Friday, February 10, 2023

日本学術会議の独立性を侵害する政府「方針」に反対する声明

日本学術会議の独立性を侵害する政府「方針」に反対する声明 

 ―政府はまず任命拒否の理由を明らかにすべきである 

 2023 年 2 月 9 日 

 日本学術会議会員の任命拒否理由の開示を求める情報公開請求人(法律家 1162 名)共同代表 

 私たちは、2020 年 10 月 1 日、菅義偉内閣総理大臣(当時)が、理由も明らかにせず日本学術会議会員候補者 6 名の任命を拒否するという前例のない暴挙を行ったことに抗議し、2021 年 4 月 26 日、政府(内閣官房および内閣府)に対し、 任命拒否の理由のわかる文書などの情報公開請求をした法律家(学者・弁護士)です。 

情報公開請求に対して政府は、任命拒否の理由のわかる文書は「存在しない」 又は「あるかないか言えない」などとし、誰もが知っている任命拒否された 6 名 の学者の氏名すら、「公正かつ円滑な人事の確保に支障がある」などとしてひた隠しにしています。 そこで私たちは、審査請求によって政府の上記不開示処分を争っています。 

このような中、2022 年 12 月 6 日、内閣府は、「日本学術会議の在り方についての方針」を唐突に公表し、21 日には「方針」の追加説明文書も公表しました。 

これらによると「方針」は、学術会議会員の「選考」について、「高い透明性」 確保のため第三者委員会を参画させるなどの「改革を進める」とし、「任命」については「内閣総理大臣による任命が適正かつ円滑に行われるよう必要な措置 を講じる」とし、こうした内容を盛り込んだ日本学術会議法改正案を、現通常国会に提出し、成立させるとしています。

 しかしこれは、以下に述べるとおり、立法事実を欠いた全く必要のない「改革」であり、学術会議の独立性と自律性を侵害する極めて危険な「方針」です。 

現行の日本学術会議法は、会員の「選考」について、日本学術会議が「優れた研究又は業績がある科学者」を候補者として選び内閣総理大臣に推薦すると定めています(法 17 条)。

ナショナルアカデミーにおいて会員が会員を選ぶという選考方式は、国際的にも広く採用されており、学術会議においてもこれまで、 幾重もの慎重かつ公正な審査手続を経ながら、選考が実施されてきました。

この選考方式は、学術会議の政治権力からの独立性(法 3 条)のために必要であって、透明性を欠くとされる理由はなく、何ら改正の必要はありません。 

また、会員の「任命」は、学術会議の上記推薦に基づいて内閣総理大臣が行う こととされていますが(法7条2項)、この「任命」は「形式的」なものにすぎず、推薦のとおりに任命するものであることは、政府も国会等で繰り返し言明し、 実際そのとおりに任命されてきていました。

それは、学術会議の人事への政治の介入を防ぎ、その自律性を保障するために必要不可欠なことだからです。したがってここでも、適正性を欠くと言われる理由はなく、法改正の必要などありませ ん。 

逆に、これまで確立していた選考と任命のルールを、理由も明らかにせず覆した 2020 年 10 月の 6 名の任命拒否こそ、「不透明」・「不適正」極まりない行為だと言わなければなりません。 

だからこそ私たちは、情報公開請求を行ったのです。

しかし政府は、前述のとおり、「なぜ、どのような根拠に基づいて 6 名の任命を拒否したのか」を今に至るまで一切開示せず、隠し続けています。

このように、みずからの説明責任を果たすことなく、「不透明」・「不適正」な任命拒否行為を行って恥じない政府に、学術会議会員の選考・任命について「透明」・「適正」が必要だなどと述べる資格 はありません。 

そのような政府が今回打ち出した「日本学術会議の在り方についての方針」は、 みずからの任命拒否の不透明性を棚上げしながら、学術会議の側の「不透明」「不適正」を言い募り、学術会議に対する権力的な介入を可能にして、その独立性と自律性を侵害するものです。

 しかも「方針」は、学術会議に対し、政治の論理とは異なる学術固有の論理を考慮することなく、「政府等との問題意識や時間軸の共有」を繰り返し要求し、 さらには、「新たな組織に生まれかわる覚悟で抜本的な改革を断行することが必要」と決め付けています。

そこには、任命拒否を契機として学術会議を変質させ ようとする意図が現れており、学術会議が学問共同体として政府から独立した存在であり、学問の自由の担い手であることへの、最低限の配慮すら見当たりません。

 以上の理由により、私たちは、政府に対し、今回の「方針」の撤回を強く求めます。

また、仮に「法案」が国会に提出されたときには、心ある広範な市民と共に、日本学術会議の独立性を守るため、法案成立阻止に全力を尽くす決意を表明 します。 

日本学術会議会員の任命拒否理由の開示を求める情報公開請求人(1162 名) 

共同代表 浅倉むつ子(早稲田大学名誉教授) 右崎正博(獨協大学名誉教授) 小森田秋夫(東京大学名誉教授) 中下裕子(弁護士) 長谷部恭男(早稲田大学教授) 福田護(弁護士) 三成美保(奈良女子大学名誉教授) 三宅弘(弁護士)