Monday, September 02, 2019

自由な労働は奴隷労働だった!?


植村邦彦『隠された奴隷制』(集英社新書)



マルクス『資本論』第一巻の「いわゆる本源的蓄積」章に、「一般に、ヨーロッパにおける賃金労働者の隠された奴隷制は、新世界での文句なしの奴隷制を踏み台として必要としたのである」という言葉がある。

「新世界での文句なしの奴隷制」は南北アメリカにおける黒人奴隷制のことだが、それを踏み台として成立したのが「ヨーロッパにおける賃金労働者の隠された奴隷制」だという。

資本主義は奴隷制を前提とする!

それでは「隠された奴隷制」とは何か。自由な労働からの「搾取」ではなく、自由な賃金労働者は奴隷なのか。単なる「比喩」としてではなく、歴史的に形成され、隠された奴隷制なのか。

植村は啓蒙思想、アダム・スミス、ヘーゲル、マルクスの著書を通じて、労働がいかに把握され、奴隷制がいかに論じられてきたかを追跡する。そして、「自由な労働者」が、カリブ海やアメリカの黒人奴隷制の実態を知れば、自分の置かれている状態が「奴隷制」に等しいことに気づき、解放を求めることができたはずであることを示す。自由な労働とは黒人奴隷制の労働と変わらないのだ。黒人奴隷制が廃止されなければならなかったのと同じように、隠された奴隷制としての自由な労働も廃止されなければならないのではないか? 解放のイデオロギーと理論はどこにあるのか。

――「私たちには自らを解放する絶対的な権利がある」。

植村は新自由主義のもとでの労働の変容を踏まえつつ、労働者の解放を説く。シャープな論述であり、読みやすい。