Saturday, August 16, 2025

朝鮮学校とともに・練馬の会 結成15周年記念講演会

朝鮮学校とともに・練馬の会

結成15周年記念講演会

9月24日()18時30分~

【会場】

ココネリ 3階 研修室1  (区民・産業プラザ)

参加費 1000円 障害者・学生 500円

講演「民族教育権と将来の世代の人権」

講師 前田朗(朝鮮大学校法律学科講師

 

私たちは20103月から15年間、毎月1回の街頭アピールを中心に、

朝鮮学校への無償化適用を求める活動を続けてきました。

15 年という長い年月は決して誇れることではなく、

15 年かけても、朝鮮学校への「無償化」を実現できなったということです。

前田朗先生をお迎えして、民族教育への新しい視座をお聞きしたいと思います。

 

朝鮮学校とともに・練馬の会

共催:練馬教育問題交流会

連絡先 090-5445-7123 ()

subetemushoka-nerima@yahoo.co.jp

冤罪防止のための取調拒否権入門セミナー第4回学習会

冤罪防止のための取調拒否権入門セミナー第4回学習会

弁護人の援助を受ける権利

 

1015日(水)午後6時開場、開会午後6時半~8時半 

東京ボランティアセンター会議室  JR飯田橋駅隣のビルRAMLA10F

参加費(資料代含む):500

 

講演:弁護人の援助を受ける権利

葛野尋之さん

 

2024年、袴田事件再審無罪、大川原化工機事件、福井女子中学生殺人事件、大阪地検検事違法取調事件など多くの刑事事件で、不当な取調問題に注目が集まった。

不当な取調べと自白強要は、被疑者の防御権を侵害し、冤罪につながり、人格権を侵害する。

身柄拘束された被疑者は拘置所又は留置場に在房するべきであって、警察署の取調室に行く理由がない。

取調室に強引に連行することは黙秘権の軽視である。

被疑者が黙秘権行使を告げたら、取調べを中断するべきである。

黙秘権と取調拒否権の行使に当たっては弁護人の援助を受ける権利の保障が不可欠である。

講演者プロフィル: 青山学院大学法学部教授。主著『弁護人の援助を受ける権利の現代的展開』『少年司法における参加と修復』『少年司法の再構築』(以上日本評論社)『刑事手続と刑事拘禁』『未決拘禁法と人権』『刑事司法改革と刑事弁護』(以上現代人文社)等。

 

主催:平和力フォーラム

電話070-2307-1071

E-mail: akira.maeda@jcom.zaq.ne.jp

Wednesday, August 13, 2025

琉球民族遺骨返還を求める連続講座・第2回

琉球民族遺骨返還を求める連続講座・第2回

10月2日(木)18時開場、1830分開会~2030

東京ボランティア市民活動センター会議室(JR飯田橋駅隣)

参加費:500

京都大学への返還要求に続いて、東京大学への返還要求の取組が始まりました。「学問」の名による植民地主義と人種差別を問い直す運動です。

また、無自覚のうちに琉球差別を続け、差別と指摘されても無責任を貫く「憲法フェスティバル実行委員会」の問題性を報告します。

「憲法9条擁護、平和主義」と言いながら、レイシズムに鈍感で民族差別を続ける日本社会を検証します。

「東京大学への遺骨返還請求問題」

・さいとう・まの(東京大学遺骨返還プロジェクト)

松島泰勝(龍谷大学教授)

・與儀睦美(琉球人遺骨返還を求める会/関東)

「憲法フェスティバル琉球差別問題の経過」

前田朗(朝鮮大学校講師)

共催:

平和力フォーラム

琉球人遺骨返還を求める会/関東

連絡先:070-2307-1071

E-mail: akira.maeda@jcom.zaq.ne.jp

Wednesday, August 06, 2025

<並木陽介弁護士への書簡 憲法フェスティバル実行委員会への書簡(第3信)  ――あなた方はいつまで琉球差別を続けるつもりなのですか>

<並木陽介弁護士への書簡

憲法フェスティバル実行委員会への書簡(第3信)

 ――あなた方はいつまで琉球差別を続けるつもりなのですか>

 

並木陽介様

憲法フェスティバル実行委員会様

 

 84日、並木さんからのお手紙(731日付)を拝受いたしました。ありがとうございます。

 

 お手紙を拝見して大変残念な思いをしました。私たちが提起した問題については一切言及がありません。書かれていることは、憲法フェスティバル実行委員会の内輪の理屈と奇妙な一般論に終始しています。

 

 並木さん

 下記の文章はいったい何を意味しているのでしょうか。

 「憲法フェスティバル実行委員会は、様々な立場や思想にこだわることなく、かつ弁護士や法律家だけでなく多くの一般市民の皆さんをメンバーとして構成している実行委員会です。そうした性格から、頂きました個別具体的な問題についての統一した見解をまとめて公表ないし回答するなどといったことは行っておりません。」

 

 第1に、上記の文章は事実に合致しているでしょうか。これまで長年の間、憲法フェスティバル実行委員会は憲法問題、平和問題、憲法改悪問題、安保法制問題をはじめとして多岐にわたる見解を公表してきました。政治問題、外交・軍事問題、人権問題について夥しい見解を公表してきました。憲法フェスティバル実行委員会のウェブサイトを拝見しても、フェスティバルの過去の宣伝チラシを拝見しても、そのことは明らかです。差別問題になったとたんに見解公表を渋るのはなぜでしょうか。

 

2に、ここに書かれている「性格」なるものは、憲法フェスティバル実行委員会の内輪の理屈にすぎません。一方で、憲法問題、平和問題、憲法改悪問題、安保法制問題について意欲的かつ積極的に見解を公表しながら、差別問題を指摘されたとたん、「そうした性格から、頂きました個別具体的な問題についての統一した見解をまとめて公表ないし回答するなどといったことは行っておりません」というのは理解しかねます。政治・社会・憲法・外交・軍事に関して社会的発言を繰り返してきたにもかかわらず、言いたいことは言うが、都合が悪くなると口をつぐむのでしょうか。

 

3に、ここに書かれている「性格」なるものを理由に応答を拒否することは、逆の意味で、憲法フェスティバル実行委員会の「性格」を体現しているのではないでしょうか。社会的問題について発言するが、責任は負わないと言う一方的な姿勢は、憲法フェスティバル実行委員会が社会的に発言する資格そのものに疑念を抱かせるものです。倫理観の欠如した団体が社会的活動を続けることが許されるでしょうか。

 

4に、問題は民族差別問題です。単に過去の京都大学による差別ではありません。現在の京都大学による差別であり、山極壽一氏による現在進行中の差別です。私たちは憲法フェスティバル実行委員会がこの民族差別を許容し、擁護する結果になることに警鐘を鳴らしました。

これに対して並木さんは「性格」を持ち出して回答を拒否しています。「憲法フェスティバル実行委員会は、様々な立場や思想にこだわることなく」とありますが、そこには「差別する立場」や「差別思想」も積極的に含むのでしょうか。一緒に差別すれば怖くないという姿勢に見えます。

 

下記の文章はいったい何を意味しているのでしょうか。

「一般に、出演を依頼して登壇いただいた方に対して、お願いしたテーマとは別の問題について何らかの働きかけをするようなことはすべきではありませんし、当実行委員会としても致しかねます。」

 

5に、このような「一般論」は到底認められません。社会常識に反します。およそ、ありえないことです。

例えば、84日、週刊新潮コラム差別事件に抗議する記者会見が行われました。

①週刊新潮コラムに作家の深沢潮さんが抗議 新潮社はHP上に文書掲載

https://www.asahi.com/articles/AST8432ZRT84UCVL01MM.html?msockid=39656b98262d63d91b7179fe27c76213

②週刊新潮コラムに作家の深沢潮さんが抗議…新潮社がおわび「出版社としての力量不足と責任を痛感」

https://www.yomiuri.co.jp/national/20250804-OYT1T50158/

③週刊誌コラムに作家の深沢潮さん抗議 「出版社として力量不足。責任痛感」と新潮社謝罪

https://www.sankei.com/article/20250804-X4EZJO4QW5N7HAYP5FF4ZKEJEY/

差別コラムを執筆したのは高山某というライターですが、これをチェックすることなく掲載したのは編集長であり、最終的には新潮社の責任が問われます。

TV番組で差別発言がなされれば、司会等がそれを指摘・是正するべきです。是正措置が取られなければディレクターの責任であり、最終的にはTV局の責任が問われます。

公開集会で差別発言がなされれば、主催者の責任で停止、又は事後的に是正するべきです。そもそも民族差別を繰り返してきた人物にわざわざ講演依頼したことが不見識ですが、いったん講演依頼をしたから代えられないと言うのであれば、当日の公開集会で差別的な事象が生じないように配慮するのが主催者の責任ではありませんか。

 

並木さん

あなたは第三者ではなく、当事者です。

 

6に、憲法フェスティバルにおいて現に差別的発言がなされました。浅倉むつ子氏(早稲田大学名誉教授)は、19464月の衆議院議員選挙において「女性初の参政権」が認められたと確認し、「『平等』は戦後、日本国憲法で保障された。」と断定しました。

194512月の衆議院選挙法改正の際、「沖縄県民」及び「旧植民地出身者」の選挙権が停止(剥奪)されました。1946年の衆議院選挙において、琉球の女性にも男性にも選挙権は与えられませんでした。1946年の日本国憲法は、琉球の女性も男性も排除して、制定されました。「『平等』は戦後、日本国憲法で保障された」と述べることは、琉球民族や朝鮮人を排除して「平等」を語ることです。特定の集団を排除したことを高く評価して正当化することは、差別を擁護することです。

人種差別撤廃条約では、「『人種差別』とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう」(人種差別撤廃条約第11項)と定義されています。

差別する意図や目的がなくても、差別を是認し、正当化する発言はやはり差別です。琉球民族を「区別、排除、制限」し、「平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ」ることを正当化するあからさまな差別思想の表明です。

 

並木さん

あなたは弁護士です。弁護士法第1条には「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と書かれています。差別の恐れを指摘されても何ら対処することなく、公開集会でさらに別の差別事象を招いたことをどうお考えでしょうか。憲法フェスティバル実行委員会の内輪の理屈を繰り返すのは責任倫理に反するのではないでしょうか。

弁護士法第12項には「弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」とあります。差別の恐れを指摘され、事後に質問がなされたにもかかわらず、どこにも通用しない「一般論」をタテに回答を拒否するのは「誠実」と言えるでしょうか。

 

私たち(前田)は40年近く反差別の人権論研究に携わってきましたが、その中で心ない発言をしたために「差別的だ」と指摘されたことが何度もあります。その時、採るべき対応は事実を確認し、相手と対話し、謝罪することでした。

アイヌ民族が遺骨返還を要求した時、北海道大学は面会も対話も拒否しました。琉球民族が遺骨返還を要求した時、京都大学は面会も対話も拒否しました。民族差別の被害者を無視し、排除することは民族差別の上塗りではないでしょうか。

 

並木さん

なぜ、あなたは「回答するなどといったことは行っておりません」と撥ねつけるのでしょうか。なぜ、対話を拒否するのでしょうか。

 

琉球民族遺骨返還問題は、京都大学に留まる訳ではありません。東京大学も琉球民族遺骨を保管しているため、その返還運動が始まりました。

「松島氏ら、東大に情報開示請求 琉球人遺骨を保管か 支援者と連携、訴訟も視野に」

.https://ryukyushimpo.jp/news/national/entry-4484277.html

東京大学は本年7月、アイヌ民族の遺骨19体を小樽のアイヌ民族」などの団体「インカルシべの会」に返還しました。その際、東京大学総務部長が「アイヌ民族の方々の尊厳を深く傷つけたことは誠に申し訳なく、深くお詫び申し上げる」と、初めて謝罪しました(松島泰勝「差別の清算を求めて――琉球人遺骨と東京大学・上(学者の人骨研究特権化、遺族への配慮感じられず)」(『沖縄タイムス』202585日)。

 

私たちは今後も、盗まれた先住民族遺骨返還運動を通じて、琉球沖縄に対する差別と偏見の是正・解消を求めていきます。

 

並木さん

せめて、あなたが差し出している、その差別の手を引っ込めていただくことはできないでしょうか。

 

                                 以上

 

2025年8月7日

 

前田朗(ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク(のりこえねっと)共同代表、青年法律家協会弁護士学者合同部会・元東京支部長、朝鮮大学校講師、東京造形大学名誉教授)

松島泰勝(琉球民族遺骨返還請求訴訟元原告団長、琉球民族遺骨情報公開請求訴訟元原告、ニライ・カナイぬ会共同代表、龍谷大学教授)

 

*本書簡へのご意見やお問い合わせは下記へお願いします。

前田 E-mail: akira.maeda@jcom.zaq.ne.jp

松島  E-mail: matusima345@yahoo.co.jp

<憲法フェスティバル実行委員会>からの書簡

<憲法フェスティバル実行委員会>から書簡が届きました。

731日付書簡が84日に私の所に配達されました。実行委員会の並木陽介弁護士の名義です。以下に全文を引用紹介します。

私たちからの書簡は下記の2つです。

https://maeda-akira.blogspot.com/2025/06/blog-post_13.html

https://maeda-akira.blogspot.com/2025/07/2.html

 

*****************************

 

前田 朗先生

 

旬報法律事務所

弁護士 並木陽介

 

前略

 いつも憲法フェスティバルをご支援いただき、また先日は貴重なご意見をお寄せいただき、ありがとうございます。

 

 いただきましたご質問についてですが、憲法フェスティバル実行委員会は、様々な立場や思想にこだわることなく、かつ弁護士や法律家だけでなく多くの一般市民の皆さんをメンバーとして構成している実行委員会です。そうした性格から、頂きました個別具体的な問題についての統一した見解をまとめて公表ないし回答するなどといったことは行っておりません。

 

 また、一般に、出演を依頼して登壇いただいた方に対して、お願いしたテーマとは別の問題について何らかの働きかけをするようなことはすべきではありませんし、当実行委員会としても致しかねます。

 

 何卒ご賢察の上、ご理解を賜れば幸いです。

                      以上

Saturday, August 02, 2025

シンポジウム 「太平洋戦争終結80年 日本の敗戦80年 平和な世界の構築にむけて」

 シンポジウム

「太平洋戦争終結80年 日本の敗戦80年 平和な世界の構築にむけて」

「中国を仮想敵国に仕立て上げて、着々と戦争準備に突き進んで良いのか。中国は敵ではない。」

―日中友好こそ、日本の最大の安全保障の一つだ―

 

まもなく、第二次世界大戦終結80年、日本の敗戦80年という歴史的節目の時を迎えようとしている。

日本では、戦後、自民党の幹部や大臣経験者から、度々、侵略や植民地支配を否定する歴史改竄主義的な発言が繰り返されてきた。

戦後、日本政府がアジアの諸国から、最も高い評価を受けた1995年の「村山談話」の後も、この談話に反発を強めた自民党の右派勢力の情念は蠢き続け、安倍首相にも受け継がれ、現在においても、自民党の右派幹部に引き継がれている。

日本の国内の一部の保守・極右勢力の中には、村山談話で記された、歴史への反省を「自虐史観」などと揶揄する向きもあるが、それは大きな間違いだ。

日本の敗戦80年という歴史的節目の時を迎えるにあたり、改めて、あの侵略戦争の本質を問い、歴史を鑑として、未来に進むという観点から、アジアの平和と繁栄の道は、どこにあるのかを、皆さんと、考えたいと思います。

日本を代表する、知の巨人のお話は、興味深いシンポジウム(詳細は添付のチラシ・参照)になると思います。多くの皆様方のご出席をお待ちしています。

 

日時:2025814日(木)1400~(開場1330

1330分から、衆議院第一議員会館ロビーで入館カード配布

会場:衆議院第一議員会館・地下1階・大会議室

 ※必ず、事前申し込みが必要です。

申し込み先:多くの参加者が想定されます。定員(300名)に達し次第、申し込みを締め切りますので、恐縮ですが、大至急、以下のメールまで参加申し込みを、お願いいたします。

E―mailendentakakageybb.ne.jp

●連絡先 090-8808-5000

 

●大変、中味の濃いシンポジウムとなりますので、多くの皆様にお知らせいたしたいので、何卒、皆様お一人・お一人のSNSで、大拡散をお願い申し上げます。

 

●プログラム●

1.総合司会:増田都子(元中学校社会科教員)

2.主催者代表挨拶:藤田高景(村山首相談話の会・理事長)

3.来賓のご挨拶

●鳩山友紀夫(第93代内閣総理大臣・東アジア共同体研究所理事長)

●呉江浩(中華人民共和国駐日本国特命全権大使)(要請中)

4. 記念講演

●山田朗(明治大学教授)

「平和創造のために引き出すアジア太平洋戦争の教訓」

●髙野孟(東アジア共同体研究所理事)

「台湾有事は日本有事」というデマを粉砕しよう!

. 各界からの御発言

●古賀茂明(政治経済評論家、元経済産業省官僚)

今こそ原点に帰り「何が何でも戦争はしない」政策に転換する時だ

●高山佳奈子(京都大学教授)

国際学術交流を通じた平和貢献

●木村知義(北東アジア動態研究会主宰、ジャーナリスト)

「敗戦80年」、こえるべき課題に向き合う視座とは

質疑応答           

7.閉会の挨拶  野平晋作(ピースボート共同代表)

 

主催  村山首相談話を継承し発展させる会

反差別連続講座第3回 民族教育権と将来の世代の人権

反差別連続講座第3回

民族教育権と将来の世代の人権

前田 朗

 

9月11日(金)18152030 開場18:00

浦和コミュニティセンター第13集会室

浦和駅東口 浦和パルコ上10

参加費 800円 (学生・障がい者500円)

 

主催: 外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク埼玉

協賛: ヘイトスピーチ禁止条例を求める埼玉の会

子どもの人権埼玉ネット

朝鮮・韓国の女性と連帯する埼玉の会

問合せ・申込:080-1245-3553(斎藤) 

取調拒否権を考える(6)

取調拒否権について、最近はあちこちいくつかのメディアに書かせてもらっているが、以前は、ほとんど救援連絡センターとその機関紙『救援』が主たる舞台だった。

 

『救援』には1995年からずっと毎号連載している。テーマは全てその時々の私の判断で、編集部から注文がついたことがない。自由気ままに書いてきた。

 

2018年の連載は次の通り。

1月:恣意的処刑とジェンダー

2月:死刑と差別に関する国連報告書

3月:アジアの中の日本国憲法

4月:刑罰制度改革はいかにあるべきか

5月:反差別運動における暴力(二)

6月:女性に対するレイシズム

7月:集会・結社の自由の人権理事会報告書

8月:ヘイト番組「ニュース女子」問題

9月:フェミニズムはどこへ行ったのか

10月:日本軍「慰安婦」問題人種差別撤廃委員会勧告

11月:うちなーんちゅうしぇーてぇーないびらんどー

12月:少年年齢引き下げ法改正に反対する刑事法研究者声明

 

刑事法と差別問題のテーマが多いが、11月は翁長雄志・沖縄県知事が亡くなったので追悼の意味、12月は少年法改正問題。以下に貼り付ける。

 

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救援18年11月

うちなーんちゅうしぇーてぇーないびらんどー

 

前田 朗(東京造形大学)

 

基地問題の新局面

 

 琉球新報社編『魂の政治家――翁長雄志発言録』(高文研)は「イデオロギーよりアイデンティティ」を掲げ、「オール沖縄」を牽引して、日本政府と渡り合った翁長雄志の二一本の発言・講演をまとめた一冊である。

 八月八日、翁長雄志沖縄県知事が亡くなった。膵臓癌のため手術を受け、さらに入院中だったが闘病かなわず、六七歳の早すぎる逝去である。ご家族の思いはいかばかりか。と同時に、辺野古基地建設反対運動をともに闘ってきた沖縄の人々の心中も察するにあまりある。

 沖縄に米軍基地を押しつけ、その撤去のために何もできずに来た本土のやまとんちゅの一人に過ぎない私に、翁長知事の追悼を述べる資格があるのか、と考え込まざるを得ない。

 とはいえ、尊敬する政治家の死を悼み、敬愛する人間の早すぎる死を惜しみ、私なりの追悼をするのに資格などもともと不要だ。

 七月二七日に辺野古基地建設に伴う埋立承認撤回に向けた手続きの開始を宣言する記者会見の様子を見て、翁長知事のやつれた姿に驚き、不安に思い、同時にそれでも前向きに闘う翁長知事の姿勢に心から敬意を抱いたのは、私だけではないだろう。

 日米両政府の植民地主義的で、問答無用かつ尊大きわまりない基地押しつけに敢然と立ち向かい、オール沖縄の闘いを全身で牽引し、アメリカにも国連にも出かけて惨状を訴えた政治家・翁長の決意と志に打たれた多くの人々と同様に、深甚の限りない無念の涙とともに、翁長知事のご冥福を祈る。

 一人ひとりの市民の生きる暮らしと願いと夢と希望を賭けて、首長として、政治家として、人間として、最後の最後まで毅然と、冷静沈着に、だが断固として平和を求め、自由と人権のために歩み続けた翁長知事のご冥福を祈る。

 日本という国と、私たち日本人、やまとんちゅの果てしない堕落と腐敗を痛切に受け止め、歯噛みしながら、基地建設反対運動、平和運動、人権運動にこれまで以上に力を注ぎたい。

 二〇一五年九月二一日、翁長知事が国連欧州本部の第二〇会議室で、国連人権理事会で発言した、あの時と同じ座席に座って、哀悼の思いを心に刻んできた。次の一歩、のために。

 九月三〇日、沖縄県知事選は翁長知事の遺志を引き継ぐデニー玉城が対立候補に大差をつけて当選した。基地はいらないという沖縄県民の堅い意志が改めて表明された。

 にもかかわらず、日本政府は沖縄に基地を押し付ける方針を再表明し、徹底差別を続けている。辺野古基地建設に反対するデニー玉城知事と沖縄県民の闘いは、いっそうの熱意と希望の下、逆に厳しい攻撃にさらされながらの新局面を迎えた。沖縄に基地を押し付けない本土の闘いを強化しなければならない。

 

翁長雄志の言葉

 

 「集団自決が日本軍の関与なしに起こりえなかったのは紛れもない事実」(二〇〇七年九月二九日、教科書検定意見撤回を求める沖縄県民大会)との、沖縄県市長会会長としての発言を皮切りに、政治家・翁長の紡ぐ言葉と思想は揺らぐことがなかった。

「基地の整理縮小という一点で県民の心が一つにまとまった」(一二年九月九日のオスプレイ配備反対沖縄県民大会)

「日米安保体制は日本国民全体で考えるべきだ」、「沖縄県民は目覚めた。もう元には戻らない」(一三年一月二七日のオスプレイ配備撤回東京要請行動における沖縄県市長会会長としての発言)。

 「イデオロギーよりもアイデンティティに基づくオール沖縄として、子や孫に禍根を残すことのない責任ある行動が今、強く求められている」(一四年九月一三日、知事選出馬表明)。

 「安倍総理が『日本を取り戻す』と言っていた。取り戻す日本の中に沖縄が入っているのか」(一五年四月五日、菅義偉官房長官との会談)。

 「私は日本の政治の堕落だということを申し上げている。うちなーんちゅうしぇーてぇーないびらんどー(沖縄人をないがしろにしてはいけませんよ)」(一五年五月一七日、止めよう辺野古新基地建設県民大会)。

 「沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされています」(二〇一五年九月二一日、ジュネーヴ国連人権理事会)。

 「ぐすーよー、まきてぇーないびらんどー(皆さん、負けてはいけませんよ)、わったーうちなーんちゅぬ、くゎんまが、まむてぃいちゃびら(私たち県民の子や孫たちを守っていきまでょう)。ちばらなやーさい(頑張っていきましょう)」(二〇一六年六月一九日、米軍属女性暴行殺人事件に抗議する県民大会)。

 行政の責任者として住民の安全と平和を守るため、理不尽な差別に抗し、不正義を撃つ姿勢は、うちなんちゅだけではなく、「本土」の思想家や平和運動家を感銘させ、叱咤激励し続けた。ここにはあいまいな言葉を駆使して陰で利権あさりに励む日本の政治家(政治屋)とは対極的な思想家・翁長雄志が端然と、すっくと立っている。

 普久原均(琉球新報社編集局長)は「不世出の人物から未来への光を」と題して「翁長雄志という政治家は、沖縄にとって不世出の存在だった。そう感じられてならない。その名が屋良朝苗、瀬長亀次郎、西銘順治、大田昌秀と並んで沖縄現代史に深く刻まれるのは間違いない。だがそこにとどまらず、沖縄近代史、琉球史に記される存在だったといっても大げさでないのではないか」と言う。

 普久原はさらに「沖縄側の意思を蹂躙する存在に対し、体を張り、命を賭けて抵抗したという意味では、近世史初めの琉球王国高官・謝名親方を彷彿とさせるものがある。謝名は島津の琉球侵略に抗い、島津に忠誠を誓う起請文への連判を拒んで処刑された人物だ。翁長氏の歩みはそれと重なって見える」と言う。

 七月二七日、膵臓癌を患い、まともに歩くことさえままならない状態にもかかわらず、辺野古埋立承認撤回表明の記者会見で、翁長雄志は死のぎりぎりまで、沖縄の民意を踏みにじる政府を批判し、基地押し付けに抵抗した。抵抗と自己決定権の正当性を確固たる言葉で語り、毅然とした姿勢を貫いた。翁長雄志の言葉は「沖縄の思想」そのものとなり、語り継がれるだろう。本土のやまとんちゅも「沖縄の思想」に学び、自らの植民地主義と暴力性を猛省しなければならない。

 

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救援18年12月

少年年齢引き下げ法改正に

反対する刑事法研究者声明

 

前田 朗(東京造形大学)

 

審議不十分

 

 法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会(以下「部会」)において、「少年法における『少年』の年齢を一八歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について」の審議がすすめられている。この立法措置には重大な疑問があるため、一一月一六日、全国の一三〇名の刑事法研究者が強い反対を表明した(呼びかけ人二八名)。事務局を担ったのは葛野尋之(一橋大学教授)、武内謙治(九州大学教授)、本庄武(一橋大学教授)である。声明は四つの柱からなる。

 第一に「部会では現在まで少年法適用年齢の上限の引下げに関して十分な審議が行われていない」。

 第二に「少年法適用年齢の上限の引下げには積極的な根拠が必要である」。

 第三に「部会において構想されている『若年者に対する新たな処分』は、現行制度の代替にはなりえない」。

 第四に「民法上の『成年』を少年法上の『少年』とすることはできない、とすることの誤り」。

 国際自由権委員会や拷問禁止委員会など国際人権機関からの改善勧告には耳を閉ざしながら、法務官僚と司法官僚の談合によって推進されてきた刑事司法改革の一環であり、結論ありきの審議が進められている。子どもの権利条約をはじめとする少年司法に関する国際準則の配慮も不十分である。以下、順次補足していこう。

 第一に、少年法適用年齢上限引下げ問題が部会で正面から取り上げられ、検討されたことは二〇一八年一〇月末日まで一度もない。少年法適用年齢上限は、本質において、刑事政策のみならず青少年政策上も極めて重大な問題であり、関係する専門的知見を十分に踏まえて、多角的かつ慎重に検討を進めるべき問題である。それゆえ拙速な審議は厳に避けるべきであるのに、十分な審議がなされていない。

 第二に、少年法適用年齢上限引下げには積極的な根拠が必要であるが、その根拠が十分に示されていない。部会設置後に行われた民法改正をめぐる国会審議では、民法上の成年年齢は単独でさまざまな取引行為ができ、親権に服さなくなる年齢であって、少年法上の成人年齢引下げを必然的に帰結するものではないと確認されている。一八歳、一九歳の若年者はいまだ成長過程にあり、引き続き支援が必要な存在であり、社会全体として支えていかなければならないという視点が重要である。複数の参考人からは少年法適用年齢の上限の引下げることへの反対意見が表明されている。

こうした説明が国会において公式に行われたのに、なぜ少年法適用年齢が引き下げられなければならないのか、立法措置の必要性・合理性がより一層積極的に示されなければならないはずである。しかし、その必要性・合理性は今日まで示されていない。

 

新たな処分への疑問

 

第三に、部会において構想されている「若年者に対する新たな処分」は、現行制度の代替にはなりえない。部会が構想する「若年者に対する新たな処分」は、現行少年司法制度と同等以上に有効な刑事政策措置にはならない。部会審議のように民法上の成年は刑事上も大人として扱うことを前提とする場合、「新たな処分」のあり方は自由権保障との関係で問題が生じる。行為責任主義や比例原則に鑑みれば、施設内で身体拘束を行う少年院に相当する施設への送致や少年鑑別所送致を「新たな処分」の中に含めることができなくなる。適正手続保障の観点からは、家庭裁判所における非形式的な非公開の手続で審判を行うことにも問題が生じ、無罪推定の法理から、事実認定前に社会調査や鑑別が行われることにも問題が起こる。

こうした自由権保障を無視するなら、「新たな処分」は実質的には保安処分となる。民法上の「成年」を少年法上の「少年」として扱うことが許されないという前提に立つ以上、少年法の理念が及ばないこととなると考えるのが自然である。となると、「新たな処分」においては、本人の成長発達を促すための働きかけに限定されることなく、再犯を防止するための措置がとられることになろう。これが他の年齢層に拡大しないという保証はない。

自由権保障のための刑事法の諸原則にしたがい、「新たな処分」の内容を社会内処遇である保護観察に限定しても、問題は解決しない。この場合、家庭裁判所における調査と審判は事実上保護観察を課すか否かを判断するものとなり、教育的働きかけのプロセスではなく、すでに決まった結論へと向かう形式的なものになってしまう可能性が高い。現在非行少年に対する家庭裁判所の調査と審判が有している教育的な働きかけが失われてしまう。

さらに、検察官が起訴猶予相当と判断することなく、刑事裁判所に起訴した事件については、「要保護性」の科学的調査とそれに応じた教育的な処遇を受ける機会を失うこととなる。

 第四に、民法上の「成年」を少年法上の「少年」とすることはできない、とすることは誤りである。部会で検討されている「若年者に対する新たな処分」が、いずれにしても、現在の少年司法制度と同等以上に有効な刑事政策措置とはなりえないという隘路は、部会が民法上親権者の監護が及ばない「成年」を少年法上の「少年」として扱うことは許されないという前提に立っていることから生じている。

そもそも、民法上の「成年」を少年法上の「少年」とすることはできない、との前提自体に重大な疑問がある。民法上の「成年」を少年法上の「少年」とすることはできない、との考えは、少年司法制度の形成および発展の歴史からみても正しいとはいえない。

 「若年者に対する新たな処分」構想にしても、民法上の「成年」と少年法上の「少年」をめぐる理解にしても、現行少年法制度の経験や実績についての内在的検討を踏まえず、外在的要因に右往左往した改革案の正当化に部会審議が集中しているのではないかと疑念を抱かざるを得ない。

二一世紀に入ってからの矢継ぎ早の刑事司法改革も同じ傾向を示してきた。外在的要因の影響下でなされた刑事司法改革の帰結の検証も十分なされないまま、次々と目先を変える「改革病」が蔓延している。被疑者、被告人、受刑者、少年などの市民の権利保障を緩和しながら、検察官、裁判官、一部の刑事法研究者など「専門家」の「改革病」が事態を悪化させている。

Saturday, July 12, 2025

取調拒否権を考える(5)

取調拒否権を考える(5)

 

2017年、同志社大学で、浅野健一ゼミの公開講座が開かれた。京都強盗殺人事件容疑によって逮捕され、取調拒否をして不起訴処分となったFさんが登壇して体験を語った。

 

その内容を『救援』1712月号に紹介した。これまで紹介してきたことと内容に違いはない。

 

連載の2回目なので、『救援』1711月号に1回目を寄稿をしているが、手元に記録がない。見つかれば、掲載したい。

 

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救援17年12月

正しい黙秘権行使による不起訴処分(二)

前田 朗(東京造形大学)

 

浅野健一ゼミ

 

 一一月一七日、同志社大学における「浅野ジャーナリズム講座」第一四回「出房拒否権」が開催された。センター運営委員、本紙連載中の浅野健一・同志社大学教授(大阪高裁で地位確認係争中)と学生・市民による自主ゼミである。

 最初に京都強盗殺人事件に関連して逮捕され、不起訴処分を勝ち取ったFさんから体験報告がなされた。四月一一日、身に覚えのない強盗殺人容疑で京都府警に逮捕され、伏見署に収容された。それ以前に別件で逮捕され、本件についてはまったく関与していない、事件そのものを知らないことを繰り返し供述したにもかかわらず、京都府警は自白を強要するためにFさんを強引に逮捕した。すでに何度も供述・否認したにもかかわらず逮捕されたことに疑問を感じたFさんは黙秘することに決めた。四月一二日に接見した高田良爾弁護士は黙秘権行使を貫くこと、そのためには取調べそのものを拒否し、そもそも出房を拒否することを助言した。翌一三日には、前田朗著『黙秘権と取調拒否権』を差し入れた。留置場で同書を読んだFさんは黙秘権行使の正当性を確信し、出房拒否を敢行することにした。留置係に黙秘権行使を通告し、取調室への連行を拒否した。

 留置係は、被疑者には取調受忍義務があると告げて、取調べを拒否するとかえって不利になるかのごとく説得してきた。留置係だけでなく当直長も説得に来た。一六日、押収品返還という口実で取調室に出向くことになったが、何も返してもらえなかった。それどころか捜査官から「弁護士が受忍義務がないとか大きな間違いや」「弁護士と警察の力の差は歴然としている」「無罪なら隠れんと大人らしく自分で話せ」などと説得された。Fさんはその後も出房拒否を貫いた。留置係と当直長による説得が続いたが、これに乗せられることはなかった。

四月二〇日、検事調べに出たところ、担当検事が「こんなんで、よう逮捕状が出ましたね」「任意同行で呼ぶくらいの証拠しかないのに逮捕までしている。任意の聴取なら、私に話してくれましたよね。三つの質問に答えてくれれば、私の責任で不起訴にできる」と言ったという。

Fさんは「荒っぽい捜査をした警察はもちろん悪いが、裁判所が逮捕状や勾留状を簡単に出すのが問題だと思う。逮捕状が出るレベルが低すぎる。私の場合、何の証拠もないし、別件でさんざん調べられていることも分かっているのに、右から左に令状を出している」と裁判官の責任を指摘する。

続いて高田良爾(弁護士)及び筆者が報告し、取調拒否権の重要性を明らかにした(前田朗「取調拒否権行使により不起訴処分」『マスコミ市民』一七年一一月号)。

 

取調拒否が第一歩

 

 最後に浅野健一教授が自身の取材結果をもとに報告した(浅野健一「Fさん、『出房拒否』の闘いから学ぶ」『週刊金曜日』一七年九月八日号)。

 八月一〇日、京都府警に、Fさん逮捕の記者クラブへの広報の内容、担当捜査官、逮捕状請求警察官の氏名・役職などを質問した。府警は、記者クラブへの広報をした事実を認め、引き回しについては否定した。捜査官等の氏名は回答しなかった。八月一八日、京都地検に担当検事の氏名等を質問したが、「すべての質問に回答を差し控える」との回答であった。 八月一八日、京都地裁に令状発布裁判官の氏名等を質問したが、すべてについて「回答することはできません」との回答であった。被疑者の個人情報をメディアに流して、犯罪視報道をさせておきながら、司法関係者は匿名の陰に隠れている。

 浅野教授によると、Fさん逮捕の際に警察が記者クラブに提供した情報に基づいて、マスメディアではFさんを強盗殺人犯人視する報道がなされ、氏名、住所、職業が広範囲に報道された。不起訴処分後も、逮捕・送検時の映像や記事がインターネット上に流れている。家族、親戚、友人たちとの関係にも大きな障害となっている。「テレビや新聞に名前が出ると、全く知らない人にまで知られてしまう。特に私の名前はよくある名前ではないので、実名が出ると生活ができない。親戚にも、いろいろ言われる」という。

 「メディアの取材・報道にも注文があるが、今は我慢する。メディアを批判すると、また目を付けられて、名前が出ると困る。会社から切られるのが怖い。名前が広まったら一瞬でクビになる。法的に不起訴になったからといって、周囲、世間の見る目はそう急には変わらない。不起訴になっても、身内から縁を切ってくれと言われている」と、報道被害の大きさを語る。

 被疑者を留置場に収容し、二四時間の生活を監視・管理し、捜査官の思いのままに取調室で拷問まがいの取調べを強行し、虚偽自白を強要する代用監獄制度は一九八〇年代から厳しい批判を受けてきたが、一向に改善されていない。それどころか日弁連は代用監獄を是認し、これを前提とした司法改革に協力している。これでは黙秘権も無罪の推定も絵に描いた餅に過ぎない。被疑者の人格を侮辱し、名誉を毀損し、メディアでさらし者にする「中世」の刑事司法が人権侵害と誤判・冤罪を量産している。弁護士とメディアも「共犯」ではないのか。

 代用監獄体制(留置場収用、取調受忍義務論、自白強要、拷問)を打破するために、正しい黙秘権行使の実践と理論が必須である。

身柄拘束された被疑者の本来的収容場所は拘置所である。留置場が収容場所に指定されれば留置場に収容されるが、その場合、被疑者は留置場にいなければならない。被疑者を留置場から連れ出すことは許されない。被疑者は勝手に取調室に行くことはできないし、行ってはいけない。

黙秘権を行使する被疑者には取調室に行く理由がない。黙秘権を行使するということは単に黙っていることではない。捜査官に一切情報を与える必要がなく、捜査官と顔を合わせる理由もない。取調室で捜査官の顔色を窺ったり、供述をめぐる取引をする必要もなく、捜査官から罵声を浴びせられる理由もない。黙秘権を行使する被疑者には他に選択の余地はない。違法な取調べに協力することなく、出房せず取調拒否をするのが正解である。

刑事弁護人は、被疑者を孤立無援の状態で取調室に行かせてはならない。取調拒否をさせるか、弁護人立会を勝ち取るために、刑事弁護の質を向上する必要がある。被疑者を単独で取調室に行かせる弁護人は、捜査官による自白強要の「共犯」となる。取調拒否はまともな刑事司法改革の第一歩である。

Friday, July 11, 2025

赤根智子『戦争犯罪と闘う――国際刑事裁判所は屈しない』(文春新書)

赤根智子『戦争犯罪と闘う――国際刑事裁判所は屈しない』(文春新書)

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166614967

 

プーチン大統領の逮捕状を出したために、ロシアから犯罪者として指名手配され、ネタニヤフに逮捕状を出したため、トランプから制裁を課せられているICCの所長です。世界に法の支配を広め、力による支配に逆戻りさせないために闘い、「私たちは決して諦めない」という決意表明。お薦めの本です。

 

赤根所長は、日本の検察官出身、アメリカ留学経験があったので法務総合研究所教官や、国連アジア極東犯罪防止研修所教官になり、ついにはICC判事になりました。ご本人の経歴と、ICCの歴史と、最近のICCの闘いがまとめられています。本文180ページくらいで、すぐに読める本です。

 

初めて知ったこととして、アフガニスタン問題があります。検察官がアフガンの戦争犯罪の捜査要請をした時に、予審部が却下したため捜査できなくなりました。却下したのは赤根判事たち。検察官が控訴して、控訴部が許可を出したので、捜査が行われました。そしてついに今週、逮捕状発付に至ったのです。

Statement of the ICC Office of the Prosecutor on the issuance of arrest warrants in the Situation in Afghanistan

https://www.icc-cpi.int/news/statement-icc-office-prosecutor-issuance-arrest-warrants-situation-afghanistan

 

この本の他の箇所では、「ICCは法と事実に基づいて判断する。国際政治に左右されることはない」と繰り返しています。プーチンの圧力をはねのけ、トランプの圧力に抵抗しているICC所長です。懸命に「法の支配」を守る闘いのさなかです。本当に頭の下がる、凄い仕事です。

 

ただ、赤根判事がアフガニスタンの捜査を却下したのは、文字通り政治的理由です。「捜査に協力してくれる国や団体がほとんどなく」、捜査が進展する見込みがないと主張し、「限られたリソースを見込みのない捜査につぎ込むのは実務感覚からも好ましくなかった」と言っています。100%政治的理由です。アフガンにおける戦争犯罪について「法と事実に基づいて判断」していません。

 

他の箇所では「法と事実」と何度も繰り返しながら、アフガンだけ別扱いなのは、自己矛盾です。控訴部が赤根判事の判断を否定して、捜査を認めたために、ようやく逮捕状に至りました。とはいえ、赤根所長が言う通り、協力する国が少ないと、本当に裁判を開けるかどうかはわかりませんが。

 

赤根所長は、今後、日本にICC事務所を置きたい、ICC規程締約国を増やしたい等々、先のことも考えて、国際的な法の支配の確立に力を注いでいます。

Saturday, July 05, 2025

<憲法フェスティバル実行委員会への書簡(第2信) ――琉球民族遺骨返還問題と植民地主義を問う>

<憲法フェスティバル実行委員会への書簡(第2信)

――琉球民族遺骨返還問題と植民地主義を問う>

 

憲法フェスティバル実行委員会様

 

 本年621日開催の第37回憲法フェスティバル(テーマ「戦後80年と憲法~これまでとこれから」)は成功裏に終了したとのこと、お疲れさまでした。「戦後80年」という節目に平和憲法の歴史と現在を顧みて、これからの課題を探る試みに敬意を表します。

 さて、私たちは614日に<憲法フェスティバル実行委員会への書簡――琉球民族遺骨返還問題と植民地主義を問う>を公開し、憲法フェスティバル実行委員会にお届けしました。

https://maeda-akira.blogspot.com/2025/06/blog-post_13.html

 この書簡には、琉球民族はもとより、アイヌ民族、在日朝鮮人、中国人研究者、さらに日本人からも賛同の意思表示をもらいました。

私たちの疑問は、第37回憲法フェスティバルにおいて、山極壽一氏(総合地球環境学研究所)が『人間の本性から平和への道を探る』という講演を行うことに端を発したものです。621日当日、山極氏の講演がなされましたが、私たちの疑問や要請への応答はいただけませんでした。

 <祖先の墓を暴かれ、骨を盗まれ、返還を求めても対話を拒否され、侮辱された人々の痛みの声を、憲法フェスティバル実行委員会は、どのようにお聞きでしょうか。>

 <憲法フェスティバル実行委員会は、本件訴訟及びその後の経過についてどのような見解をお持ちでしょうか。植民地主義を継承し、人種民族差別を実践してきた責任者が、日本国憲法の平和主義について語ることは、憲法フェスティバルの理念と目的に合致しているのでしょうか。>

 <621日の憲法フェスティバルの舞台で、憲法フェスティバル実行委員会は、「日本国憲法の平和主義や基本的人権」と「他民族の遺骨盗取・隠匿・返還拒否・対話拒否」の関係について、ご見解を明らかにされることを要望します。>

<また、山極氏が琉球民族遺骨返還の声を無視し、対話を拒否し、原告団長の松島に対する民族差別を行ったことにつき、まずは説明責任を果たすよう、憲法フェスティバル実行委員会として山極氏に勧奨することを要望します。>

この4点について、憲法フェスティバル当日も、またフェスティバル終了から2週間となる現在も、憲法フェスティバル実行委員会からの応答はございません。

 

 そこで、次の諸点について改めて疑問を提起し、憲法フェスティバル実行委員会に質問させていただきます。

 第1に、1929年、京都帝国大学の研究者が琉球の今帰仁村の百按司墓から遺骨を持ち去り、研究材料としました。これは墳墓発掘罪に該当する犯罪であり、琉球民族に対する植民地主義暴力ではないでしょうか。

 第2に、20174月以降、遺族や琉球先住民族が、盗まれた遺骨の実見や返還を繰り返し要望しましたが、京都大学(山極壽一総長)によって拒否されました。対話も面会も拒否されました。これは琉球民族に対する植民地主義暴力ではないでしょうか。

 第3に、2019年、山極氏(当時・京都大学総長)は、京大の職員組合との懇談において、本件訴訟原告の松島を「問題のある人と承知している」と述べました。これは原告である松島に対する侮辱であり、琉球民族に対する差別ではないでしょうか。

 第4に、憲法フェスティバル実行委員会は、山極氏に講演を依頼しました。植民地主義を継承し、人種民族差別を実践してきた責任者が講演することは、憲法フェスティバルの理念と目的に合致しているのでしょうか。

 第5に、私たちの書簡(本年614日付)にもかかわらず、憲法フェスティバル実行委員会は、何ら応答することなく、何事もなかったかのように、山極氏の講演を実施しました。琉球民族(松島)側からの植民地主義批判に応答する必要がないと判断された理由を教えてください。

 

 次に、第37回憲法フェスティバル(テーマ「戦後80年と憲法~これまでとこれから」)において、浅倉むつ子氏(早稲田大学名誉教授)の講演「女性の権利を国際基準に~憲法と条約を活用しよう!」が行われました。

 浅倉氏は1時間を超える長い講演で「日本の法制をふりかえる」として「明治時代にできた法律=『近代法』」として1889年の大日本帝国憲法と1890年の明治民法を取り上げて、「身分差がなくなった」と述べました。 

 大日本帝国憲法は天皇制と貴族制を確立しましたが、「身分差がなくなった」のでしょうか。

 浅倉氏は「『平等』は戦後、日本国憲法で保障された。」と断定しました。その理由として、19464月の衆議院議員選挙において「女性初の参政権」が認められ、1946年の日本国憲法14条の法の下の平等、13条の個人の尊重、24条の両性の平等規定が定められたと確認し、「家族法改革の不十分性」として例えば女性の再婚禁止期間などを示しました。

 日本国憲法は象徴天皇制を定めましたが、「『平等』は戦後、日本国憲法で保障された」のでしょうか。

 私たちの一番の疑問は次の点にあります。194512月の衆議院議員選挙法改正は、女性参政権を導入しましたが、同時に「沖縄県民」及び「旧植民地出身者」の選挙権を停止(剥奪)しました。1946年の衆議院議員選挙において、琉球の女性にも男性にも選挙権は与えられませんでした。1946年の日本国憲法は、琉球の女性も男性も排除して、制定されました。

 米軍統治時代はもとより、1972年の「沖縄返還」後も米軍基地が押し付けられ、現在もなお琉球の女性は米軍兵士による性暴力被害を受け続けています。琉球の女性がどれほど迫害を受けても、浅倉氏は「平等は保障された」と主張するのでしょうか。

 憲法フェスティバル実行委員会に、もう一つの質問をさせてください。 

 第6に、第37回憲法フェスティバルのテーマは「戦後80年と憲法~これまでとこれから」ですが、琉球の女性も男性も排除して「戦後80年」を回顧し、「これから」も琉球と琉球民族を排除・差別し続けるのでしょうか。

 

 憲法フェスティバル実行委員会が、私たちの問題提起に真摯に向き合い、誠実に応答されることを期待します721日(月)までに回答していただけるよう要請します。

 なお、私たちは来る724日(木)に<琉球民族遺骨返還を求める連続講座第1回「今なお続く京都大学の植民地主義」>を開催いたします。

 https://maeda-akira.blogspot.com/2025/06/1.html

 憲法フェスティバル実行委員会の皆様にご参加いただければ、貴重な対話の機会となります。ご発言の時間を確保いたしますので、ぜひご参加いただけますようお誘いいたします。

 

                                 以上

 

20257月6日

 

前田朗(ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク(のりこえねっと)共同代表、青年法律家協会弁護士学者合同部会・元東京支部長、朝鮮大学校講師、東京造形大学名誉教授)

松島泰勝(琉球民族遺骨返還請求訴訟元原告団長、琉球民族遺骨情報公開請求訴訟元原告、ニライ・カナイぬ会共同代表、龍谷大学教授)

 

*本書簡へのご意見やお問い合わせは下記へお願いします。

前田 E-mail: akira.maeda@jcom.zaq.ne.jp

松島  E-mail: matusima345@yahoo.co.jp

取調拒否権を考える(4)

取調拒否権を考える(4)

 

前回と同じ2017年の京都強盗殺人事件容疑における取調拒否実践の報告である。

 

それまで主に救援連絡センターの『救援』紙上で論じてきたが、京都強盗殺人事件の実践例が出たことで、法律雑誌に掲載してもらった。法律雑誌で取調拒否権が取り上げられたのはこれが初めてではないだろうか。

 

これを機に、取調拒否が各地に広がる、と私は大いに期待した。ところが、そうはならなかった。

 

取調拒否権は、東京の著名な刑事弁護士たちから忌避された。面と向かって反対され、相手にされなかった。

 

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『法と民主主義』522号(201710月号)

前田 朗「取調拒否権行使で不起訴処分勝ち取る――黙秘権の正しい実践のために」

 

一 はじめに

 

 本年八月一四日、尾関利一・京都地検検事から高田卓爾弁護士に届いた「不起訴処分告知書」によると、Fさんに対する強盗殺人被疑事件について、七月二五日付で「嫌疑不十分」で不起訴処分となった(1)

 身に覚えのない強盗殺人事件で逮捕されたFさんは黙秘権行使を宣言し、出房を拒否した。何の証拠もなしにFさんに嫌疑をかけて逮捕したものの、虚偽自白をとることができず、不起訴に追い込まれた警察・検察の失態である。

 本件は黙秘権とは何かという問題を刑事弁護に突きつける。従来の刑事弁護は黙秘権の意義を理解してこなかったのではないか。本件を通じて再考したい(2)

 

二 事案の警戒

 

 Fさんは本年一月二一日、京都府警に失業保険金詐欺容疑で逮捕され、南警察署に留置された。本件詐欺事件については四月一一日に京都地裁で判決(執行猶予付)が言い渡された。Fさんは強盗殺人事件に関する別件取調べに積極的に協力し、懸命に事実を陳述した。にもかかわらず判決当日、強盗殺人容疑で逮捕された。

 逮捕の翌一二日、Fさんは黙秘することを決意し、取調室で黙秘する旨を伝えたが、「逮捕状出てるから強制で取調べができる」、「黙秘するのはいいけど逮捕状の意味わかる?裁判所からこの人は犯人である証拠があるから逮捕状が出てるんやで」と言われた。

 一三日、高田弁護士から出房拒否という方法を教わったFさんは「読み上げられた逮捕内容には全て関与してません」と一言述べて否認の上、黙秘を伝えた。別件取調べに際して繰り返し供述したにもかかわらず逮捕されるのなら、供述の意味がないと思ったと言う。高田弁護士は前田朗著『黙秘権と取調拒否権』を差し入れ、Fさんは本書を留置場内で熟読した(3)

 一四日、Fさんは留置係から「受忍義務を無視していいんやね」と確認されたが、出房を拒否した。一五日も拒否した。

 一六日、押収品返還手続きのため指印が欲しいとの口実で取調室に出向いたため、「弁護士が受忍義務がないとか大きな間違いや」、「自分がこのまま取調べに応じなかったら、家族、知人、近所に聞き込みにいくから、またまわりに迷惑がかかるで」などと言われたが、取調拒否を貫いた。

 一七日、弁護人から絶対に出房しないように助言を受け、取調べを拒否した。留置係は「本当なら引きずってでも取調べる義務があるけど、担当刑事は優しいからそこまでいいって言うたはるけどどうする」と言ったという。

 一九日、検事調べで「何も関わっていないのに逮捕された事が意味がわからない」と訴えた。検事は「正直よく逮捕状がとれたな」と言った。

 二〇日以後も黙秘を貫いた。留置係が何度も説得に来て「引っ張り出してまでする気はないけど、ちょっと前まではしてたんやで。取調出てきて黙秘するのと、一度も出たないのとでは起訴された時の裁判官のイメージが違うで。弁護士は一生責任とってくれる訳ちゃうしな」と言われたが、拒否した。そして五月二日、処分保留により釈放された。

 

三 黙秘権の意義

 

 Fさんは次のように述べる。

 「刑事から毎日毎日、①証拠があるんや、②逮捕状が出ているのは証拠があるからや、③お前がいくらやっていないと言っても通らない、④早く白状したほうが有利になる、⑤黙秘していて裁判になったらもう遅い、と言われ続けていたら、自分はやっていないと思っていたが、ほんまはやっていたんと違うか、刑事の言っていることの方が正しいのと違うか、というような気持になりました。そんな気持ちになるのは到底信じられないかもしれませんが、実際逮捕・勾留され密室の部屋で毎日『やった。やった。証拠がある。証拠がある』と言われ続けられれば、そんな気持ちになってくるというのを実感しました。密室の中の取調べが冤罪を生むのだということが実感しました。黙秘するには房から出ないことが大切であることがわかりました。」

 本件弁護人(高田卓爾、石側亮太、斉藤麻耶)は次のような努力を重ねた。

 第一に、連日の接見において「被疑者ノート」の記入を勧め、黙秘権や出房拒否の意味をていねいに説明し、取調受忍義務がなく、取調拒否の正当性につき確信を持たせた。

 第二に、Fさんが押収品返還手続きという口実で出房した後には、絶対に出ないように助言した。

 第三に、検察庁、警察本部長、警察署長宛てに「苦情申出及び申入書」を繰り返し提出した。四月一八日の申入書(一回目)では、留置係らの発言について「黙秘権や無罪推定、立証責任について法的に著しく誤った説明であることは言うまでもありません。また、被疑者と弁護人との信頼関係を破壊しようとするものであることも明らかです。かかる説明により、被疑者を著しい不安に陥れ、正当な黙秘権行使を断念させようとすることは、黙秘権侵害及び弁護人による弁護を受ける権利の侵害であり、重大な違法が存することは明らかです」と抗議した。さらに、「露骨な黙秘権侵害・弁護権侵害の違法行為が行われる恐れがあることに鑑み、取調べに応じること自体を拒否します。具体的には、留置場居房から取調べのために出房することを拒否しますので、その旨ご承知おき下さい。留置業務管理者たる警察署長及び留置主任官におかれては、捜査と留置の分離の趣旨を徹底し、被疑者の意思に反して被疑者を出房させ、取調官に引き渡すことのないように求めます。万一、被疑者を強制的に出房させ、取調べに応じることを強要した場合、それ自体が黙秘権の重大な侵害であり、同取調べにおける供述の任意性も当然に失われるものと解し、この点を徹底して争うことになる予定ですので、あらかじめ申し添えます」と申入れた。

 Fさんは闘いを通じて黙秘権の本質をつかみ取った。黙秘するということは捜査官に情報提供しないことである。一切情報提供しないのだから、そもそも取調室に行く理由がない。黙秘権行使とは取調べを受けないこと、取調べを中断させること、そもそも取調室に行かないことである。権力の言いなりになって取調室に行ってはいけない。これが黙秘権である。

 黙秘権の意義を理解したFさんは出房拒否、取調拒否を貫徹した。警察・検察は虚偽自白強要に失敗し、不起訴処分に追い込まれた。

 

四 刑事司法の惨状

 

 京都府警は、実行犯に殺害を依頼した人物がいると見てKを「主犯格」として疑い、Fさんも一緒に逮捕した。府警捜査一課は、逮捕に際して次のような報道資料を記者クラブで配布した。

 <二人は(他の)被疑者らと共謀の上、一六年九月二八日午前零時五分ごろ、伏見区の路上で、Wさんに対し、その頸部などを刃物様で突き刺すなどし、同人を頸部刺創による失血死により、殺害し、同人から借り受けていた数千万円の返還を免れて、財産上、不法利益を得た>(要旨、Wは資料では実名)

 京都府警はFさんの職業、氏名、年齢、住所(町名まで)を公表し、マスコミは逮捕を実名で大きく報道した。テレビには顔も出た。

 ジャーナリストの浅野健一(同志社大学教授=大阪高裁で地位係争中)は、府警、地検、地裁の広報担当者に、Fさん逮捕の担当刑事、検事、逮捕状・勾留状発付裁判官の氏名を質した(4)

 これに対し、府警広報応接課の枡田栄次広報官は八月一八日、「捜査官の氏名についてはコメントできない」、地検の樫原広報官も「全ての質問に回答を差し控える。京都地検(土持敏裕検事正)としての回答だ」と回答した。京都地裁総務課広報係の中村智係長は八月二八日、「(裁判官の氏名は)回答することができない」と回答した。

 誤認逮捕と人権侵害を繰り返し、冤罪を量産しながら法と正義に無頓着な刑事司法の体質が浮き彫りになる無責任回答である。

 

五 黙秘権と刑事弁護

 

 本件は強盗殺人事件で身柄拘束された被疑者の事例である。これまで取調拒否権行使の例は主に公安事件・弾圧事件であった。安保法制反対国会前行動などで不当逮捕された事案が知られる。暴力団関係者の事案で、弁護人が捜査側と交渉するために被疑者に取調拒否をさせる例もある。

 しかし、高田弁護士は「一般刑事事件でこそ取調拒否権の意義が高いのではないか」と述べる。一般刑事事件の被疑者が人格権と無罪の推定を理解し、黙秘権の意義を理解したならば、虚偽自白強要の場である取調室にわざわざ出向くことなく、出房を拒否することによって、憲法上の黙秘権を正しく行使することができる。

 取調拒否権の実践から見えてきたことは、これまでの刑事弁護が黙秘権の意義を適切に理解してこなかったことである。黙秘権とは被疑者・被告人がしゃべらないことであり、取調室で「説得」と称して自白強要を続けることは捜査官の当然の権限であるかのごとく語られてきた。取調受忍義務論の悪影響ははかり知れない。「代用監獄と取調べという名の自白強要」をセットとする現状は人権侵害である。身柄拘束された被疑者が黙秘権を行使する場合、取調べを受ける理由はなく、取調室に行く理由もない。被疑者を取調室に連行する法的根拠もない(5)

 刑事弁護人は、身柄拘束された被疑者を孤立無援の状態で取調室に行かせてはいけない。被疑者を一人で取調室に行かせる弁護士は、警察による虚偽自白強要の「共犯」と言って過言でない。取調べへの弁護人立会を求めるか、それが実現しなければ取調拒否権を行使させるべきである。

 

(1)  筆者はこれまで被疑者Aと表記してきたが、現在、Fさんは実名を名乗って警察の責任を追及している。

(2)  前田朗「取調拒否権行使の実践例」『救援』五七八・五七九号(二〇一七年)。

(3)  前田朗『黙秘権と取調拒否権――刑事訴訟における主体性』(三一書房、二〇一六年)。

(4)  浅野健一「Fさん、『出房拒否』の闘いから学ぶ」『週刊金曜日』一一五一号(二〇一七年)。

(5)  前田朗「弾圧・冤罪と闘う黙秘権の法理」『救援』五七二~五七六号(二〇一七年)。

 

*本稿執筆時、Fさんは実名を名乗って警察の責任を追及していたので、実名表記したが、今回はFさんと表記する。