立野正裕『洞窟の反響――『インドへの道』からの長い旅』(スペース伽耶、2014年)
著者には『精神のたたかい――非暴力主義の思想と文学』『黄金の枝を求めて――ヨーロッパ思索の旅・反戦の芸術と文学』と、『世界文学の扉を開く』(第一~第三)『日本文学の扉を開く』(第一)[いずれもスペース伽耶]がある。前二者は、英米文学研究者が、特に第一次大戦期の文学に描かれた世界を素材としつつ、欧州文学における非暴力と不服従、反戦と抵抗の軌跡を探り、上官への抗命ゆえに処刑された兵士の墓を探り当てるなど、様々な旅を重ねた記録であり、現代文学の課題を突き詰めた名著である。
『精神のたたかい――非暴力主義の思想と文学』に大きな感銘を受けた私は、一面識もなかったのに一方的にインタヴューのお願いをした。しかも、「非国民入門セミナー」と称する面妖な連続講座の一環であった。この闇雲な依頼にも関わらずインタヴューに応じてくれた著者は、2009年6月20日、飯田橋での公開インタヴューで、私が、著者の文章の一つをもとに、「人はなぜ旅に出るのか」と切り出すと、思いがけず、著者はフォースターの『インドへの道』を読んだことに発する、と答えた。そのインタヴュー記録は後に私が編集した『平和力養成講座』に収録したが、本書第6章に改めて収められている。私の稚拙なインタヴューによる記録だが、本書最終章に違和感なく収まっているようであり、ほっとした。
第1章
現代的想像力とヒューマニズムの問題
第2章
ヴィジョンから悪夢へ
第3章
洞窟の反響
第4章
フォースターとキング
第5章
ホモセクシュアルの思想と感覚
第6章
『インドへの道』からの旅
第1章が執筆されたのは1975年であり、第2章は1973年、第3章は1977年、執筆時、著者は20歳代だった。20歳代から60歳代にかけての文章を、『インドへの道』出版90年目の今年、1冊の著書にまとめたものだ。40年前の文章を出版しても、現代に通用する文章である。著者の力量であろう。著者は第3章を「方法叙説」と呼び、「現代文学に自分がどう向き合ってゆくかという、その姿勢を明確にしたいという思い」で書いたと言う。その姿勢が見事に一貫しているがゆえに、本書のどの章も現在読むに値する。英米文学研究書の性格のため、素人読者には理解できない記述も多いがやむをえない。文学の課題が人生の課題であり、人生の課題が世界の課題である。フォースターの謎が著者の謎であり、著者の謎が「自己への到着」を手探りする。共和国とは何か。民主主義とは、祖国とは、友人とは、祖国への反逆とは。そして、魂の出会いとは何か。
なお、『世界文学の扉を開く』(第一~第三)『日本文学の扉を開く』(第一)は、コンパクトな本だが、短編小説をいかに読むべきか、を学ぶのに有益な本である。あっさり読み落とすのが得意な読者である私には、短編小説の味わい方を体感できる著作である。