樋口直人『日本型排外主義――在特会・外国人参政権・東アジア地政学』(名古屋大学出版会、2014年)
2月末に出版された重要文献だが、多忙のため読み始めるのが遅れた。著者は社会運動論に多くの業績を有する社会学者で、徳島大学総合科学部准教授。私たちが開催してきたヘイト・クライム研究会にも参加し、報告してくれた。
「激しい感情はしばしば他者を巻き込み、激情の渦を作り出す。だが、その渦中にあって事象の本質を見極めようとするのは容易なことではない。にもかかわらず、否そうだからこそ新たな発見のための努力を怠り、紋切り型の言葉に頼る解釈が、二〇〇〇年代以降のナショナリズムや排外主義にかんする言説で目立つように思える。一九九〇年代以降の日本は、高度経済成長期の安定的な社会構造を喪失し、グローバル化と経済の長期低落にともなう社会の流動化が『不安』を生み出している。その不安が最悪の形で露出したのが、弱者を攻撃する排外主義である。寄る辺なき不安を抱えた若者たちは、それを他者に対する憎悪へと変換させ、外国人排斥を訴えて街を練り歩くようになるのだ、と。」
樋口は、在特会に代表される現代ヘイト団体、排外主義を、社会的不満や不安に駆られた若者をある種の抑圧移譲的な見方で整理してしまうことに異論を唱える。現場の取材に基づく実感論としては、不安や不安に由来する排外主義と見える事象であっても、社会運動論における資源動員論の立場から丁寧に見ると、異なる局面が見えてくると言う主張である。ヘイトデモ参加者が何らかの不満を抱えていることは確かだが、運動全体を社会学的に理解する為にはより精度の高い分析が求められる。本書全体がそのために書かれた。樋口は、資源動員論の理論をしっかりと活用するとともに、数多くのインタヴューを行い、その成果に基づいて具体的に筆を進める。西欧型排外主義の研究を参照しつつ、日本型排外主義の実相を把握しようとする。理論の到達点は東アジア地政学であることが予告される。