Saturday, November 12, 2016

『隣国の肖像――日朝相互認識の歴史』

杉並歴史を語り合う会・歴史科学者協議会編『隣国の肖像――日朝相互認識の歴史』(大月書店)
<分かちがたい関係にある日本と朝鮮・韓国。近代から現代まで、互いの姿をどのように認識していたのかを描き相互理解の深化をめざす。>
「近くて遠い国」といった表現が繰り返し用いられてきた日本列島と朝鮮半島の不幸で複雑な歴史を前に、私たちはいつも少したじろぎながら、双方の関係史をあれこれと手探りし、友好と侵略と共助と反発の入り混じった意識を振り返りながら、そのなかで次の可能性を模索してきた。
本書はそうした作業を、あらためて実証的に降り下げようとする。日本、韓国、朝鮮の歴史認識や生活過程におけるズレがどのようなものであり、どのように形成されてきたのか。双方の知識人はどのような認識を育み、双方の民衆はどのような歴史を生きてきたのか。その交流の中に共感とズレの両者を探る。第Ⅰ部「近代日本の朝鮮観」では、日本側の認識の「多様性」と「一面性」(偏向性)が解明される。第Ⅱ部「近代朝鮮の日本観」では、朝鮮側の認識の「複雑性」と「限界性」が解明される。そして、第Ⅲ部「現代の相互認識」では、在日朝鮮人も含めて、歴史の担い手のそれぞれの認識の内実を問い直す作業が続けられる。
全体を通じて、執筆者たちは、実証的方法を前提に、かなり謙抑的な議論を守り続けている。もう少し冒険しても良いのではないかと思わないではないが、第Ⅲ部第6章「対談 日韓相互認識の今昔(大門正克/趙景達)」では、世界史における位置づけを試みている。執筆者たちが共有している問題意識であろうが、分析の際には、この問題意識に引き付けすぎないように努力したのであろう。
日韓、日朝、いずれも最悪の関係に陥っている現在、より長いスパンで関係史を問い直す本書は重要である。
<目次>
序 服藤早苗

第Ⅰ部 近代日本の朝鮮観
第1章 近世日本の朝鮮観(須田努)
第2章 明治期日本の朝鮮観(吉野誠)
第3章 近代日本における為政者の朝鮮観(小川原宏幸)
第4章 大正知識人の朝鮮観(千葉功)
第5章 日本民衆の朝鮮観(青木然)
第6章 植民者の朝鮮観(趙景達)

第Ⅱ部 近代朝鮮の日本観
第1章 朝鮮使節の日本観――第一次修信使を通して(北原スマ子)
第2章 ある開化派官僚の日本観――兪吉濬を通して(伊藤俊介)
第3章 伝統的知識人の日本観――崔益鉉と開化派人士の同時代的考察(慎蒼宇)
第4章 朝鮮民族運動家の日本観――一九一〇~二〇年代を中心に(加藤圭木)
第5章 朝鮮民衆の日本観(宋連玉)
第6章 親日派の日本観――「親日/対日協力」の論理・動機を手がかりとして(宮本正明)

第Ⅲ部 現代の相互認識
第1章 現代の日韓相互認識の深化――三人の歴史研究者・歴史教育者の応答から(君島和彦)
第2章 戦後在日朝鮮人の「日本観」(金鉉洙)
第3章 戦後日本における知識人の朝鮮観――朝鮮人BC級戦犯と朝鮮人被爆者問題から見るジャーナリズムの役割(本庄十喜)
第4章 現代韓国人の日本観(南相九)
第5章 ドイツから見た日韓相互認識(ユリアン・ビオンティーノ)

第6章 対談 日韓相互認識の今昔(大門正克/趙景達)