Monday, July 08, 2013

ヘイト・スピーチ処罰は世界の常識である(5)

2011年7月6~7日、国連人権高等弁務官事務所主催で、「国民的、人種的又は宗教的憎悪の煽動の禁止に関するアジア太平洋の専門家ワークショップ」がバンコク(タイ)で開催された。ヴィチット・ムンターボーン(チュラロンコン大学教授)よる基調報告「国民的、人種的又は宗教的憎悪の煽動の禁止に関する研究――アジア太平洋地域からの教訓」は、この地域の約60ヶ国の法制度の調査に基づいた詳細な研究である。各国の憲法、刑法、民法、特別法などの制定状況が詳しく紹介されている。以下では、ムンターボーン報告書から、刑事規制に関する部分の一部を紹介する。                                                                       (1)ブルネイ                                                                                                  刑法第二九八条 人の宗教感情を傷つける故意をもって、その人に聞こえる言葉を発し、音声を発した者、又はその人に見えるようにジェスチャーをした者、又はその人に見えるように物を提示した者は、一年以下の刑事施設収容、又は罰金とし、又は両刑を併科する。                                                                                                  刑法第五〇五条 ある階級や人々の共同体に、他の階級や人々の共同体に対する犯罪を行うよう煽動し、又は煽動しそうな演説、噂又は報告を行い、出版し、回覧した者は、五年以下の刑事施設収容又は罰金に処する。                                                                                               (2)カンボジア                                                                                              刑法第五九条は、重罪実行の煽動(文書、出版物、デッサン、彫刻、絵画、記章、フィルム又はその他)を処罰することとするとともに、次のように規定する。                                                                                                             刑法第六一条 第五九条に掲げられた手段の一つによって、差別、敵意又は暴力にあたる国民的人種的宗教的憎悪を挑発した者は、一月以上一年以下の刑事施設収容、又は一〇〇万以上一〇〇〇万リエル以下の罰金とし、又は両刑を併科する。                                                                                                                           (3)マレーシア                                                                                                                                 刑法第二九八条 人の宗教的又は人種的感情を傷つける故意をもって、その人に聞こえる言葉を発し、又は音声を発した者、又はその人に見えるようにジェスチャーをした者、又はその人に見えるように物を提示した者は、三年以下の刑事施設収容、又は罰金とし、又は両刑を併科する。                                                                                                                                                       マレーシア刑法第二九八条Aは、異なる集団間の敵意の促進も犯罪としている。                                                                                                              (4)シンガポール                                                                                                                                        刑法第二九八条 人の宗教的又は人種的感情を傷つける故意をもって、その人に聞こえる言葉を発し、又は音声を発した者、又はその人に見えるようにジェスチャーをした者、又はその人に見えるように物を提示した者、又はその人に見えるか聞こえるように出来事を惹起した者は、三年以下の刑事施設収容、又は罰金とし、又は両刑を併科する。                                                                                                                                         (5)ヴェトナム                                                                                                                                                                   刑法第八七条 人民管理を阻害するために以下の行為のいずれかを行った者は、五年以上一五年以下の刑事施設収容に処する。(b)ヴェトナム国民の共同体に憎悪、民族的偏見及び/又は分断をまき散らし、平等の権利を侵害すること。                                                                                                                                            (6)アルメニア                                                                                                                                                刑法第二二六条 1.国民的、人種的、宗教的憎悪の煽動、人種的優位性又は国民の尊厳を侮辱するための行為は、二〇〇以上五〇〇以下の基本給与の罰金、又は二年以下の矯正労働、又は二年以上四年以下の刑事施設収容に処する。2.本条第1項に掲げられた行為であって、(a)公然と又はマスメディアを通じて、暴力又は暴力の威嚇、(b)公的地位の濫用、(c)組織された集団によるものについては、三年以上六年以下の刑事施設収容に処する。                                                                                                                                                     (7)アゼルバイジャン                                                                                                                                           刑法第二八三条 民族的、人種的、社会的又は宗教的憎悪及び敵意を煽り、又は民族的誇りを損傷するための行為、及び市民の権利を制限し、又は市民に、その民族的、人種的出身、社会的地位、宗教への姿勢に基づいて特権を与える行為は、それらの行為が公然と又はメディアを用いてなされた場合、一〇〇〇以上二〇〇〇以下の名目金額の罰金、又は三年以下の自由の制限、又は二年以上四年以下の刑事施設収容に処する。                                                                                                                                              (8)キルギスタン                                                                                                                                                  刑法第二九九条によると、国民的、人種的、宗教的憎悪は特別な犯罪とされる。                                                                                                                         (9)ウズベキスタン                                                                                                                                           刑法第一五六条によると、民族的、人種的、宗教的憎悪の煽動は五年以下の刑事施設収容とされている。                                                                                                                   (10)イスラエル                                                                                                                                      刑法第一七三条によると、他人の宗教的感情や信念を侮辱する印刷物、文書、絵画、肖像を出版した者、又は公共の場で及び相手に聞こえるように、宗教的感情や信念を侮辱する言葉や音声を発した者は、一年の刑事施設収容とされている。                                                                                                                          (11)東ティモール                                                                                                                                             刑法第一三五条 1.宗教的又は人種的差別、憎悪又は暴力を煽動又は奨励する組織を設立・結成し、又は組織的宣伝活動を行った者、又はその組織に参加し、前文で言及された活動を行った者、財政を含む支援を提供した者は、四年以上一二年以下の刑事施設収容に処する。                                                                                                                                                       2.公開集会で、配布又はメディアのために準備された文書により、人種、皮膚の色、民族的出身又は宗教を理由に、人種的又は宗教的差別を煽動又は奨励する意図をもって、人又は人の集団に対する暴力を唱道した者は、二年以上八年以下の刑事施設収容に処する。                                                                                                                                                      (12)ニュージーランド                                                                                                                                                               一九九〇年の人権章典が、ヘイト・スピーチを民事上の違法事由とするのみならず、一部について刑事責任を定めている。                                                                                                                        人権章典第一三一条 皮膚の色、人種、又は民族的又は国民的出身に基づいて、ニュージーランドにおける人々の集団に、敵意又は悪意を煽動する意図をもって、侮辱又は嘲笑した者は、犯罪を行ったものであり、三月以下の刑事施設収容、又は七〇〇〇ドル以下の罰金に処する。(a)威嚇、虐待又は侮辱に当たる文書を出版又は配布し、又は威嚇、虐待又は侮辱に当たる言葉をラジオ又はテレビにより放送した場合(以下略)。