6月3日の産経新聞社会面(22面)に、「ヘイトスピーチ解消法施行1年 法務省勧告は施行前含め2事案 事前規制の動きも」という記事が掲載された。
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解消法制定後のヘイト状況や、自治体の対応を整理した記事である。表現の自由との関係では、小見出しに「『表現の自由』との両立 割れる意見」としているところが目に付く。1年以上前のマスコミは、表現の自由だと断定してきたが、産経新聞は「表現の自由」にカギかっこを付けた。単純に表現の自由と言って済む問題ではないことを的確に示している。
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識者コメントは、1人目が、「表現の自由の観点から慎重な検討を求める」中央大非常勤講師の服部孝章氏(メディア法)で、「恣意的運用が行われないのかという懸念」を表明する。
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2人目が私である。私のコメントには、従来のマスコミには載らなかった内容が含まれている。ひじょうに短いコメントだが、ここまで私見を載せてくれたのは初めてなので、ポイントを解説しておく。
第1に、「ヘイトは民主主義の基礎を破壊する」である。これがようやくマスコミにのった。私見は「表現の自由は民主主義に不可欠であり、ヘイトは民主主義を破壊するから、表現の自由を守るためにヘイト・スピーチを処罰すべきだ」というものである。国連人権理事会で使われてきた表現で言えば、「レイシズムとデモクラシーは両立しない」。
第2に、「ヘイトは民主主義の基礎を破壊する行為」という主張である。ヘイトは行為だという当たり前のことをなぜ述べなければならないか。それは、憲法学者の中に「表現と行為を区別し、行為は処罰できるが、表現は処罰できない」という異常な主張があるからである。ここまでしてヘイト・スピーチを擁護したいのかと驚き、呆れる屁理屈だ。表現は行為であり、ヘイト・スピーチは行為である。
第3に、「表現の自由で保護される対象ではない」である。1年以上前は「ヘイト・スピーチの規制は表現の自由の保護に抵触する」と断定する憲法学者が多かった。
第4に、「人権侵害が行われる可能性が高い場合は規制すべきだ。そうしなければ自治体がヘイトに加担したことになりかねない」である。これもマスコミに初めて載せてもらえた。人種差別撤廃条約では、政府は差別をしてはならず、差別を容認してはならず、個人による差別を止めさせなければならない。差別が行われる蓋然性が高い場合、自治体は差別集団に施設を貸してはならない。デモを許可してはならない。差別が行われると知りながら、差別集団に施設を貸したり、デモを許可すれば、自治体が差別に加担したことになる。この当たり前の主張をずっと繰り返してきたが、なぜかマスコミには採用されなかった。
それどころか、大阪市審議会は「自治体にはヘイト集会であっても施設を貸す義務がある」という異常な主張をした。「自治体は差別に加担する義務がある」という暴論である。関西には異常な憲法学者がいるものだと驚いたが、驚いたのは私たち少数にすぎず、この異常な見解に納得する人間が意外に多かった。まともじゃない。逆に、産経新聞は私の主張をきちんと載せてくれた。