齋藤民徒「ヘイトスピーチ対策をめぐる国内法の動向と国際法――国内法の人権条約の効果的実現への課題と示唆」ジュリスト増刊『論究ジュリスト』19号(2016年)
長いタイトルの論文だ。ヘイト・スピーチ解消法成立前後の状況を確認し、人種差別撤廃条約加入から立法に至る歴史を整理し、次に司法的救済の試みとして京都朝鮮学校事件判決を検討し、最後に人権条約の効果的関与をめざして条約の「間接適用」や「ソフトロー」について論じている。前半はすでに多く論じられたことだが、終わりの、国際条約の内在的活用のための議論は参考になる。
「条約中の最も基本的な概念である『人種差別』は、『あらゆる形態の人種差別』として条約名称にも組み込まれ、国際社会で固有の包括的な意味が込められてきている。これを、日本語の日常的用法(日本国憲法14条1項の『人種』の解釈もそれに類する)と不用意に同視し、『人種差別』を生物学的特徴に基づく限定的意味へと勝手に縮減すべきではない。往々にして自己完結的に国内法を捉えてしまう国内法学や法実務の傾向に抗い、『人種差別』を、条約1条1項及びその解釈論で画定されてきた範囲で過不足なく捉えるべきである。」