Thursday, September 18, 2025

深沢潮を読む(3)非日常へのささやかな挑戦

深沢潮を読む(3)非日常へのささやかな挑戦

深沢潮『ランチに行きましょう』(徳間書店、2014年)

 

8月末から9月中旬にかけて、東京、さいたま、横浜、川崎、茅ケ崎で関東大虐殺の追悼式に参加した。千葉や本庄や寄居でも開かれたがバッティングしていて参加できなかった。102年目の現在、「日本人ファースト」というねじまがった排外主義がこの国を覆っている。もともと日本主義、日本人優先思考が定着している国だ。日本国憲法自体がレイシズムの根拠と言っても良い。天皇制と国民主義が外国人差別を正当化してきた。それでも飽き足りなくて、「日本人ファースト」と叫ぶ。それほど自由と平等が弱体化し、マジョリティの自己中心主義が蔓延している。

深沢の作品は、日常の中の小さな物語の集積を通じて、この社会の縮図を描き出す。

「幼稚園ママ」「シングルママ」「スピリチュアルママ」「ママブロガー」「ビューティフルママ」――成城学園に家庭を持ち、幼稚園の子どもの送迎の場で出会った女性たちが、育児、子どもの進学、幼稚園でのいじめ、家庭、夫の浮気の疑い、素敵なレストランでの食事、インチキ・スピリチュアルでの性被害など、多様な場面で遭遇し、すれ違い、ぶつかりあい、それでも仲良くランチをともにする。

信頼、安心、不信、疑惑、嫉妬、悩み事相談、助言、ひそひそ話、裏切りを、お互いに共有しながら、それぞれの「自分」を生きようとする。

都会の家庭の日常が次々と積み上げられ、堀り崩され、交錯する。若きママたちの平凡で、悩み多き人生の一断面である。

ところが、深沢はここで一瞬飛躍を試みる。最終章「チームママ友」で、5人のママたちが一丸となってTV番組に挑戦する。5人組が競い合うクイズ番組『チームで挑戦』に出場した5人は、家庭環境の違いも子どもたちのいじめも超えて、自分のために、だが一致団結してクイズに挑戦する。日常ではなく、TV番組への挑戦という非日常に乗り出すことで、深沢作品が小さな変化を見せる。クイズ挑戦は、TV局の裏工作によって、挫折するが、それでも5人は結束して歩みながら、日常に帰っていく。

ここから深沢作品の次の展開が始まるのかどうかわからないが、いい意味で読者を裏切る試みだろう。