渡辺靖『白人ナショナリズム』(中公新書)
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2020/05/102591.html
『文化と外交』『リバタリアニズム』などアメリカ政治と文化に関する新書を何冊も出している著者の最新刊だ。新型コロナと人種問題に揺れるアメリカの現在を知るために格好の本である。
登場するワードは、反移民、反LGBTQ、反イスラム、クリスチャン・アイデンティティ、ヘイト音楽、男性至上主義、新南部連合、ネオナチ、レイシスト・スキンヘッド、過激伝統カトリシズム、KKK、等々。
ただ、過激なレイシスト集団を中心にすると言うよりも、ある意味では「穏健」な白人ナショナリストの実像を紹介している。
「まるで学会のような雰囲気」で、討論を行い、日本人を高く評価し、「白人の公民権運動」をめざす。人種現実主義、陰謀論、暗黒啓蒙など、多様な立場と人物が登場する。アメリカだけでなく、欧州の右翼や過激集団との連携も含めてグローバルな現象にも視線を送る。
アメリカはもともと引き裂かれ、分裂していたが、近年ますますその度合いを強めている。民主党と共和党という政治的レベルや、人種主義のレベルの分岐も多様だが、複合的な差別現象をつなぐため、いっそう分裂が深まる。それでも全米に多大の影響を及ぼしているので、帰趨が懸念される。
著者は数々の白人ナショナリストに直接取材し、その実像を伝えようとする。「インフォーマントとの距離の取り方はつねに難しい」と述べつつ、インタヴュー、オンライン情報、論文等を駆使して白人ナショナリズムの全貌を提示しようとする。新書1冊でここまで書いているのは、著者の意図がしっかり実現されていると言って良いだろう。
ヘイト・クライムやヘイト・スピーチと関連する部分は知っていたが、それ以外の部分は初めて知ることが多く、参考になる。