Friday, June 10, 2011

平和への権利世界キャンペーンを日本で

人権理事会で発言




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 3月11日、東日本大震災とそれに続く津波で東日本地域が恐怖に襲われていた頃、筆者は、ジュネーヴ(スイス)の国連欧州本部で開催された国連人権理事会で、NGOの国際人権活動日本委員会(JWCHR)の代表として、平和への権利国連宣言を求める運動の一環として次のように発言した。




 <JWDHRは、本年1月の人権理事会諮問委員会で議論が行われたことを歓迎する。2010年6月23日の「人民の平和への権利の促進」に関する人権理事会決議14/3を歓迎する。この観点で、日本の裁判所の関連する判決を紹介したい。周知のように、日本国憲法第9条は、戦争の放棄と軍隊不保持を定めている。さらに、日本国憲法前文は「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と定めている。2008年4月17日、名古屋高裁は、平和的生存権は具体的な権利であると認定した。名古屋高裁は、軍事紛争中のイラクで連合軍による武力の行使に伴い自衛隊が空輸活動に参加したことは、憲法第9条に違反する自衛隊の武力の行使に当たると述べた。裁判所が憲法第9条違反を認定したのは、1973年9月7日の長沼事件札幌地裁判決以来初めてのことである。また、最終的な確定判決となったのは初めてである。名古屋高裁による平和的生存権の承認も長沼判決以来初めてである。およそ1年後の2009年2月24日、岡山地裁も名古屋高裁に続いて、同様の自衛隊イラク派遣訴訟において平和的生存権を認定した。>




人権理事会は国連機関であり、47カ国が理事に選出されている(東アジアからは日本、韓国、中国)が、国連経済社会理事会との協議資格を認定されたNGOも参加し、発言することができる。NGOの発言時間はわずか2分間である。かつて人権委員会の時代は5分だったが、今は2分しかない。事前に発言原稿を用意して大急ぎで読み上げることになる。発言だけではとうてい伝えられないので、発言が終わったときに、発言原稿と同時に名古屋高裁判決の要旨の英訳を配布した。




発言を終えて、会場隣の喫茶店でコーヒーを飲んでいたところ、知人が「日本は大地震でひどいことになっている」と教えてくれた。もっとも、その時点では普通の大地震程度にしか考えていなかった。




3月14日、同じ人権理事会で、NGOのスペイン国際人権法協会(ダヴィド・フェルナンデス・プヤナ)が、平和への権利国連宣言を求める発言をした。2010年12月にサンティアゴ・デ・コンポステラで平和会議が開催され、サンティアゴ宣言が採択されたこと、本年1月の諮問委員会にサンティアゴ宣言を紹介して議論の素材としてもらったこと、今後に向けて平和への権利宣言案起草を開始するべきこと、である。




 この頃には、大地震、津波に続いて福島第一原発事故が悲惨な状況になっていることがわかった。欧米のメディアでは、福島原発事故が歴史的な大事故であることが明瞭に語られていた。ところが、インターネットで日本の状況を見ると、「ただちに健康に影響はない」「安全だ」の繰り返しであった。世界に伝わっている情報が、日本国内には伝わっていないことに不安を覚えた。




平和への権利世界キャンペーンのこれまでの経過については、前田朗「いま平和的生存権が旬だ!――国連人権理事会における議論」本紙218号(2010年9月)参照。




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日本実行委員会




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 本年初頭に平和への権利国際キャンペーン日本実行委員会を発足させた。実行委員会は、ゴールデンウィークにスペインから法律家を招いてシンポジウムを開催する準備をしたが、3月11日の大震災とその後の原発事故のため、キャンセルを余儀なくされた。




日本実行委員会共同代表は、海部幸造(弁護士・日本民主法律家協会事務局長)、新倉修(青山学院大学教授)、および筆者であり、事務局長は笹本潤(弁護士・日本国際法律家協会事務局長)である。連絡先は日本国際法律家協会(JALISA、世界的なNGOの国際民主法律家協会の日本支部に相当する)に置いている。今後幅広く呼びかけ人を募る予定である。




 日本実行委員会実行委員会は、例えば次の任務を担う(下記は「綱領」や「規定」として確定したものではない)。




国連人権理事会で審議されている「平和への権利」について、日本から議論に加わっていく。
平和への権利、平和的生存権の実現に関心のあるNGOと連携して、国連人権理事会などの国際機関に情報提供を行う。
国連人権理事会における議論を、日本社会に伝え、日本における議論を発展させる。
国連人権理事会における平和への権利の議論をリードしているスペインなどの法律家と協力して、平和への権利国連宣言の採択をめざす。
平和への権利キャンペーンを行っているスペインなどの法律家を日本に招いてシンポジウムを開催する。
日本国内において、憲法9条擁護と平和的生存権の実現に向けたキャンペーンに加わっていく。
これらのために、集会、学習会などを行うとともに、関連書籍の出版も行う。




上記のうち①②については、すでに筆者が2010年8月の人権理事会諮問委員会および本年3月の人権理事会で発言した。また、JALISAの塩川頼男理事が中心となって、人権理事会の会期中にNGO主催のパネル・ディスカッションを開催した。③④については、筆者や笹本事務局長が法律家団体や平和団体の機関誌紙などに報告を続けた。はキャンセルとなったが、本年秋以後の招請を考えている。⑥⑦は遅れていたが、実行委員会発足により、まず出版を実現した。




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平和への権利の世界初の出版




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4月下旬に、笹本潤・前田朗編『平和への権利を世界に――国連宣言実現の動向と運動』(かもがわ出版)を出版した。国連人権機関における平和への権利の議論と、日本における平和的生存権の解釈と実践と歴史を交錯させながら、わかりやすく解説した本である。平和への権利に関する出版は日本でも初めてだが、世界でも初めてのようだ。




というのも、スペイン国際人権法協会は、ルアルカ宣言、ビルバオ宣言、バルセロナ宣言、サンティアゴ宣言や、人権理事会における発言や資料提供など、膨大な資料を作成して活動してきたが、それらを一冊にまとめて出版するには至っていない。このため3月にジュネーヴで相談した際に、ダヴィド・フェルナンデス・プヤナ氏から「これが初めての本になるので、日本語だけではなく、ぜひとも英語の目次をつけてほしい」とリクエストがあった。そこで編集の最終段階で英語の目次を追加した。本書には次の論稿を収録した。




平和への権利宣言をめざす運動――世界キャンペーンの経過と意義/前田朗




平和への権利宣言をつくるために/スペイン国際人権法協会




憲法前文の平和主義にも注目しよう――平和的生存権の学説と判例/清水雅彦




市民が勝ち取った平和的生存権――自衛隊イラク派兵差止訴訟名古屋高裁判決/川口創




5大陸を平和憲法と平和への権利で埋め尽くそう――平和への権利サンティアゴ会議に参加して/笹本潤




国際刑事裁判時代の平和的生存権/新倉修




世界の人権NGOとともに――国連人権理事会サイド・イベントを開催して/塩川頼男




個人でできることから始めよう――ピースゾーンと平和的生存権/前田朗




さらに、資料として「サンティアゴ・デ・コンポステラ宣言」の翻訳を収録した。




 実行委員会では、この取組みを全国各地に広げたいので、学習会の企画があれば声をかけていただければ講師を派遣する態勢を準備している。




 なお、right_to_peaceのブログ」を参照。