Tuesday, November 28, 2017

ヘイト・クライム禁止法(137)スロヴェニア

スロヴェニア政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/SVN/8-11. 22 September 2014)によると、2008年刑法は2011年に改正された。刑法297条(旧300条)は、憎悪、暴力、不寛容の公然の煽動を刑事犯罪とした。犯罪がウェブサイトを通じて行われた場合、サイトの管理人やその代理人を訴追する規定である。旧300条は犯罪がメディアを通じて行われた場合にメディアの編集者を訴追することしかできなかった。改正は、憲法14条の法の下の平等、他者の事情を基にした差別の禁止に従ったものであると同時に、2010年に欧州人権条約第一二選択議定書を批准したことによる。また、改正刑事訴訟法は、検察官と裁判所の仕事を促進するために答弁取引の制度を導入し、手続きを迅速化した。これにより平等原則を侵害する犯罪や憎悪、暴力、不寛容の公然の煽動の事案を効果的に訴追できるようになった。
刑法297条(旧300条)の判決例
2008年のリュブリアナ高裁決定によると、被告人は地域センターにおける集会において、「今度の金曜日の7時、そこで会おう。断固たる計画を実施し、手を振ったら、ロマに対する人身攻撃の合図だ。」この言葉は、この地域で緊張状態にあったロマのある家族に言及したものである。地裁は、旧300条の憎悪、暴力、不寛容の煽動について被告人を無罪とした。検事控訴の結果、高裁は、別の裁判官に差し戻した。理由は、憲法63条は表現の自由の特定の局面を規制し、差別の煽動や憎悪の煽動を禁止している。スロヴェニアにおけるイタリア人とハンガリー人のコミュニティだけが特別に保護されるという一審判決は正しくない。ロマ・コミュニティはロマ・コミュニティ法によって保護されるだけであるという一審判決は正しくない。ロマ・コミュニティは憲法65条の保護を受ける。ロマ・コミュニティは国民的マイノリティではないが、民族的コミュニティであり、マイノリティ集団であり、憲法上の権利を享受する。
2008年のリュブリアナ高裁決定によると、被告人は国営テレビのインタヴューで、「そこで虐殺が起きる。きっと。確かなことだ。焼き尽くして、奴らを殺す。いまカメラに向かって言ってやる。一億パーセントの確率で起きる。俺の子どもや俺に何かが起きたら、すべてが進行する。言葉はいらない、俺を信用しろ。」と述べた。これはこの地域のロマに言及したもので、マジョリティ住民とロマに闘いをたきつけるものである。一審は被告人を無罪としたが、検察官控訴の結果、高裁は差し戻した。すなわち、旧300条は国民、人種、宗教集団の構成員の間に不平等をつくり出すことを目的とした行為を禁止している。一審判決は、スロヴェニアにおけるロマの地位の比較に焦点を当てて、憲法が保護するのはイタリア人とハンガリー人のコミュニティだけであるとした。しかし、刑法規定を見れば、煽動によって、他の国民構成員を攻撃させたり、紛争を惹起する実行者に適用される。政治的決定過程に参加しようとするロマの努力を考慮して、高裁は、ロマ・コミュニティは民族基準に合致すると判断した。それゆえ、ロマに対して向けられた行為は民族的憎悪の煽動に該当する。
2010年のリュブリアナ高裁判決によれば、地裁は被告人を、旧300条の平等原則に違反した憎悪、紛争、不寛容の煽動犯罪で有罪とし、3か月の刑事施設収容2年の執行猶予とした。被告人が控訴し、高裁は控訴を棄却し一審判決を支持した。事案はあるロマ家族に向けられた不寛容の表現である。高裁によると、刑法は憲法に従って解釈されなければならない。それゆえ旧300条の解釈にあたって、憲法63条及び14条、及び批准した国際文書を考慮し、「民族」概念には、社会学的意味においては国民の特徴を有しないコミュニティが含まれると解釈されるべきであるとした。
2006年の公共秩序保護法は、国民、人種、ジェンダー、民族、宗教及び政治的不寛容、並びに性的志向に基づく不寛容を煽動する意見表明を一定の軽罪として罰金を科している。同法はモニタリングを推奨している。2007~09年における不寛容に関する軽罪の分析によると、事件数は少ない。20条(不寛容の煽動)は127件であった。2010年は43件、2011年は61件、2012年は56件であった。刑法297条で刑事裁判となったのは29件であった。2010年は34件、2011年は44件、2012年は31件であった。
この分析は次の結論を引き出している。警察官に対するあらゆるレベルの教育訓練が必要である。合法的かつ包括的に安全イベントを行う必要がある。予防措置を通じて寛容促進が必要である。重大犯罪を予防するために、軽罪事案に適切に注意を払う必要がある。

Tuesday, November 21, 2017

ヘイト・スピーチ研究文献(112)米国のヘイト・スピーチ

波多野綾子「米国におけるヘイトスピーチの現状」『部落解放』749号(2017年)
シャーロッツビル事件、どっちもどっちというトランプ発言、その悪影響によるヘイト・クライム多発と、反レイシズムの動きを紹介・検討している。






Sunday, November 19, 2017

つぶやき、立ち止まり、働くことについて考える

巳年キリン『働く、働かない、働けば』(三一書房)
働くって、よいことだと思うのだけど…
仕事してる時間は、 自分の人生じゃないような気がする…
お金もらえても、一度きりの人生を浪費されてる感じがして…

生きること、はたらくことについて考える、すべてのひとに贈る
「プレカリアート・コミック」!
労働をめぐる思いを綴った漫画はこれまでにもあったが、理論や理想を追求する側面もあり、大上段に振りかぶっている、などという受け止め方をされてきた。その評価が当たっているとは思わないが、そういう印象で受け止められることがあるのは理解できる。
他方、本書は、間違ってもそういう印象を与えない。切なく、はかなく、優しく、そして/しかし、自分を見つめ、人に倣い、もう一度自分を見つめ、小さな小さなつぶやきを繰り返す。どんぐりさんがつぶやく。せろりさん、アーモンドさん、きゅーりさん、じゃがいもさん、ながねぎさん、たまねぎさんが行き交い、語りあう。
つぶやきの積み重ねが山となるわけではない。つぶやきはつぶやきのまま、ささやきはささやきのまま、悩みは悩みのまま、しかし/しかも、たじろぎながら歩み、歩みながら立ちつくし、立ちつくしながら、回れ右して逃げ出したい自分に向き合い、逃げ出した自分を責めるのではなく、逃げたい心のままに、もう一度たじろぎながら歩み出す。
労働とは何か。社会とは何か。人生とは何か――人は何とどのようにつながって生きてゆくのか。人が人として認められることとはどのようなことなのか。
貧困と格差と収奪と腐敗とハラスメントの現代の労働現場から、せめて四角い青空を見て一息ついて見よう。




Saturday, November 11, 2017

シンポジウム「ラッセル法廷」50周年

シンポジウム「ラッセル法廷」50周年
——戦犯裁判・戦犯民衆法廷の歴史的文脈とその遺産——
      
本年2017年は「ラッセル法廷」50周年にあたる。 ヴェトナム戦争が激化していた1967年にイギリスの哲学者バートランド・ラッセルの提唱で2度にわたってスウェーデンとデンマークで開催された「ラッセル法廷」は、ニュルンベルク裁判や東京裁判を批判的に検討してヴェトナムでの米国の戦争行為が民族の生存そのものの抹殺を図る「ジェノサイド」的様相を帯びているとの理解を提示し、しかも日本軍性奴隷制やアフガニスタン・イラクでの米国の戦争犯罪を裁く目的で今世紀に入って開催されてきた国際的な戦犯民衆法廷の先駆けをなすものとして歴史的意義を持つ。本シンポジウムでは、「ラッセル法廷」開催から50周年を迎える機会に、「ラッセル法廷」の歴史的意義とともに、ニュルンベルク裁判や東京裁判ならびに国際的な戦犯民衆法廷の歴史的文脈とその遺産を改めて問い直し、戦争責任問題の歴史的・今日的位相に関して再検討することを試みる。

日時:2017122日 土曜日 14時〜1730
場所:一橋講堂(学術総合センター2F)中会議室
101-8439 東京都千代田区一ツ橋2-1-2
(地下鉄神保町駅下車徒歩3分・竹橋駅下車徒歩3分)


予約不要/参加無料
<<プログラム>>
報告
藤本 博 (南山大学外国語学部):
「ラッセル法廷」が問いかけたこと
   ーヴェトナムでの米国の戦争犯罪に対する国際的批判と日本における戦犯調査活動の貢献ー
戸谷由麻(ハワイ大学歴史学部):
東京裁判における通例の戦争犯罪の追及:法廷における争点とその意義
前田朗(東京造形大学):
民衆法廷を継承する精神アフガニスタン及びイラク国際戦犯民衆法廷の経験
ディスカッション
司会 油井大三郎(東京大学名誉教授・一橋大学名誉教授)
コメンテーター 芝健介(大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター)

主催:科学研究費助成事業 基盤研究(A

「アジア・太平洋戦争史」の比較と総合:国際的研究教育プログラムの開発(研究代表 中野聡) 


お問い合わせ先:apwarproject2015@gmail.com

Friday, November 03, 2017

ヘイト・スピーチ研究文献(111)マイノリティ女性に対する暴力

「特集:マイノリティ女性に対する暴力」『IMADR通信』192号(2017年)
「ヘイト・スピーチと闘った在日コリアン女性」元百合子
「ネパールのダリット女性と暴力」藤倉康子
「レイシズムと複合差別」小森恵
「サルツブルクのロマ」金子マーティン
「ヨーロッパ政府とヘイトスピーチ対策」宮下萌