性革命協会・RAWAを支援している 「RAWAと連帯する会」共同代表の著者が 現地での活動を通して知り合ったアフガン女性たちから聞いた話をファルザーナという大学生のストーリーに再構成したものです。



文 清末愛砂(きよすえ・あいさ) 1972年生まれ。室蘭工業大学大学院工学研究科准教授。専門は、憲法学、家族法、アフガニスタンのジェンダーに基づく暴力。主な著書に『平和とジェンダー正義を求めて̶̶アフガニスタンに希望の灯火を』(共編著、耕文社、2019 年)、『自衛隊の変貌と平和憲法̶̶脱専守防衛化の実態』(共編著、現代人文社、2019年)、他多数。「RAWAと連帯する会」共同代表。

絵 久保田桂子(くぼた・けいこ) 長野県生まれ。武蔵野美術大学映像学科卒業。ドキュメンタリー映画「記憶の中のシベリア」 (2016年)制作、同名書籍を出版。2013年、友人の誘いでアフガニスタン・パキスタンのスタディツアーに映像記録のため同行した。



主催:平和力フォーラム

連絡先:070-2307-1071E-mail:maeda@zokei.ac.jp

共催:室蘭工業大学大学院清末愛砂研究室

共催:RAWAと連帯する会

http://rawajp.org/

Saturday, June 27, 2020

差別に揺れるアメリカの現在


渡辺靖『白人ナショナリズム』(中公新書)

https://www.chuko.co.jp/shinsho/2020/05/102591.html

『文化と外交』『リバタリアニズム』などアメリカ政治と文化に関する新書を何冊も出している著者の最新刊だ。新型コロナと人種問題に揺れるアメリカの現在を知るために格好の本である。

登場するワードは、反移民、反LGBTQ、反イスラム、クリスチャン・アイデンティティ、ヘイト音楽、男性至上主義、新南部連合、ネオナチ、レイシスト・スキンヘッド、過激伝統カトリシズム、KKK、等々。

ただ、過激なレイシスト集団を中心にすると言うよりも、ある意味では「穏健」な白人ナショナリストの実像を紹介している。

「まるで学会のような雰囲気」で、討論を行い、日本人を高く評価し、「白人の公民権運動」をめざす。人種現実主義、陰謀論、暗黒啓蒙など、多様な立場と人物が登場する。アメリカだけでなく、欧州の右翼や過激集団との連携も含めてグローバルな現象にも視線を送る。

アメリカはもともと引き裂かれ、分裂していたが、近年ますますその度合いを強めている。民主党と共和党という政治的レベルや、人種主義のレベルの分岐も多様だが、複合的な差別現象をつなぐため、いっそう分裂が深まる。それでも全米に多大の影響を及ぼしているので、帰趨が懸念される。

著者は数々の白人ナショナリストに直接取材し、その実像を伝えようとする。「インフォーマントとの距離の取り方はつねに難しい」と述べつつ、インタヴュー、オンライン情報、論文等を駆使して白人ナショナリズムの全貌を提示しようとする。新書1冊でここまで書いているのは、著者の意図がしっかり実現されていると言って良いだろう。

ヘイト・クライムやヘイト・スピーチと関連する部分は知っていたが、それ以外の部分は初めて知ることが多く、参考になる。

Friday, June 19, 2020

誰も知らなかったプルードン


的場昭弘『未来のプルードン――資本主義もマルクス主義も超えて』(亜紀書房)

https://www.akishobo.com/book/detail.html?id=954&st=4

【目次】

序論  ライバル、そして乗り越えるべき反面教師

第一章 プルードンはいつも再起する——彼がつねに呼び出される理由

第二章 プルードンとは何者か——独創的かつ実践的な思想家

第三章 フランス革命の欠陥——「所有」をめぐるプルードンの画期的論考

第四章 マルクス作品への影響——『経済・哲学草稿』などをめぐって

第五章 大事なのは革命ではなく経済である——実践的社会改革派の思想

第六章 マルクスをプルードンで再生させる道——アソシアシオンとコミューン、相互主義と連邦主義

補論  可能性としてのアソシアシオン



そうか、プルードンか。というか、やられた、プルードンに、という感じだ。

マルクスの読者なら、知らない者のないプルードンだ。

つねに批判対象のプルードン。誰もが乗り越えたプルードン。過去の遺物のプルードン。木っ端みじんのプルードン。だが、ほとんど読まれないプルードン。

マルクス学の第一人者・的場は、『新訳 哲学の貧困』(作品社)を出したばかりだが、そこでは、マルクスによるプルードン批判と、プルードンによるマルクス批判の両方を翻訳し、丁寧に分析している。

マルクスはプルードンの「所有」の概念に衝撃を受け、哲学研究から経済学研究に転じ、経済学批判を生涯の課題とした。

プルードンはさらに変化を遂げ、「所有」批判から、アソシアシオンという画期的な考え方に到達する。

マルクスのキーワード、科学的社会主義、経済学と弁証法、私的所有批判、権威主義的国家、共産主義、その陥穽、アソシアシオン、自由な個人は、いずれもプルードンによって提出されていた。

両社の未来社会論は似ている。似ているが、もちろん異なる。それはどのように似ているのか、どのように異なるのか。

資本主義システムの限界が露呈しつつある今、社会と市民に不平等を招く「垂直的権力構造」の解体を掲げたプルードン主義を再評価することが肝心だ。

的場が投げかける問いは、ポスト資本主義への新しい処方箋だ。