Thursday, February 15, 2018

目取真俊の世界(4)青少年小説への展開


目取真俊『魂込め(まぶいぐみ)』(朝日新聞社、1999年)
沖縄という場所に根ざした文学の系譜に新しい文体を切り拓いている目取真俊の初期作品集だ。
表題作「魂込め(まぶいぐみ)」は、フミの夫の幸太郎が魂(まぶい)を落とし、口の中にアーマン(オカヤドカリ)が住み着いてしまうという奇抜なスタートである。ウタの魂込めの努力のさなか、集落の関係者、カメラマンたちの騒動になり、爆笑物の大活劇で幕を閉じる。ウタやフミや幸太郎の歴史が語られるや、沖縄戦の悲劇が浮上し、海亀と生と死の巧みな語りが作品に落ち着きを与える。
「ブラジルおじいの酒」では、ブラジル移民となり、沖縄に戻ったおじいと地元の少年の交流を通して、沖縄とブラジルという異なる神話的世界を結び、沖縄の現在を描く。
「赤い椰子の葉」では、主人公のぼくと、同級生のSの出会いと別れの間に、米軍駐留と少年の性の目覚めを鮮やかに記録する。
「軍鶏」では、父親からもらった軍鶏を育てる少年の立場から、沖縄の民衆における軍鶏の象徴性を浮かび上がらせる。地元の暴力団による支配と、一般庶民の抵抗が、結末では少年による復讐劇となる。
「面影と連れて(うむかじとうちりてい)」では、ガジマルの木に座った主人公の女性(その魂)の語りが、沖縄の信仰と暮らしを提示するが、海洋博の工事でやってきた労働者の登場により、ヤマトと沖縄の歴史がスパークする。労働者は、皇太子訪沖に抵抗する活動家の仮の姿だったからだ。
「内海」では、夫によるDVから逃れて自殺した母親の記憶を語る主人公の少年期と青年期、家族、墓、そして歴史が悲しい。
ここには沖縄の青少年の夢と希望と落胆と涙が打ち寄せる波のように繰り返し取り上げられている。視点はさまざまであり、語りのスタイルにも試行錯誤が続く。沖縄の信仰、沖縄戦、移民、米軍駐留といった歴史と庶民の日常がからみあい、そのなかで水中から必死で頭を出して息を吸う登場人物たちの悲劇と喜劇が織りなされる。目取真の物語は主人公たちに幸福を約束しない。行く先は悲しい死への曲がりくねった道だ。それでも目取真の視線は主人公たちに優しく、温かく注がれている。少年小説、成長小説の側面を持ちながら、厳しい歴史と記憶に迫る工夫が並々ならぬ文体を可能にしている。