Sunday, October 31, 2021

ナチス賛美との闘い――ホロコースト否定犯罪を考える05

25 モルドヴァ

201822年の「人権行動計画」を策定した。偏見による犯罪についてゼロトレランス政策をとり、現在、議会でヘイト・クライムとホロコースト否定に関する法改正を審議中である。法案作成に当たっては内外の専門家と協議してきた。欧州安全協力機構の民主性と人権事務所等との協議も経ている。

刑法改正法と、表現の自由に関する2010年の法律64号は、人種主義、排外主義、ファシズムのような全体主義イデオロギー及びホロコースト否定を拡散する犯罪についての刑事責任を定立している。202124日、改正案は議会の第一読会で採択された。

EU及び欧州評議会の差別、ヘイト・クライム、ヘイト・スピーチの被害者救済プロジェクトを実施している。非差別と平等の研修に1900名の警察官と625人の検察官が参加した。

ホロコーストの記憶と寛容の文化を促進する行動計画202124年を採択した。「差別撤廃・平等促進委員会」が活動している。

26 ロシア

ナチス、国民主義、人種主義、宗教的不寛容と闘うことは法執行機関の職務である。人種的国民主義に基づく優越性の思想や理論に基づく団体の宣伝や活動を非難し、憎悪や差別の煽動を根絶する措置を講じている。憲法第19条は平等の原則を定め、第13条は人種憎悪の煽動を目的とする活動を禁止する。過激活動に反対する連邦法が枠組みを定めている。

国民国家政策戦略は2025年まで延長された。人種的、国民的、宗教的憎悪の煽動を予防し抑止する。過激主義と排外主義の思想の流布にゼロトレランスを促進する。民族間紛争に応じた早期警報の法的枠組みを推進する。国民主義思想の復活やナチス思想の再来を予防する。

ナチスのシンボル、プロパガンダ、ナチスに協力した団体のシンボルの利用や公共掲示を禁止している。ナチスを賛美する記念碑建設や通りに命名するようなナチス賛美を公人が行うことは強く非難される。民族間、宗教観の寛容を促進する出版物はインターネット上で出版される。ナチスの復活に関する事案は捜査対象である。

27 セネガル

差別と闘う法的枠組み、特に刑法第166bis条がある。人種に基づく人の集団への侮辱、人種的優越性の出版は犯罪化されている。不寛容行為を処罰する。人種主義と排外主義と闘うため、規制法は新しい情報技術にも適用される。訴追は、適切な財源の欠如に、国際協力の困難性から、壁に直面している。

28 セルビア

憲法第5条と第55条は憲法秩序を暴力的に転覆しようとする政党、人権侵害をする政党、又は人種、国民、宗教的憎悪を煽動する政党を禁止する。「政党法」の施行以来、実際に手続きが取られたことはない。

人種主義、人種差別、排外主義、不寛容のイデオロギーを表明する集団や運動がある。その活動は現在、インターネット上で行われている。マイノリティの人権を保護し、差別及びヘイト・スピーチと闘う戦略的法枠組みがある。ヘイト・スピーチを特別な犯罪とはしていないが、現行法枠組みによって効果的な訴追ができる。2018年初頭以来、ヘイト・スピーチをも射程に入れた法規定の適用に向けて努力している。スポーツにおけるヘイト・スピーチと差別と闘う措置を講じている。

ロマに対する差別と闘う措置と行動をとっている。「ヘイト・スピーチ、寛容、及びロマ」というテーマで社会的対話を行い、差別と闘っている。

オンライン・プラットフォームの人種主義ヘイト・スピーチと闘うため、欧州サイバー犯罪条約、及びコンピュータシステムを通じた人種主義的性質の行為を犯罪化する選択議定書を批准した。サイバー犯罪担当特別検察官を任命し、インターネット上のヘイト・スピーチに対処している。20197月、文化情報省はEUベルグラード事務所と協力して、欧州評議会のハンドブック「欧州人権条約の下での表現の自由の権利の保護」のセルビア語版を出版した。ハンドブックは暴力、ヘイト・スピーチ、人種主義と闘うことに注意を向けている。

2020年、国際ホロコースト記憶連合の反ユダヤ主義の作業定義を採択した。2020224日、ナチス強制収容所の犠牲シャンお記憶を保持するための記憶センターに関する法律を採択した。

29 スペイン

刑法第5101項は、人種的理由で、反ユダヤ主義的理由、イデオロギー、宗教、信念、家族状況に関連する理由による、ヘイト・スピーチと闘う予防措置として差別を犯罪化している。インターネット上のヘイト・スピーチも禁止する。

立法は、ネオナチや同様の集団など人種主義や排外主義の過激主義集団と闘う。刑法第515条に含まれる違法な結社の定義は「そのイデオロギー、宗教又は信念ゆえに人又は人の集団に対して、直接または間接に、憎悪、敵意、差別又は暴力を助長又は煽動する」としている。議会は包括的な立法提案を検討中で、反差別法の基本決定とその保障を規制しようとしている。2002627日の組織法第92項に従って、イデオロギー、宗教又は信念ゆえに人々を排除又は迫害する政党は違法とされる。

人種主義、排外主義、不寛容と闘うために、「人種民族差別撤廃委員会」を設置し、ヘイト・クライムと闘う行動計画を採択し、ヘイト・クライム年次報告書を出版した。

30 スウェーデン

暴力的な右翼過激主義が増大している。排外主義的人種主義的ナショナリズムが特にインターネット上で増加している。

2016年、人種主義、同様の敵意、ヘイト・クライムと闘う国家計画を採択した。人種主義やヘイト・クライムと闘う幅広い戦線が必要であり、アフリカ嫌悪、反ジプシー、反ユダヤ主義、イスラム嫌悪、サーミ人に対する人種主義のような人種主義と闘う必要がある。2020年以来、5つの戦略を掲げている。知識の普及、教育課程。調整と監視。市民社会の支援と対話。オンラインの予防措置。より効果的な立法。

「犯罪防止委員会」は反ユダヤ主義ヘイト・クライムの研究を深め、イスラム嫌悪やアフリカ嫌悪に基づくヘイト・クライムに対処している。

2020年末、「子どものためのオンブズマン」は人種主義の被害を受けやすい子供や青年についての情報を収集している。2019年、人種主義団体への参加についての刑事責任と人種主義団体の禁止に関する検討のため委員会を設置し、委員会は20214月に報告書を出した。

Friday, October 29, 2021

ナチス賛美との闘い――ホロコースト否定犯罪を考える04

19 メキシコ

人種差別撤廃条約第4条に従って、「差別予防・撤廃連邦法」を制定した。公共機関、私的セクター、市民社会団体と協力してヘイト・スピーチの予防と根絶を促進し、差別行為について救済、補償、警告、公的謝罪、再発防止の行政措置をとっている。

差別の消極的影響に対処するために教育と啓発に取り組んでいる。「差別予防委員会」は移住者機関による差別防止を目的として、人種プロファイル予防のための行動ガイドを作成した。201819年、社会的偏見、ヘイト・スピーチ、差別に対処する啓発キャンペーンを行い、「ノー・ヘイト運動」に取り組んだ。2020年、ヘイト・スピーチに反対する取り組みとして「私たちにはできるWe can !」というガイドブックを作成した。

新型コロナによりヘイト・スピーチと排外主義が強まっている。「平等と非差別国家計画201924」は公的セクターと市民社会における差別なき人権促進を目的としている。差別予防委員会は、宗教の多様性に関するさf行部会を設置し、ホロコーストの記憶を促進し、反ユダヤ主義と闘う教育に関するワークショップを行っている。

20 ナミビア

過激主義集団や人種主義イデオロギーを助長しようとする運動の新しい現象は見られない。憲法第10条は平等と非差別の権利を、第23条は人種差別とアパルトヘイト・イデオロギーを禁止する。1991年の「人種差別禁止法」はこれらを犯罪とする。

2014年の選挙法は正当とその活動を規制する。選挙法第135条は人種及び皮膚の色を根拠に分断を惹き起こす目的の政党の創設を禁止する。登録済の政党は、人種、民族的出身、皮膚の色を基に構成員を限定するような政治活動を禁止されている。政府は人種主義と闘う政策と立法措置に関与している。2018年の「廃れた法の廃止法」はアパルトヘイト時代の法律で、人種、性別、民族的出身、皮膚の色、経済状態を根拠に差別する法律を廃止する。

21 オランダ

人種、宗教、信念に基づいて人の集団に対して侮辱する言説及び憎悪、差別、暴力の扇動は刑法で処罰できる犯罪である。最高裁の判例法理では反ユダヤ主義とホロコーストの否定もこれに含まれる。

20181127日、議会は、国際ホロコースト記憶連合の反ユダヤ主義の作業定義を法的拘束力のない定義として承認した。裁判官は表現の自由の境界と制限の範囲で判断を下す。

内務省と検察庁は反ユダヤ主義に関する調整担当を設置し、反ユダヤ主義犯罪などヘイト・クライムの刑事訴追の調整を行うことにした。議会は、差別、人種主義、反ユダヤ主義と闘う朝鮮っ担当を設置するよう政府に呼び掛けていた。

各地の反差別部局と警察は反ユダヤ主義など差別問題に関する統計を含む年次報告書を出版した。検察局も報告書を出している。民間団体の「イスラエル情報・文書センター」が関連情報を収集・報告している。

22 ニジェール

ネオナチやスキンヘッド集団、過激主義政党・運動、人種主義イデオロギー集団は存在しない。過激主義、不寛容、排外主義を予防する法的枠組みとして、憲法第4条と刑法第102条があり、人種又は民族差別、地域主義プロパガンダ、両親や信仰の自由に反対する現象を犯罪としている。19843月の命令8406号第2条は、地域主義団体又は民族団体を禁止する。199912月の命令9959号は、政党に他者の尊厳と名誉を尊重し、侮辱を禁止するよう求めている。

23 ノルウェー

住民は宗教的マイノリティに肯定的な姿勢を持っているが、マイノリティ集団は人種主義や差別を体験している。政府は人種主義や宗教的差別と闘う対処をしている。ムスリムに対する偏見、敵意、否定的姿勢が問題となってきた。右翼過激主義の数が増えてきたので、ムスリムに対する差別と憎悪に反対する行動計画を策定した。反ユダヤ主義も社会に今なお存在する。202123年の反ユダヤ主義に反対する行動計画も策定している。

2017年、包括的な「平等・反差別法」を採択し、「平等・反差別オンブズ」が活動している。過激主義に反対する行動計画を強化している。2021年、警察にヘイト・クライム専門部局を設置した。

24 カタール

人種主義や差別的慣行を禁止する憲法と法律があり、1979年の出版に関する法律第8号が、社会のける不和を拡散し、宗派主義、人種的紛争、宗教紛争を煽動する出版を禁止する。1992年の情報文化大臣・決定第11号第2条は、検閲の基礎とルールを定め、人種又は民族集団を嘲笑する文書や放送の許可を与えないとする。2004年の刑法は、宗教を侮辱し、神や予言者を侮辱し、宗教目的の建築物を破壊する行為を犯罪とする。

Thursday, October 28, 2021

ナチス賛美との闘い――ホロコースト否定犯罪を考える03

13 ハンガリー

基本法第15条に平等取り扱いの原則が掲げられている。反ユダヤ主義に対してゼロトレランス政策を宣言してきた。ユダヤ人コミュニティの保護のための法律には基本法、刑法、民法、メディア法があり、「国際ホロコースト記憶連合」が定式化した反ユダヤ主義の定義を採用している。

2018年のEU基本権調査によると、ハンガリーはユダヤ人にとってもっとも安全な国の一つである。政府と協力している「行動保護基金」の提起監視活動が行われ、反ユダヤ主義の事件はこの10年間減少している。

20121月、警察はヘイト・クライムに関する独立専門家制度を立ち上げた。2012年、「ヘイト・クライムに反対する作業部会」と協力し、NGOの協力も得て、より効果的にヘイト・クライムと闘うためにガイダンス制度が設立された。不寛容とヘイト動機を特定する指標の定義が効果的である。

14 イラク

ナチスやネオナチの集団や運動は存在しない。しかし2014年、ダエシュ・テロリスト集団が登場し、イラク人や特定の民族的宗教的集団に対する大規模人権侵害を惹き起こしている。殺人、拷問、誘拐、強姦、性奴隷、強制改宗、子ども徴募などの国際人道法違反が起きている。一部は人道に対する罪に当たる。

過激主義政党に反対するために2016年の法律32号は、人種主義やテロリズムや民族浄化のイデオロギーを煽動・助長する政党を禁止している。2015年の法律36号(政党法)は人種主義、テロリズム、民族的宗派的国民的過激主義に基づく政党の設立を禁止している。

15 イスラエル

歴史的に、危機の時代には過激主義が盛り上がってきた。新型コロナ禍も例外ではなく、人種主義、排外主義の温床となり、特定の集団をスケープゴートにしがちである。フェイクニュース、誤情報、ヘイト・スピーチが飛び交うようになっている。

政治的社会的に分極化するため新型コロナが社会の緊張と分岐を強めている。評価を下すには時期尚早であるとはいえ、世界が直面している経済的抑圧がヘイト・クライムにつながっている。

ヘイト・スピーチに関しては、インターネットとソーシャル・メディアの役割が増大していることに注意が必要であり、政府と市民社会には、より安全なインターネットを形成する迅速な関与が求められている。

メインストリームのソーシャル・メディア・プラットフォームのヘイト・スピーチ規制には積極的な傾向が見られるものの、まだ改善の余地がある。オンライン・ヘイト・スピーチに取り組む努力の結果、多くの過激主義者がオルタナティブ・ソーシャル・メディア・プラットフォームに移動した。

オルタナティブ・ソーシャル・メディア・プラットフォームが白人国民主義やネオナチの天国となっている。「反ユダヤ主義サイバー監視システム」はリアルタイムの監視システムであるが、これによると、ナチス・イデオロギーの賛美、ホロコーストの否定、ユダヤ人に対する暴力の呼びかけが見られる。

20212月、ディアスポラ省、戦略的外交省、外務省は、反ユダヤ主義と闘うため、反ユダヤ主義ヘイト・スピーチ・オンラインと闘うアプローチの政策を提言した。提言案はなお審議中である。

16 イタリア

「人種差別に反対する国家事務局」は人種、民族的出身、宗教又は信念、年齢及び性的指向又はジェンダー・アイデンティティに基づくすべての形態の差別からの保護に責任を有する。同事務局は現代的諸形態の人種主義や人種差別の傾向を監視し、差別の申し立てを記録し分析する。同事務局は差別被害者を支援する。

人種主義、排外主義、暴力的過激主義について法的枠組みがあり、2020616日、反ユダヤ主義の認定のための作業部会を設置した。作業部会は20211月に最初の報告書を出し、反ユダヤ主義に反対する国家戦略に関する提案を含んでいる。同じ戦略はEU評議会の要請に従い、反ユダヤ主義と闘う宣言を含んでいる。オンライン・ヘイト・スピーチと闘う措置について、戦略には議会への立法提案を含み、ヘイト・スピーチの報告と削除のシステムを用意している。

オンライン・ヘイト・スピーチの予防と闘いに関して、全国的に、ヘイト・メッセージを発信するウエブ・プラットフォームを特定する戦略が実施されている。

17 キルギスタン

憲法第4条は宗教的又は民族的基礎の政党、並びに宗教団体による政治目的の政党創設を禁止する。過激主義の現象に反対し、根絶する措置を講じている。タリバーン運動、統一教会など6つの宗教団体が過激主義故に禁止されている。

憲法第16条は平等原則、人種及び民族に基づく差別を禁止する。人種差別撤廃委員会勧告に従って、反差別法を採択し、201922年の計画を策定した。

201317年、人民統合及び民族間関係を強化する戦略が実施されている。2014年、民族間紛争を早期に予防するシステムを創設し、早期警報システムにより10,128件の予防措置をとり、市民からの通報5,908件を検討した。

18 マルタ

「人種主義と排外主義に反対する国家行動計画」を作成した。人権担当官は「EUの権利、平等、市民権計画」に基づいて2か年計画の「すべての人の平等」を統括する。「人種主義に反対する欧州ネットワーク」及び「宗教と信念に関する欧州ネットワーク」と協力している。

プロジェクトの対象はマイノリティ構成員であり、宗教や信念、人種や民族的出身に基づく差別の被害者、複合差別の被害者である。

Tuesday, October 26, 2021

ナチス賛美との闘い――ホロコースト否定犯罪を考える02

6.クロアチア

ヘイト・クライムの報告例は少なく、反ユダヤ主義や不寛容の問題は起きていない。「テロリズム予防・抑止国内戦略」と「行動計画」には、過激なイデオロギー拡散や、そのイデオロギーに基づく行為の予防のための措置が含まれる。テロリズム関連で収集された情報がこれらの措置の発展に役に立つ。人種主義や排外主義のイデオロギーや集団についての特別法の枠組みは、公開集会における行為、スポーツイベントにおける行為、刑法第325条がある。

ヘイト・スピーチに関しては、欧州評議会の2008年枠組み決定を国内法に導入し、刑法を改正し、201311日に施行した。警察庁は「ともにヘイト・スピーチに反対する」という予防プロジェクトを実施しており、政府、研究者、スポーツ団体、市民社会団体、メディア、教育機関、スポーツ選手、音楽家、美術家等と協力している。

ホロコーストについて学ぶことは、教育課程の中心部分であり、「国際ホロコースト記憶連合」の教材を利用している。反ユダヤ主義の定義についても同連合の定式を採用しており、202127年の人権保護と差別との闘い国内計画に取り入れている。

ヘイト・クライムに関する情報収集を行っている。インターネット上野ヘイト・スピーチの予防を目的とする措置をとり、警察学校は差別と闘い、基本的人権を尊重する教育課程と啓発活動を警察官に提供している。

7.キューバ

キューバにはネオナチなどの人種主義・排外主義運動、イデオロギー、過激主義集団の現象は見られない。人種主義、人種偏見、人種差別と闘い、撤廃するための法と政策が採用されている。憲法第41条と第42条には平等と非差別の原則が含まれる。201911月、「人種主義と人種差別に反対する国家プログラム」を採択した。

政府は国際レベルでの人種主義と人種差別、そのためのソーシャル・ネットワークの利用に関心を持っている。新型コロナは貧困者、アフリカ系人民、移住者への差別を加速した。キューバはダーバン宣言と行動計画の完全実施のために努力している。

8.キプロス

人種主義犯罪とヘイト・スピーチを犯罪化する法律枠組みがあり、人種、宗教、皮膚の色、ジェンダーに基づくコミュニティ間の敵意を助長する目的の公然たる行為を規制している。人種差別撤廃条約及び欧州評議会のサイバー犯罪条約と追加議定書の当事国である。2008年のEU枠組み決定は国内法に導入されている。

警察官への研修には人権と多様性の保護と尊重、差別、排外主義、人種主義、過激政治運動との闘いが含まれる。警察と14のNGOの間で人権保護促進メモランダムが締結された。警察と拘禁施設への訪問、不服申し立て、情報交換、教育が含まれる。

9.ドミニカ共和国

欧州やアメリカのような人種主義は存在しないが、被害を受けやすい集団に対する差別事件は起きている。憲法第39条は非差別の原則を定める。刑法第336条は差別行為を犯罪化している。ハイチ出身者に対する差別、性的指向とジェンダー・アイデンティティに基づく差別と闘う法律が制定された。

2011年、検察庁に人権局が設置された。人権侵害の予防と被害者支援を目的とし、検察官に対する研修プログラムを開発している。ナチスや反ユダヤ主義の報告例はない。ハイチ国籍者に対する排外主義が経済問題や文化問題に隠れて、存在している。

10.エクアドル

ネオナチやスキンヘッド過激集団、その犯罪は記録されていない。人種主義と差別は法律で持って非難している。

2016年、「アフリカ系人民のための国際10年」の履行のための活動計画に従った国家しえ策を採用している。「人種差別、民族的文化的排除に反対する多国籍計画」を採択し、雇用、健康、教育へのアクセスを是正する措置を定めた。刑法第176条は差別を犯罪としている。

2014年、人民平等委員会を創設し、先住民族、モントビオ、アフリカ系アクアドルジンの代表をいれている。平等を保障し、差別を根絶する公共政策を実施する目的である。委員会は「国民と先住民族、アフリカ系エクアドル人、モントゥビオ人民の平等国内アジェンダ20192021」を定めた。ヘイト・スピーチと闘う措置を講じている。

11.ドイツ

新型コロナが極右過激集団をいっそう過激化させ、「帝国市民」のような集団が盛んに活動している。

内閣は、201910月、極右過激主義やヘイト・クライムと闘うために9ポイント計画を策定し、公共サービスにおける極右過激主義を捜査する措置を定めた。連邦憲法擁護庁と人種主義に反対する内閣委員会は、2020122日、89の包括的カタログを策定した。極右過激主義、人種主義等と闘うさまざまな政策領域におけるプロジェクトの最終パッケージがつくられた。2020年、連邦内務省は、例えば「Combat 18 Germany」「Nordadler」「Wolfsbrigade44」「Geeinte DeutscheVolker und Stamme」「帝国市民」等の極右団体を禁止した。

2017年、「国際ホロコースト記憶連合」が定式化した反ユダヤ主義の作業定義を受容している。2018年、「ドイツにおけるユダヤ人の人生のためのコミッショナー」を任命した。

12.ギリシア

人種主愚を特定し、犯罪を防止する検察と警察の能力が高まってきてこともあり、人種主義動機による特徴を持つと思われる事件の数が、201819年、増加している。202010月、アテネ控訴審は、極右政党の「黄金の夜明け」事務局長と元議員たちを犯罪組織の指揮と関与で有罪とした。

2015年の法律4356号によって「人種主義と不寛容に反対する国家委員会」が設置され、「人種主義と不寛容に反対する行動計画202023年」を策定した。

2019年の法律4619号によって改正された刑法第82a条は、被害者が彼/彼女の人種、皮膚の色、国籍又は民族性、世系、宗教、障害、性的指向、アイデンティティ、ジェンダーに基づいて選択された場合、人種主義的性格の犯罪が行われたとした。刑法第1842項は、人種、皮膚の色、国民的民族的出身、世系、宗教、障害、性的指向、アイデンティティ、ジェンダーに基づいて特定された集団又は人に対して犯罪や暴力を煽動する行為を犯罪とする。1979年の法律第927号は、ジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪、ホロコースト、ナチス犯罪の存在や深刻さを大目に見、矮小化し、悪意を持って否定する目的の行為を犯罪とする。これらの行為が特定の集団やその構成員に対する暴力や憎悪を煽動しそうな場合、刑罰加重事由とする。人種主義犯罪の被害者のためのガイドが準備されている。

201911月8日、「国際ホロコースト記憶連合」が定式化した反ユダヤ主義とホロコースト否定の作業定義を受容し、反ユダヤ主義を監視し、ホロコーストの記憶を保護する特別代表を任命した。

Monday, October 25, 2021

自民党の選挙公約、ここが問題!~『自民党政策BANK』を検証する

 

自民党の選挙公約、ここが問題!~『自民党政策BANK』を検証する

 

20211026

改憲問題対策法律家6団体連絡会

 

 

はじめに

 今回の総選挙は、岸田政権だけでなく、2017年総選挙以降の安倍・菅政治を問う選挙でもあります。安倍・菅政権は何だったのか、安倍・菅政治を完全には断ち切れない岸田政権を続けてもいいのか、が問われています。

 そこで、今回の総選挙に向けて自民党がまとめた詳細な選挙公約である『自民党政策BANK』を検証したいと思います。これは「1 感染症から命と暮らしを守る。」「2 『新しい資本主義』で分厚い中間層を再構築する。『全世代の安心感』が日本の活力に。」「3 国の基『農林水産業』を守り、成長産業に。」「4 日本列島の隅々まで、活発な経済活動が行き渡る国へ。」「5 経済安全保障を強化する。」「6 『毅然とした日本外交の展開』と『国防力』の強化で、日本を守る。」「7 『教育』は国家の基本。人材力の強化、安全で安心な国、健康で豊かな地域社会を目指す。」「8 日本国憲法の改正を目指す。」の8つの大項目から構成され、各項目毎に細かい政策が○で列記されています。

 以下、『自民党政策BANK』を大項目毎に分け、大項目の各○項目からいくつか選び、検証していきたいと思います。まず○項目を「」で引用し、ここが問題以下に太字でこの問題点を挙げていきます。今回総選挙の参考にしていただければと思います。

 

『自民党政策BANK』全文はこちら

→ https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/pamphlet/20211011_bank.pdf

 

1 感染症から命と暮らしを守る。

「○今回の新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ感染症」)の経験を踏まえ、国の司令塔機能を強化しつつ、国と地方の役割分担の見直し、感染症有事における病床・医療人材の確保、保健所・検査・水際対策等の対応力の確保を実効的に行う枠組みを整備

します。」

⇒ここが問題

 全国の保健所が1991年に852か所あったのに、今年(2021年)は470か所、30年間で約半減しました。厚労省の多めに出す計算方法でも、日本の人口10万人当たりのICUの数は14.4床で、アメリカの34.7床、ドイツの29.2床と比べ大変少ないです。人口1000人当たりの医師の数もOECD平均3.5人に対して日本は2.4人、OECD諸国の中では36か国中32番目にすぎません。これは憲法251項で国民の生存権を保障し、2項で国に公衆衛生などの責務を課しながら、新自由主義改革を行ってきた自民党政治の結果です。この間の新自由主義改革を反省しない自民党の主張は信用できません。

 

2 「新しい資本主義」で分厚い中間層を再構築する。「全世代の安心感」が日本の活力に。

 

⇒ここが問題

◆労働者保護

 自民党の選挙公約には、「労働者の権利を守る」の項目がありません。非正規労働者が40パーセントを越え、不安定雇用、賃金格差と低賃金、長時間労働など労働者の権利が切り崩されてきました。失われた労働者の権利を取り戻し、厚く保護することこそが、日本の活力を取り戻すために必要です。自民党は、資本の要求に従い、労働者を保護する気は一切ないのです。

 

◆科学技術

「○脱炭素社会、安全・安心な社会に向け、核融合や半導体を含む環境・エネルギー分野、地震津波観測網等の防災・減災分野、原子力施設の安全確保や試験研究炉の整備を含めた原子力分野、素粒子物理分野の研究開発を推進するとともに、学術研究基盤の整備・共用を図り人材の育成・確保を行います。」

⇒ここが問題

 2011年の東日本大震災による福島原発事故を受け、ドイツやスイス、イタリアは脱原発を決めたのに、事故を起こした日本が原発をやめず、原子力分野の研究開発を推進することは問題です。1022日に閣議決定した政府の「第6次エネルギー基本計画」でも、総発電量に占める電源構成が2019年度実績原子力が6%に対して、2030年度目標を2022%にしています。早く脱原発に向かうべきです。

 

「○安全保障や経済社会で宇宙の重要性が高まる中、小型衛星コンステレーション等“衛星・ロケット新技術”の開発や、政府調達を通じたベンチャー支援、衛星データの利活用促進、産業を含めた“月面活動に必要な技術”の開発等により、宇宙産業市場の倍増を目指します。また、各国の先頭で宇宙デブリ対策に取り組み、世界に貢献します。」

⇒ここが問題

 2021年度の予算で、アメリカを中心に進められているミサイル防衛のための衛星コンステレーション計画との連携を念頭に置きつつ、衛星コンステレーションによるHGV探知・追尾システムの概念検討や先進的な赤外線センサーに係わる研究を行うとしており、宇宙空間における軍拡競争にもなりかねない危険性があります。

 

◆グリーン・カーボンニュートラル・エネルギ-

「○東京電力福島第一原子力発電所事故への真摯な反省を出発点に、国民の原子力発電に対する不安をしっかりと受け止め、二度と事故を起こさない取組みを続けます。何より安全性を優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減します。」

⇒ここが問題

 原発事故当事国が脱原発に踏み切らず、「可能な限り原発依存度を低減」するとはあきれます。「二度と事故を起こさない」ためには脱原発しかありません。

 

◆経済・財政運営

「○財政の単年度主義の弊害是正に向け、科学技術の振興や経済安全保障などの国家課題に中長期的・計画的に取り組みます。」

⇒ここが問題

 単年度会計主義は、後の政権を拘束しないためにあり、特に日本においては戦前の軍事費増大の反省からも大事な原則です。ここでは「防衛費」を明示していませんが、警戒が必要です。

 

3 国の基「農林水産業」を守り、成長産業に。

「○将来にわたって国民に食料を安定的に供給するため、国民が求める多様な農産物の需要に応じた生産の拡大を進め、食料自給率・食料自給力の対策を強化し、農業・農村の所得増大を目指します。」

⇒ここが問題

 1965年度には食糧自給率(カロリーベース)が73%もあったのに、昨年(2020年)度は37%。それなのにさらに食糧自給率を下げかねないTPPへの承認案と関連法を強行したのが自公政権です(2016年)。そんな自公政権が食糧自給率対策の強化などできるのでしょうか。

 

4 日本列島の隅々まで、活発な経済活動が行き渡る国へ。

 

5 経済安全保障を強化する。

「○いかなる状況下においても、国民生活の基盤を維持するために、基幹インフラ産業(情報通信、エネルギー、医療、金融、交通・運輸等)の自律性を高め、強靭化を図ります。」

⇒ここが問題

 福島原発事故後、計画停電を行ったとおり、エネルギーの原発依存は危険です。また、「交通・運輸の強靱化」を言うなら、中曽根政権による1987年の国鉄分割民営化は誤りだったと認めるべきです。民営化によってJRは利潤追求を重視するようになり、多くの赤字ローカル線が廃止されてしまいました。ローカル線に対する具体的な国の支援をうたうべきです。

 

「○公安調査庁の情報収集・分析に係る能力・体制を拡充し、経済安全保障分野の政策判断に必要なインテリジェンスの能力を強化します。」

⇒ここが問題

 菅政権は強大な権限を持つデジタル庁設置などのデジタル関連6法を成立させて、国民監視をデジタルにより行うことを狙っています。そのかなめにいるのが公安調査庁などの警察権力・政府情報機関です。公安調査庁は、1952年制定の破壊活動防止法(第1条「この法律は、団体の活動として暴力主義的破壊活動を行つた団体に対する必要な規制措置を定めるとともに、暴力主義的破壊活動に関する刑罰規定を補整し、もつて、公共の安全の確保に寄与することを目的とする」)に基づいて活動する組織ですが、具体的には日本共産党や市民団体なども監視の対象にしています。議会主義政党の共産党を破壊活動防止法に基づいて監視することは全く不当であり、そもそも公安調査庁自体不要です。

 

「○インテリジェンスの能力及び連携の強化を進めるとともに、経済安全保障に係る各省庁の体制強化を図ります。また、機敏な技術を保有する企業や大学等との連携を強化します。」

⇒ここが問題

 慶応大学(出身)の憲法研究者のように、警察とテロ対策問題で共同研究する動きもありますが(研究成果として、大沢秀介・小山剛編『市民生活の自由と安全』成文堂、大沢秀介・小山剛編『自由と安全』尚学社)、広く理系含め学問はインテリジェンスのためにあるのでしょうか。

 

6 「毅然とした日本外交の展開」と「国防力」の強化で、日本を守る。

◆外交

「○国益に即したODAを質・量両面で拡充し、民間投資との有機的連携により、日本企業の海外進出を一層後押しします。脱炭素化など世界の環境改善、防災、教育、貧困撲滅など、SDGs達成への取組みを加速します。」

⇒ここが問題

 ODAについて、外務省はホームページで「政府または政府の実施機関はODAによって、平和構築やガバナンス、基本的人権の推進、人道支援等を含む開発途上国の『開発』のため、開発途上国または国際機関に対し、資金(贈与・貸付等)・技術提供を行います」と説明しています。ODAを「国益」や「日本企業の海外進出」のために利用することは、飢えや貧困に苦しみ、教育や医療を満足に受けられない人を救うことに繋がらない可能性があります。

 

◆安全保障

「○自らの防衛力を大幅に強化すべく、安全保障や防衛のあるべき姿を取りまとめ、新たな国家安全保障戦略・防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画等を速やかに策定します。NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、防衛関係費の増額を目指します。」

⇒ここが問題

 日本の防衛費(「防衛関係費」)は民主党政権の2012年度に46453億円まで減ったものの、安倍政権の2013年度から毎年増え、今年度は51235億円に達しましたが、それでもGDP1%以内に収まっていました。しかし、今、優先的に予算を回すべき対象はコロナ対策費であり、防衛費ではありません。にもかかわらず、現在の2倍にまで防衛費を増やす必要があるのでしょうか。

 

「○周辺国の軍事力の高度化に対応し、重大かつ差し迫った脅威や不測の事態を抑止・対処するため、わが国の弾道ミサイル等への対処能力を進化させるとともに、相手領域内で弾頭ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取組みを進めます。」

⇒ここが問題

 これはいわゆる「敵基地攻撃論」のことです。しかし、「敵基地攻撃」は政府がこれまで憲法9条から説明してきた専守防衛や海外派兵の禁止に反するものです。しかも、ここでは「相手領域内で弾頭ミサイル等を阻止する」と表現しており、「敵基地」に限定されていません。これは他国と地理的に限定的ではない戦争をすることを意味し、許されません。

 

「○抑止力を維持しつつ、沖縄等の基地負担軽減を実現するため、普天間飛行場の辺野古移設や在日米軍再編を着実に進め、自治体への重点的な基地周辺対策を実施します。米国政府と連携して事件・事故防止を徹底し、日米地位協定のあるべき姿を目指します。」

⇒ここが問題

 沖縄の基地負担を軽減するなら、普天間飛行場を辺野古に「移設」するのではなく、本土か海外に移転しなければ「軽減」とはなりません。また、「日米地位協定のあるべき姿を目指します」といった抽象的なスローガンではなく、日米地位協定の不平等規定などの改定を実現していくべきです。

 

7 「教育」は国家の基本。人材力の強化、安全で安心な国、健康で豊かな地域社会を目指す。

◆教育・文化・スポーツ

「○学制発布150年を踏まえ、『教育は国家の基本』『学びの継続保障』『個別最適で協働的な学び』の考えのもと、11台の端末を最大限活用し、小学校における35人学級を計画的に推進し、その効果検証を踏まえ、中学校での対応を検討します。小中一貫校の加速、10歳位までの基礎基本習得、小学校高学年への教科担任制の導入など、学習環境や学校規模の確保等を実現します。」

⇒ここが問題

 戦前の軍国主義教育・皇民化教育といった国家主義的教育の反省から憲法26条で国民の教育を受ける権利を保障したのであり、国家のために教育を行うのではありません。2018年に自民党がまとめた4項目改憲案でも、263項は「国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものである」としているように、国家主義的な教育観があります。「教育は国家の基本」を第一に掲げる教育観は間違っています。

 

8 日本国憲法の改正を目指す。

◆憲法改正

○「『現行憲法の自主的改正』は結党以来の党是であり、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3つの基本原理は今後とも堅持し、国民の幅広い理解を得て、憲法改正への取組みを更に強化します。」

⇒ここが問題

 憲法91項の戦争放棄の規定は、学界でも①「侵略戦争」を放棄したもの、②「自衛戦争」をも放棄したものと解釈が分かれ、①は国連憲章と同じ立場の解釈です。この1項に対して、2項の戦力の不保持の規定が世界的に見て独特のものです。政府は2項で禁止する「戦力」を「自衛のための必要最小限度の『実力』を超えるもの」と解釈することで、自衛隊は「戦力」ではない、「実力」にすぎないから他国軍隊と違って海外派兵はできない、集団的自衛権行使はできない、専守防衛に徹すると説明してきました。しかし、2012年の自民党の「日本国憲法改正草案」は、9条を改正して全面的な集団的自衛権の行使ができる国防軍を保持しようとするものであり、日本独特の平和主義の基本原理を今後とも堅持するものではありません。

 

「○わが党は憲法改正の条文イメージとして、①自衛隊の明記、②緊急事態対応、③合区解消・地方公共団体、④教育充実の4項目を提示しています。衆参の憲法審査会を安定的に開催し、憲法の本体論議及び国民投票法について積極的に議論を進めます。」

⇒ここが問題

 この自民党の4項目改憲案ですが、①は自衛隊違憲論による制約(専守防衛、海外派兵の禁止、かつての集団的自衛権行使の否認)の解消と「安保法制」(戦争法)の合憲化が狙いです。昨年から②に関して、憲法に緊急事態条項があればコロナ対応ができるという議論が自民党から出てきていますが、イギリスには憲法典がそもそもありませんし、アメリカ憲法に緊急事態条項はなく、ドイツ・フランスは緊急事態条項があっても発動せず、多くの国でコロナ対応は法律で行なってきました。憲法を変えて緊急事態条項を入れれば、コロナ対応できるというものではありません。③は参議院選挙区の定数不均衡や合区解消のためには改憲ではなく、選挙区をやめて比例代表制1本にすれば解決できます。④も改憲ではなく法律で対応できる問題です。こういう改憲案にだまされてはいけません。

 

「○憲法改正に関する国民意識を高め、憲法改正原案の国会発議、国民投票の実施、早期の憲法改正を目指します。」

⇒ここが問題

 今、最優先すべきことは改憲ではなくコロナ対策です。憲法99条に国務大臣・国会議員など公務員の憲法尊重擁護義務があるのですから、まずは憲法理念の実現に努めるべきです。

ナチス賛美との闘い――ホロコースト否定犯罪を考える01

最新刊『ヘイト・スピーチ法研究要綱』(三一書房、2021年)の「第9章 ホロコースト否定犯罪を考える」で、諸外国の立法状況を紹介した。

https://31shobo.com/2021/08/21005/

 

この問題ではドイツの「アウシュヴィツの嘘」が有名である。「ユダヤ人虐殺」を否定したり、正当化する発言を公然とおこなえば、ドイツでは犯罪とされることはは日本でも知られる。ドイツ法については楠本孝、金尚均、桜庭総による詳細な研究がある。しかし、ドイツだけではない。

『ヘイト・スピーチ法研究序説』(三一書房、2015年)では、ドイツ、フランス、スイス、リヒテンシュタイン、スペイン、ポルトガル、スロヴァキア、マケドニア、ルーマニア、アルバニア、ロシア、イスラエル、ジブチの状況を紹介した。フランスとスペインについては光信一宏の詳細な研究がある。

今回の『ヘイト・スピーチ法研究要綱』では、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ、フランス、ドイツ、ギリシア、ハンガリー、イタリア、ラトヴィア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロヴァキア、スロヴェニア、スペインなどを紹介した。韓国でも立法提案がなされてきたこと、それゆえ日本より韓国の方が研究が進んでいることも紹介した。他方、東欧諸国では、ナチスの犯罪だけでなく、スターリン時代の犯罪についても同じ法律が適用されるため、議論状況が複雑であることにも触れた。

イスラエル、ジブチ、韓国を除くとやはり欧州に集中しているので、それ以外の諸国の状況も調査が必要であり、その一部は上記『要綱』で言及したものの、まだまだ不十分である。

また、国連人権理事会でもこの問題の議論が継続しており、人種主義・人種差別特別報告者が何度か著往査結果を報告してきた。そのうち2015年と2018年の特別報告書をやはり上記『要綱』にて紹介した。

東京オリンピック直前に日本でもこの問題が話題となったが、そこでの議論を見ると、基礎知識がないがゆえに、国際常識からかけ離れた議論をしている。ブログに少しだけ書いておいた。

https://maeda-akira.blogspot.com/2021/07/blog-post_22.html

以上は前置きである。

国連人権理事会第48会期に、テンダイ・アチウメ「人種主義・人種差別・排外主義・関連する不寛容の現代的諸形態に関する特別報告者」の報告書(A/HRC/48/77. 13 September 2021)が提出された。

テンダイ・アチウメはザンビア出身で、現在UCLAロサンジェルス校教授である。移住者や難民法の研究で知られ、国連人権理事会の特別報告者に任命された。

(名前の読み方は知らない。国連人権理事会で、議長がテンダイ・アチウメと発音していたので、私はこう書いてきたが、国連での固有名詞の発音はかなりいい加減である。私の名前はアキーラ・メーダになる。)

本報告書では、アチウメの要請に応じて情報提供した30か国の関連情報が整理されている。各国から報告された情報を要約したもので、独自の分析を加えていない。ドイツやオランダなど欧州の国もあるが、アルゼンチンやブラジルなど、西欧以外の国の名前もあるので、これまで日本では知られていない情報が含まれていると思う。ただし、必ずしもホロコースト否定犯罪に直接関係する情報ではない。報告書の終わりの方では、「人種平等枠組み」について論じている。

以上から、重要な報告書なので、簡潔に紹介する。

1.アルバニア

アルバニア政府によると、2010年の差別からの保護に関する法律(法律10221号)が平等と非差別の原則の履行を規制する。2020年、法改正によって「交差する差別」「複合差別」「構造的差別」「ヘイト・スピーチ」の定義が導入された。差別からの保護コミッショナーは本法の履行と監視の責任を有する。2020年、コミッショナーは人種に基づく差別の申し立てを18件処理した。

コミッショナーによると、構造的差別が継続しており、2020年、複合的理由による差別事件が増加している。コミッショナーの任務の範囲で、平等と非差別の原則の履行を強化するために、市民権法案と刑務所規律法案の勧告をした。健康社会保護省の政策に関して、ロマ及びエジプト人の平等・統合・参加に関する行動計画(202125)案を勧告した。国内マイノリティの保護のため国内レベルでの啓発キャンペーンを行ってきた。

. アルゼンチン

アルゼンチン政府によると、2015年、「差別・排外主義・人種主義に反対する国内機関」を創設した。ユダヤ人に対する差別慣行に対処する法枠組みがあるが、根絶できていない。宗教の平等の文化を促進するため、20以上の信念、世界観、宗教を代表する作業部会を創設した。毎月の定例会で、宗教の多様性に関する問題を扱い、多様な集団間の対話と寛容を促進している。歴史の記憶を維持し、差別と憎悪と闘うため、とくに宗教に基づく差別のすべての形態を撤廃し、多様性と寛容を促進する一連の議論を行ってきた。

過去10年間、ヘイト・スピーチがますます問題となり、過激主義が目立つようになり、ソーシャル・メディアやインターネットを通じて個人や集団がアクセスしやすくなってきた。「差別・排外主義・人種主義に反対する国内機関」は啓発のために勧告することができる。

3.アルメニア

アルメニアにはネオナチやスキンヘッド集団など人種主義・排外主義的集団や運動はない。憲法は非差別原則を含み、政党法第9条は憲法秩序や領土の統合を暴力的に変更し、国民、人種、宗教憎悪の煽動、暴力と戦争の宣伝を目的とする政党の設立は禁止されている。NGO法は、憎悪の煽動、暴力や戦争の宣伝を行う団体の停止を定める。刑法第63条は、犯罪が民族、人種、宗教的動機による場合、刑罰加重事由とする。

201912月、アルメニアは人権保護戦略と行動計画202022を採択し、ヘイト・スピーチについての責任を国際基準に合致させる計画である。刑法第226条は、国民、人種、又は宗教憎悪、人種的優越性、国民の尊厳の侵害の煽動を犯罪とした。公然又はマスメディアによるもの。暴力又は暴力の威嚇によるもの。公的地位の乱用によるもの。組織集団によるもの。警察ハイテク犯罪部局は人種主義文書の配布を予防するためインターネットを監視する。

20204月、アルメニアは人種差別撤廃条約に従って暴力の公然正当化や唱道など暴力の公然呼びかけを犯罪とするため刑法第2262項を導入した

4.ブラジル

新しいIT利用の増加につれて、インターネット上野ヘイト・スピーチと不寛容が顕著に増加している。新型コロナ禍の下、サイバー犯罪が増加している。

憎悪、人種的暴力、差別の煽動行為は刑法で対処し、ナチスの助長を目的とするシンボルの配布や宣伝は刑法の対象である。1980年以来、ネオナチ運動が強まり、12以上の団体が活動している。

国内でヘイト・スピーチを訴追する課題がある。ヘイト・スピーチはまだ厳密には犯罪化していないが、差別犯罪として訴追している。不処罰と闘うために予防と抑止が決定的である。

5.ブルンジ

最近、暴力、人種憎悪、民族的不寛容又は人種差別を煽動する宣伝や行為を予防する立法枠組みと組織ができた。2018年憲法はすべての形態の差別に対する規定を持つ。憲法第22条は非差別、第78条は暴力、排除、憎悪を唱道する政党を禁止する。2011年法は、政党には、民族、地域、宗教、ジェンダー理由に基づく暴力、憎悪、差別を助長する目的のイデオロギーや行為と闘わなければならないとする。2017年の刑法第266条は人種又は民族憎悪への関与や煽動をした者に刑事施設収容を定める。

最近、政治分野における不寛容の防止のため政党のフォーラムを設置した。ジェノサイド、戦争犯罪、人道に対する罪の予防と根絶のための国内監視機関を設置した。2017年に国民統合・和解委員会、2014年に真実和解委員会を設置した。

Saturday, October 23, 2021

非国民がやってきた! 004

三浦綾子『道ありき』(新潮文庫)

三浦綾子の自伝的小説3部作の第1作<青春編>である。1964年にベストセラー『氷点』で作家として知られるようになった三浦が、196768年雑誌「主婦の友」に連載し、1969年に単行本になった。後に第2部『この土の器をも』、第3部『光あるうちに』が書かれる。

青春編は24歳からの13年間を扱う。高校を卒業して学校教師になった著者だが、敗戦による混乱期、教えることへの疑問にかられて教職を辞し、虚無的な生活の中、肺結核での入院生活を余儀なくされる。

13年間の闘病生活の中での家族や、人との出会い、短歌、そして聖書の教えに導かれる日々を過ごす。自ら病に倒れ、愛する者が病で去っていく過酷な日々に、著者が思い、綴った手紙や日記や短歌が著者の心象風景を映し出す。西中一郎との婚約と別れ、前川正との愛と前川の死、32歳で三浦光世と出遭い、37歳で結婚し、闘病生活に終わりを告げることになる。

ここで描かれた自然や街の様子(旭川や札幌)、登場する人々は『氷点』のモデルにもなっている。もっとも、名前を借用しただけでモデルではない場合もあるという。

いずれにせよ、風景、旋律、文体、諧調は『氷点』と同じである。三浦綾子の文体は、華美でも華麗でも鮮烈でもなく、すべてがたんたんと綴られる。説明調のようでいて、説明ではない。心象の吐露のようでいて、吐露ではない。地の文も会話も、すべてが淡々と進む。悲嘆あり、激情あり、出遭いがあり、永遠の別れがありながら、どこか自省的であり、にもかかわらず諄々とたゆみなく続く。

何よりも不思議なのは、194659年という時期の旭川と札幌の中産家庭と病院を舞台にしながら、敗戦後の混乱や、新しい平和憲法の制定や、戦後民主主義が直接には描かれていない。

もちろん時代相を無視しているわけではない。共産党員による平和懇親会にも言及がある。戦時中には戦争に熱狂していた人々が戦後になるとキリスト教に目覚めて教会に通っていることを、虚無主義の時期には冷笑的に見ているが、後に聖書に導かれて、洗礼を受ける。あの時代に、平和憲法と戦後民主主義に浮かれた思想を病室から冷ややかに見ていたであろう三浦綾子の内面がつづられる。そこに現れない時代、世相を読者は想像しながら読み進むことになる。生きること、人と出会うことを、この時代の社会の表層とからは限りなく遠い地点で、著者は思い続け、問い続け、自分を審問し続ける。