Sunday, January 02, 2011

あけましておめでとうございます

あけましておめでとうございます。

2010年もばたばたと走り回っていましたが、年末年始はゆっくりのんびり読書でした。

大晦日は、『朝鮮学校高校無償化除外反対アンソロジー』を通して読みました。詩人・河津聖恵さんの呼びかけに始まって、79人の詩人・歌人たちが作品を提供して編まれた詩集です。部分的には何度も読んでいたのですが、全体を通して読んだのは初めてです。詩集を読むのはとても時間がかかります。法律専門書の方が早く読めたりします。一篇読むたびに頁を閉じて、あれこれ考えなくてはなりません。2010年、一番印象の深い1冊でした。

元旦。池田浩士編『逆徒 「大逆事件」の文学』(インパクト出版会)です。内山愚堂の「入獄紀念・無政府共産・革命」、森鴎外の「沈黙の塔」、徳富蘆花の「謀叛論」、平出修の「逆徒」など、読み応えがあります。非国民の作り方を論じてきた私は、秋水、すが、啄木などを除くと、あまり読んでいなかったので、大逆事件を、同時代人、とくに文学者がどう受け止めたかを中心に編まれている本書は、とても助かります。

http://www.jca.apc.org/~impact/cgi-bin/book_list.cgi?mode=page&key=gyakuto

生田勝義『人間の安全と刑法』(法律文化社)。社会科学としての刑法学を自覚的に追求してきた著者の現代刑法批判です。「国家の安全」「国際社会の安全」に加えて、新たに展開された「人間の安全」(人間の安全保障)が現代刑法をどのように変容させたかが中心論点で、「人間の安全」といっても、個人の自由や権利ではなく、実際には国家・社会から見た「人間の安全」のことであり、刑罰による社会構築が限界を露呈していることを厳しく批判しています。

http://hou-bun.co.jp/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03303-1&q=search&genre=&author=&bookname=&keyword=%90%b6%93c%8f%9f%8b%60&y1=&m1=&y2=&m2=&base=search

2日。井上ひさし『井上ひさし全芝居その七』(新潮社)。「夢の裂け目」「夢の泪」「円生と志ん生」「箱根強羅ホテル」「私は誰でしょう」「組曲虐殺」など11作品。朝から夜まで井上ワールドでした。私が実際に観たのは「夢の裂け目」だけです。もう10年前になります。戦争犯罪論研究者としては、東京裁判三部作は全部見たかったのですが、日程の都合やチケットがとれなくて1つだけ。井上ひさし絶筆となった「組曲虐殺」は非国民代表の小林多喜二。「これからは9条を守る運動ではなく、平和をつくる運動を。だから無防備地域宣言運動だ」と喝破された井上ひさしさん。次は沖縄をテーマにするはずだったそうです。ぜひ書いてほしかったのに。

本日3日。金杭『帝国日本の閾――生と死のはざまに見る』(岩波書店)を読んでいるところです。著者は1973年生まれの韓国人で高麗大学准教授、政治思想・日本思想史研究者で、広松渉、アガンベン、カール・シュミットを韓国語に翻訳しているそうです。本書は2008年に東京大学に提出した論文で、本書には高橋哲哉さんと松浦寿輝さんの推薦文がついているという、日本への豪華デビュー。本書は、丸山真男、小林秀雄などの「内部の思想」を、近現代日本の思想の特質(限界)として抉り出す試みです。第一部を読んだだけですが、福沢諭吉と丸山真男を主対象とする考察の中で、安川寿之輔さんへの言及がまったくありません。著書の存在すら示していません。不勉強なのか、わざと無視したのか。いずれにせよ、これではダメです。第二部以下を読む気力が半分失われそう。

http://www.iwanami.co.jp/search/index.html

参考)安川寿之輔さんの関連著作『福沢諭吉のアジア認識』(高文研、2000年)、『福沢諭吉と丸山真男』(高文研、2003年)、『福沢諭吉の戦争論と天皇制論』(高文研、2006年)は、論壇だけでなく、ひじょうに話題となり、論争を巻き起こした著作です。昨年末には「週刊金曜日」でもミニ論争がありました(中身はくだらない)。ところが、ここ数年出された福沢諭吉研究や丸山真男研究の中には、安川さんの著作を一切無視して、あたかも存在しないかのごとく扱っているものがいくつかあります。「意地でも引用しない」という姿勢が、逆に、安川さんの問題提起の意義と影響力を示しているのですが。

本日これから読むのは、河津聖恵『ルリアンス――他者と共にある詩』(思潮社)。上記アンソロジーの提唱者の誌論集です。

今年の私の主たるテーマは、もちろん従来どおりの非国民、無防備地域、ピースゾーン、ヘイト・クライム、刑事人権論ですが、とくに前半は、国連人権理事会で行われている平和的生存権の議論が重要テーマになります。