Tuesday, July 02, 2013
ヘイト・スピーチ処罰は世界の常識である(4)
前回に引き続き今回はアフリカ諸国の情報を紹介する。アフリカ諸国と言っても一様ではない。イスラム圏あり、中央アフリカあり、南部アフリカあり、社会の状況も、法の特徴もそれぞれ異なることは言うまでもない。そして、ヘイト・スピーチ処罰規定の中には、宗教への批判を許さない抑圧的な規定もあれば、軍事独裁的な状況で弾圧に利用される場合もある。もっとも、それはアフリカだけのことではないが。
ドゥドゥ・ディエン(人権理事会の元・人種主義人種差別特別報告者)は、アフリカにおける憎悪煽動禁止に関して三点を強調している。第一に、民族と人種が国民形成や紛争に際して中心的役割を果たしたことである。その極端な例がルワンダである。第二に、憎悪煽動禁止規定よりも、表現の自由やメディアの自由の規定の方が多く存在することである。第三に、多くの諸国では、部族主義と宗教が顕著なことである。これに対して、市民社会による人権擁護が弱体であると言う。以下、ディエン論文からの紹介である。
(1)アルジェリア憲法第二七条は人種差別との闘い、第二九条は法の下の平等、第三六条は意見の自由、第四一条は表現の自由を定めるが、刑法第二九八条は名誉毀損罪を定めている。
(2)アイボリー・コーストでは、二〇〇八年の刑法改正(法律二〇〇八―二二二号)によって刑法第一九九条(人種主義、外国人嫌悪、部族主義、人種差別、宗教差別)、第二〇〇条(前記の処罰規定)、第二〇〇条の一(名誉毀損罪)などを定めている。
(3)ジブチ憲法第一一条(思想良心宗教の自由)に加えて、表現の自由法が制定されている。
(4)エジプト憲法第四七条(意見表現の自由)、第四八条(プレスの自由)、第四九条(学問研究の自由)に加えて、刑法第九八条は煽動をしたり、宗教を貶めたりする観念の促進・表明を犯罪としている。刑法第一七六条は「人種、出身、言語、信念ゆえに人々の集団の一つに対する差別を教唆した者が、教唆によって公共の秩序を害した場合、刑事施設収容される」とする。刑法第一七八条は、公共の道徳を侵害する文書、広告、写真、シンボリックなものを製造・所有することを犯罪としている。
(5)ガンビア憲法第四章は基本権規定であり、人種等の差別なく権利を享受するとしている。第五章には言論表現の自由、思想良心の自由などが明記されている。ガンビア刑法第一〇・一一七条は、宗教を侮辱する目的などをもって礼拝所などを攻撃する行為を犯罪としている。宗教儀礼や宗教感情を保護する刑罰規定も複数ある。
(6)ギニアビサウ憲法第四条は、人種主義を鼓舞する政党を禁止し、第五六条は表現の自由を定めている。刑法第一〇二条「人種差別」は「差別、憎悪、人種暴力を煽動し、鼓舞する組織を設立した者、組織的宣伝に加わった者、以上の組織や活動に参加した者、財政支援をした者は、一年以上八年以下の刑事施設収容とする。公開集会で、文書、アナウンス、その他の社会的伝達手段によって、人種差別を煽動又は鼓舞する意図をもって、人種又は民族的出身ゆえに個人又は集団に対して暴力行為を惹起した者は、一年から五年の刑事施設収容とする」としている。
(7)リビア刑法第三一八条は、公共の秩序を乱す方法で集団に対して公然と憎悪又は侮辱の煽動をした者は処罰されるとする。
(8)モロッコ・プレス法第三八条は、公共の場所又は集会で演説、叫び、威嚇によって、文書、印刷物で、公共空間におけるポスターによって、オーディオ・ヴィジュアルや電子メディアによって、挑発を行ったことを犯罪とする。プレス法第三九bis条は、同じ手段によって、人種、出身、皮膚の色、民族、宗教ゆえに、個人又は諸個人に、人種差別、憎悪、暴力を煽動した者、戦争犯罪や人道に対する罪を支持した者を処罰するとしている。
(9)ニジェール憲法第二三条は思想、意見、表現、良心、宗教の自由を定めている。刑法第一〇二条は、人種又は民族差別行為、地域主義宣伝、良心や礼拝の自由に反する出来事は、一年以上五年以下の刑事施設収容又は追放とするとしている。
セネガル憲法第五条は人種民族宗教差別を犯罪とすると規定している。刑法第一六六条bisは、行政官などが正当な理由なしに個人に民族的理由で差別的取り扱いをすることを犯罪としている。一九八一年一二月一〇日の法律第八一―七七号が、人種民族宗教差別の抑止を規定しているという(条文は紹介されていない)。
(10)シエラレオネ憲法第六条は各種の差別を禁止するとともに、憲法第二五条は表現と意見の自由を定める。公共秩序法第二〇条は戦争宣伝を禁止し、第四四条第一項は差別、敵意、暴力にあたる国民的人種的宗教的憎悪の唱道を禁止している。
(11)タンザニア刑法第四三条は、法的権限がないのに、個人又は人の集団に対する戦争や戦争類似の事態を行い、行う準備をし、準備することを犯罪としている。刑法第五五条は、暴力の煽動及び差別、敵意、暴力にあたる国民的宗教的憎悪の唱道を犯罪としている。
(12)ウガンダ憲法第二九条は言論表現の自由、思想良心の自由、宗教の自由を保障している。刑法第七六条Bは、人種、出身地、政治的意見、皮膚の色、信条、性別又は職務を理由に、人に対する暴力行為を煽動した者を一四年未満の刑事施設収容としている。
(13)ジンバブエ憲法第二〇条は表現の自由を定めている。法と秩序維持法第四四条第一項は、差別、敵意、暴力にあたる国民的人種的宗教的憎悪の唱道を禁止している。