Sunday, July 14, 2013
ヘイト・スピーチ処罰は世界の常識である(6)
二〇一一年一〇月一二~一三日、国連人権高等弁務官事務所主催で、国民的、人種的又は宗教的憎悪の煽動の禁止に関するアメリカ州の専門家ワークショップがサンティアゴ(チリ)で開催された。
ワークショップの基調報告としてエドゥアルド・ベルトーニが準備した論文「アメリカ州における憎悪煽動禁止に関する研究」は、アメリカ州各国の憎悪煽動禁止法に関する包括的研究である。ベルトーニによる分析及び関連条文(刑法、特別法、憲法など)のほとんどが資料として収録されている。
ベルトーニによると、アメリカ州には三五カ国が存在し、そのうち三〇か国が国際自由権規約の当事国であり、人種差別撤廃条約の当事国も三〇、米州人権条約の当事国は二四である。ベルトーニ論文は、ハイチ、スリナム、キューバ、ドミニカ、パラグアイを除く諸国の情報を分析対象としている。ベルトーニは、刑罰モデルと非刑罰モデルの分類を前提とした右の五つの分類に即して、アメリカ州の刑法、特別法、憲法などの条文を徹底収集し、関連条文を引用し、そのうえで分析している。刑罰モデルのうち、刑法については、さらに三つの下位分類もなされている。すなわち、憎悪煽動、ジェノサイド煽動、差別煽動の三つである。
第一に、北米三カ国である。
カナダは、(一)刑罰モデルに関して、憎悪煽動禁止、ジェノサイド煽動禁止の刑法を有し、他に行政刑罰法規があり、(二)非刑罰モデルとして憲法の差別禁止条項を持つ。
メキシコは、(一)刑法には規定がなく、特別刑法、行政刑罰法規があり、(二)憲法の差別禁止、その他の法律がある。
アメリカ合州国は、(一)刑法はなく、特別刑法だけがあり、(二)非刑罰モデルの法規定は特にない。
第二に、中米七カ国である。
ベリーズは、(二)憲法の差別禁止規定だけしかない。
コスタリカは、(一)刑法に差別煽動禁止があり、(二)憲法に差別禁止がある。
エルサルバドルは、(一)刑法にジェノサイド煽動禁止があり、(二)憲法に差別禁止がある。
グアテマラは、(一)刑法にジェノサイド煽動禁止があり、行政刑罰法規があり、(二)憲法に差別禁止、その他の法律がある。
ホンデュラスは、(二)憲法に差別禁止がある。
ニカラグアは、(一)刑法にジェノサイド煽動禁止、差別煽動禁止があり、(二)憲法に差別禁止がある。
パナマは、(一)特別刑法があり、(二)憲法の差別禁止、その他の法律がある。
第三に、カリブ地域一〇カ国である。
アンティグア・バーブーダは、(一)特別刑法があり、(二)憲法の差別禁止がある。
バハマは、(一)行政刑罰法規、(二)憲法の差別禁止がある。
バルバドスは、(一)特別刑法、(二)憲法の差別禁止がある。
ドミニカ共和国(ドミニカとは別の国)は、関連規定がない。
グレナダは、(二)憲法の差別禁止がある。
ジャマイカは、(一)特別刑法、行政刑罰法規があり、(二)憲法の差別禁止がある。
セントキッツ・ネーヴィスは、(二)憲法の差別禁止がある。
セントルシアは、(一)刑法に憎悪煽動禁止、ジェノサイド禁止があり、(二)憲法に差別禁止がある。
セントヴィンセント・グレナディンズは、(二)憲法の差別禁止がある。
トリニダード・トバゴは、(一)特別刑法、(二)憲法の差別禁止、その他の法律がある。
第四に、南米九ヶ国である。
アルゼンチンは、(一)刑法に憎悪煽動禁止があり、特別刑法、行政刑罰法規があり、(二)その他の法律がある。
ボリヴィアは、(一)刑法に差別煽動禁止があり、行政刑罰法規があり、(二)憲法の差別禁止、その他の法律がある。
ブラジルは、(一)特別刑法があり、(二)憲法の差別禁止、その他の法律がある。
チリは、(二)憲法の差別禁止だけがある。
コロンビアは、(二)憲法の差別禁止だけがある。
エクアドルは、(一)刑法に憎悪煽動禁止、差別煽動禁止があり、行政刑罰法規があり、(二)憲法の差別禁止がある。
ガイアナは、(一)特別刑法があり、(二)憲法の差別禁止がある。
ペルーは、(一)刑法に差別煽動禁止、(二)憲法の差別禁止、その他の法律がある。
ウルグアイは、(一)刑法に憎悪煽動禁止があり、特別刑法があり、(二)その他の法律がある。
ヴェネズエラは、(一)行政刑罰法規、(二)憲法の差別禁止がある。
以上をもとに、ベルトーニは次のようにまとめている。アメリカ州全体では、(一)刑罰モデルとして、刑法に憎悪煽動禁止をもつのが五ヶ国、ジェノサイド煽動禁止が五ヶ国、差別煽動禁止が五ヶ国、特別刑法が一一ヶ国、行政刑罰法規が九ヶ国あり、(二)非刑罰モデルとして、憲法の差別禁止が二六ヶ国、その他の法律が九ヶ国である。