――新在留管理制度関連法案を斬る
総務省の「住民基本台帳法改定案」、法務省の「出入国管理および難民認定法改定案」、「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法改定案」が国会上程、審議されている。
これによって外国籍者に対する新たな在留管理制度が採用され、外国人登録法が廃止されることになっている。外国人登録証明書に代えて、「永住者」資格の外国籍者には「在留カード」、旧植民地出身者とその子孫など「特別永住者」資格の者には「特別永住者証明書」を新たにつくり、その常時携帯を義務付けるという。また、住所変更届出を一四日以内に行わなかった者など、些細な義務違反についても外国人には刑事罰が適用されることになっている。再入国許可については「みなし再入国許可」という許可免除制度が含まれているものの、その前提として「有効な旅券」の所持が要件とされている。日本政府は朝鮮民主主義人民共和国を認めていないため、朝鮮の旅券は「有効な旅券」と解釈されない。このため韓国旅券を保有しない在日朝鮮人は、許可免除制度の対象外とされてしまう。
日本の外国人登録制度における常時携帯義務の強制や、些細なミスに対する刑事罰の適用は、国際人権規約に基づく自由権規約委員会から繰り返し是正勧告が出ている。それにもかかわらず、今回の法案はいっそうの管理強化をめざし、人権保障をないがしろにしたもので、自由権規約委員会の勧告を軽視している。
五月二三日、日本市民による人権NGOの「在日朝鮮人・人権セミナー」と、在日朝鮮人による「在日本朝鮮人人権協会」は、市民集会「新在留管理制度関連法案を斬る――新たな入管体制に見る日本の外国人政策」(於・東京ボランティア・市民活動センター)を共催した。
長年、外国人住民の基本権を擁護する活動に従事してきた旗手明(自由人権協会理事)は、法案の基本内容を概括した上で、「管理」の側面だけで見れば合理的かもしれないが、継続的・包括的な個人情報収集・保有はプライバシー保護の観点から許容されるのか、大いに疑問であると批判した。特別永住者については「特別永住者証明書」の常時携帯義務、提示義務、切替義務や刑事罰が予定されているので従来よりも厳しい管理制度であるという。また、外国人住民の台帳制度は、行政サービスという観点からは必要なものであるが、実際に提案されているのは、住民サービスとは別次元の在留管理制度に従属した制度であると述べた(資料として、「在留カードに異議あり!」プロジェクトチーム編『改悪入管法解体新書』二〇〇九年)。
在日本朝鮮人人権協会理事の金舜植(弁護士)は、改正案の問題点として、①住民基本台帳法及び戸籍法と比較してあまりにも煩雑かつ重罰を定めているので極めて不当であるとし、②常時携帯義務が予定されているが、一九九九年の外国人登録法改正の参議院付帯決議でも抜本的見直しが指摘されていたし、国際人権規約に基づく自由権規約委員会からも何度も改善を勧告されてきたのに、再導入されようとしていると批判した。③「みなし再入国許可」における「有効な旅券」も、言葉とは裏腹に国籍欄が「朝鮮」の在日朝鮮人については、日本政府はこれを国籍とみていないし、朝鮮民主主義人民共和国と国交がなく、その旅券を有効な旅券とみなしていないから、不当な差別が持ち込まれるのは明らかだと批判した。
筆者は、「国際人権法から見た日本」と題して、国連人権委員会(現・人権理事会)、同小委員会、さらには各種の人権条約委員会(自由権規約委員会、社会権規約委員会、人種差別撤廃委員会、拷問禁止委員会など)における議論を通じて明らかにされてきた日本政府による外国人の人権侵害(積極的な差別、人権侵害の放置・無視、差別とその煽動)を確認し、人権機関からの改善勧告をさらに獲得していく運動の課題を述べた。
衆議院における攻防は予断を許さない。参議院における審議の充実も射程にいれての運動のヤマ場である。
なお、当日配布資料の『人権と生活』二八号(在日本朝鮮人人権協会、二〇〇九年)が重要な「特集・在留管理制度関連法案と日本の入管政策」を組んでいる。
『思想運動』827号(2009年6月)