アゼルバイジャン政府が人種差別撤廃委員会に提出した報告書(CERD/C/AZE/7-9.
6 March 2015)によると、憲法37条は、人種、民族、宗教、社会的憎悪又は敵意を助長又は煽動宣伝することを禁止している。刑法283条によると、国民、人種、社会的又は宗教的敵意の煽動、人間の尊厳を貶めること、若しくは国民、人種、社会的又は宗教的理由で指紋の権利を制限し又は特権を与えることの煽動が、公然と又はマスメディアを通じて行われた場合、千マナ以上二千マナト以下の罰金、又は二年以下の矯正、又は二年以上四年以下の刑事施設収容とする。実力の行使又はその威嚇が伴った場合、地位の乱用によって行われた場合、若しくは組織集団によって行われた場合、三年以上五年以下の刑事施設収容とする。
2000年8月25日の大統領令に従って、国家安全保障大臣は刑法283条に関する予審捜査を行うことを捜査機関に命じた。
2009年8月~2013年8月に刑法283条に関する刑事事件は1件だけである。宗教的集会の群衆の前で、国民、人種、社会的又は宗教的憎悪又は敵意の明白な発言を行った公共の秩序違反を行った。裁判所は、スレイマノフ・アブゴウル・ネイマトを有罪と認定した。
マスメディア法10条は、国民、人種、社会的敵意又は不寛容を助長するためにマスメディアを利用することを禁止している。テレヴィ・ラジオ放送法7.0.7条によると、公共放送者に、宗教又は人種の差別を助長する番組を放送しない義務を定めている。政党法4条、労働組合法8条、NGO法2.3条も同様の行為を禁じている。
人種差別撤廃員会はアゼルバイジャン政府に次のように勧告した(CERD/C/AZE/CO/7-9.
10 June 2016)。憲法25条は人種、国籍、言語による特権付与を禁じているが、特別措置を講じていない。条約4条に従って、不利益を受けるマイノリティ集団や個人を保護する目的の特別措置を取ることを許すよう法律を改正するよう勧告する。刑法111条や283条、並びに労働組合法やNGO法の諸規定が条約4条の要件に適っていないことに関心を有する。法律規程を条約4条の要求に沿って改正するよう勧告する。特に、人種的優越性に基づく思想の流布、人種主義活動の援助、人種差別を助長し煽動する宣伝、人種差別を煽動する組織や活動への参加を、その流布の手段や非公然か公然かに関わらず、禁止し処罰するように勧告する。人種主義的ヘイト・スピーチと闘うための一般的勧告35に注意を喚起する。
ナゴルノ・カラバフ紛争に関する立場の相違を基に刑法283条が恣意的解釈の下で用いられていることに関心を有する。人種主義的スピーチとの闘いが、不正義に抗議する者、政治的反対者を沈黙させるために用いられるべきではない。この点で、委員会は一般的勧告35を想起する。歴史的事実に関する意見表明が学術的議論の文脈で行われ、憎悪、暴力、差別を煽動することがない場合、禁止されるべきではない。個人や集団の人権を擁護するためのスピーチは刑事制裁を科されるべきではない。