Tuesday, February 12, 2019

ヘイト・スピーチ研究文献(130)政府はヘイト団体の「共犯」になるべきなのか


中村英樹「ヘイトスピーチ集会に対する公の施設の利用制限」『北九州市立大学法政論集』46巻1・2号(2018年)


目次

1.はじめに

2.ヘイトスピーチ対策における地方公共団体の位置づけ

3.公の施設の利用制限

4.各ガイドラインの概要

5.集会の自由及び「公の施設」利用権との関係の検討


山形県生涯学習センター、門真市民会館をはじめとするヘイト集会利用問題は、その後、大阪市条例、東京弁護士会意見書、川崎市報告書とガイドライン、京都府ガイドライン、京都市ガイドライン、東京都条例、国立市条例などの進展を示している。中村論文は東京都条例以前の段階のものであり、そこまでの各地の状況をていねいに整理している。憲法、行政法・地方自治法、国際人権法の各分野に視線を配り、バランスをとりながら論じていることもよくわかる。

中村は次のように述べる。

「表現の自由あるいは集会の自由に対する『観点に基づく規制』ともいえるヘイトスピーチ規制を、ガイドラインという形式で策定するのは望ましいことであろうか。各GLを検討すると、利用制限の要件とは別に、『考え方』や『参考』などが散在し、また相互の関係が判然としないものもあって、住民に予見可能性を与え、行政の恣意的運用を適切に排除しうる明快な基準とはいい難いところがある。」(92頁)

「また、利用制限という直接的な法的効力を発生させる要件となるにもかかわらず、理念法である解消法における『不当な差別的言動』の定義をそのまま採用していることは、やはり問題である。」(92頁)

「解消法の制定による民主的正当性を擬制しうるのは、差別的言動の『法的な直接の禁止ではなく、各種施策による取り組みを通じた解消を目指す』ことまでであり、給付の拒否を含め、規制的手法を採用する場合は、地域住民による更なる民主的正当性の擬制=条例化が、本来は必要であると考える。ガイドラインという形式に拠ることは、不当な差別的原言論による問題が極めて深刻な地方公共団体における緊急的措置としてのみ、許容されるであろう。」(92~93頁)


公共施設利用問題について正面から取り上げた論文だが、私とは根本的に立場が異なる。私はこれまでにこの問題について何度も論じてきた。中村論文でも私の『部落解放』17年論文が引用されている。その後、数本の論文をまとめ直して、『ヘイトスピーチ法研究原論』第5章「地方自治体とヘイト・スピーチ」とした。

私の立論は単純である。

近代民主主義国家・法治国家の原理から言って、そして日本国憲法の精神から言って、及び国際人権法の要請に基づいて、国家(中央政府も地方政府も含む)は差別をしてはならない。差別に加担・協力してはならない。差別行為に資金援助したり、便宜供与してはならない。それゆえ、政府は、ヘイト団体のヘイト目的活動のために公共施設を利用させてはならない。利用させると、政府がヘイトの「共犯」となる。

中村はこれを全否定する。

中村は、地方自治体はヘイト団体のいかなる活動をも含んで、まず無差別に利用させるべきであるという前提に立つ。その上で、特段の理由があれば利用を拒否できるという。法的根拠、条例の根拠、明確で恣意的にならない基準が不可欠である。ヘイト団体によるヘイト目的集会であっても、ガイドラインによって拒否することはできず、条例化が必要である、という。資金援助については言及していないが、中村の論理からすれば、地方自治体がヘイト団体に資金援助しても何も問題ないことになるのではないだろうか。ヘイトの「共犯」になって何が悪い、と言うことかもしれない。