スロヴェニア政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/SVN/8-11.
22 September 2014)によると、2008年刑法は2011年に改正された。刑法297条(旧300条)は、憎悪、暴力、不寛容の公然の煽動を刑事犯罪とした。犯罪がウェブサイトを通じて行われた場合、サイトの管理人やその代理人を訴追する規定である。旧300条は犯罪がメディアを通じて行われた場合にメディアの編集者を訴追することしかできなかった。改正は、憲法14条の法の下の平等、他者の事情を基にした差別の禁止に従ったものであると同時に、2010年に欧州人権条約第一二選択議定書を批准したことによる。また、改正刑事訴訟法は、検察官と裁判所の仕事を促進するために答弁取引の制度を導入し、手続きを迅速化した。これにより平等原則を侵害する犯罪や憎悪、暴力、不寛容の公然の煽動の事案を効果的に訴追できるようになった。
刑法297条(旧300条)の判決例
2008年のリュブリアナ高裁決定によると、被告人は地域センターにおける集会において、「今度の金曜日の7時、そこで会おう。断固たる計画を実施し、手を振ったら、ロマに対する人身攻撃の合図だ。」この言葉は、この地域で緊張状態にあったロマのある家族に言及したものである。地裁は、旧300条の憎悪、暴力、不寛容の煽動について被告人を無罪とした。検事控訴の結果、高裁は、別の裁判官に差し戻した。理由は、憲法63条は表現の自由の特定の局面を規制し、差別の煽動や憎悪の煽動を禁止している。スロヴェニアにおけるイタリア人とハンガリー人のコミュニティだけが特別に保護されるという一審判決は正しくない。ロマ・コミュニティはロマ・コミュニティ法によって保護されるだけであるという一審判決は正しくない。ロマ・コミュニティは憲法65条の保護を受ける。ロマ・コミュニティは国民的マイノリティではないが、民族的コミュニティであり、マイノリティ集団であり、憲法上の権利を享受する。
2008年のリュブリアナ高裁決定によると、被告人は国営テレビのインタヴューで、「そこで虐殺が起きる。きっと。確かなことだ。焼き尽くして、奴らを殺す。いまカメラに向かって言ってやる。一億パーセントの確率で起きる。俺の子どもや俺に何かが起きたら、すべてが進行する。言葉はいらない、俺を信用しろ。」と述べた。これはこの地域のロマに言及したもので、マジョリティ住民とロマに闘いをたきつけるものである。一審は被告人を無罪としたが、検察官控訴の結果、高裁は差し戻した。すなわち、旧300条は国民、人種、宗教集団の構成員の間に不平等をつくり出すことを目的とした行為を禁止している。一審判決は、スロヴェニアにおけるロマの地位の比較に焦点を当てて、憲法が保護するのはイタリア人とハンガリー人のコミュニティだけであるとした。しかし、刑法規定を見れば、煽動によって、他の国民構成員を攻撃させたり、紛争を惹起する実行者に適用される。政治的決定過程に参加しようとするロマの努力を考慮して、高裁は、ロマ・コミュニティは民族基準に合致すると判断した。それゆえ、ロマに対して向けられた行為は民族的憎悪の煽動に該当する。
2010年のリュブリアナ高裁判決によれば、地裁は被告人を、旧300条の平等原則に違反した憎悪、紛争、不寛容の煽動犯罪で有罪とし、3か月の刑事施設収容2年の執行猶予とした。被告人が控訴し、高裁は控訴を棄却し一審判決を支持した。事案はあるロマ家族に向けられた不寛容の表現である。高裁によると、刑法は憲法に従って解釈されなければならない。それゆえ旧300条の解釈にあたって、憲法63条及び14条、及び批准した国際文書を考慮し、「民族」概念には、社会学的意味においては国民の特徴を有しないコミュニティが含まれると解釈されるべきであるとした。
2006年の公共秩序保護法は、国民、人種、ジェンダー、民族、宗教及び政治的不寛容、並びに性的志向に基づく不寛容を煽動する意見表明を一定の軽罪として罰金を科している。同法はモニタリングを推奨している。2007~09年における不寛容に関する軽罪の分析によると、事件数は少ない。20条(不寛容の煽動)は127件であった。2010年は43件、2011年は61件、2012年は56件であった。刑法297条で刑事裁判となったのは29件であった。2010年は34件、2011年は44件、2012年は31件であった。
この分析は次の結論を引き出している。警察官に対するあらゆるレベルの教育訓練が必要である。合法的かつ包括的に安全イベントを行う必要がある。予防措置を通じて寛容促進が必要である。重大犯罪を予防するために、軽罪事案に適切に注意を払う必要がある。