Thursday, July 08, 2010

ヘイト・クライム(15)

無罪!10-02

法の廃墟(32)

ヘイト・クライムの現在(二)

警察に守られて

 「在日特権を許さない会(在特会)」と称する犯罪集団が各地で暴力事件を惹き起こしている。今年になってからも、一月一三日、西宮市で日本軍性奴隷制の解決を求める水曜デモに対して襲撃し、器物損壊や傷害行為に出た。警備に出た警察は、一応は在特会の暴走を抑えてはいたが、暴力行為をきちんと阻止しなかったという。同日、大阪毎日放送(MBS)に押しかけて、本社前抗議行動を行った。MBSは一二月二二日に在特会の行動に批判的なコメントを付したという。

一月一四日、京都朝鮮初級学校に押しかけ、昨年一二月四日と同様、差別と排外主義の罵声を浴びせかけた。この日、学校側は事前に子どもたちを非難させていたという。

 一月二四日、臨時大会と外国人参政権断固反対を掲げて新宿行進を行った。通常のデモ行進ではなく、わざわざ外国人が多数居住している新大久保地域を通り抜け、住民に罵声を浴びせる差別デモである。

 ウェブサイトによると、休日には各地で一斉行動も取り組まれている。例えば、一月一七日には、福岡市天神で外国人参政権断固反対の緊急街宣行動、大阪堺筋でパチンコをやめようデモ(在日朝鮮人にパチンコ業者が多いので、パチンコをやめようと訴える)、名古屋の名鉄百貨店前で反民主党街宣行動などを行っている。組織再編も繰り返し発表されている。以前は東京、札幌、愛知、大阪、福岡などだったのが、今では全国各地に多数の支部が結成されている。

 警察の対応も相変わらずである。大阪市生野の在特会デモによる差別発言に対して、住民がやめさせるように指摘したところ、警察は「表現の自由だ」と答えたという。在特会は警察に守られて人種差別を堂々と繰り返している。各地でトラブルが発生して怪我人が出ている。侮辱罪、脅迫罪、威力業務妨害罪、器物損壊罪などに当たると思われる行為を続けても、在特会の暴力を警察は見てみぬふりをする。

 侮辱罪とは、具体的事実を摘示せずに公然と人を侮辱する罪である(刑法二三一条)。侮辱とは、人の人格を誹謗中傷する軽蔑の価値判断を表示することであり、罵言を浴びせたり、嘲笑したりするのが典型例とされる。脅迫罪とは、本人またはその親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加えることを告知して脅迫する罪である(刑法二二二条一項)。差別発言や排外主義発言によって危難を告知し、居住地から追い出そうとする行為はこれにあたる。威力業務妨害罪とは、人の意思を制圧するような勢力を示す方法によって人の業務を妨害する行為を内容とする罪である(刑法二三四条)。威力は、主として暴行・脅迫であるが、それに至らない場合であっても、社会・経済的地位、権勢を利用した威迫、団体の力の誇示、騒音喧騒等およそ人の意思を制圧するに足りる一切を含むとされている。器物損壊罪とは、財物を損壊、傷害する罪である(刑法二六一条)。文書、建造物、艦船など以外の財物の損壊がこれにあたり、動産・不動産だけでなく、動物も含まれる。主に物の形状を変更し、あるいは滅失させる行為を指す。ところが、これらの条項はないに等しい。警察は、眼前で行われている犯罪を制止しない。在特会は差別と暴力やりたい放題となっている。

人種差別撤廃条約第四条は、人種差別の助長・煽動の処罰、人種差別団体の犯罪化を掲げているが、この条項を日本政府は留保している。日本ではヘイト・クライムは犯罪とされていない。

ヘイト・クライムとは

多くの諸国には人種差別禁止法やヘイト・クライム法がある。アメリカにおけるヘイト・クライム法について、ネイサン・ホール(ポーツマス大学講師)は次の四類型にまとめている。

 ヘイト・クライムの刑罰を重くする法――女性に対する暴力法(一九九四年)は、被害者のジェンダーによって動機づけられた犯罪は、ジェンダーに基づく差別からの自由という被害者の権利を侵害する犯罪とした。ヘイト・クライム重罰化法(一九九四年)は、犯行者が、被害者の人種、宗教、皮膚の色、国民的出自、民族、ジェンダー、障害または性的志向に対する偏見によって犯行を行なった場合、量刑を三〇%重くすることができるとした。教会放火予防法(一九九六年)は、教会・礼拝所に対する放火事件が続発したため、教会放火の量刑を加重するとともに、被害を受けた教会再建のために連邦がローンの保証をすることにした。

 犯罪的行動を新しい犯罪とする法――オバマ大統領が署名したヘイト・クライム予防法(二〇〇九年)は、ヘイト・クライムを重罪とし、連邦検事局の訴追権限を強化した。「マシュー・シェパード法」とも呼ばれる。当初は人種や皮膚の色を念頭に置いていたが、ジェンダー・アイデンティティ、性的志向、障害が加えられたことにより、ヘイト・クライムの対象範囲が大きく広がった。

 公民権問題に関連する法――人種、皮膚の色、宗教、国民的出自のゆえに暴力や威嚇によって、選挙権、教育権、雇用の権利などの権利に介入することを禁止している。ヘイト・クライム予防に関連すると理解されてきた。

 ヘイト・クライム統計法――一九九〇年統計法は、司法省をはじめとする法執行機関が、ヘイト・クライム情報を毎年収集し、公表すると定めた。人種、宗教、性的志向、民族によって動機づけられた犯罪に関連する情報を収集するもので、謀殺、故殺、強姦、暴行、傷害、放火、器物損壊などについて調査する。毎年、統計情報が公表され、どのような加害者、被害者、行為類型があるかが分析されている。

州法には、ヘイト・クライム法において、年齢に関する規定(四州)、暴行傷害(四五州およびコロンビア特別区)、民事訴訟(三〇州等)、情報収集(二三州等)、ジェンダー(二五州等)、制度的蛮行(四二州等)、人種、宗教、民族集団(四三州等)、性的志向(二八州等)の規定がある。

ヘイト・クライム法は多くの諸国に見られる。また、英米法のヘイト・クライムとは異なるが、ドイツにおける民衆煽動罪(とりわけ「アウシュヴィッツの嘘」罪)も重要である。これを加えると五類型となる。人種差別撤廃条約が人種差別禁止法の制定を求めているから、大半の諸国には何らかの人種差別禁止法があるし、ヘイト・クライム法がある。

法規制だけでヘイト・クライムに十分対処できるわけではないが、政府がヘイト・クライムを許さないと表明する事は重要である。社会に「ヘイト・クライムに寛容であってはならない」というメッセージを送ることができる。