Sunday, December 22, 2019

ヘイト・スピーチ研究文献(141)反ヘイトの闘いの現場から


「【特集】拡がる反ヘイトの取り組み」『人権と生活』49号(在日本朝鮮人人権協会)

http://k-jinken.net/?p=1147



各地域における人種差別禁止条例制定の必要性と課題――東京弁護士会「人種差別撤廃モデル条例案」の活用……金哲敏

十条駅前のヘイトデモ禁止の仮処分について……李世燦

折尾駅前民族差別演説事件に関する取り組み……朴憲浩

京都における反ヘイトの取り組み……玄政和

川崎の差別禁止条例の意義と制定までの過程……宋惠燕



2016年のヘイト・スピーチ解消法、2019年の川崎市条例と、反ヘイトの取り組みは遅ればせながら、徐々に進んできた。京都朝鮮学校襲撃事件から数えて10年の歳月が流れたし、もともと日本社会における朝鮮人に対する差別とヘイトの歴史は100年を超える歴史がある。アイヌ民族、琉球民族や、LGBT等のマイノリティも多様な差別被害を受け続けている。反差別・反ヘイトの理論と実践は、歴史と現在を往還しながら、現場で闘われる必要がある。

本特集は、差別とヘイトの被害を受けてきた在日朝鮮人弁護士による現場からのレポートであり、反差別の運動実践である。

東京弁護士会のモデル条例案の解説、十条駅前や折尾駅前のヘイト街宣への対処、京都における反差別・反ヘイトの取り組み、川崎市条例の制定過程と、それぞれに重要な取り組みを概観できて、有益な特集である。



今後の課題に関連して2点だけコメント。

1に、国際人権法の要請でも、圧倒的多数の欧州諸国の実行例においても、ヘイトは1回目から犯罪である。3回目に犯罪となるという立法例は世界広しといえども一つもないはずだ。6カ月たてば再び許されるというのも奇妙奇天烈である。レイシストが権力を握っている日本の議論状況ではこのレベルから動くしかなかったのでやむを得ないが、今後に向けてヘイト・スピーチの本質に即して、被害論、保護法益論をさらにしっかり議論したい。

2に、どの条例でもヘイト対策としての教育や啓発に言及しているが、中身がない。自治体当局に尋ねても、およそ知識を持っていない。反差別の教育をいかにして実現するのか。教育課程はどのようなものか。教員の研修は必要ないのか。教材をどうするのか。中央政府が何もしないのに、地方自治体で何ができるのか。反差別・反ヘイトの教育についてもっと研究が必要である。被害者救済についても本格的な研究が望まれる。