今田真人『極秘公文書と慰安婦強制連行』(三一書房)
第1章 戦時動員職種に未成年朝鮮人女性の「接客業」
第2章 吉田清治氏が属した労務報国会を追う
第3章 奥野誠亮氏の死去
第4章 「業者」は初めから軍の偽装請負・手先
第5章 国会図書館が「極秘通牒」を内閣官房に提出
第6章 労務調整令の前身、青少年雇入制限令
第7章 発見した1938年当時の外務省関連文書
第8章 公文書が示す「慰安婦」強制連行のルートと人数
第9章 女子動員計画に「民族力強化」の言葉
第10章 婦女売買を禁じた戦前の国際法
【抜き書き】「慰安婦」強制連行関連の公文書(1938年中の外務省関連の公文書12点全文他、全41の資料を書き起こし)
*
朝日新聞が「吉田証言の検証」と称して歴史修正主義の立場を表明したことに対して、著者は、次の2冊の著書で、吉田証言の意義を明らかにし、一次資料に基づいて「慰安婦」強制連行の実相を追及してきた。
今田真人『吉田証言は生きている』(共栄書房)
前田朗編『「慰安婦」問題の現在―「朴裕河現象」と知識人』(三一書房)
*
著者はその後も極秘公文書の調査を続け、今回1冊の著書として送り出した。外交史料館等の重要資料がこれまできちんと検証されてこなかったので、著者は一つひとつ読み込み、比較・検証して、資料の真義を確認している。
一例をあげると、歴史修正主義の典型例の一つである「業者主犯説」に対して、「業者」なる者の実態がそもそも軍関係等の人物であったこと、「業者」と称しているが軍の下部機関と言った方が早いこと、当時の植民地や戦地の交通手段(渡航証明書等)や食事の実際から言って、軍の組織的寛容がなければ、慰安婦を募集することも移動させることも、食事を提供することも不可能であったことなどを次々と明らかにしている。
本書で利用している資料のほとんどの抜き書きが巻末に「資料」として収録されているので、読者は資料に遡って、著者の論述の成否を自分で検討することができる。
「慰安婦」問題に詳しくない一般の世論では、「慰安婦」強制連行の否定という頓珍漢な見解が幅を利かせているが、日本政府・安倍政権が否定しているのは、軍による強制連行や強制連行への軍の関与である。「慰安婦」強制連行の証拠は多数あるが、軍による強制連行や強制連行への軍の関与、特に軍がそのような命令を下した証拠の存在である。ここでは、証拠そのものが争われているのではなく、証拠の「解釈」が争われている。どれだけ証拠があっても、恣意的な「解釈」によって軍の関与を否定するのが安倍流である。
これに対して、著者は、軍でなければ「慰安婦」の募集や連行が不可能であったこと、実際に軍が強制連行に関与したことを論証する。
政府及びマスコミは本書を無視するだろう。本書が注目を集めて議論の対象になることは歴史修正主義者にとっては困りものだからだ。
著者はあとがきで次のように指摘する。
「朝日新聞の検証記事は、何度読んでも、学者などの見解(二次資料)を根拠にしたものばかりで、いっこうに、一次資料が明示されない。…(中略)…朝日新聞の検証記事に登場した何人もの学者・研究者からは当然、吉田証言を否定する一次資料を駆使した論文が、すぐに発表されると思ったが、いつまで待ってもそんなものは出てこない。日本の『知識人』は、本当にどうしてしまったのだろうか。」
これを読んで「恥」を知る「知識人」――朝日記者も歴史研究者もいないだろう。元々、歴史修正主義者たちなのだから、恥を恥とも思わないだろう。著者が名指しているのは、秦郁彦だけではない。外村大も名指されている。
ちなみに、外村歴史学のいかがわしさについては下記参照。