Thursday, February 07, 2019

ヘイト・スピーチ研究文献(127)解消法の概要


川西晶大「日本におけるヘイトスピーチ規制――ヘイトスピーチ解消法をめぐって」『レファレンス』807号(2018)


国立国会図書館調査及び立法考査局行政法務課長による論文である。冒頭に、「調査及び立法考査局内において審査を経たものです」とあるが、同時に「筆者の個人的見解であることをお断り」という、奇妙な言い訳が書かれている。公的立場だけに、苦労も多いようだ。


はじめに

Ⅰ 国際人権条約の枠組み

Ⅱ ヘイトスピーチ解消法以前の法的対応

Ⅲ ヘイトスピーチ解消法の制定

Ⅳ ヘイトスピーチ解消法制定後の動向

おわりに


自由権規約や人種差別撤廃条約について整理し、京都朝鮮学校事件や徳島県教組事件の判決を踏まえ、人種差別撤廃推進法案にも現況っしている。制定後については、川崎市事件や国の施策、地方公共団体の対応をフォローしている。

「本稿では、国際人権条約の枠組みには刑罰によるヘイトスピーチの禁止などより踏み込んだヘイトスピーチ対策を求めるものがあることを見た上で、条約の趣旨を踏まえた司法判断がヘイトスピーチ解消法前からあったこと、地方公共団体において先行してヘイトスピーチへの取り組みが模索されていたことを確認した。ヘイトスピーチ解消法は、このような状況の下で、基本理念を掲げ、国及び地方公共団体に施策の実施を求める内容として制定された。ヘイトスピーチ解消法の制定及び施行は、国の施策、地方公共団体の対応や司法判断に一定の影響を与えていると考えられる。

 しかし、今なおヘイトスピーチを伴うデモの開催などヘイトスピーチは続いており、国際人権機関においても日本に対し包括的な差別禁止法の制定などより踏み込んだ対策の実施を求める声がある。他方で、表現の自由その他の基本的権利を保護する観点から、ヘイトスピーチ対策が過剰な言論規制にならないよう慎重に考えるべきとの意見も強く、法学者の間でもより適切な対策について議論があるところである。」(73頁)

最後は世界人権宣言第1条を引用して終わっている。

解消法とその周辺状況のレビューとして、よくできている。多くの憲法学者とは違って、国際人権法にもきちんと視線を向けている。既知事項ばかりで新味がないのと、学説のフォローはかなりいい加減なので、大学院修士論文としても合格には達しないと思うが。個人的見解を強く打ち出せないのでやむを得ないかも。