4月6日に開催された<歴史修正主義とたたかうために 『検証・群馬の森朝鮮人追悼碑裁判』出版記念会>における藤井正希さんの講演レジュメです。
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群馬の森朝鮮人追悼碑問題から学ぶ
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追悼碑撤去の先にあるものとは?
群馬大学准教授 藤井正希
1.
事件の概要(問題点をザックリと!)
①朝鮮総連の機関紙である『朝鮮新報』の記事をきっかけにして、「碑文の内容が事実ではなく反日的でデタラメである」、「追悼碑は即刻撤去すべきである」などの抗議の電話やメールがあいついで県に寄せられた。
②その後、右翼団体の構成員が県庁に押しかけて抗議をし、公園の入口付近や高崎駅前で追悼碑の撤去を求める街宣活動をおこなった。さらに、公園に来園してプラカードを持ち込んだため、職員との間で小競り合いとなり、警察が駆けつける騒ぎにまで発展した。
③県と追悼碑を建てる会とは、外務省とも連絡を取りながら、碑文の内容が政府見解である村山談話や日朝平壌宣言の範囲内となるように、文言のすり合わせをおこなったうえでこの追悼碑を設置しており、「碑文の内容が事実ではなく反日的でデタラメである」という理由で県がこの追悼碑を撤去することは絶対にできない。もしそのような理由で追悼碑を撤去すれば、県が国の公式見解に逆らうことになる。
④県は、追悼碑を守る会(旧建てる会)が除幕式以来、毎年、碑前で開催してきた追悼式において、守る会の共同代表と事務局長が「強制連行」の事実を訴える発言をしていたことを後からことさらに取り上げて、「強制連行」との発言が「政治的発言」であり、それゆえ「政治的行事」がおこなわれたとして設置許可の条件違反を理由に知事が更新を不許可とし、追悼碑を行政代執行で撤去した。そして、最高裁もこれを追認。
⑤設置許可の条件として「政治的行事をしない」という条件がつけられてはいたが、県は当初はまったくこの発言を問題にはしていなかった。この点、“県の本音”は、「追悼碑の撤去を求める右翼の抗議がうるさくてたまらない。いちいち対応するのはめんどくさい。追悼式における政治的発言なんて本当は些細なことでどうでもいいのだけど、これを口実に許可条件違反ということにして、追悼碑なんか撤去してしまえば楽でいい・・・」。
※県としては、歴史修正に加担する意図はなかったとしても、結果的に歴史修正主義者を助長し、喜ばせる結果を招いてしまったことが今回の最大の問題点であり、今後に大きな禍根を残したと言わざるをえない。
2.山本一太知事の対応の不当性
①
「ルールを破ったことがすべてで、ルールを破った方が悪い」
確かに、守る会の共同代表と事務局長により「強制連行」の事実を訴える発言がなされたことは、設置についての条件違反と言われてもやむをえない。しかし、例えば、窃盗罪(刑法235条)の法定刑の上限は懲役10年であり、コンビニでおにぎり一個を万引きしても窃盗罪は成立するのだから、この場合、懲役10年を科しても形式的には適法と言えるかもしれないが、それは明らかに不当であり、許されない。同様に、今回のような些細なルール違反でいきなり強制撤去を認めることは、「当不当」の問題としては許されないと考えざるをえない。
②
「最高裁判決ですでに決着がついており、もはや過去の終わったことである」
最高裁判決で確定されたのは「2014年7月22日に知事がおこなった更新不許可処分は適法である」ということだけであり、「追悼碑を撤去しろ」とか、「許可することが違法である」と言っているわけではない。そもそも県立公園にある追悼碑をどうするかということは行政の問題であり、裁判官が決めるべき問題ではない。しかも、それからすでに10年近くが経過しており、その間、追悼碑が一般県民に具体的な弊害や不利益を与えた事実はまったくない。本件はあくまで行政裁量の問題なのだから、むしろ現在の民意を反映した知事独自の政治的判断こそが要請される。すなわち、山本知事は事実や経緯を県民に説明した上で、県民アンケート調査により民意を確認し、「追悼碑を存続させるか、撤去するかの知事としての行政判断」をおこなうべきだった。
③
「追悼碑が紛争の原因になっており、公園施設としてふさわしくない」
この論理に従えば、「都市公園に掲揚された日の丸の前で『日の丸を国旗と認めない』という抗議活動が活発化すれば、日の丸は都市公園にあるべき施設としてふさわしくないから撤去してもいい」となりかねない。しかし、そのようには絶対に言わない。そもそも政府の公式見解が記された追悼碑をなぜ撤去しなければならないのか、まったく理解しがたい。
3.追悼碑撤去の“真のねらい”―
憲法改正の地ならし
追悼碑をモチーフに制作された美術作品「群馬県朝鮮人強制連行追悼碑」の作者である白川昌生さん
「追悼碑撤去問題の背後には○○〇〇が存在し、追悼碑の撤去がゴールではなく、その先には憲法改正がある」「群馬県議の八割はそのメンバー」
実際、群馬の森の追悼碑の撤去運動をしていた○○〇は東京の横網町公園でも追悼碑の撤去を求めている。群馬の森から始まって、東京都の横網町公園、そして全国にある慰安婦や強制連行や朝鮮人虐殺に対する追悼碑や慰霊碑がつぎつぎと撤去され、その最後の総仕上げが憲法改正。追悼碑撤去は憲法改正をするための地ならし。“追悼碑問題は憲法改正問題”
4.国会議員の任期延長改憲の不当性について
(1) 問題点
①選挙権(憲法15条)は、「国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹をなすもの」(2005年9月14日・在外日本人選挙権制限違憲
最高裁判決)であり、国民主権(憲法前文・1条)に直結する。安易な国会議員の任期延長は、選挙権を侵害し、国民主権に反する。よって、まずは“最大限に選挙の機会を保障する”ことを考えるべきである。
②権力者の“居座り”や“お手盛り”の危険!
(2) まずやるべきこと
①公職選挙法の改正
~ 災害に強い選挙制度(日弁連)
㋐繰延投票、㋑郵便投票制度、㋒避難先の市町村役場で投票できる制度、㋓選挙延期制度、㋔在宅投票制度、㋕移動投票所の設置など
②参議院の緊急集会(憲法54条2項)の積極的活用
㋐任期満了の場合も憲法54条2項を適用する(憲法54条2項類推適用説)。
㋑憲法54条1項(解散の日から40日以内に総選挙、選挙の日から30日以内に国会召集)は緊急集会の対応を70日に限定する趣旨ではない(70日例外許容説)。
(3) それでも対応できないような極限的な事例
~
空気感染する致死性ウイルスが蔓延し、容易に外出すらできない場合
①災害時における国会議員の任期延長について
近藤三津枝議員質問主意書に対する答弁書(H23.11.11)
憲法第45条本文は衆議院議員の任期を4年、憲法第46条は参議院議員の任期を6年と規定しており、また、衆議院が解散された場合、憲法第45条ただし書は衆議院議員の任期はその期間満了前に終了し、憲法第54条第1項は解散の日から40日以内に総選挙を行うと規定しているところであり、これらの憲法の規定にかかわらず、御指摘の東日本大震災に伴う地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律のような法律を制定することにより「国政選挙の選挙期日を延期するとともに、国会議員の任期を延長すること」は、できないものと考える。
←
これを前提にして「国会議員の任期延長改憲」が必要だと主張している。
②“緊急は法を知らず”“例外のない規則はない”
(英米法系の考えによる超憲法的な“エマージェンシーパワー”)
憲法21条1項
「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」
←
しかし、解釈により、名誉棄損表現、わいせつ表現、ヘイトスピーチは規制できると考える。
選挙権の保障、議会制民主主義、国民主権、立憲主義等、日本国憲法の基本原則に反しないように「明確に要件を定めた」うえで、「容易に想定しがたい極限的な場合」につき、「国会議員の任期延長」を「法律」(措置法、時限法等)で定めることも可能である。
あえて憲法に規定する必要はないし、憲法に規定しない方が事態に柔軟に対応でき、むしろ望ましいであろう(不文律)。
もちろん選挙が可能になった段階で、即座に総選挙をおこない、その対応の是非を国民の信に問うべきである。
(4) 憲法改正に固執する理由
①最高法規である憲法の改正を史上、初めて成し遂げたという達成感、政治家としての功名心を得たい。
←
完全にまったく頓珍漢で間違った達成感と功名心!
②右派の歓心を買い、支持率をアップし、政権維持に利用したい。
←
憲法改正を政争の道具にするな!
③とにかく一度“お試し改憲”をやって、憲法改正のハードルを下げ、9条改憲・緊急事態条項改憲へ突き進みたい。“戦争できる国づくり”
←
これが本音! 何でもいいから、とにかく「3分の2」で合意できるテーマで改憲しようとしている。動機が不純であるし、全く不要である!
“みっともない憲法ですよ、はっきり言って。それは、日本人が作ったんじゃないですからね。”
“憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法がいつの間にか変わっていて、ナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気づかないで変わった。あの手口を学んだらどうかね。”
“日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知して頂く。”
このような人たちに絶対に憲法を改正させてはならない!
5.憲法9条を厳守することが平和への唯一の道!
①「軍備を増強すれば、軍隊や核兵器を持てば、アメリカと一体化すれば、日本が平和になる」(抑止力)という考えはもうやめよう。“武力による平和”の限界を知れ!
②アメリカは戦後一貫して“世界最強の軍隊を持ち、世界最大の軍事大国”であったが、キューバを屈服させられず、ツインタワーも守れず、ベトナムからもアフガニスタンからも“逃げるように撤退”を余儀なくされた。
③日本がアメリカに擦り寄り平和を維持することは、まさに“ジャイアンに擦り寄るスネ夫”の発想だ!
④ロシアもイスラエルも核保有国だが、戦争には簡単に勝つことはできず、多くの犠牲を強いられている。
⑤日本が最初から平和主義にもとづいて対応している限り、ウクライナやイスラエルのように攻撃を受けることは絶対にありえない。
⑥日本はあまり“勇ましいこと”を言ったり、やったりしない方が良い。劇場で乱射されたり、満員のバスで自爆テロがおこなわれたりして、多くの日本人が殺される等、テロの標的となりかねない。 以上