Friday, September 09, 2022

じっくり読みたい資本論・経済学批判要綱

白井聡『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社)

2年前に話題になった本だが、ようやく読んだ。資本論第1巻の解説だが、よくできている。

1に、一番難しい第1章・商品を、かみくだいた解説で、読みやすくしている。本格的な解説書だと、この部分はどうしてもマルクスからの引用に頼ることになり、どんどん難しくなる。

2に、映画寅さん、あるいは、ロシア文学のゴーゴリ、ゴンチャロフ、チェーホフなどを活用して、理解を容易にしている。

3に、第1巻だけに絞って、290頁の本にしている。

本書を読んで、さあ、『資本論』を自分で読んでみようという気になる、そういう気にさせる本だろう。もっとも、それで実際にどのくらいの読者が『資本論』にチャレンジしたかはわからないが。

私の場合、大学時代、大月全集版を購入して、挑戦したが、即座に挫折した。

大学院時代、『経済原論の方法』の宮崎犀一先生のゼミに5年間出席して、第1巻から第2巻の途中まで読むことができた。経済学研究科のゼミだが、いつも法学研究科の院生が数人潜っていた。私もその一人だ。

商学研究科の山中隆次先生のゼミでは『経済学哲学草稿』を読んだ。『ドイツ・イデオロギー』編纂問題で、ラーピンや広松渉の研究が話題になっており、山中先生もド・イデ編纂問題で論文を書いておられた。経哲草稿ゼミでも、翻訳出版された順序で読むのではなく、マルクス自身の草稿の順番、つまり実際に書いた順番に従って読むという方法だった。

宮崎犀一先生は、法学研究科の院生が多く参加していることに配慮して、できるだけわかりやすく進めるようにしてくれた。当時、私たちの関心は「社会科学方法論」としての『資本論』だったので、経済理論としてというよりも、社会科学方法論として、どのように読み、理解するかに焦点を当てていた。良い読み方だったのかどうかはわからないが、私にとってはそれが有益だったと思う。

その後、OD時代に、新日本出版社から社会科学研究所監訳の新書14冊の『資本論』が出たので、やはり第1巻は読んだものの、第2巻には辿り着かなかったと思う。

その後、多忙になったため、『資本論』を読む時間はおよそとれない。定年退職したら、あれを読もう、これを読もう、『資本論』を読もう、『経済学批判要綱』を読もうと思ったが、退職してもそれなりに忙しいため、やはりそれどころではない。一人で読むのは難しい。資本論ゼミに参加しないとなかなか読めないだろう。

といった調子なので、資本論解説書を読んで満足するしかないのが実情だ。時間に余裕ができたら、じっくり読みたい。今は、それだけの余裕はないので、他の著作で、テーマを決めて読んでいくことにしよう。