1月11日は、<『人権再入門』出版記念シンポジウム ヘイトとたたかう市民>を開催した。パネリストは佐高信(評論家)「差別を助長する政治」、清水雅彦(日本体育大学教授)「反差別の憲法論」、辛淑玉(のりこえねっと共同代表)「のりこえねっとの活動を通じて」、竹信三恵子(ジャーナリスト、和光大学名誉教授)「生存を脅かす差別」という豪華メンバーで、それぞれ興味深い話をしてくれたので、参加者には大好評だった。
差別とヘイトと排外主義が激化する一方の日本で、差別といかにたたかううか。憲法学や国際人権法学の人権論だけでは十分たたかえない。シンポでは、例えば嘘の効用が語られた。権力側は嘘ばかりなのに、庶民に対して「嘘をつくな」という教育がなされる。しかし、庶民の抵抗の一方法としての嘘の効用を考え直す必要がある。その延長で考えるとすれば、笑いの効用も重要だ。文学的想像力も無視できない。
2次会は佐高信さん出身の山形のお酒、くどき上手・大吟醸ばくれんだった。山形では、私は出羽桜・純米吟醸が一番好きだが、くどき上手、栄光富士、十四代をはじめ、名酒がたくさんある。
夏堀正元の『渦の真空』(朝日新聞社)を3章まで読み進めた。
夏堀悌二郎は釧路地裁から小樽地裁に転任した。小樽はいまではごく平凡な地方都市だが、明治から昭和初期にかけて、北海道随一のにぎやかな町だった。北海道庁は札幌にあったが、日銀支店は小樽と言うように、経済の中心地であった。北海道のニシン漁、鮭漁、日本海貿易の拠点であり、空知地方の石炭の移出港である。悌二郎と信子の間に長男正元が生まれたところで第3章が終わる。
悌二郎は八戸出身の貧しい庶民だが、勉学優秀で裁判官となり、出世の道を歩む。信子の叔父は<宮中某重大事件>の宮内大臣・波多野敬直だ。波多野と山県有朋の衝突として知られる、天皇家の血筋に関わる重大事件は秘密のまま闇に閉ざされたが、信子は叔父の無念を耳にしていたし、その雪冤を願ってもいた。この件は小説にも繰り返し登場する。信子の家族や親戚筋は宮中や政界の大立者たちだ。
他方で、舞台は北海道であり、アイヌ民族の大地である。和人による侵略を受け、土地を奪われ、酷使されるアイヌの歴史的被害も描かれている。夏堀正元には『人間の岬』『幻の北海道共和国』のような北海道歴史小説があり、自由民権の闘いを描いた作品もある。
おまけに第2章には小林多喜二が登場する。第1章では小樽から釧路に流れた石川啄木に筆が及ぶが、第2章では秋田から小樽に来た多喜二のエピソードが出て来る。小樽地裁判事になった悌二郎は、小樽高商(小樽商科大学)で民法の授業を担当するが、その教室には多喜二や伊藤整がいた。多喜二と悌二郎のエピソードは、多喜二の伝記に描かれている。多喜二生誕100年・死後70年を記念して制作された映画『時代を撃て・多喜二』(2008年)でも重要なエピソードとして登場する。
他方、悌二郎の大学の同級生だった弁護士・増川才吉も小樽で開業していたので、第3章に登場する。増川の妻は山田順子のペンネームで小説家を志すが、徳田秋聲に取り入り、後には竹久夢二と同棲し、最後は徳田秋聲の愛人として文壇で権力をふるう。そんな人物まで登場して、『渦の真空』の舞台が徐々に明らかになるが、まだほんの序章というところだ。小樽とその周辺が舞台だけになじみの地名が次々と出て来るので、風景が浮かんでくる。ちょっと浮かびすぎかもしれない。