Friday, September 13, 2019

コリアン・ジェノサイド研究の課題


『記録集 関東大震災95周年朝鮮人虐殺犠牲者追悼シンポジウム
 関東大震災時の朝鮮人虐殺と植民地支配責任』
(朝鮮大学校朝鮮問題研究センター、2019年)


18年9月22日に開催されたシンポジウムの全記録である。講師・コメンテーターは研究と運動の最前線で活躍する顔ぶればかりだ。150頁に及ぶ充実した記録集は次のような構成である。


第1部は演劇と証言である。演劇は、李英哲作・演出「まとうひと」。台本が後半に収録されている。

第2部はシンポジウム。

第1セッション 虐殺の真相究明と虐殺否定論

報告 朝鮮人虐殺に関する真相解明の現状    西崎雅夫

報告 虐殺否定論とその狙い          加藤直樹

コメント                   山本すみ子

コメント                   林裕哲


第2セッション 虐殺の構造と植民地支配責任論

報告 日本の挑戦植民地支配と朝鮮人虐殺    槇蒼宇

報告 「関東大虐殺事件」と植民地支配責任追及 鄭永寿

コメント                   田中正敬

コメント                   加藤圭木


姜徳相や琴秉洞が1960年代に先陣を切り、山田昭次らが深めてきた研究を、本シンポジウムの報告者らが受け継ぎ、発展させている。
歴史を歪曲する虐殺否定論がインターネット上では猛威を振るっているが、真相解明の努力が続く。数は少ないが新資料の発見・確認も続き、偽造・捏造をチェックし、歴史の事実を継承する研究が続いている。

本書の特徴は、関東大震災朝鮮人虐殺を、それだけの一つの事件として見るのではなく、歴の中に位置づけようとしていることである。

第1に、日本近現代史における事件の位置づけである。虐殺関係者の経歴・出自を見ると、朝鮮植民地支配への関与が見えてくる。東学農民戦争や三一独立運動などの民衆の抵抗との連続性も見えてくる。さらに、戦後の虐殺責任追及運動における視座の設定も重要である。朝鮮植民地支配全体と事件との関連を立体的に把握する試みである。

第2に、世界的な植民地支配の歴史の中に、あるいは世界的なジェノサイドの歴史の中に改めて位置付ける試みである。具体的にはアフリカ植民地支配における人民虐殺との対比がなされている。

以上の2点を総合するためにシンポジウムが企画されたといってよいだろう。

報告者及びコメンテーターは長年この問題に取り組んできた研究者と市民であり、多面的多角的な見地からの発言が揃い、非常に有益な研究となっている。


私はこのテーマの研究をしてこなかったが、国連人権委員会に「在日朝鮮人に対するヘイト・クライム」を訴える際に、この問題に何度か言及した。その際、「関東大震災朝鮮人虐殺」という表現では中身が伝わらないというか、誤解されるので、「コリアン・ジェノサイド」と表現した。

その後、コリアン・ジェノサイドを次の3つにまとめて考えている。

第1に、近代日本による朝鮮植民地支配を通じて行われた虐殺や朝鮮人迫害の政策全体をジェノサイドと呼ぶ。東学農民戦争、義兵闘争、三一独立運動に対する弾圧もこの文脈で理解できる。

第2に、1923年の関東大震災時におけるコリアン・ジェノサイド。ジェノサイド条約や、国際刑事裁判所規程において「国際犯罪」として定義されたジェノサイド。

第3に、植民地から解放された朝鮮・韓国に対する責任回避、歴史の歪曲、蔑視や、在日朝鮮人に対する「文化ジェノサイド」である。

こうした視点で見ることによって、世界史におけるコリアン・ジェノサイドの総体を把握できるようになるだろう。