Friday, April 28, 2017

ヘイト・スピーチ研究文献(98) 『国際人権ひろば』133号

『国際人権ひろば』133号(2017年)
阿久澤麻理子「オンライン・ヘイトスピーチ」
ユネスコの研究をもとに、オンライン・ヘイトスピーチの特徴(「継続性」「巡回性」「一国の法律で対応が難しい」「匿名性」)を指摘し、国際人権法が法規制を求めているが、有効な対応が困難な現状を示す。ネット上の規制を企業に委ねると法的手続きを踏まずに企業が独走する危険性もあるので、国、企業、市民の役割を明確にする必要があるという。
イ・ジュヨン「韓国におけるヘイトスピーチの実態――国家人権委員会による初の実態調査より」
17年2月19日に公表された韓国国家人権委員会の「ヘイトスピーチ(嫌悪表現)の実態と規制法策の実態調査」の紹介・検討である。特に女性、性的マイノリティ、障害者、外国人または移住者集団に対する差別煽動が行われているという。規制については、差別禁止・是正する機関による規制やプロバイダー業者による規制を求める意見が多い。「ヘイトスピーチの犯罪化を支持した回答者が、最も少なかったが、それでも回答者の60%以上であった」という。著者は「ヘイトスピーチは国際人権法に沿って法律によって禁止されなければならない」とし、「第一歩として、包括的な差別禁止法を制定し、ヘイトスピーチに関する規定を入れることが考えられる」という。
佐藤潤一「ヘイトスピーチ規制の法的問題点――憲法と国際人権法の視点から」
ヘイトスピーチ解消法について歴史的視点の欠如を指摘し、「憲法21条を理由として、人種差別撤廃条約4条の適用を拒否し、そのことを、弁護士、裁判官等実務家も、憲法学者も、やむを得ないものとして受け入れてきたことが現在の状況を助長したといえよう」と厳しく批判し、4条の留保を撤回するべきだという。
「憲法21条が重要であるということは、ヘイトスピーチ被害者の人格権侵害を容認することを意味するのであろうか。ヘイトスピーチ規制が刑事罰として許されないという憲法解釈をするとすれば、むしろ現行の刑法規定にあるわいせつ物頒布罪、名誉毀損罪、侮辱罪等は全て憲法違反ということにならないであろうか。はっきりと名指しで行われる名誉毀損や侮辱罪は、むしろヘイトスピーチよりも対抗言論での問題解消が容易であろうし、わいせつ物頒布の禁止に至っては、ゾーニング規制が世界的な趨勢であることとつじつまが合わない。表現の自由を制約する刑事規制をすべて憲法21条違反とする極端にラディカルな立場に立たない限り、マイノリティの人格権侵害が認定される場合にはかかる行為をヘイトクライムとして立法化することが必須であると解される。確かに構成要件の厳格化が必要ではあるが、名誉毀損、侮辱については、すくなくともヘイトスピーチ解消法の定義に該当するマイノリティに対して拡大することなくして、問題が解消するとは思われない。」
重要な指摘である。私もほぼ同じことを主張してきたが、「はっきりと名指しで行われる名誉毀損や侮辱罪は、むしろヘイトスピーチよりも対抗言論での問題解消が容易であろう」という主張は考えていなかった。今後、採用させてもらおう。